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【投稿/症例報告】IgG4関連硬化性胆管炎の気管支肺病変が疑われた1例


土井将史*,加藤里奈**,波田 誠*,田坂有理*,大川宙太*,井上信一郎*


*柏市立柏病院呼吸器内科(〒277-0825 千葉県柏市布施1-3)
**土浦協同病院呼吸器内科

A case of suspected bronchopulmonary involvement in IgG4-related sclerosing cholangitis

Masafumi Doi*, Rina Kato**, Makoto Hata*, Yuri Tasaka*, Tyuta Okawa*,  Shinichiro Inoue*

*Department of Pulmonary Medicine, Kashiwa Municipal Hospital, Chiba
**Department of Pulmonary Medicine, Tsuchiura Kyodo General Hospital

Keywords:IgG4関連疾患,IgG4関連硬化性胆管炎,気管支肺病変/IgG4-related disease, IgG4-related sclerosing cholangitis,bronchopulmonary lesion

呼吸臨床 2023年7巻6号 論文No.e00173
Jpn Open J Respir Med 2023 Vol. 7 No.6 Article No.e00173

DOI: 10.24557/kokyurinsho.7.e00173


受付日:2023年3月11日
掲載日:2023年6月5日


©️Masafumi Doi, et al. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。




要旨

 症例は79歳男性。IgG4関連硬化性胆管炎のため他院でステロイド治療中であった。非結核性抗酸菌症疑いで当科経過観察中に右下葉支内腔に閉塞を疑う所見や右下葉に結節影を認めた。気管支鏡検査では内腔が腫瘤により閉塞しており当初は悪性腫瘍を疑った。病理組織標本で悪性所見はなくIgG4陽性形質細胞を認めるもIgG4/IgG陽性細胞比20%程度でありIgG4関連疾患の診断基準を満たさなかった。ステロイド増量で画像上気管支肺病変の改善を認めIgG4関連硬化性胆管炎の再燃が示唆された。

はじめに

 IgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4-RD)は,血清IgG4高値とIgG4陽性形質細胞の組織への浸潤と腫瘤形成を全身の諸臓器に認める疾患である[1]。中でもIgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-related sclerosing cholangitis:IgG4-SC)はIgG4-RDの胆管病変と考えられている。

 今回,著者らはIgG4-SCはステロイド投与により安定しているにもかかわらず気管支肺病変がステロイド増量で改善した経過から,IgG4-RD包括診断基準[2]やIgG4関連呼吸器疾患の診断基準[3]は満たしていないがIgG4-SCの再燃と考えた1例を経験した。気管支肺病変としての再燃は非常にまれなため,若干の文献的考察を加えて報告する。


症例

 患者:79歳,男性。

 主訴:特記事項なし。

 既往歴:潰瘍性大腸炎,絞扼性イレウス,早期胃癌(内視鏡的粘膜切除術後),2型糖尿病,鉄欠乏性貧血。

 喫煙歴:20本/日×30年間(20~50歳)

 現病歴:X-9年から中葉舌区に軽度気管支拡張や粒状影を認め非結核性抗酸菌症疑いで当科外来に通院中であった。陰影がごくわずかに悪化傾向であったが,無症状のため無治療で経過観察としていた。X-5年10月に腹部違和感のため他院を受診し採血では肝胆道系酵素上昇,腹部CTやMRIで肝内胆管拡張と肝外胆管狭窄が判明し肝外胆管癌が疑われた。同年11月同院で肝外胆管切除術が施行され,病理では悪性所見はなく総胆管壁にリンパ球と形質細胞の著明な浸潤,線維化を認めた。また,強拡1視野あたり10個以上のIgG4陽性形質細胞の浸潤がありIgG4/IgG陽性細胞比57%と高値だった。血清IgG4は94mg/dL(基準値4.8~105mg/dL)と基準値内も花筵状線維化や閉塞性静脈炎を認めたためIgG4-SCと診断された。

 その際に他臓器にIgG4-RDの合併はないと判断されていたが,同年12月からプレドニゾロン(prednisolone:PSL)15mg内服が開始となった。以降は漸減されX-4年1月からPSL 5mgで維持し経過中に血清IgG4の上昇はなかった。X-1年9月までは胸部X線で大きな変化なく経過していたが(図1a),同年12月の当科定期受診時に,無症状だが胸部X線で右下葉の粒状影・浸潤影の出現と血液検査で軽度のCRP上昇が判明した。同日のCTでは前回CT(図2a,b,X-2年12月)にはなかった右下葉結節影や右B8入口部の内腔閉塞を認めた。喀痰培養でKlebsiella pneumoniaeが検出され抗酸菌培養の塗抹・PCRは陰性だった。レボフロキサシン内服で画像所見やCRPは軽度改善もその後再燃しX年2月に気管支鏡検査目的に入院した。

図1 胸部X線画像
a. X-1年9月の胸部X線では明らかな異常影は見られない。
b. 入院時の胸部X線は右下肺野に浸潤影や結節影を認めた。
c. X年3月17日の胸部X線では右下肺野の浸潤影や結節影は軽度残存も改善傾向であった。
d. X年6月9日の胸部X線は右下肺野の浸潤影や結節影はほぼ消失した。


図2 胸部CT画像
a, b. X-2年12月の胸部CTでは右下葉内に異常影はなく縦隔リンパ節の腫大や胸水貯留も認めなかった。
c, d. 入院時の胸部CTでは右B8入口部閉塞(赤丸)や右下葉結節影といった気管支肺病変を認めた。縦隔リンパ節は短径9mmと以前よりも腫大していた(赤丸)。
e, f. X年3月17日の胸部CTでは右B8入口部は閉塞もやや改善していた(赤丸)。右下葉の結節影もやや改善を認めた。縦隔リンパ節は短径3 mmに縮小した(赤丸)。
g, h. X年6月7日の胸部CTでは右B8入口部の閉塞は改善し(赤丸),右下葉結節影もさらに改善した。縦隔リンパ節は縮小を継続した(赤丸)。


 入院時現症:身長172.3cm,体重58.3kg,体温36.6℃,血圧127/69mmHg,脈拍80回/分・整,SpO2 93%(室内気),意識清明,眼球結膜に黄染なし,頸部リンパ節は触知せず,耳下腺・顎下腺腫脹なし,心音に異常所見なし,右肺底部でcoarse cracklesを聴取。他に異常所見はなかった。

 入院時検査所見:血液検査では白血球数が10,350/μLと増加も,白血球分画はすべて基準値内だった。CRPも4.74mg/dLまで上昇していた。IgGは2,072mg/dL(基準値870~1,700mg/dL)と上昇も,IgG4は42mg/dLと基準値内であった。HbA1cは8.4%と上昇していた。他の生化学検査に異常所見はなかった。

 画像所見:入院時に施行した胸部X線検査(図1b)で右下肺野に浸潤影を認めた。CT(図2c,d)ではX-1年12月と同様に右下葉に結節影を認め,右B8入口部内腔は閉塞していた。縦隔リンパ節腫大や右胸水貯留も認めた。残存胆管の狭窄や膵臓の腫大,後腹膜に異常影は認めなかった。

 臨床経過:入院日に気管支鏡検査を行うと気管や左右気管支内に白色痰が散在し右B8入口部の気管支内腔に腫瘤を認めた(図3)。悪性腫瘍を疑い気管支内腔の腫瘤に対して生検を施行し,右B8で気管支洗浄を実施した。特に問題なく経過し入院翌日に退院となった。病理所見では悪性腫瘍を疑う所見や肉芽腫はなかった。粘膜に浮腫とうっ血,形質細胞やリンパ球の著明な浸潤を認めたものの花筵状線維化や閉塞性静脈炎は認めなかった(図4a,b)。IgG4陽性形質細胞を認めたがIgG4/IgG陽性細胞比が20%程度(図4c)で血清IgG4上昇もないため,IgG4-RD包括診断基準[2]やIgG4関連呼吸器疾患の診断基準[3]は満たさなかった。しかし,IgG4-SCの既往からIgG4-SCの再燃の可能性を考えた。また,気管支洗浄液の抗酸菌培養はMycobacterium aviumが陽性で非結核性抗酸菌症の診断となった。一般細菌培養は口腔内常在菌のみ,細胞診はclassⅡであった。

図3 気管支鏡検査
 気管支鏡検査では右B8入口部に全周性に浮腫性変化を伴う腫瘤を認め,B8内腔は白色の壊死物質で満たされていた。腫瘤は視認できる範囲で末梢まで連続していた。



図4 病理組織所見
a. HE染色(×5),b. HE染色(×40)では悪性腫瘍を示唆する所見は認めなかった。粘膜にリンパ球と形質細胞の著明な浸潤を認めるが,花筵状線維化や閉塞性静脈炎は認めなかった。また,非結核性抗酸菌症を示唆する肉芽種も認めなかった。
c. IgG4免疫染色(×40)でIgG4陽性形質細胞を認めたものの,IgG4/IgG陽性細胞比は20%程度だった。


 2月19日よりPSLを5mgから15mgに増量した。3月17日の胸部X線(図1c)は右下肺野の浸潤影は改善し,同日施行の胸部CT(図2e,f)では右B8入口部の閉塞や右下葉結節影は残存するも改善傾向で縦隔リンパ節腫大や右胸水は改善した。6月7日の胸部X線(図1d)は右下肺野の浸潤影はほぼ消失した。同日の胸部CT(図2g,h)でも右B8入口部の閉塞や右下葉の結節影はほぼ消失し,縦隔リンパ節も縮小を継続していた。経過良好で同日よりPSL 10mgに減量したものの,8月4日の胸部X線やCTでもともとみられていた中葉舌区の陰影が悪化した。これまで非結核性抗酸菌症に対して抗菌薬治療を行っていなかったが,PSL内服中に画像所見が悪化したため抗菌薬治療開始の方針とし,クラリスロマイシン,エタンブトールの内服を同日より開始した。その後は非結核性抗酸菌症の陰影は改善傾向であった。現在もPSL 10mg内服中だが血清IgG4上昇はなく,IgGは1,372mg/dLと低下し画像所見の悪化なく経過している。

考察

 今回我々は当初悪性腫瘍を疑うも経過でIgG4-SCの再燃が示唆された気管支肺病変の1例を経験した。IgG4-SCは約90%に自己免疫性膵炎を合併[4]とされているが,診断時は合併とされていなかった。しかし,IgG4-SC診断時と当院入院時CTと比較すると診断時は膵臓が腫大していて,他院でステロイド開始後は膵臓のサイズは縮小していた。また,田中らによるIgG4-SCの全国調査[5]では診断時に血清IgG4が基準値内の症例が16.1%であったため,IgG4-SC診断時には血清IgG4上昇はなかったが自己免疫性膵炎の合併も示唆された。

 IgG4-SCの治療はガイドライン[6]において寛解導入治療として経口PSLを0.6mg/kg/日から投与し,2~4週間の継続投与後漸減し12週間後には5mg/日で維持することを推奨している。IgG4-RDと同様にIgG4-SCもステロイドへの反応性は良好[6]とされている。本症例についてはIgG4-SCは手術後で病変が無いということもありPSLは推奨量よりも少量の約0.25mg/kg/日で他院で治療が開始されていた。再燃率は30~57%と比較的高く,ステロイド中止または減量後の2年以内に起こることが多い[7][8]とされている。自己免疫性膵炎ではあるが日本の多施設共同研究[9]によると,PSL投与で治療を開始して寛解後にPSL維持療法を行うも30.1%に再燃を認め,PSL 5mgで維持療法を行った群は26.1%が再発した。また,本症例はIgG4-SCを発症して5年後に肺病変を認めたが,同研究[9]では5年後の再発率は35.1%とされていた。自己免疫性膵炎と比較してIgG4-SCは再燃リスクが高い[6]ため,本症例のようにPSL 5mgで維持療法を行っていても5年後に再燃することは十分考えられる。本症例はIgG4/IgG陽性細胞比が20%程度で血清IgG4は42mg/dLと上昇がなくIgG4-RDやIgG4関連呼吸器疾患の診断基準[2][3]を満たしていない。Hiranoら[10]は自己免疫性膵炎とIgG4-SC患者でステロイド治療前の活動期と維持療法の安定期の血清IgGとIgG4を比較検討している。IgG4は治療前後の疾患活動性を示すが,IgGの方が悪化と寛解の判断に有用だったと報告し本症例はPSL増量後にIgGは低下した。また,IgG4-SC再燃時に血清IgG4値の上昇を認めない例が約31%[11]で,低用量ステロイド投与により全身的なIgG4上昇がマスクされた可能性を示唆した報告[12]があること,本症例はIgG4-SC診断時に血清IgG4値上昇がなかったことを考慮すると,再燃時に診断基準[2][3]の項目にある血清IgG4値や病理所見でのIgG4陽性形質細胞比率の上昇がない可能性はあると考えた。再燃例でもステロイド増量により約97%が再度の寛解が得られていて[11],本症例でもステロイド増量で画像所見は改善した。当初気管支内の腫瘤は悪性腫瘍を疑ったが,ステロイド投与により速やかに陰影は消失したため悪性腫瘍は否定的と考えた。以上のことから診断基準[2][3]は満たしていないが,気管支肺病変はIgG4-SCの再燃が示唆されうると考えた。

 IgG4-RDの治療経過中に再燃する際は当初の臓器とは異なる臓器に再燃する例が約半数という報告[13]があるが,IgG4-SCの経過中に肺に再燃するのは4.5%[8]とまれとされている。中でも気管支肺病変として再燃した例は医学中央雑誌やPubMedで検索しうる限りでは見当たらなかったことから本症例は貴重な1例と考えた。

 経過中に非結核性抗酸菌症に対し抗菌薬治療を開始したが,PSLとリファンピシン併用による相互作用やクラリスロマイシン,リファンピシン,エタンブトールの3剤とクラリスロマイシン,エタンブトールの2剤では治療効果に差がないとする報告[14]を考慮しクラリスロマイシン,エタンブトールの内服とした。

 以上,IgG4-SCの経過中に気管支肺病変を呈したが経過によりIgG4-SCの再燃と示唆された1例を経験した。IgG4-SCにおいて肺に再燃した報告は少なく今後の症例の集積が望まれる。

 本論文の要旨は第250回日本呼吸器学会関東地方会(2022年7月,東京)にて発表した。また,本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

Abstract

 A 79-year-old man received steroid therapy at another hospital for immunoglobulin (Ig) G4-related sclerosing cholangitis. During follow-up at our department for suspected nontuberculous mycobacteriosis, we found a suspected obstruction in the lumen of the right lower lobe branch and a nodular shadow in the right lower lobe. Bronchoscopy revealed a tumor in the lumen, which raised suspicion of malignancy. Histopathological specimens showed no malignant findings, and IgG4-positive plasma cells were observed, but the IgG4/IgG-positive cell ratio was approximately 20%, which did not meet the diagnostic criteria for IgG4-related disease. The patient's imaging showed improvement of the mass and nodular shadows after increasing the steroid dosage, suggesting relapse of IgG4-related sclerosing cholangitis.

図表


文献

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  3. 松井祥子,ほか. 第54回日本呼吸器学会学術講演会シンポジウム報告IgG4関連呼吸器疾患の診断基準. 日呼吸会誌. 2015; 4: 129-32.
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