岡部志功*1,宮崎晋一*2,藪 晃大*3,近藤友喜*2,久野泰雅*2,井上正英*2,山下 良*2,池田拓也*2
*1市立四日市病院内科(〒510-0822 三重県四日市市芝田二丁目2-37)
*2同呼吸器内科,*3同血液内科
Fatal fulminant community-acquired pneumonia due to Pseudomonas aeruginosa in a healthy woman
Shikou Okabe*1 Shinichi Miyazaki*2, Kodai Yabu*3, Yuki Kondo*2, Yasumasa Kuno*2, Masahide Inoue*2, Ryo Yamashita*2, Takuya Ikeda*2
*1Department of Internal Medicine, *2Department of Respiratory Medicine,*3Department of Hematology, Yokkaichi Municipal Hospital, Mie
Keywords:市中肺炎,緑膿菌,急性呼吸不全/community-acquired pneumonia, Pseudomonas aeruginosa, acute respiratory failure
呼吸臨床 2022年6巻1号 論文No. e00144
Jpn Open J Respir Med 2022 Vol. 6 No. 1 Article No.e00144
DOI: 10.24557/kokyurinsho.6.e00144
受付日:2021年11月25日
掲載日:2022年1月24日
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症例:28歳,女性。
主訴:発熱,呼吸困難。
既往歴:特記事項なし。
生活歴:喫煙20本/日×8年。
職業歴:風俗店勤務。
家族歴:特記事項なし。
現病歴:来院2日前より悪寒,全身倦怠感が出現し,来院当日午前2時50分,呼吸困難のため当院救急外来を受診した。来院時,発熱,ショックバイタル,および意識障害を呈し,バイタルの安定を図りつつ精査を行った。採血上,炎症反応高値,乳酸アシドーシス,肝腎機能障害,横紋筋融解症を認め,胸部画像所見から重症市中肺炎の診断に至った。午前4時40分,突然の心肺停止に至り,蘇生処置を行ったが,心拍は再開せず,午前5時5分,死亡確認した。若年者の市中肺炎が急激な経過で死亡に至っており,家人には病理解剖を提案したが,同意は得られなかった。
来院時現症:体温40.1℃,脈拍166/分,血圧96/67mmHg,呼吸数36/分。眼瞼結膜に蒼白なし,眼球結膜に黄染なし。心雑音は聴取せず,呼吸音は両肺野で呼気時にrhonchiを聴取した。
来院時胸部単純X線像(図1):右全肺野,左上中肺野に浸潤影を認めた。
図1 入院時の胸部X線像
右全肺野,左上中肺野に浸潤影を認めた。
来院時胸部CT像(図2):両肺野,びまん性に小葉中心性粒状影,左肺上葉全体にはair bronchogramを伴う浸潤影が認められ,左気胸を合併していた。
図2 入院時の胸部CT像
両肺野に粒状影,左肺上葉には浸潤影が認められ,左気胸を合併していた。
検査所見(表1):血算は白血球減少,特に好中球減少を呈し,生化学では低アルブミン血症,横紋筋融解症,腎障害,低ナトリウム血症,および炎症反応高値を認めた。凝固検査ではPT-INRの上昇,APTTの延長,およびD-dimer高値を認めた。血液ガス所見はⅠ型呼吸不全,代謝性アシドーシスであり,尿検査では肺炎球菌,レジオネラ尿中抗原はいずれも陰性であった。後日喀痰,血液培養よりP. aeruginosaが検出され,市中発症の緑膿菌肺炎の診断に至った。
表1 来院時検査所見
緑膿菌が市中肺炎の起炎菌に占める割合は0.1〜2%と低く[1],通常,基礎疾患,入院歴などの背景が認められることが多い。代表的な背景として,慢性閉塞性肺疾患,気管支拡張症などの呼吸器疾患,定着・保菌に関係する医療行為(入院歴,挿管管理,経管栄養),HIVなどの免疫不全があり[2],本例には既報の危険因子を認めなかった。市中肺炎の後向きの検討では緑膿菌と肺化膿症の関連性が報告されており[3],緑膿菌が肺の既存構造を破壊し,既報で認められる気胸を来すことが示唆された。本例の左気胸の原因は不明だが,胸部画像上,対側への縦隔偏位を認めておらず,緊張性気胸の合併は積極的に疑わなかった。ただし,経過中,緊張性気胸に至った可能性はあるが,病理解剖を施行していないため死因への寄与は不明であった。また,緑膿菌は,水まわりなど生活環境中に広く常在するため,汚染された温水浴槽によるエアロゾルへの曝露が市中緑膿菌肺炎発症の一因となった報告がある[4]。
Hatchetteらは,健常者に発症した緑膿菌市中肺炎12症例を分析している[5]。平均年齢は45歳で,男女比は7:5であった。喫煙歴は84%の症例に認められ,平均喫煙本数は40 pack・yearsであった。低血圧,低酸素血症はそれぞれ55%,67%に認められ,入院後48時間以内に挿管に至った症例は75%であった。末梢血好中球数は中央値2500/μLであり,胸部画像上,肺炎像は右肺上葉に主に分布していた(67%)。菌血症は92%に合併し,死亡率は33%で,入院後,平均11時間で死亡に至った。同様の症例は本邦では6例報告されており[6]〜[11](表2),多くの症例において急速な経過,主な病変が右肺上葉,菌血症の合併,および重篤な転帰を示した。
表2 健常者に発症した緑膿菌市中肺炎
緑膿菌肺炎が重症化する場合,さまざまな病原因子が病態形成の異なる段階で作用している。緑膿菌が宿主に侵入する際,鞭毛構造が移動,宿主への接着に関与している。加えて,同構造は組織侵襲性[12],免疫原性[13]に関係しており,病原規定因子とみなされる。また,毒素を直接的に宿主細胞へ注入する,Ⅲ型毒素分泌機構は侵襲性,致死率に寄与し,緑膿菌においてはこれまでにExoenzyme(Exo)S,ExoT,ExoU,ExoYの4種類の外毒素が同定されている[14]。ほとんどの細胞株はExoSまたはExoUのいずれかを発現し,ExoTとExoYは共発現している。
ExoSとExoTはGTPase活性化蛋白質活性とADP-リボシルトランスフェラーゼ活性を持ち,両活性がアクチン細胞骨格に影響し,アポトーシス様の細胞死を誘導する。ホスホリパーゼであるExoUはリン脂質二重膜を急速に破壊し,細胞壊死を引き起こす作用を持つ。アデニル酸シクラーゼ活性を持つExoYは血管内皮細胞の作用により肺水腫を来し,緑膿菌肺炎の重症化に寄与する[15]。
重症市中肺炎の起炎菌は肺炎球菌,レジオネラに次いで,緑膿菌が多いと報告されている[16]。健常者に発症した市中肺炎が時間単位で急激に進行する場合,基礎疾患,入院歴などが乏しくとも,緑膿菌が起炎菌であることを念頭に置き,同時に救命には集学的治療を要することを念頭に置く必要がある。
利益相反:開示すべき利益相反はない。
A healthy 28-year-old woman presented to the emergency department with 2 days of malaise. On the day of presentation, she complained of dyspnea. The clinical findings (fever, shock, altered consciousness, and bilateral pulmonary shadows on chest imaging) were consistent with severe community-acquired pneumonia. Soon after presentation, she suffered from sudden cardiopulmonary arrest, and died two hours later. Later, cultures of sputum and blood grew Pseudomonas aeruginosa, and she was given a diagnosis of community-acquired pneumonia due to P. aeruginosa.