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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 274

公開日:2024.3.27


今週のジャーナル

Nature Vol.627 Issue 8004(2024年3月21日) 英語版 日本語版

Science Vol.383 Issue 66882024年3月15日英語版

NEJM  Vol. 390 Issue 12(2024年3月21日)英語版 日本語版








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ヒト肺腺癌の単一細胞解析で明らかになった発癌前にみられる新規細胞集団/急性ストレス後の恐怖記憶の普遍化のメカニズム/抗IL-23自己抗体による免疫不全症

•Nature

1)肺癌
肺腺癌での上皮細胞の状態と可塑性のアトラス(An atlas of epithelial cell states and plasticity in lung adenocarcinoma
 これまでの肺腺癌におけるシングルセル解析では免疫細胞が多く含まれており,上皮細胞自体は約4%と少ないためにその詳細は不十分であった。本研究は米国テキサス大MDアンダーソンがんセンターからの報告で,初期肺腺癌16例と対照の47例の健常肺から246,102個の上皮細胞についてEPCAMで精製し,シングルセル解析を行っている(Fig.1)。
 17,064個の悪性細胞と229,038個の非悪性細胞を解析したが,両者はコピー数(CNV)や細胞分化特異的遺伝子発現やKRASG12D遺伝子変異などで区別された。気道系の細胞(n=40,607)には基底細胞(KRT17+),線毛細胞(FOXJ1+),クラブ細胞(SCGB1A1+),イオノ細胞(ASCL3+),神経内分泌細胞(ASCL1+)やタフト細胞(GNAT3+)が確認された。肺胞系の細胞(n=187,768)としては,1型肺胞上皮細胞(AT1)(AGER1+ETV5+),2型肺胞上皮細胞(AT2)(SFTPB+SFTPC+),SCGB1A1+SFTPC+両者陽性細胞の他にAT1とAT2の中間的な遺伝子発現を示す肺胞中間細胞(alveolar intermediated cells:AICs)が同定された。
 癌細胞ではEGFRやMETなどの肺腺癌特異的な発癌ドライバーと強く関連した多様性がみられた。KRASが変異している癌細胞では,独特な転写特性,細胞分化の低下と低レベルの異数性がみられた。ヒト肺腺癌試料の周囲の非悪性領域には中間細胞型の肺胞細胞(AIC)が多く含まれていて,AICの中でKRT8の発現上昇,分化の低下,可塑性上昇とドライバーKRAS変異がみられる亜集団(KRT8+ alveolar intermediate cell:KAC)が確認された。KACではCDKN1A,CDKN2A,PLAIR,CLDN4などの遺伝子発現が亢進しており,遺伝子発現プロファイルは肺前癌細胞と肺腺癌細胞で多くみられ,生存率の低さと相関がみられた(Fig.2)。
 肺癌で発現の減少しているG蛋白質共役受容体であるGprc5aのノックアウトマウスでは,高齢で肺に腺癌を発症する(リンク)。さらに,タバコの発癌成分であるnicotine-derived nitrosamine ketone (NNK)に曝露することで(リンク),Kras遺伝子変異を伴う腺癌発症が誘導されることが報告されている。そこでKras遺伝子変異肺癌モデルとしてNNKに曝露されたGprc5aノックアウトマウスを解析したところ,KACが肺腫瘍に先立って出現し,発癌物質への曝露を中止した後も数カ月存在し続けた(Fig.3)。さらに,KACはKras変異を獲得し,2型肺胞(AT2)細胞から作出されたKACを多く含むオルガノイドではKRASを標的とした阻害に対して感受性を示した。また,発癌物質曝露後のAT2細胞とKRT8+細胞に対する細胞系譜標識によって,KAC以外のAICがAT1への分化傾向を示すのに対して,KACはAT2から腫瘍細胞への形質転換での中間体である可能性が明らかになった(Fig.4)。
 本研究では肺腺癌の発癌前にみられる新規細胞集団の同定と,今後の肺腺癌の早期診断や予防および新規治療法開発などに向けて貴重なデータを提供している。

•Science

1)脳科学
急性ストレス後の恐怖の普遍化は,神経の共伝達物質の変化によって引き起こされる(Generalized fear after acute stress is caused by change in neuronal cotransmitter identity
 適度な恐怖記憶(恐怖の条件付け)は,危険を予測して逃避するのに役立つので動物の生存に必要な感覚である。恐怖体験時の文脈の一部(環境などの条件刺激)に遭遇すると,この条件刺激に反応して,恐怖記憶が想起され,恐怖反応が表出される(恐怖条件付け:Wiki)。ある刺激による恐怖感は,もともとはその恐怖の原因とは関係のない他の刺激や環境によっても誘導されるような「恐怖の普遍化(generalized fear)」が起きることも知られている。しかしながら過剰な恐怖の普遍化は有害となり,恐怖記憶を原因とする精神疾患である心的外傷後ストレス障害 (post-traumatic stress disorder:PTSD)(Wiki)などが知られている。これまでの研究で恐怖条件づけの獲得や早期には,脳内の扁桃体や海馬の機能が重要であることが示されているが,急性ストレス後の恐怖の普遍化についての詳細な機構は不明であった。
 米国カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)からの本研究では,急性ストレス後の恐怖の普遍化に関わるメカニズムについて報告している。「文脈的恐怖」のモデルとして,マウスの足に1回軽い電気ショック(0.5 mA,1s)を与えると古典的な恐怖条件付け反応が誘発され,2週間後に評価すると,マウスは条件付けの文脈(ショックに関連する環境)では電気ショックなしに恐怖反応でフリーズするが,別の文脈(ショックに関連しない環境)ではフリーズしない。 一方で,マウスの足に強い刺激(1.5 mA,2s)を5回与えると,進行性かつ長期にわたる反応が発現し,ショックに関連する条件付けの文脈とショックに関係ない文脈の両方の環境でフリーズするようになり,「恐怖が普遍化」される。脳幹の背側縫線の外側翼にあるセロトニン作動性ニューロンについて調べると,文脈的恐怖の条件付けでセロトニンとともにグルタミン酸が共伝達物質として放出されているが,恐怖の普遍化したマウスではセロトニンとともに放出されるのはGABAへと入れ替わることが明らかとなった。すなわち興奮性の「グルタミン酸」神経伝達物質から抑制性の「GABA」神経伝達物質に切り替わることが恐怖の普遍化と関係していることが示唆された(PERSPECTIVEの図)。上記の2種類の神経については,グルタミン酸のトランスポーターであるVGLUT3 (a vesicular glutamate transporter)とGABAの合成酵素であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67(glutamate decarboxylase 67,GAD67)の発現で脳組織を調べているが,ヒトにおいてもPTSD患者の亡くなられた脳組織(n=4)ではコントロール(n=4)と比べてセロトニン作動性ニューロンにおけるGAD67発現ニューロンの増加が確認されている(Fig.1)。これらのニューロンは,以前の研究で恐怖反応に関係している脳の他の領域,特に視床下部外側部と扁桃体中央部に投射していることも確認している(Fig.3)。
 次にアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて,これらのニューロンにおけるGABAの合成酵素であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ67(GAD67)の発現を阻害することによって「恐怖の普遍化」を阻害することができることが示された(Fig.2)。また,マウスモデルにおいて抗うつ薬SSRIであるフルオキセチンでショック後すぐに治療すると神経伝達物質の切り替わりを阻害できて恐怖の普遍化に効果がみられた。しかしながらショックから2週間後の神経伝達物質の切り替わり後に投与した系では効果がみられず,ヒトにおけるPTSD患者の治療の抵抗性とも関連が示唆された(Fig.5)。
 本論文はPERSPECTIVEでもわかりやすく解説されているが,マウスの系で恐怖に関係するセロトニンニューロンにおける共伝達物質が興奮性の「グルタミン酸」神経伝達物質から抑制性の「GABA」神経伝達物質に切り替わることが奇麗に示されていて,ヒトのPTSDにも関与する「恐怖の普遍化」の機構として大変興味深い内容である。

•NEJM

1)免疫不全
成人発症型免疫不全症における抗IL-23 自己抗体(Anti–interleukin-23 autoantibodies in adult-onset immunodeficiency
 抗サイトカイン自己抗体は様々な重症感染症の原因となるが,これまでに抗酸菌症におけるIFN-γ抗体,ブドウ球菌性疾患における抗IL-6抗体,慢性皮膚粘膜カンジダ症における抗IL-17抗体,クリプトコッカス症やノカルジア症における抗GM-CSF抗体,COVID-19や水痘や帯状疱疹や黄熱病における抗I型IFN抗体などが知られている。
 本研究は米国NIHの大御所であるSteven M. Hollandらからの抗IL-23 自己抗体の報告である。IL-12(サブユニットp40とp35 からなる)(インターロイキン-12:Wiki)は,IL-23(サブユニットp40とp19 からなる)(インターロイキン-23:Wiki)と 1 つのサブユニットが共通している。受容体もcommon interleukin-12Rβ1を共有している。IL-23は皮膚,肺,消化管,関節や脳において樹状細胞やマクロファージから産生され炎症を制御する。背景として胸腺腫患者ではIL-12 に対する自己抗体が検出されることが多いが,日和見感染症を発症するのはその一部のみである。
 今回,播種性Burkholderia gladioli感染症(Burkholderia gladioliWiki)の1例において抗IL-23抗体と抗IL-12抗体の両方が検出されたことから,抗IL-12抗体を有する患者(大部分で胸腺腫を有する)について抗IL-23 抗体の調査を系統立てて行っている(Figure 1)。抗IL-23 抗体については中和能についてもしっかりと評価されている(Figure 2,3)。抗IL-12抗体と重症のマイコバクテリア感染,細菌感染,真菌感染のいずれかを有する30例のうち15 例(50%)はIL-23 を中和する自己抗体も有しており,その中和作用の強さは感染の重症度と相関していた。興味深いことに抗IL-12抗体の中和活性のみには感染との関連は認められなかった。さらに91例の胸腺腫患者の検証コホートで検索したところ,抗IL-23抗体の存在は74例(81%)の感染状態と関連していた。全体で抗IL-23中和抗体は,胸腺腫患者116例中30例(26%)に検出された。また,播種性感染,脳感染,肺感染のいずれかを有する患者36例中30例(83%)に検出された。抗IL-23抗体は重症細胞内感染を有する患者32例中6例(19%)に存在しCladophialophora bantianaMycobacterium avium complexによるまれな頭蓋内感染を有する患者16例中2例(12%)に存在した(Figure 4,Table 1)。抗IL-23中和抗体の存在は様々な抗酸菌感染や細菌感染や真菌感染の重症性・持続性の日和見感染と関連していることが示され,新たな抗サイトカイン自己抗体による免疫不全が確認された。抗サイトカイン自己抗体に伴う重症感染症がまた1つ明らかになり,今後の治療法の開発などが大いに期待される。
 

今週の写真:冬の三日月(受け月)

(鈴木拓児)

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