藤原清宏
なにわ生野病院呼吸器内科(〒556-0014 大阪府大阪市浪速区大国1-10-3)
A case of suspected pneumocystis pneumonia following COVID-19 pneumonia
Kiyohiro Fujiwara
Department of Respiratory Medicine, Naniwa Ikuno Hospital, Osaka
Keywords:COVID-19肺炎,二次性器質化肺炎,ステロイド, ニューモシスチス肺炎/COVID-19 pneumonia, secondary organizing pneumonia, steroid, Pneumocystis pneumonia
呼吸臨床 2022年6巻4号 論文No. e00148
Jpn Open J Respir Med 2022 Vol. 6 No. 4 Article No.e00148
DOI: 10.24557/kokyurinsho.6.e00148
受付日:2022年1月11日
掲載日:2022年4月8日
©️Kiyohiro Fujiwara. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
症例:79歳,男性。
主訴:発熱,呼吸困難。
既往歴:脳梗塞で右片不全麻痺,2型糖尿病,高血圧。
内服歴:クロピドグレル硫酸塩,アスピリン,シタグリプチンリン酸塩,メトホルミン塩酸塩,グリメピリド,アムロジピンベシル酸塩,ロスバスタチンカルシウム,ボノプラザンフマル酸塩。
家族歴:特記事項なし。
現病歴:X−47日前から倦怠感があり,X−41日から呼吸困難があったため,前医を受診し,鼻咽頭ぬぐい液の等温核酸増幅検査によってSARS-CoV-2が陽性であった。胸部CT(図1)では,全肺野にわたり,胸膜下を中心とした多発性のコンソリデーションが認められ,右上・中葉には斑状にすりガラス陰影がみられた。SpO2が室内空気で89%であり,COVID-19で中等症IIと診断され,入院となった。レムデシビルを初日200mg/日,以後4日間100mg/日を点滴投与され,デキサメタゾン6.6mg/日を10日間投与された。入院後,酸素マスク3L/分でSpO2 96%程度維持されたが,X−30日の胸部CTで全肺野にわたり,胸膜下を中心として認められていた多発性のコンソリデーションの濃度は上昇していて,二次性器質化肺炎と判断され(図2),プレドニゾロン投与を行うこととし,60mg/日から開始して漸減していた。X−8日の胸部CT像(図3)では,全肺野にわたる胸膜下を中心とした多発性のコンソリデーションの濃度は低下し,すりガラス陰影となっていて,改善していた。しかし,プレドニン5mg/日を内服となっていたX−2日から,急に呼吸困難が再燃し,X日に当院に救急搬送された。なお,COVID-19治療開始後からステロイドの総投与量はプレドニゾロン換算で約1,000mgであった。
図1 COVID-19診断時の胸部CT像(X-40日)
全肺野にわたり, 胸膜下を中心とした多発性のコンソリデーションが認められ,右上・中葉には斑状にすりガラス陰影がみられる。
図2 COVID-19診断時の胸部CT像(X-30日)
全肺野にわたり, 胸膜下を中心として認められていた多発性のコンソリデーションの濃度は上昇している。
図3 COVID-19肺炎後の胸部CT像(X-8日)
全肺野にわたる胸膜下を中心とした多発性のコンソリデーションの濃度は低下し, すりガラス陰影となっている。一部, 右下葉は網状影となっている。
入院時現症:身長156cm,体重50kg,BMI 21kg/m2。体温38.0℃,脈拍98bpm,血圧141/90mmHg,呼吸数25回/分,SpO2 94%(酸素マスク5L/分)。意識清明。心音純,呼吸音は両側肺に捻髪音を聴取。腹部は平坦・軟,四肢に浮腫なし。関節痛,皮疹,筋力低下などなし。
検査所見(表1):LDH,CRPの上昇を認めた。また,尿中肺炎球菌抗原,尿中レジオネラ抗原ともに陰性であった。
表1 検査所見(後日判明分含む)
入院時の胸部CT像(図4):全肺野にわたり,肺門周囲を中心とした多発性のすりガラス陰影が認められ,胸膜側に正常部位を残した像もみられた。COVID-19肺炎で認められていた胸膜下を中心とした陰影の増悪はみられなかった。
図4 当院入院時の胸部CT像(X日)
全肺野にわたり, 肺門周囲を中心とした多発性のすりガラス陰影が認められる。COVID-19肺炎で認められた胸膜下を中心とした陰影の増悪はみられない。
入院後経過(図5):呼吸不全状態であったため,間質性肺炎の急性増悪を考え,ステロイドパルス療法を行うこととし,メチルプレドニゾロン1,000mg/日を3日間投与し,以後,プレドニゾロン60mg/kg/日から開始し,漸減していった。すなわち,60mg/日から1週間毎に減量し,それぞれ50mg/日,40mg/日,20mg/日,10mg/日とした。2型糖尿病に対しては,スライディングスケールでインスリン投与を行うこととした。また,ステロイドの長期投与による免疫抑制による日和見感染症が疑われ,細菌性肺炎を考慮し,入院時よりセフトリアキソンを投与した。喀痰検査では良質な検体が得られなかった。なお,P. jiroveciiのPCR検査は行わなかった。入院時から3日間まで,酸素マスクで酸素流量は最高8L/分まで必要とし,一時的ではあるが,SpO2が90%以下に低下することがあり,患者は重篤な状態と判断し,気管支鏡検査は行わなかった。X+5日に判明したが,β-D-glucan 93.3pg/mL,KL-6 645U/mL,SP-D 322ng/mLと上昇しており,アスペルギルス抗原陰性であった。危険因子としてステロイドの長期投与,臨床・画像所見,血清β-D-glucan陽性から,EORTC/MSGERC基準[4]によって“probable PCP”に相当していると考えられた。X+5日からトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤(ST合剤)9g/日の内服を開始したが,クレアチニン1.17mg/dLと上昇した2週間目に中止し,X+28日からST合剤1g/日の予防投与を行った。X+18日にβ-D-glucan 15.2pg/mLと下降し,ST合剤の投与は効果ありと考えられた。酸素吸入は,入院時から酸素マスク8〜5L/分で開始した。酸素の減量ができないため,念のため,X+7日に抗菌薬をメロペネムに変更し,X+12日に終了した。X+8日目から経鼻カニューレ2〜1L/分に減量でき,X+42日から酸素吸入を終了した。以後,室内気でSpO2 96〜98%を維持した。入院後32日目の胸部CT像(図6)では,全肺野にわたっていた多発性のすりガラス陰影の濃度は低下し,右下葉背側に網状影が軽度認められた。X+40日からプレドニゾロン5mg/日 2週間投与して終了とし,入院後52日目にリハビリ目的で転院となった。
図5 入院後経過
図6 当院入院後32日目の胸部CT像
全肺野にわたり,多発性のすりガラス陰影の濃度は低下し,右下葉背側に網状影が軽度認められる。
PCPは真菌に分類されるPneumocystis jiroveciiの感染であり,HIV感染症における肺感染症として最も頻度が高く,日和見感染症である。
PCPの自覚症状として,発熱,乾性咳嗽,呼吸困難が3主徴であるが,非HIV症例では,これらの症状が急激に出現することがあり,また,非HIV症例では肺内の菌量が少なく,P. jiroveciiが検出できないことがあり,留意すべきである[5]。PCPの胸部CT所見の基本は両側びまん性のすりガラス状陰影であり,これは肺胞腔内のフィブリンやデブリス,菌体の集蔟を反映している。非HIV症例では急な経過で重篤な呼吸不全に陥ることがあるため,画像所見や血清β-D-glucan値の上昇などでPCPが強く疑われる場合には,治療に踏み切ることも許容されている[5]。
気管支肺胞洗浄液は感度が高いため,PCP診断に有用であるが,気管支鏡検査を行って,採取することは侵襲的な手技であり、本症例のような重症の低酸素症の患者では必ずしも容易に行うことができない。
器質化肺炎は基礎疾患の同定されない特発性器質化肺炎もみられるが,多くは二次性器質化肺炎で,肺感染症,膠原病,薬剤性肺障害,悪性腫瘍,放射線治療などに伴って生じる[6]。COVID-19による後遺症としての二次性器質化肺炎が注目されていて,治療については,COVID肺炎後の二次性器質化肺炎に対してステロイド治療が有効であることは報告されてきている[1][2][3][7]。Chongら[7]は,2021年のレビューにおいてCOVID-19肺炎による二次性器質化肺炎の報告例を集積している。二次性器質化肺炎に対し,ステロイド治療が行われた記載のある症例は15例あり,数週間から数カ月で漸減されていて,すべて有効であった。合併症としてPCPの発症について記載なく,ST合剤による予防についても触れられていなかった。Gentileら[8]によれば,非HIVでCOVID-19の治療を行った450症例の内,5例のPCP発症例があり,すべての患者は少なくとも2週間の高用量ステロイドを投与されていて,ステロイド投与総量は437mgから1,056mgまでで,平均630mgであったとしている。その内,PCP発症の危険因子である化学療法を行っていた悪性リンパ腫が1例含まれていた。PCPの治療としては,ステロイドとST合剤を用い,全例改善している。COVID-19に対するコルチコステロイドの使用は,PCPの危険因子であり,COVID-19肺炎の症例で,免疫能が正常であっても,高用量のステロイド投与(4週間以上にわたって少なくとも25mg/日のプレドニゾロン同等の投与)した場合は,PCPの発症に注意すべきとしている。また,COVID-19肺炎から回復した症例で,再び呼吸状態の悪化が認められれば,PCPの発症を疑うべきとしている。内田ら[9]はステロイドパルス療法が著効したAIDS合併PCPの1例を報告し,ステロイドによってPCPの二次的反応(胞隔炎,肺胞腔内のフィブリンの析出,出血,器質化,肺水腫など)が抑制された結果,改善を認めたとしている。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き第6版[10]においては,COVID-19の治療で,中等症II以上であれば,ステロイド薬としてデキサメタゾン6mgの投与を最長10日までを推奨するとの記載はあるが,二次性器質化肺炎を発症し,長期間のステロイド投与が必要となる場合の記載はない。一方,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・別冊・罹患後症状のマネジメント・暫定版[11]においては,罹患後呼吸器症状があるものとして,器質化肺炎を鑑別に挙げ,呼吸器専門医への紹介を勧めている。
胸部CTはCOVID-19肺炎の重要な診断ツールであるが,広範囲のすりガラス陰影を呈している症例では,COVID-19肺炎を模倣している疾患の可能性も念頭に置いて,画像所見に加えて臨床症状,検査データ,治療薬などの評価は早期診断に重要と考えられる。本症例ではCOVID-19肺炎診断時には優位に胸膜下に病変が認められ[12],一旦改善したが,再び呼吸状態が悪化したPCPの発症時には,すりガラス陰影は肺門側に優位で,胸膜側に正常部位を残した像が認められ[5][13],それぞれCT像は典型例を示していて,鑑別診断の一助になり得た。
本症例では当院に緊急入院時の胸部CTで,COVID-19の二次性器質化肺炎の経過中に間質性肺炎の急性増悪や細菌性肺炎の発症を疑い,直ちに治療を開始した。前医においてST合剤の予防投与が行われておらず,PCPの発症も考慮して,緊急入院時にST合剤の投与を開始することも,今後,留意すべき課題と考えられた。実地臨床において,非HIV症例でプレドニゾロン20mg/日を1カ月以上投与する場合はPCPの予防を検討する必要があり[14][15],ST合剤による予防は1錠週3回投与でも1錠連日投与と同様に効果があるとされている[16]。今後,COVID-19肺炎で,ステロイド長期投与の必要な症例の増加が見込まれ,ST合剤の予防的投与の時期について検討が必要であろう。
利益相反:開示すべき利益相反はない。
Here, we report a case of COVID-19 pneumonia that resulted in secondary organizing pneumonia. Pneumocystis pneumonia (PCP) was suspected to have developed during treatment with steroids. A 79-year-old man was previously diagnosed with COVID-19 pneumonia, and treated with remdesivir and dexamethasone. The patient had secondary organizing pneumonia and was treated with prednisolone; however, he was urgently transferred to our hospital owing to dyspnea. Chest CT showed bilateral diffuse ground glass opacities with a central distribution, and the levels of high β-D-glucan were found to be high. PCP was suspected on the basis of the clinical and radiological picture. Following treatment of corticosteroids and sulfamethoxazole-trimethoprim, his clinical condition and radiographic images gradually improved.