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呼吸臨床
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【投稿/症例報告】黄連解毒湯による薬剤性肺炎の1症例


藤原清宏


なにわ生野病院呼吸器内科(〒556-0014 大阪府大阪市浪速区大国1-10-3)

A case of pneumonitis induced by ouren-gedoku-to

Kiyohiro Fujiwara

Department of Respiratory Medicine, Naniwa Ikuno Hospital, Osaka

Keywords:黄連解毒湯,薬剤性肺炎,ステロイド治療/ouren-gedoku-to, drug-induced pneumonitis, steroid therapy


呼吸臨床 2021年5巻5号 論文No.e00123
Jpn Open J Respir Med 2021 Vol. 5 No. 5 Article No.e00123

DOI: 10.24557/kokyurinsho.5.e00123


受付日:2021年4月5日
掲載日:2021年5月6日

©️Kiyohiro Fujiwara.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。




要旨

 79歳男性が呼吸困難のため,当院に緊急入院となった。患者は慢性湿疹のため黄連解毒湯を投与されていた。入院時の胸部CTでは両肺野にわたり,びまん性にすりガラス陰影が認められ,経過中構造改変が認められ,一連経過から,急性間質性肺炎/びまん性肺胞傷害パターンを呈していた。黄芩を成分に有する黄連解毒湯による薬剤性肺炎と診断し,ステロイド治療が有効であった。

はじめに

 漢方薬は比較的副作用が少ない薬剤とされているが,薬剤性肺炎については,呼吸器内科医の間では広く認識されている[1][2]。原因薬剤の多くを小柴胡湯が占めているが,その成分の中で,特に黄芩が主因と考えられている[3][4][5]。Enomotoら[2]は本邦における73症例の漢方薬による薬剤性肺炎をレビューし,その成分のうち,黄芩が73例中63例,86%に認められたとしていて,全体で死亡率は4%(3/73)としている。今回,薬剤性肺炎の報告がまれではあるが[4],黄芩を含有する黄連解毒湯によると思われる薬剤性肺炎に対し,ステロイド治療が有効であった症例を経験したので報告する。

症例

 症例:79歳,男性。

 主訴:咳嗽,喀痰,呼吸困難。

 既往歴:高血圧,慢性湿疹,高尿酸血症,肝機能障害,前立腺肥大,骨粗鬆症。

 家族歴:特記事項なし。

 投薬内容:以下に列挙したように,2医院から12剤処方されていた。なお,サプリメントの服用はされていなかった。
A医院から内服としてアムロジピン,イルベサルタン,ウルソデオキシコール酸,レバミピド,エルデカルシトール,ミノドロン酸水和物,トコフェロール酢酸エステル,ベポタスチンベシル酸塩,黄連解毒湯。B医院からナフトピジル,フェブキソスタット,猪苓湯。

 現病歴:20xx年1月上旬から咳嗽・喀痰がみられ,呼吸困難も自覚してきたので,1月中旬に,処方歴のない近医を受診し,胸部X線写真で異常を指摘され,当院を紹介され,緊急入院となった。

 入院時胸部単純X線像:両肺野にわたり,びまん性にすりガラス陰影が認められた。

 入院時HRCT像図1):両側の上・中肺野優位に,多発性のすりガラス影が広がっていて,小葉間隔壁の肥厚がみられ,滲出期であった。下肺野のすりガラス影は気管支血管束周囲優位で,斑状であり,相対的に胸膜下の病変は欠如していた。

図1 入院時の胸部CT像
 上・中肺野優位に,小葉間隔壁の肥厚像を伴う多発性のすりガラス影が広がっている。下肺野のすりガラス影は気管支血管束周囲優位で,斑状であり,相対的に胸膜下の病変は欠如している。


 入院時現症:身長160cm,体重64kg,体温36.4度,脈拍63bpm・整,血圧159/82mmHg,SpO2 81%(室内気)。意識清明。心音純,両側肺野に軽度の乾性ラ音聴取。腹部は平坦・軟,四肢に浮腫なし。

 入院時検査所見:末梢血液像については白血球数5,200/μL(白血球分類:好中球77.6%,好酸球3.8%,好塩基球0.4%,リンパ球11.9%,単球6.3%),赤血球数360×104/μL,血小板数20.9×104/μL。生化学検査については総蛋白7.3g/dL,尿素窒素15.1mg/dL,クレアチニン0.98mg/dL,AST 45IU/L,ALT 7IU/L,Na 132mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 96IU/L,LDH 378IU/L,CRP 6.73mg/dLであった。免疫学的検査ではKL-6 1,807U/mL(基準値500未満),SP-D 279ng/mL(110未満),抗核抗体40倍未満,RFリウマチ因子定量10U/mL(0〜15),抗CCP抗体0.5U/mL未満(0〜4.4),β-D-グルカン5.0pg/mL以下(0〜20),抗ds-DNA IgG抗体10IU/mL未満(12以下),抗CCP抗体0.6U/mL未満(4.5未満),抗RNP抗体陰性,抗Sm抗体陰性,抗SS-A抗体陰性,抗SS-B抗体陰性,抗Scl-70抗体陰性,抗Jo-1抗体陰性,抗セントロメア抗体陰性,PR3-ANCA 1.0IU/mL未満(3.5未満),MPO-ANCA 1.0IU/mL未満(3.5未満),抗ARS抗体陰性,β-D-グルカン5.0pg/mL以下(0〜20)であった。尿中肺炎球菌抗原陰性であった。

 入院後経過:呼吸不全のためマスクで酸素吸入を5L/分で開始した。入院時の画像所見から間質性肺炎が考えられた。自己抗体測定で異常値は認めず,膠原病関連の間質性肺炎は否定的であった。また,PNEUMOTOX[6]やPMDA[7]から投薬されていた12剤の薬物の副作用を検索し,間質性肺炎を来す漢方薬に挙げられている黄連解毒湯が被疑薬と考えられ中止とした。黄連解毒湯は慢性湿疹のため使用されていた。さらに,間質性肺炎を来す漢方薬に挙げられていない[7]が,猪苓湯も中止とした。以上から,比較的早期の段階の薬剤性肺炎と考えられた。ステロイドパルス療法としてメチルプレドニゾロン1,000mg/日の3日間点滴静注を行い,入院第4病日からprednisolone 60mg/日に変更し,以後漸減しながら,投与することとした。また,細菌性肺炎の可能性を考慮してceftriaxoneの点滴も行った。第4病日から次第に酸素流量の増量を必要とし,第5病日の胸部CT(図2)では,画像所見でも悪化がみられ,全肺野においてすりガラス影は著しく増強し,融合していき,牽引性気管支拡張を含む構造改変がみられ,両側に胸水貯留が認められた。同日の動脈血ガス分析(リザーバーマスク10L/分)ではpH7.459,PaO2 68.6Torr,PaCO2 39.0Torr,HCO3 27.0mEq/L,PaO2/FiO2 76mmHgであった。しかし,第7病日から酸素流量の減量が可能となり,リザーバーマスク6L/分でSpO2を96%程度に維持でき,以後,漸次,酸素流量を減量可能であった。第15病日の胸部CT(図3)では,器質化期となり,改善がみられ,全肺野においてすりガラス影は軽減し,両側の胸水も減少していた。滲出期から器質化期に至る一連の画像所見の経過から,急性間質性肺炎/びまん性肺胞傷害パターンを呈していたと考えられた。第36病日に酸素吸入を中止し,第58病日に退院となり,室内空気でSpO2 96%前後維持されていた。

図2 入院後第5病日の胸部CT像
 全肺野においてすりガラス影は著しく増強し,次第に牽引性気管支拡張を含む構造改変がみられ,両側に胸水貯留が認められる。

図3 入院後第15病日の胸部CT像
 器質化期となり,改善がみられ,全肺野においてすりガラス影は軽減し,両側の胸水も減少している。


考察

 漢方薬による薬剤性肺炎は,1989年の築山らの小柴胡湯による間質性肺炎の報告[8]以降急速に集積されている。薬剤性肺炎の発生機序にはアレルギー性機序と細胞障害性機序が考えられている。多様な宿主因子と環境因子で修飾され,①遺伝性素因,②個体の年齢的背景,③肺における先行病態,④併用薬剤との相互作用などが挙げられる[1]。漢方薬による薬剤性肺炎はアレルギー性機序によるものが多いとされているが,小柴胡湯による死亡例を代表とする細胞障害性機序のケースも存在する[1]。

 薬剤性肺炎の臨床病型で代表的なものは,急性間質性肺炎/びまん性肺胞傷害パターン,特発性器質化肺炎/器質化肺炎パターン,特発性非特異的間質性肺炎パターン,過敏性肺炎パターンが挙げられる[1]。これらの臨床病型には,その名称に使われている対応する病理所見が想定されているが,必ずしも一致するわけではない。実臨床では薬剤性肺炎において外科的生検などの組織学的検討が行われることは少ないことから,臨床病型は,実際は経過や画像所見から臨床的に分類されることが多い[1]。本症例では入院時に,非特異性間質性肺炎にみられる下葉の背側領域で相対的な胸膜下の陰影欠如が認められ,類似していたが,すりガラス影は上中葉に優位であった。器質化期となり,構造改変を呈し,一連の経過は,急性間質性肺炎/びまん性肺胞傷害パターンに相当した。なお,本症例においても,胸水が急性期に貯留し,増量したが,炎症が軽減するにつれて胸水は自然吸収されていった。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)において,約80%に胸水貯留がCTで認められるとされ,滲出液が肺胞,間質に貯留し,さらに滲出性胸水が貯留するとMeloら[9]は述べている。

 Enomotoら[2]の73例のレビューで,死亡例は3例で,びまん性肺胞傷害パターンとしている。また,Sakamotoら[3]は,黄芩を成分とした漢方薬による薬剤性肺炎で,ARDSを呈した5例を報告し,3例に人工呼吸を必要としたが,ステロイド治療が有効であったとしている。Sakamotoら[3]は,黄芩はインターフェロン誘導活性を持ち,漢方薬誘発性のARDSの病因に関与しているのではないかと述べている。症例報告[6][7]でも各種漢方薬による薬剤性肺炎の原因成分として黄芩の関与が推定されている。漢方薬は副作用が決して少なくない。本症例のように漢方薬の副作用である薬剤性肺炎の可能性も念頭に入れ[1],詳細な薬剤投与歴を確認することで,重症化・再発を予防するように努める必要があると考えられた。また,サプリメントの服用歴を確認することも重要であり,間質性肺炎ではなく気道病変例ではあるが,アマメシバによる重症例が報告[10]されている。

 利益相反:本主題に関して利益相反はない。

Abstract

 A 79-year-old man was urgently admitted to our hospital because of dyspnea.  The patient was receiving ouren-gedoku-to because of chronic eczema.  Chest CT at admission showed diffuse ground glass shadows in both lung fields, which was followed by architectural distortion during the disease course, and a series of processes showing an acute interstitial pneumonia/diffuse alveolar damage pattern.  We diagnosed drug-induced pneumonia caused by ouren-gedoku-to, which contains ougon, and steroid treatment was found to be effective.

図表


文献

  1. 日本呼吸器学会薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第2版作成委員会,編. 薬剤性肺障害の診断・治療の手引き(第2版).  東京: メディカルレビュー社, 2018: 1-102.
  2. Enomoto Y, et al. Japanese herbal medicine-induced pneumonitis: A review of 73 patients. Respir Investig. 2017; 55: 138-44. doi: 10.1016/j.resinv.2016.11.007.
  3. Sakamoto O, et al. Clinical and CT characteristics of Chinese medicine-induced acute respiratory distress syndrome. Respirology. 2003; 8: 344-50. doi:10.1046/j.1440-1843.2003.00470.x.
  4. 西森文美,ほか.黄芩によると思われる薬剤性肺炎の1例. 日呼吸会誌.  1999; 37: 396-400.
  5. 伊東友好,ほか. 柴苓湯による薬剤性肺炎の1例. 日呼吸会誌. 2006; 44: 833-7.
  6. PNEUMOTOX(http://www.pneumotox.com)(2021年4月11日閲覧).
  7. 医薬品医療機器医総合機構. 医薬品副作用データベース.(http://www.info.pmda.go.jp/fsearchnew/jsp/menu-fukusayo-base.jsp).
  8. 築山邦規,ほか.小柴胡湯による薬剤誘発起性肺臓炎の1例. 日胸疾会誌. 1989; 27: 1556-61.
  9. Melo MF, et al. Pleural effusion in acute respiratory distress syndrome: water, water, everywhere, nor any drop to drain. Crit Care Med. 2013; 41: 1133-4. doi:10.1097/CCM.0b013e31827c02cb.
  10. 林 美保,ほか. アマメシバ摂取による閉塞性細気管支炎が疑われた母娘例. 日呼吸会誌. 2007; 45: 81-6.