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吸入ステロイドにより症状および肺機能悪化を
良好に制御し得た,難治性の気管支拡張症の2例■結城将明ほか |
呼吸臨床
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【投稿/症例報告】抗菌薬および静注ステロイドで寛解導入し,その後内服,
吸入ステロイドにより症状および肺機能悪化を
良好に制御し得た,難治性の気管支拡張症の2例


結城将明*,徳田 均**,笠井昭吾**,大河内康実**


*東京大学医学部附属病院呼吸器内科(〒113-8655 東京都文京区本郷7-3-1)

**独立行政法人地域医療機能推進機構東京山手メディカルセンター呼吸器内科


Two cases of bronchiectasis whose severe symptoms were controlled well by intravenous antibiotics and steroids, followed by inhaled and oral steroids

Masaaki Yuki*, Hitoshi Tokuda**, Shogo Kasai**, Yasumi Ookouchi**

*Department of Respiratory Medicine, the University of Tokyo Hospital, Tokyo
**Department of Respiratory Medicine, Tokyo Yamate Medical Center,Tokyo

Keywords:気管支拡張症,治療,慢性気道炎症,抗菌薬,ステロイド/bronchiectasis, treatment, airway inflammation, antibiotics, steroid

呼吸臨床 2022年6巻3号 論文No. e00147
Jpn Open J Respir Med 2022 Vol. 6 No. 3 Article No.e00147

DOI: 10.24557/kokyurinsho.6.e00147


受付日:2021年10月4日
掲載日:2022年3月22日


©️Masaaki Yuki, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 肺炎を繰り返し,肺機能が進行性に低下,また咳,多量の痰などのためQOLが高度に低下した難治性の特発性気管支拡張症に対して,抗菌薬およびステロイドの静注によって寛解を導入し,その後経口および吸入ステロイド等の持続投与を行い,長期にわたって,肺機能障害の悪化の抑止,また喀痰量の抑制によるQOLの改善が維持できている2症例を提示する。気管支拡張症の病態および進行を制御する方法は世界的に確立されておらず,症例を選んでさまざまな取り組みが試みられるべきと考えられる。

はじめに

 近年,気管支拡張症(bronchiectasis:BE)は全世界的に増加傾向にあり,その治療困難性もあって改めて大きな医学的課題となっている[1]。BEの原因疾患としては,感染後や非結核性抗酸菌症,また遺伝性疾患として原発性線毛運動不全症などがあるが,約半数では原因の特定が困難で,特発性気管支拡張症と呼ばれる[2]。BEには無症候性のものもあるが,肺炎を反復する例,長期にわたる咳,痰のためにquality of life(QOL)が低下する患者も多く,また閉塞性換気障害が進行する例も少なくない[3]。これらの症状に対してマクロライド長期投与がある程度の制御効果があると報告されてきた[4]が,その効果は十分とはいえない[2][5]。

 BEの病態は,気道の免疫性炎症,気道や肺の破壊・変形,上皮・線毛の機能不全,菌の定着・増殖という4つの因子からなり,これらが相互に影響し病態に関与していると考えられている[1][6]。BEでは気管支から細気管支にかけて広範な炎症が見られ[7],この炎症はIL-8,TNF-αを介した好中球主体の炎症であることが解明されており[2][6],この炎症を制御することが難治性の病態の制御につながり得ると考えられる。他の疾患,ニューモシスチス肺炎や肺結核症では,IL-8やTNF-αを介した炎症による組織破壊が重症化に関与しており[8][9],またこれらの疾患の重症例ではステロイド投与が補助的治療として効果があると認められている[10][11]。しかしBEにおいてその考え方に基づき欧州で開発が進められてきた種々の治療法は現在のところいずれも有効性を示し得ていない[12]。

 我々は重症の気管支拡張症の患者に,1週間程度の抗菌薬に加え,少し開始をずらせたステロイドの静注投与を併用することで病状の寛解を導入し,その後は吸入ステロイド(inhaled corticosteroids:ICS)単独,ICSと経口ステロイドもしくは免疫抑制薬などを用い,また症状増悪時には経口もしくは静注の抗菌薬など対応することで炎症の持続的制御を目指す試みを行っている。今回,この方法で長期間にわたって良好な制御を得ている2症例を提示し,その有効性と問題点を考察する。2症例とも喘息やCOPDなどのステロイドが有効な合併症はない。

症例1

 患者:50歳代,女性。

 主訴:咳,多量の痰,呼吸困難。

 既往歴:29歳時にBEに対して右肺中葉切除,51歳時に喀血のため気管支動脈塞栓術を施行した。副鼻腔炎および喘息の既往はなかった。

 喫煙歴:なし。

 家族歴:特記すべきものなし。

 現病歴:幼少期よりBEを指摘され,高校生の頃から肺炎を繰り返していた。前医にてクラリスロマイシン(CAM)などを長期間,3年前からアジスロマイシン(AZM)の週3回内服を2年間続けたが,症状の改善は得られなかった。また,前医にて呼吸リハビリテーションや喀痰ドレナージの指導を受け,指導された方法に従って毎日排痰を行っていたが,1日3,4時間を要し,多年続けていたが効果は上がらなかった。多量の膿性痰が持続し,痰の喀出のために1日の大部分を要するなどQOLの低下が著しく,るい痩も進行し,200X年12月当院に紹介入院となった。

 入院時現症:身長158cm,体重43.1kg,BMI 17.3。体温37.0℃,血圧102/73mmHg,脈拍数75/分・整,呼吸回数12回/分,SpO2 95%(室内気)。胸部;右肺野にて呼吸音減弱し,coarse cracklesを聴取した。

 血液検査:白血球8850/µL,CRP 2.0mg/dL,血沈60分値81mmと炎症反応の上昇を認めた。またAlb 3.3g/dL,Hb 12.2g/dLとAlbが低値であった(表1)。

表1 症例1の血液検査結果


 肺機能検査:%肺活量(VC)45%,1秒率(FEV1/FVC)61%と高度の混合性換気障害を認めた。

 細菌検査:喀痰の一般培養検査でPseudomonas aeruginosaが検出された。薬剤感受性試験では,ピペラシリン/タゾバクタム,メロペネム,セフタジジム,アミカシン,レボフロキサシン等で感受性を認めた。細胞分画では白血球多数で,真菌の検出はなかった。抗酸菌検査は喀痰にて3回施行したが,塗抹,PCR(結核菌,MAC),培養いずれも陰性であった。

 画像所見:胸部単純写真では右肺は荒蕪肺となっており,受診時気胸を併発していた。また左下肺野にも粒状結節状影が認められた(図1a)。胸部CTでは,両側肺に気管支の拡張,壁肥厚,粘液栓の所見があり,右肺に気胸を併発していた。右肺では主軸気管支周囲にコンソリデーションがあり,肺は高度に萎縮していた。また左下葉には小葉中心性粒状影が散在しており,細気管支炎と考えられた(図1b)。

図1 症例1の入院時画像所見
a. 胸部単純写真:右肺は荒蕪肺となっており,気胸を併発している。左下肺野に粒状,結節状影を認める。
b. CT:両側肺に気管支の拡張,壁肥厚,その周囲にコンソリデーションがあり,右肺は高度に萎縮している。


 入院後経過:気管支拡張症の重症度を評価するBronchiectasis Severity Index(BSI)[13]では18点であり,入院および死亡のhigh risk群と考えられた。入院後より抗菌薬メロペネム(MEPM)を投与し,さらに炎症制御の目的でメチルプレドニゾロン(mPSL)を追加投与した。mPSLの用量は,体格が小柄である事を勘案し比較的少量の250mg×3日を投与し,安全に投与できることが確認できた。しかしこの量では効果不十分であったため,mPSL 500mg×3日を追加投与した。症状は著明に改善し,視覚的評価スケール(visual analog scale:VAS)において入院時の咳と痰を10とすると2程度まで改善した。前医にて喀痰ドレナージの指導を受けていたが効果不十分であったため,当院では積極的には施行しなかった。

 退院後経過:改善された状態を維持するために少量のステロイドは必須と考え,プレドニゾロン(PSL)5mgとICSのシクレソニド1,200μgを併せ投与した。退院3カ月後に咳,痰の増量が起こり,BEの増悪が考えられた。ステロイド投与による易感染性による悪化の可能性も考えられたが,再入院の上,入院時と同様の抗菌薬+ステロイドの静注治療を行い,再度の改善を得て,その後安定化を得た。その後も複数回一時的な悪化が起こったが,その都度経口もしくは静注の抗菌薬や少量のmPSL静注あるいはPSLの短期間投与(1週間程度)などにて制御することができ,全臨床経過で考えるとこれら治療の複合的効果があると考えられた。PSL 5mgおよびシクレソニド1200μgを継続し,3年8カ月後の現在,喀痰量は初診時200g/日から治療後60g/日に維持されている。喀痰細菌検査では一般培養にてP. aeruginosaが検出されているが,当院治療開始前と比較して薬剤感受性に大きな変化はなかった。肺機能検査においても%VCが45%→59%と増加し,FEV1/FVCの増悪はなかった(表2)。画像所見上でも,胸部CTにおいて気胸は消失し再発はなく,右肺の気管支周囲のコンソリデーションおよび左下葉の粒状影にも改善が見られた(図2)。


表2 症例1の肺機能検査および動脈血液ガス分析の経過

図2 3年8カ月後のCT
 気胸は消失し,右肺の気管支周囲のコンソリデーションも改善した。

症例2

 患者:70歳代,男性。

 主訴:咳嗽,労作時呼吸困難〔modified British Medical Research Council(mMRC)息切れスケールⅡ度〕。

 既往歴:42歳時に副鼻腔炎で手術,61歳時に甲状腺癌の手術を施行していた。

 喫煙歴:なし。

 家族歴:叔父がKartagener症候群の疑い。

 現病歴:幼少期に気管支拡張症と診断され咳と多量の喀痰が続いていた。50歳時にKartagener症候群と診断され,CAM内服が開始されたが症状は改善しなかった。200X年4月頃より労作時呼吸困難も伴うようになり,喀痰量が1日100g程度になり,同年11月当院に紹介受診,入院となった。全経過を通して反復する肺炎はなかったが,当院受診前の2年間で肺機能の急速な悪化(努力性肺活量にして600mL低下)があり,息切れが進行していた。

 入院時現症:身長168cm,体重56.5kg,BMI 20.0。体温36.6℃,血圧113/84mmHg,脈拍数83/分・整,呼吸回数18回/分,SpO2 96%(室内気)。胸部;呼吸音は正常であった。

 血液検査:白血球6050/µL,CRP 0.4mg/dL,血沈60分値67mmと血沈60分値の上昇を認めた。Alb 3.9g/dL,Hb 14.3g/dLと全身状態は保たれていた(表3)。

表3 症例2の血液検査結果


 肺機能検査:%肺活量(VC)57%,1秒率(FEV1/FVC)42%と高度の混合性換気障害を認めた。

 細菌検査:喀痰および気管支洗浄液の一般培養検査よりP. aeruginosaを検出した。薬剤感受性試験では,ピペラシリン/タゾバクタム,メロペネム,セフタジジム,アミカシン,レボフロキサシン等で感受性を認めた。細胞分画では白血球多数で,真菌の検出はなかった。抗酸菌検査は喀痰および気管支洗浄液にて3回施行したが,塗抹,PCR(結核菌,MAC),培養,いずれも陰性であった。
画像所見:胸部単純写真では両下肺野を中心に粒状網状影を認めた(図3a)。CTでは内臓逆位があり,左上葉および両下葉に気管支の拡張,壁の肥厚や粘液貯留,小葉中心性の粒状影が認められた(図3b)。

図3 症例2の入院時画像所見
a. 胸部単純写真;内臓逆位があり,両下肺野に粒状網状影を認めた。
b. CT:両下葉に気管支の拡張,壁の肥厚や粘液貯留,小葉中心性の粒状影の所見があった。


 入院後経過:BSIでは12点であり,入院および死亡のhigh risk群と考えられた。寛解導入を目指し抗菌薬MEPMの点滴静注を開始,少しずらせてmPSL 250mg×3日間を2コース追加投与した。後療法として明らかな基準はないが,結核症についての補助的ステロイド投与についてのシステマティックレビューを参考にして[11],PSL 0.5mg/kgであるPSL 30mgから開始して急速漸減とした。また長い病歴から制御困難が予想されたので,ステロイドの長期投与を避けるためにタクロリムス(Tac)3mgの併用を検討し,施設長の承認を得た上で,患者に詳細に説明した上で同意をいただき,使用開始とした。治療後,咳嗽はVASにおいて10→1~2程度に減少し,喀痰量は100g/日→40g/日に減少した。

 退院後経過:PSLとTacを内服投与していたが,1カ月後に再度喀痰が増加したため,シクレソニド1,200μgを開始,加えてシタフロキサシン(STFX)の内服投与を追加した。STFXは1週間から2週間の短期間の投与としたが,終了後しばらくすると再度の増悪があり,反復して投与を行い,最終的に4カ月断続的に続けた。しかしその後,初診後6カ月経過した頃より,その必要がなくなり,その後現在に至るまで月に一度,2〜4日の内服で済むようになった。STFXを終了した後,PSLも漸減終了し,その後はシクレソニド1,200μgおよびTac 3mgを継続とし,治療開始後2年9月の現在,喀痰量は10g/日で安定し維持できている。時折軽度の悪化が見られるが,その都度外来での抗菌薬点滴,あるいはSTFXの短期内服で制御できている。

 喀痰細菌検査では一般培養にてP. aeruginosaが検出されているが,薬剤感受性に大きな変化はなかった。肺機能検査においても,%VCはほとんど変化せず増悪はなく,FEV1/FVCは42%→48%と軽度の改善を認め,受診前急速に進行していた肺機能障害の悪化は完全に抑止できていた(表4)。

表4 症例2の肺機能検査および動脈血液ガス分析の経過



考察

 気管支拡張症は既往の肺感染症や免疫不全など種々の基礎疾患に由来する疾患であるが,近年先進国では,基礎疾患を持たない特発性BEが増加の一途を辿り,大きな問題となっている[2]。欧州を中心に新しい治療の試みがさまざまに行われているが,いまだに決定的な治療法は開発されていない[14][15]。

 わが国でびまん性汎細気管支炎(DPB)の治療に卓効を示した長期のマクロライド投与はBEにおいても試みられているが,2017年のERSガイドラインではその有効性は限定的とされ,1年で3回以上の急性増悪を起こすBE症例に限定して推奨されている[14]。新たな治療手段が求められているが,未だ決定的なものは無い。好中球の活性化を阻害するジペプチジルペプチダーゼ1(DPP-1)阻害薬(brensocatib)が臨床試験中である[16]。BEの中心的病態が過剰な免疫応答であることを考慮すると,ステロイドの限定的使用は検討に値する[7]。

 吸入ステロイド(ICS)は小規模な試みが幾つか報告されている。定期的に高用量の吸入ステロイドを投与することで,24時間の喀痰量が減少し,喀痰中の炎症マーカーが減少し,QOLが向上するという研究結果が複数ある[17][18]。しかし,これらの研究では肺機能障害の改善や増悪回数の抑制は示せていない。また,ICSによってCOPD患者における軽度の肺炎リスクが上昇すると報告されているが[19],気管支拡張症の患者にも当てはまるかどうかは不明であり,さらなる研究が必要である。総じて検討例数が少なく,有効性,安全性について,いまだガイドラインレベルで推奨される段階ではない[14][20]。ただし欧米の実際の臨床の場では,喘息治療と同様にICSを積極的に使用しているとの報告もある[3][21]。今回の2症例では,ICSとしてシクレソニドを用いた。2症例ともシクレソニドの投与量が添付文書で定められた用量を超えているが,これについては高用量シクレソニドの報告があり[22],また患者の同意を得た上で,投与を開始した。

 全身性のステロイドについては,わが国でもDPBに対して短期間の経口ステロイドが試みられ,一定の有効性が見られたと報告されている[23]。直近では,米国のレジストリー(the US Bronchiectasis Research Registry)において登録患者の13%が経口ステロイドにより治療されていた[3]。ただし現在のところ,適応,種類,量,投与経路についてはまとまった議論を見ない。今回我々が初期治療に用いたステロイドの点滴静注は,呼吸器領域では通常急性かつ重篤な病態に好んで使用されるが,膠原病関連の間質性肺炎,多発血管炎性肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎などの初期治療に推奨されており[24][25],この2症例においても寛解の導入に有用であったとの印象がある。重症の呼吸器疾患への使用が今後さらに検討されて良いと思われる。病態の一部は慢性細菌性感染症であり,抗菌薬の併用は必須と思われるが,その種類,投与時期,投与期間などについては一定の見解がない。

 今回の2症例では,ICS,PSL,そしてTacの使用により長期にわたって喀痰量減少が維持され,肺機能障害の悪化を抑制し得ている。またこの2例で初期治療後早期にBE増悪が見られ,ステロイド投与による易感染性による悪化の可能性も考えらえたが,入院時と同様の抗菌薬+ステロイドの静注治療で再度改善を得て,その後,病勢は長期安定している。症例1では,喀痰量に加えて肺機能が改善しているが,これは当初併発していた気胸が改善したことに加えて,CTにてコンソリデーションが改善し,また正常肺野が増加していることから,治療の効果をも反映していると思われる。症例2では,抗菌薬を先行し,その後はICSおよびTacにて長期に渡り良好に制御し得たため,抗菌薬だけでなくICSとTacの効果もあると考えられる。一時的にステロイド投与による易感染性があったことも否定はできないが,全臨床経過で考えると,この複合的治療は有効であったと考える。

 ただし今回提示した2症例の治療方法は統一したプロトコルに基づいたものではない。これまで当院では30症例以上のBEの症例を蓄積してきたが,抗菌薬のみで改善した症例,抗菌薬および短期間のステロイド療法で改善した症例,この2症例のように多量の抗菌薬とステロイドそして免疫抑制剤を必要とした症例などさまざまで,必要な治療法,薬剤量が症例毎に異なり,現時点で統一したプロトコルは作成できていない。また,2症例とも長年の苦しみが強く,積極的な治療を求めており,かつ初回治療ではステロイドの併用で顕著な効果が見られていることから,その後の症状増悪時にステロイドなしで抗菌薬のみの治療にすることはできなかったため,ステロイド治療を行わなかった場合の経過と厳密な比較はできていない。また,2症例とも前医で喀痰ドレナージや気管支拡張薬の吸入療法を施行していたが,十分な効果を得ることができず,特に喀痰ドレナージは連日数時間の労苦を伴うなど,本人の苦痛が大きかったため,当院ではこれらの治療は施行していない。

 喘息やCOPD,膠原病などのステロイドが有効な他疾患の併存について,今回の2症例では理学所見や血液検査,画像検査等において認めなかった。特に膠原病については,理学所見で有意な所見がなく,血液検査はRFと抗核抗体等で十分とは言えないが,全経過を通して明らかに膠原病を示唆する所見はなかった。

 今回,内服,吸入ステロイドにより多量の喀痰や進行性の肺機能低下を良好に制御し得た気管支拡張症の2例を経験した。気管支拡張症における過剰な炎症制御に対するステロイド投与について,さらなる知見の蓄積が望まれる。

 利益相反:本主題に関して利益相反はない。

Abstract

 We present two cases of refractory idiopathic bronchiectasis with repeated pneumonia and long-lasting cough and sputum. At first, we administered intravenous antibiotic and steroids, which conduced to good results. Thereafter, inhaled corticosteroids and oral steroids or an immunosuppressant were prescribed that resulted in good control of their disease condition for a long period of time. In both cases, the amount of sputum decreased compared to before hospitalization, and the progression of pulmonary dysfunction was controlled. Therefore, improvement in quality of life (QOL) was maintained for a long period of time.
 Management of pathological process of BE is not established yet. We recommend that various treatment strategies should be attempted according to pathophysiology of each patient.

図表


文献

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