藤原清宏
なにわ生野病院呼吸器内科(〒556-0014 大阪府大阪市浪速区大国1-10-3)
A case of varicella pneumonia that PCR test of vesicle fluid specimen from eruption was useful for a diagnosis
Kiyohiro Fujiwara
Department of Respiratory Medicine, Naniwa Ikuno Hospital, Osaka
Keywords:水痘肺炎,PCR検査,胸部CT/varicella pneumonia,PCR test,chest CT
呼吸臨床 2021年5巻6号 論文No. e00129
Jpn Open J Respir Med 2021 Vol. 5 No. 6 Article No.e00129
DOI: 10.24557/kokyurinsho.5.e00129
受付日:2021年3月29日
掲載日:2021年6月1日
©️Kiyohiro Fujiwara. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
成人の水痘肺炎は,水痘初感染時や基礎疾患により免疫能の低下した宿主が水痘に罹患した場合に発症し,成人における水痘の5〜50%に肺炎を合併するといわれている[1]。
水痘は一般的には幼少期に罹患した際に終生免疫を獲得するため,成人が発症することはまれである。しかし,成人に発症した場合は,強い免疫応答を起こし,重症化することが少なくない[1]。今回,筆者らは健康な成人男性に水痘肺炎が発症し,低酸素血症を認め,皮疹から水痘と臨床診断し,速やかにアシクロビル,免疫グロブリン製剤,ステロイドの投与を行い,改善した。その際,確定診断に水疱ぬぐい液のPCR検査が有用であった症例を経験したので報告する。
症例:44歳,男性。
主訴:発熱,咳嗽,息切れ,皮疹。
既往歴:特記すべきことなし。水痘ワクチン接種歴はなかった。
喫煙歴:20本/日。
職業歴:商業施設の警備員。
家族歴:特記事項なし。
現病歴:X−7日から39.7℃の発熱,咳嗽,息切れ,全身倦怠感,関節痛,咽頭痛があり,X−3日から血痰,味覚障害の症状があり,発熱も38〜39℃台が続き,全身の皮疹を自覚するようになった。X−3日に近医受診し,問診で感冒と診断され,アセトアミノフェノンを処方されていた。X日に当院の発熱外来を受診し,室内空気下SpO2 80%台後半で呼吸不全状態もあり,緊急入院となった。
入院時現症:身長168cm,体重75kg,血圧151/110mmHg,脈拍114回/min,体温38.8°C,SpO2は室内空気下88%で,O2 4L/min経鼻カニューレで98%,呼吸数20回/min。顔面・頭皮・体幹・上下肢に紅斑,小丘疹,水疱の混在を認めた(図1)。心音純,整,呼吸音清であった。下肢に浮腫はなし。腹部は平坦・軟。神経学的所見に異常はなかった。
図1 体幹の皮疹
紅斑,小丘疹,水疱の皮疹の混在を認める。
入院時胸部単純X線像(図2):両側肺にびまん性の粒状影と結節影を認めた。
図2 入院時の胸部単純X線像
両側肺にびまん性の粒状影と結節影を認める。
入院時胸部CT像(図3):全肺野にわたり,斑状にすりガラス影とびまん性に結節影・粒状影が認められ,おおむね結節影・粒状影はすりガラス影に囲まれていた。
図3 入院時の胸部CT像
全肺野にわたり,斑状にすりガラス影とびまん性に結節影・粒状影が認められる。
検査所見(入院時および後日判明分):表1に示すように,末梢血液像については白血球数5,800/μLで上昇なく,異型リンパ球を認め,CRPは1.72mg/dLと軽度の上昇であった。AST 199IU/L,ALT 333IU/Lと肝機能障害が認められた。KL-6 1,290U/mL,SP-D 1,320ng/mLと間質性肺炎のマーカーも上昇していた。ウイルス検査については,鼻咽頭ぬぐい液の等温核酸増幅検査法によって,SARS-CoV-2 RNAは陰性であった。喀痰検査では口腔内常在菌であるStreptococcus viridans group 3+,およびNeisseria species 3+が検出された。尿中肺炎球菌抗原は陰性であった。入院当日(X日)の水痘・帯状ヘルペス補体結合反応16倍(CF)(0〜3),水痘・帯状ヘルペスIgG(EIA)12.7(0.0〜1.9),水痘・帯状ヘルペスIgM(EIA)6.00(0.00〜0.79)であった。X+8日目では水痘・帯状ヘルペス補体結合反応(CF)128倍(0〜3),水痘・帯状ヘルペスIgG(EIA)35.3(0.0〜1.9),水痘・帯状ヘルペスIgM(EIA)6.00(0.00〜0.79)であり,初感染と解釈された。なお,IgG上昇は,発症後7日経過していることによると考えられた。入院時に前胸部の皮疹から水疱ぬぐい液のPCR検査を行い,水痘・帯状ヘルペスウイルスと結果が後日報告され,自験例は水痘と確定診断した。
表1 入院時検査所見
入院後経過(図4):問診と典型的な皮疹などから水痘と臨床診断され,陰圧個室に隔離した。肺炎を発症していることから,入院当日より,アシクロビルを5mg/kg,1日3回,7日間点滴し,静注用人免疫グロブリン製剤5g/日,5日間も行った。二次性の細菌性肺炎の合併も考慮し,セフトリアキソン1g×2回/日の点滴を5日間行った。呼吸不全を来していたため,メチルプレドニゾロンを125mg/日から開始し,X+5日目から,80mg/日,X+9日目からプレドニゾロン内服を30mg/日とし,漸減・中止の方針とした。胸部X線はX+3日目から改善が明らかになった。図4に入院後の体温および白血球・CRPの推移を示したように,X+3日目には37.2℃まで解熱し,X+4日目にはCRP 0.22mg/dLまで低下した。X+5日目に酸素吸入は終了した。血痰も漸減,消失し,皮疹も痂皮化が進み,X+11日目に退院した。
図4 水痘肺炎の治療経過
X+17日目の胸部CT像(図5)では全肺野において,すりガラス影は消退しており,粒状影・結節影はごく軽度になっていた。肝機能については,AST,ALTは漸次下降し,発症50日目には正常範囲内となっていた。なお,KL-6も541U/mLと下降していた。
図5 治療開始17日目の胸部CT像
全肺野において,すりガラス影は消退しており,粒状影・結節影は軽度になっている。
水痘・帯状疱疹ウイルス感染は通常,小児期に水痘を引き起こすが,自然治癒する。水痘・帯状疱疹ウイルス抗体陰性者の割合から推定される先進国で水痘に罹患し得る成人の比率は約7%と報告されている[1]。まれではあるが,水痘肺炎は,成人の水痘感染症において重症になりうる合併症である。特に喫煙者,慢性肺疾患を有する患者,免疫不全状態の患者に発症しやすいと報告されている[1][2]。水痘・帯状疱疹ウイルス肺炎のCT所見は,境界明瞭または不明瞭な結節,小葉中心性結節,すりガラス影に囲まれた結節,斑状のすりガラス影,結節の癒合などを示すとKimら[3]は報告している。自験例のCT所見も同様であった。
抗ウイルス薬により皮膚病変が治癒するのと一致して,画像上でも水痘肺炎の所見が消退するのがみられたとFraisseら[4]は報告していて,自験例でも経時的に撮影した胸部X線と皮疹の改善は同様に進んだ。
2021年におけるコロナ禍の現状では,水痘肺炎に対しても,気管支鏡検査ではなく,容易に採取できる皮疹の水疱ぬぐい液を検体としたPCR検査によって,確定診断とすることは,自験例からも有用と考えられた。
利益相反:開示すべき利益相反はない。
A 44-year-old man was admitted to our hospital with fever, eruptions, and dyspnea. Chest computed tomography (CT) showed bilateral diffuse ground-glass opacities and multiple ill-defined nodules. Primary varicella pneumonia was diagnosed on the basis of typical eruptions, high titer of antibody against varicella-zoster virus. The demonstration of varicella-zoster virus DNA in vesicle fluid specimen by the polymerase chain reaction technique was useful in the formulation of a definitive diagnosis. The patient was treated with acyclovir, methylprednisolone, immunoglobulin and antibiotics, and fever and respiratory failure improved.