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【投稿/症例報告】前医でCOVID-19肺炎のため入院加療となったが,退院後に呼吸困難のため緊急搬送され,ステロイド治療再開により改善した1症例


藤原清宏


なにわ生野病院呼吸器内科(〒556-0014 大阪府大阪市浪速区大国1-10-3)


A case of moderate COVID-19 pneumonia, admitted to a previous hospital for treatment, but urgently transported due to dyspnea after discharge, and improved on resuming steroid treatment


Kiyohiro Fujiwara


Department of Respiratory Medicine, Naniwa Ikuno Hospital, Osaka


Keywords:COVID-19肺炎,二次性器質化肺炎,ステロイド/COVID-19 pneumonia, secondary organizing pneumonia, steroid


呼吸臨床 2021年5巻12号 論文No. e00141
Jpn Open J Respir Med 2021 Vol. 5 No. 12 Article No.e00141

DOI: 10.24557/kokyurinsho.5.e00141


受付日:2021年10月25日
掲載日:2021年12月6日


©️Kiyohiro Fujiwara.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 中等症IIの新型コロナウイルス感染症で,他施設において治療され,退院後に呼吸困難が生じ,二次性器質化肺炎を来していることが明らかとなった1症例を報告する。症例は61歳男性で,倦怠感を契機に新型コロナウイルス感染症と診断され,他施設で酸素吸入,レムデシビル,デキサメタゾンの投与で改善し,退院となったが,退院後8日目に呼吸困難のため,当院に緊急搬送された。胸部CTで広範囲にコンソリデーションを胸膜下と気管支血管束周囲に認め,二次性器質化肺炎と診断され,プレドニゾロンの投与により,CT所見と呼吸困難は改善した。

はじめに

 2021年10月末の時点で,COVID-19肺炎症例の退院後に二次性器質化肺炎を来す報告例が散見される。実地臨床では,新型コロナウイルス感染症の回復者とされているが,呼吸困難など呼吸器症状で救急搬送される患者を診察する機会がある[1]。今回,新型コロナウイルス感染症が中等症と診断され,ステロイド治療などで加療されたが,退院後に呼吸困難で当院に緊急搬送され,胸部CTで二次性器質化肺炎と診断され,再度のステロイド治療によりCT所見と臨床症状が改善した症例を経験したので報告する。

症例

 症例:61歳,男性。

 主訴:呼吸困難,咳嗽。

 既往歴:高血圧のためアムロジピンベシル酸塩内服中。

 喫煙歴:25本/日,45年間。

 職業歴:配達業。

 家族歴:特記事項なし。

 現病歴:X−25日に倦怠感を自覚し,SARS-CoV-2のRT-PCR検査が行われ,翌日に陽性が判明した。ワクチンは未接種であった。保健所の指示により,自宅療養を4日間,ホテル療養を3日間行ったが,呼吸困難が出現し,中等症IIと診断され,X−16日に前医に入院となった。胸部CT(図1)では,全肺野にわたり,胸膜下を中心に広範囲に多発性のすりガラス陰影が認められ,下葉背側の胸膜下にコンソリデーションがみられた。レムデシビルを初日200mg/日,以後4日間100mg/日を点滴投与され,デキサメタゾン6mg/日を10日間投与され,さらに3日間4mg/日,3日間2mg/日と減量されつつ投与が行われ,以後終了となっていた。呼吸状態は改善し,酸素吸入は入院後から1週間で終了となっていた。患者はX−8日目に隔離解除となり,退院となっていた。治療後の胸部CT検査はされていなかった。前施設を退院後,次第に呼吸困難を自覚するようになり,X日に前医が満床のため受け入れできないため,当院に救急搬送され,入院となった。

図1 前医入院時の胸部CT像
全肺野にわたり,胸膜下を中心に広範囲に多発性のすりガラス陰影が認められ,下葉背側の胸膜下はコンソリデーションがみられる。
 

 入院時現症:身長167cm,体重70kg,BMI 25kg/m2。体温38.8℃,脈拍129bpm,血圧159/90mmHg,呼吸数25回/分,SpO2 97%(酸素マスク5L/分)。意識清明。心音純,呼吸音乾性ラ音。腹部は平坦・軟,四肢に浮腫なし。関節痛,皮疹,筋力低下などなし。

 前医退院1日前と当院入院時の検査所見表1):前医退院1日前のCRP 0.53mg/dLであったが,9日後の当院入院時には,白血球数11,800/μL,CRP 14.49mg/dLであり,炎症が亢進していた。また,尿中肺炎球菌抗原,尿中レジオネラ抗原ともに陰性で,喀痰検査では口腔内常在菌のみであった。なお,自己免疫検査で異常を認めなかった。

表1 検査所見


 入院時の胸部CT像図2):前医で認められていたすりガラス陰影は,おおむねコンソリデーションとなり,主に胸膜下および気管支血管周囲に分布していた。胸膜下にコンソリデーションによる小葉辺縁パターンがみられた。

図2 当院入院時の胸部CT像
前医で認められたすりガラス陰影は,おおむねコンソリデーションとなり,主に胸膜下および気管支血管周囲に分布している.胸膜下にコンソリデーションによる小葉辺縁パターンがみられる。


 入院後経過:前医の診療情報からCOVID-19肺炎は改善し,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き[2]の隔離解除を満たし,退院となっていた。しかし,退院後に呼吸困難を生じ,胸部CT像によって二次性器質化肺炎を来していると診断した。ステロイド治療としてプレドニゾロンの投与を行うこととし,60mg/日から開始し,慎重に漸減することとした。すなわち,60mg/日から2週間毎に減量し,それぞれ50mg/日,40mg/日,20mg/日,10mg/日,5mg/日とした。酸素吸入は酸素マスク5L/分で開始したが,翌日には経鼻カニューレ2L/分に減量でき,36℃台に解熱し,咳嗽も軽減し,翌々日には1L/分とし,入院後7日目には酸素吸入を終了した。以後,室内気でSpO2 98%を維持した。入院後2週間目で退院し,外来での経過観察を行うこととした。なお,退院日までプレドニゾロン投与量は60mg/日とした。ステロイド治療3週間目の胸部CT像(図3)では,コンソリデーションは消退・縮小していたが,下葉背側の胸膜下を中心に小葉間隔壁の肥厚がみられ,軽度の線維化を来していた。

図3 ステロイド治療3週間目の胸部CT像
コンソリデーションは消退・縮小していたが,下葉背側の胸膜下を中心に小葉間隔壁の肥厚がみられ,線維化を来している。

考察

 器質化肺炎は肺胞道やその周囲の肺胞腔内に肉芽組織が充満し,周囲の肺実質に慢性炎症を認める組織像を示す。症状としては,乾性咳嗽,発熱,呼吸困難を呈し,ステロイドによる治療に通常よく反応するが,ステロイド薬の減量や中止で再発することがあり,注意が必要である[3]。基礎疾患の同定されない特発性器質化肺炎もみられるが,二次性器質化肺炎は,肺感染症,膠原病,吸入性肺障害,薬剤性肺障害,悪性腫瘍,放射線治療などに伴って生じる[3]。

 入院治療を行ったCOVID肺炎後の後遺症として二次性器質化肺炎に対するステロイド治療が有効であることは,報告されてきている[4]〜[8]。退院後も経過観察を怠らず,呼吸器症状を把握し,異常があれば,画像診断など早期の対応が必要であろう。

 Chongら[4]は,2021年のレビューにおいてCOVID-19肺炎による二次性器質化肺炎の報告例を集積しており,全例とも胸部CT検査がなされていた。二次性器質化肺炎の主なCT所見としては,両側性斑状のコンソリデーションや両側性斑状のすりガラス陰影が胸膜下および/または気管支血管周囲に分布する陰影が認められていた。そのうち,病理組織検査も行われていた症例は13例で,胸部CT検査のみで診断された症例は13例であった。二次性器質化肺炎に対し,ステロイド治療が行われた記載のある症例は15例あり,数週間から数ヶ月で漸減されていて,すべて有効であった。そのうち,自験例のようにステロイド治療を一旦終了後に二次性器質化肺炎が再燃もしくは悪化し,再度ステロイド治療を行った症例として本レビューに引用されている症例は表2のごとくであった。すなわち,Kanaokaら[5]は2例を報告し,デキサメタゾンを投与したが,再発のためプレドニゾロン投与で改善していた。Takumidaら[6]の報告例では,メチルプレドニゾロンを投与したが,再発のためプレドニゾロン投与で改善していた。

表2 COVID-19肺炎による二次性器質化肺炎の再発例のステロイド再治療例

 Myallら[7]もまたCOVID肺炎後に胸部CTで二次性器質化肺炎の発症がみられた症例に対し,ステロイド治療が有効であることを報告している。入院治療を行い,退院後におけるCOVID肺炎の後遺症についてスクリーニングを電話で退院後4週間後に837例について行い,症状が継続している患者325例(39%)に対し,6週間後に外来診察を行っていた。有意な機能障害を伴う器質化肺炎が35例(4.8%)で認められ,そのうち30例がステロイド治療を受け,プレドニゾロンの初期最大投与量は0.5mg/kgが提案され,漸減されていった。30例すべての症例で画像所見,症状,呼吸機能の改善を認めている。ランダム化比較試験ではなく,病理組織検査もなされていなかったが,退院後6週間後の胸部CTにより,二次性器質化肺炎と診断し,ステロイド治療により,慢性線維性間質性肺疾患を予防できたとして,フォーロアップの重要性を推奨している。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き[2]では,ステロイド治療についてはデキサメタゾン6mg/日を10日間までとされているが,自験例のようにステロイドの再投与が必要な症例があることに留意すべきであろう。Chongら[4]はデキサメタゾン6mg/日を10日間投与のみでは,不十分である懸念があるとしている。すなわち,COVID-19ウイルスが消失していても,サイトカインストームが遷延していると考えられる症例では,コルチコステロイドの長期投与が必要になるのではないかと推測している。また,二次性器質化肺炎の再燃時には,高用量のコルチコステロイドを再開し,プレドニゾロンであれば,0.75〜1.5mg/kg/日から開始し,数カ月かけて漸減することを勧めている。二次性器質化肺炎の再燃を診断するために,退院後も呼吸器症状の経過観察を行い,変化があれば,胸部CT検査を行うべきであろう。実臨床においてCOVID-19肺炎の既往があり,ステロイド治療の有無にかかわらず,隔離解除後や退院後に二次性器質化肺炎を来している症例を当施設でも経験している[1][8]。すなわち,COVID-19で自宅やホテル療養し,隔離解除後に二次性器質化肺炎が認められた2症例[1],COVID肺炎で入院後4週間経過後に胸部CTで二次性器質化肺炎が認められた1症例[8]をそれぞれ報告している。わが国の2021年8月31日に発行された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き第5.3版[2]において,隔離解除後や退院後の二次性器質化肺炎について記載はない。自験例のような二次性器質化肺炎に対し,ステロイド再治療を要する症例の集積が望まれる。

 利益相反:開示すべき利益相反はない。

Abstract

 Herein, we report a case of a moderate COVID-19 pneumonia that was treated at a previous hospital and was found to have dyspnea after discharge and secondary organizing pneumonia (SOP).

 A 61-year-old man with a complaint of general malaise was diagnosed with COVID-19 pneumonia at another hospital, which improved with the administration of remdesivir and dexamethasone. On the eighth day after discharge, he was urgently transferred to our hospital due to dyspnea. Chest computed tomography (CT) revealed bilateral consolidations with peripheral and bronchovascular distribution. SOP was suspected, and the administration of prednisolone improved his CT findings and dyspnea.


図表


文献

  1. 藤原清宏. 軽症で自宅・ホテル療養とされ, 隔離解除後に症状持続ないし悪化を来しCOVID肺炎を認め, ステロイド治療により改善した2症例. 呼臨. 2021; 5: e00135.
doi: 10.24557/kokilyurinsho.5.e00135.
  2. 厚生労働省.新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 第 5.3版. https://www.mhlw.go.jp/content/000829136.pdf (2021年9月15日閲覧)
  3. Cordier JF. Organizing pneumonia. Thorax. 2000; 55: 318-28.
doi: 10.1136/thorax.55.4.318.
  4. Chong WH, et al. Does COVID-19 pneumonia signify secondary organizing pneumonia?: A narrative review comparing the similarities between these two distinct entities. Heart Lung. 2021; 50: 667-74.
doi:10.1016/j.hrting.2021.04.009.
  5. Kanaoka K, et al. Secondary organizing pneumonia after coronavirus disease 2019: Two cases. Respir Medcase Rep. 2021; 32: 101356. doi:10.1016/j.rmc.2021.101356.
  6. Takumida H, et al. Sustained coronavirus disease 2019-related organizing pneumonia successfully treated with corticosteroid. Respir Investig. 2021; 59: 377-81.
doi: 10.1016/j.resinv.2020.12.005.
  7. Myall KJ, et al. Persistent post-COVID-19 interstitial lung disease. An observational study of corticosteroid treatment. Ann Am Thorac Soc. 2021; 18: 799-806. doi: 10.1513/AnnalsATS.202008-1002OC.
  8. 藤原清宏. 89歳男性患者でCOVID-19肺炎から二次性の器質化肺炎を来した1症例. 呼臨. 2021; 5: e00130. doi: 10.24557/kokilyurinsho.5.e00130.