松岡涼果*1,工藤健一郎*1,松尾 潔*2,松本奨一朗*1,藤原慶一*1,柴山卓夫*1
*1独立行政法人国立病院機構岡山医療センター呼吸器内科〔〒701-1192 岡山県岡山市北区田益1711-1〕
*2地域医療支援病院 赤磐医師会病院呼吸器内科
A case of clinically diagnosed relapsing polychondritis causing acute respiratory failure due to airway stenosis
Suzuka Matsuoka*1, Kenichiro Kudo*1, Kiyoshi Matsuo*2, Shoichiro Matsumoto*1, Keiichi Fujiwara*1, Takuo Shibayama*1
*1Department of Respiratory Medicine, NHO Okayama Medical Center
*2Department of Respiratory Medicine, Akaiwa Medical Association Hospital
Keywords:再発性多発軟骨炎,気道狭窄,急性呼吸不全,ステロイドパルス/relapsing polychondritis, airway stenosis, acute respiratory failure,steroid pulse
呼吸臨床 2024年8巻6号 論文No.e00191
Jpn Open J Respir Med 2024 Vol.8 No.6 Article No.e00191
DOI: 10.24557/kokyurinsho.8.e00191
受付日:2024年3月11日
掲載日:2024年6月6日
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症例:72歳,女性。
主訴:乾性咳嗽。
既往歴:小児肺結核治療後,慢性副鼻腔炎,高血圧症。
喫煙歴:なし。
アレルギー歴:なし。
現病歴:4週前より乾性咳嗽が出現し,近医を受診した。喘息が疑われ,吸入ステロイド・長時間作動型吸入β2刺激薬が処方されたが,症状の改善がなく,血液検査でWBC 12,950 /µL,CRP 19.68 mg/dLと炎症反応高値を認め2週前に前医へ紹介となった。その際の胸部CTで気管・気管支壁の肥厚を認めたため,当院へ紹介となり,精査加療目的に入院した。
入院時身体所見:血圧 106/67 mmHg,脈拍 92 回/分・整,体温 36.9 ℃,SpO2 95%(室内気),呼吸数 16 回/分。鼻・耳に変形や発赤はみられず。眼瞼結膜は蒼白,眼球結膜は異常なし。胸部聴診では安静呼気時にwheezesを聴取,心雑音なし。腹部異常なし。下腿浮腫なし。関節の腫脹・圧痛なし。皮疹なし。
血液検査所見(表1):白血球 14,700 /μL,好中球 87.9%,CRP 17.46 mg/dLと高値で,赤沈は>140 mm/1 hrと亢進していた。前医受診時にはHb 10.8 g/dLであったが,入院時7.1 g/dLと貧血の進行があった。膠原病関連自己抗体は陰性であった。
表1 入院時検査所見
胸部X線写真:異常はみられなかった。
胸部CT(図1a):気管・気管支の壁肥厚があるが,膜様部の壁肥厚は目立たなかった。右中葉末梢に気管支拡張を伴う結節影を認めたが,他に肺野の異常はなかった。
図1 胸部CT
a. 入院時,気管・主気管支の著明な壁肥厚がみられ内腔は狭窄していた。
b. 急性呼吸不全で挿管後,入院時と比較し気道狭窄は悪化していた。
c. 治療開始29日後,壁肥厚の改善を認めた。
呼吸機能検査(図2a,c):%VC,%FEV1はともに低下を認めた。フローボリューム曲線は胸郭内気道狭窄パターンを呈していた。
図2 呼吸機能検査 a. 入院時のフローボリューム曲線は胸郭内気道狭窄パターンを呈していた。
b. 治療開始1カ月後,フローボリューム曲線は改善を認めた。
c. %VC,%FEV1についても治療開始後,改善がみられた。
臨床経過:肺結核の既往があり喀痰検査を施行したが,抗酸菌塗抹検査,結核菌PCR検査は陰性であった。また,Hb 7.1 g/dLと貧血を認めており,輸血を施行した。便潜血は陰性,造影CTで出血を疑う所見はみられず,炎症性貧血が疑われた。入院時には咳嗽のみであったが入院4日目の明け方に呼吸困難を自覚し,その後,SpO2 60%台まで低下した。喘鳴,吸気・呼気時のwheezesを聴取し,意識障害を認めた。酸素 15 L/分投与下での動脈血液ガス検査は,pH 6.88,PaO2 159 Torr,PaCO2 133 Torr,HCO3− 23.3 mEq/Lで,急性Ⅱ型呼吸不全をきたしており,気管挿管を行い,人工呼吸管理を開始した。胸部CT(図1b)では気管・気管支壁肥厚の増悪により著明な気道狭窄をきたしていた。気道狭窄に対してステロイドパルス療法(ソルメドロール1,000mg/日,3日間)を行い,同日に喘鳴は消失し,吸気・呼気時のwheezesは改善傾向で,Ⅱ型呼吸不全は改善した。また,心エコーで左室駆出率は30%と低下しており,心尖部の収縮能低下を認め,たこつぼ心筋症の診断で,血栓予防にヘパリン持続静注を行った。ステロイドパルス後はプレドニゾロン(prednisolone:PSL)60 mg/日による後治療を行った。呼吸状態は安定し,左室駆出率は60%まで改善が得られ,挿管後8日目に抜管した。抜管翌日に気管支鏡検査を施行した(図3)。治療導入後であったが,気管から両気管支にかけて広範に発赤,浮腫を認めた。膜様部は軽度発赤のみであった。気管分岐部より生検を行ったが特異的な所見は得られなかった。また,耳鼻科・眼科受診,Gaシンチグラフィーも行ったが,他臓器にRPを疑う所見はなかった。気道狭窄の鑑別としては,気管支喘息,気管・気管支結核,多発血管炎性肉芽腫症,サルコイドーシス,アミロイドーシスが挙げられたが,感染を示唆する所見がないにも関わらず炎症反応高値であり,血液検査でANCAやACEが陰性であったこと,気管支鏡検査でアミロイドーシスのように病変は易出血性でなかったこと,抗酸菌培養は陰性であったこと,後日,抗Ⅱ型コラーゲン抗体の陽性(71 EU/mL,基準値:<25 EU/mL)が判明したことから臨床的にRPと診断し加療を継続する方針とした。気道の炎症が強く,PSLのみではコントロール不良となる可能性もあり,メトトレキサート 8 mg(週1回)の内服を開始した。治療開始29日後の胸部CT(図1c),呼吸機能検査(図2)で気道狭窄は改善がみられていることを確認し,PSL 30 mg/日まで漸減し,入院34日目に退院した。2〜4週間毎に1〜5 mg程度ずつ漸減を行い,現在はPSLを8 mg/日まで漸減し慎重に外来フォローアップを行っている。
図3 気管支鏡検査
気管(a)と右上葉支(b)の所見である。治療介入後であり,軟骨輪の消失などの特異的な所見はみられなかったが,広範囲に浮腫を認めていた。膜様部の発赤は軽度であった。
RPは耳介,関節,鼻軟骨,気道軟骨など全身の軟骨組織を侵す難治性の疾患であり,本邦では指定難病の1つとされている。気道軟骨への侵襲はRP診断時には10〜20%程度だが, 経過中に約半数の患者に生じ,重要な予後規定因子となる[1][2]。気道に限局したRPもまれではあるものの報告が散見される[1]〜[6]。
本邦の報告では気道病変を有する患者のうち,17.6%で気管切開を要しており,9%は呼吸不全や呼吸器感染症が原因で死亡していた[2]。本症例のように気道狭窄をきたし,人工呼吸管理を要した症例や,急性呼吸不全を認め,気管切開を施行した症例も報告されている[5][7][8]。RP診断後に気道病変を発症した症例はもちろん,気道病変のみを呈する症例でもRPが疑われる場合には,気道狭窄増悪により急性呼吸不全を発症するリスクがあることを念頭に置き早期に診断し治療介入を行う,もしくは診断基準を満たさずとも治療を優先すべきである。
RPはMcAdam,DamianiやMichetらなどによりいくつかの診断基準が提唱されているが,診断には解剖学的に異なる2つ以上の臓器病変が必要であり,単独病変の場合には病理組織学的な証明が必要である[8]。しかし,気管支鏡検査による軟骨病変の採取は難しいことも多く,気道病変以外の所見がない場合には,診断が困難となることが多い。時に気管支鏡検査が有用である症例もあるが,気道狭窄増悪のリスクになることもあり注意が必要である[3]。診断基準には用いられていないが,血清抗Ⅱ型コラーゲン抗体は,RPの1/3の症例で陽性となり,疾患活動性と相関することが示されており,診断の参考所見として有用である。しかし,関節リウマチでも陽性となる症例があり注意する必要がある[4]。
本症例は気道狭窄により急性呼吸不全をきたし,治療介入前に検査を行う時間的余裕がなかった。病変が気管に限局しており病理組織学的に診断が得られなかったが,膜様部の所見に乏しいこと,関節リウマチを疑う所見は認めず抗Ⅱ型コラーゲン抗体が陽性であったこと,他疾患が否定的であったことから,後日,臨床的にRPと診断した。
治療についてはPSL 0.5〜1.0 mg/kgの導入が一般的であるが,RPに伴う気道病変はコントロールが困難であることが多い[2]。Songらは気管切開を施行したRPの2症例を報告しているが,1症例についてはPSL 1 mg/kgでは病態がコントロールできず,いずれの症例においてもステロイドパルス療法を施行し,ステロイドと免役抑制薬を併用していた[8]。また,RPは炎症による気道粘膜の腫脹によって気道が狭窄する病初期には可逆性であるが,炎症を繰り返し線維化することで瘢痕性の気道狭窄が生じ,気道軟骨が破壊され不可逆性となる。そういった点からも早期の介入が重要である。
本症例は著明な気道狭窄に対してステロイドパルス療法が奏功した。我々は入院時,これ程の急激な経過をとることは予想していなかったが,気道狭窄の急激な進行により,急性呼吸不全にいたる症例があるため,気道狭窄を呈しRPが疑われる症例では,治療介入のタイミングを逸しないことが極めて重要であると考えられた。
著者のCOI開示:本論文発表内容に関して申告なし。
A 72-year-old woman visited nearby hospital because of dry cough, and the chest CT revealed thickening of the tracheal and bronchial walls. She was referred to our hospital for close examination and treatment. During hospitalization, she developed acute type II respiratory failure due to exacerbation of airway stenosis. She was treated with steroid pulse therapy under ventilatory management. In this case, the clinical diagnosis of relapsing polychondritis (RP) was made after treatment, because there was no time to make a definitive diagnosis due to the rapid progression of airway stenosis.
Airway involvement can be fatal in RP, and require early treatment, even if the patient doesn’t meet the diagnostic criteria.