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川﨑樹里*1,藤本 栄*1,松本憲悟*2,神宮浩之*1,三好孝典*3
*1友愛記念病院呼吸器内科,*2同,*3同 呼吸器外科(〒306-0232 茨城県古河市東牛谷707)
A case of common variable immunodeficiency diagnosed based on recurrent pneumonia
Juri Kawasaki*1, Sakae Fujimoto*1, Kengo Matsumoto*2, Hiroyuki Kamiya*1, Takanori Miyoshi*3
*1Department of Respiratory Medicine, Yuai Memorial Hospital
*2Yuai Memorial Hospital
*3Department of Respiratory Surgery, Yuai Memorial Hospital
Keywords:原発性免疫不全症,分類不能型免疫不全症,気管支拡張症,免疫グロブリン補充療法/primary immunodeficiency disease, common variable immunodeficiency,bronchiectasis,immunoglobulin replacement therapy
呼吸臨床 2025年9巻2号 論文No.e00198
Jpn Open J Respir Med 2025 Vol.9 No.2 Article No.e00198
DOI: 10.24557/kokyurinsho.9.e00198
受付日:2025年1月6日
掲載日:2025年2月5日
©️Juri Kawasaki, et al. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
症例:43歳,男性。
主訴:発熱,咳嗽,喀痰。
既往歴:小児期に中耳炎を繰り返していた。20歳台で1回,30歳台で2回,43歳で今回を除いて2回細菌性肺炎を発症している。副鼻腔炎の既往はない。
喫煙歴:20歳から39歳まで1日10本。
家族歴:同様の症状は認めない。
内服薬:なし。
現病歴:4日前から咽頭痛,2日前から発熱,咳嗽,喀痰が出現し当院を受診した。胸部CTで肺炎像が認められ,精査加療目的に入院した。
入院時現症:身長172cm,体重72kg,意識清明,体温37.8℃,脈拍数108回/分,血圧147/88mmHg,SpO2 97%(室内気)。前胸部ラ音なし。
入院時検査所見(表1):白血球数増加,CRP上昇を認めた。免疫グロブリンはIgG 18mg/dL(<870mg/dL), IgA <1mg/dL(<110mg/dL)と著明に低下していた。Tリンパ球およびBリンパ球の数やCD4/CD8比,補体値は正常であった。喀痰培養検査でHaemophilus influenzaeが検出された。
表1 入院時検査所見
入院時胸部X線(図1):右上肺野および左下肺野に浸潤影を認めた。
図1 入院時胸部X線
右上肺野および左下肺野に浸潤影を認めた。
入院時胸部CT(図2):右上葉に浸潤影,両側下葉に多発する粒状影および浸潤影を認めた。明らかな気管支拡張は認めなかった。胸腺腫は認めなかった。肝脾腫を認めた。
図2 入院時胸部CT
右上葉に浸潤影,両側下葉に多発する粒状影および浸潤影を認めた。明らかな気管支拡張は認めなかった。胸腺腫は認めなかった。CVIDにおいて頻度の高い肝脾腫を認めた。
臨床経過:細菌性肺炎と診断し,経静脈的抗菌薬投与(レボフロキサシン500mg/日およびセフトリアキソン2g/日)を開始した。小児期に中耳炎を繰り返したことや,成人期に肺炎を繰り返していることから,PIDを疑い免疫グロブリンを測定したところ,IgG 18mg/dL(<870mg/dL),IgA<1mg/dL(<110mg/dL)と著明に低下していた。血液内科にコンサルテーションの上,第2病日に免疫グロブリン45gを投与した。Tリンパ球およびBリンパ球の数やCD4/CD8比,補体値は正常であり,家族歴を認めないことから,複合免疫不全症は否定的と考えられた。また,二次性低γグロブリン血症をきたす薬剤歴や,血球減少,低蛋白血症,胸腺腫は認めず,除外的にCVIDと診断した。喀痰培養検査でHaemophilus influenzaeが検出され,起因菌と判断した。治療反応は良好であり,第9病日に抗菌薬を終了,第10病日に退院した。退院後は血液内科に通院し,免疫グロブリン補充療法を3週毎に静脈注射,公費認定(疾病番号65:原発性免疫不全症候群)後は2週毎に在宅皮下注射により継続し,肺炎の再発なく経過している。今後,難治性の気道感染や,繰り返す感染による気管支拡張症,慢性呼吸不全が出現した際は再度当科が介入する方針としている。
今回我々は,小児期に中耳炎,成人期に肺炎を繰り返していることから免疫グロブリンを測定し,CVIDと診断した1例を経験した。
CVIDは成人期に診断されるPIDの中で最多であるが,呼吸器領域では肺炎や気管支拡張症が発見の契機となる[2]。近年,CT撮影頻度の増加や医師の関心の高まりから気管支拡張症が注目され,呼吸器疾患の一大カテゴリーとなっている。非囊胞性線維症性気管支拡張症の原因として,免疫不全症が5%を占めると報告され[3],気道免疫に対しても関心が高まりつつある。特に,抗体産生不全がある場合は粘膜表面に分泌されるIgA,オプソニン化を促すIgGが低下しているため,気道に慢性の炎症が起き,気管支拡張症につながると考えられている[3][4]。CVIDはB細胞の成熟分化障害によって起こる低γグロブリン血症で,B細胞の数は保たれるものの,IgGに加えてIgAまたはIgMが低下し,気道感染や自己免疫疾患,肉芽腫性疾患,悪性疾患等を認めるPIDの中で最も頻度の高い疾患群である[5]。25,000人に1人が発症するが,初発症状年齢中央値19歳,診断年齢中央値33.9歳と,診断の遅れが存在することに加え,未診断例も多いとされている[2][6]。診断の際には,複合型免疫不全症や,続発性免疫不全の除外診断が重要であり,家族歴や,Tリンパ球,Bリンパ球数を確認するとともに,二次性低γグロブリン血症をきたす原因として,薬剤性(ステロイド,リツキシマブ,抗てんかん薬等),悪性腫瘍,骨髄不全,胸腺腫,血管外漏出(蛋白漏出性胃腸症,ネフローゼ等)を鑑別する[7]。
予後は慢性呼吸不全や気管支拡張症等の呼吸器合併症,悪性疾患の有無に左右される。免疫グロブリン補充療法は細菌感染による死亡を劇的に減少させるとともに,これらの呼吸器合併症の発症を抑制するため,早期の診断および治療が重要である[8][9]。十分な免疫グロブリン補充療法,感染予防・免疫抑制療法などで治療困難な感染症や合併症を伴う場合は造血細胞移植が考慮されるが,CVIDの原因遺伝子によって長期予後・移植成績が異なるため,移植前には遺伝子検査が望ましい[10]。国際患者団体であるジェフリー・モデル財団が提唱している「PIDを疑う10の徴候」の日本語版が厚生労働省原発性免疫不全症候群調査研究班から公開(2024年12月閲覧)されており,その中に,「1年に2回以上肺炎にかかる」「気管支拡張症を発症する」が含まれる。呼吸器内科医の立場としては,少なくともこの2つは意識しつつPIDの早期発見を目指したい。
本症例は,小児期に中耳炎を繰り返していたことや,20〜30歳台で肺炎を発症していたことから,より早期にCVIDと診断できたかもしれないが,現時点で,慢性呼吸不全や気管支拡張症等の不可逆的な変化は認めなかった。今後,自己免疫疾患や悪性疾患の発症に注意が必要であるが,免疫グロブリン補充療法を継続することで,細菌感染および慢性呼吸器合併症の発症を抑制することが期待できるため,免疫グロブリンの測定が有用な1例であったと考えられる。
謝辞:本症例の検査,治療にご協力いただきました,友愛記念病院血液内科の翁家国先生に深謝いたします。
利益相反:開示すべき利益相反はない。
A 43-year-old man visited our hospital with fever, cough and sputum. He was admitted for the treatment of pneumonia. Because of episodes of recurrent otitis media in childhood and pneumonia in adulthood, we suspected primary immunodeficiency in him. Investigations revealed remarkably reduced serum levels of immunoglobulins IgG (18mg/dL) and IgA (<1mg/dL). After the diagnosis of common variable immunodeficiency, administration of antibiotics and immunoglobulins led to improvement of pneumonia. Since discharge from the hospital, he is regularly receiving immunoglobulin replacement.