藤原清宏
なにわ生野病院呼吸器内科(〒556-0014 大阪府大阪市浪速区大国1-10-3)
A case of multiloculated pyothorax successfully treated with drainage and urokinase lavage
Kiyohiro Fujiwara
Department of Respiratory Medicine, Naniwa Ikuno Hospital, Osaka
Keywords:肺膿瘍,膿胸,ドレナージ,ウロキナーゼ/lung abscess, pyothorax, drainage, urokinase
呼吸臨床 2022年6巻7号 論文No. e00151
Jpn Open J Respir Med 2022 Vol. 6 No. 7 Article No.e00151
DOI: 10.24557/kokyurinsho.6.e00151
受付日:2022年4月25日
掲載日:2022年7月4日
©️Kiyohiro Fujiwara. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
症例:68歳,女性。
主訴:右背部痛,呼吸困難。
既往歴:10年前,白内障手術時に2型糖尿病を指摘されたが,放置していた。
喫煙歴:なし。
飲酒歴:なし。
家族歴:特記事項なし。
現病歴:1カ月前から倦怠感があり,1週間前から右背部痛と呼吸困難が増強したため,緊急搬送され,前医に入院となった。胸部単純X線像では,右全肺野の透過性の低下が認められ,右中下肺野において顕著であった。胸部CT(図1)では,3カ所に分かれた多房性の胸水貯留を認め,膿胸が考えられた。また,右中葉に気管支透亮像を伴う透過性低下を認め,肺膿瘍で膿胸の原因になっていると考えられた。肺膿瘍の末梢側に,肺膿瘍より透過度が高く,肺を圧排する膿胸腔が認められた。前医では専門医不在のため,2日後に当院に転院となった。
入院時現症:身長152cm,体重56kg。体温37.7℃,脈拍102bpm,血圧144/85mmHg,呼吸数23回/分,SpO2 92%(室内気)。意識清明。心雑音なし,呼吸音は右全肺で減弱。腹部は平坦・軟,四肢に浮腫を認めた。関節腫脹,皮疹なし。Performance status(PS)は4であった。
図1 前医入院時の胸部CT像(当院入院2日前)
右膿胸は多房性となっており,右中葉は肺膿瘍になっていると考えられた。
当院搬送後,多房性膿胸については,経日的にドレナージを行うことになる
(1→2→3)。
検査所見(表1):高度の炎症所見を呈し,低アルブミン血症,2型糖尿病を認め,有効浸透圧は303mOsm/kgであった。後日判明した報告では,胸水からStreptococcus intermedius(S. intermedius)が検出され,膿胸の起炎菌と考えられた。胸水における結核菌,Mycobacterium aviumのPCRは陰性で,細胞診も陰性であった。
表1 検査所見(後日判明分含む)
入院後経過(図2):以下,ドレナージについて詳述する。図1に示したように,番号を振り,1,2,3の部位の順に経時的にドレナージを行った。
図2 入院後経(抗菌薬とドレーン管理)
トロッカーカテーテルからの排液はウロキナーゼによる洗浄で清浄化,減少し,入院後26日目に抜管となった。
カテーテル挿入後の胸部CT像(図3)に示すように,右多房性膿胸のうち1の部位にトロッカーカテーテル16Frを後腋窩線第8肋間から挿入し,膿性胸水1,550mLの排液を認めた。なお,吸引圧は–6cmH2Oとした。2の部位の膿胸はやや縮小し,3の部位は不変であった。抗菌薬は入院当初はタゾバクタム・ピペラシリンを用い,入院9日目からメロペネムに変更し,入院12日目からレボフロキサシンを追加した。入院当初から2型糖尿病に対しては,インスリンコントロールを必要とした。全身浮腫に対しては,カルペリチド,フロセミド,スピロノラクトンを用いた。
図3 当院入院当日の胸部CT像
右多房性膿胸のうち1の部位にトロッカー・カテーテル(矢印)を挿入し,大量の膿性排液が得られ,膿胸腔は縮小した。1の部位のドレナージ後の胸部CTであり,2の部位の膿胸もやや縮小していた。3の部位は不変であった。
入院3日目の腹臥位による胸部CT像は,右多房性膿胸の2の部位において,その後変化がないため,腹臥位でも位置は不変であることを確認して,肩甲骨下縁第5肋間からアスピレーションキット12Frを挿入,吸引し,135mLの膿性胸水を認めた。持続吸引としたが,排液はわずかであった。
入院8日目の胸部造影CT像(図4)に示すように,多房性膿胸の3の部位と右中葉との境界が明らかとなり,右中葉において肺膿瘍が穿破していることが明らかとなった。3の部位にアスピレーションキット12Frを前腋窩線第5肋間から挿入,吸引し,190mLの膿性胸水を認め,持続吸引としたが,排液はわずかで,空気漏れもなかった。なお,CRPは,漸次下降していて,同日には3.41mg/dLであった。
図4 当院入院8日目の胸部造影CT像
造影検査によって多房性膿胸の3の部位と右中葉との境界が明らかとなり,右中葉において肺膿瘍が穿破していることが明らかとなった(矢印)。3の部位にアスピレーション・キットを挿入し,膿性排液を吸引した。なお,2の部位のアスピレーション・キットは入院3日目に挿入している。
入院9日目の胸部CT像(図5)に示すように,多房性膿胸の3の部位に前日において挿入したアスピレーション・キットは,その後,胸膜癒着し,隔壁が生じ,ドレーンは後方に向かっていて,腔内をはずれていた。肺膿瘍穿破部位に瘻孔が形成されており,3の部位はエアースペースとなっていた。
図5 当院入院9日目の胸部CT像
多房性膿胸の3の部位に前日において挿入したアスピレーション・キット(矢印)は,その後,隔壁が生じたため,ドレーンは後方に向かっていて,腔内をはずれていた。肺膿瘍穿破部位は瘻孔が形成されており,3の部位はエアースペースとなっていた。
トロッカーカテーテルからの膿性排液が遷延していたため,入院15日目から5日間にわたり,トロッカーカテーテルから,ウロキナーゼ60,000単位/日を生理食塩水100mLに混じて,注入し,1時間クランプし,開放した。洗浄後,排液の中にフィブリン塊が見られ,次第に清浄化した。
入院19日目の胸部CT像(図6)に示すように,多房性膿胸3の部位のエアースペースは,変化がなかったので,アスピレーションキット12Frを乳腺外側第5肋間から挿入した。エアーリークがみられ,皮下気腫が認められ,気管支胸膜瘻と診断した。なお,胸水を培養し,後日の結果で一般細菌は陰性であった。
図6 当院入院19日目の胸部CT像
多房性膿胸3の部位のエアースペースにアスピレーション・キットを挿入した。ドレナージによりエアーリークがみられ,皮下気腫が認められた。なお,左胸水が増量しているが,翌日の穿刺により漏出性であることが確認された。
入院25日目の胸部CT像(図7)に示すように,多房性膿胸3の部位のエアースペースは縮小しており,瘻孔は閉鎖していた。エアーリークも停止していたため,入院26日目にアスピレーションキットを抜去した。同時にトロッカーカテーテルも排液量が40mL/日となったため,抜去した。
図7 当院入院25日目の胸部CT像
多房性膿胸3の部位のエアースペースは縮小しており,エアーリークも停止していたため,アスピレーション・キットは抜去した。CTで瘻孔の閉鎖が確認された(矢印)。
なお,左下葉無気肺を伴う漏出性胸水については入院12日目,20日目にそれぞれ1,085mL,850mL穿刺排液を要したが,以後,胸水は漸次消退した。
入院当初から,患者は全身浮腫が認められ,PSは4であり,ベッドサイドで早期にリハビリテーションを行った。2型糖尿病については,炎症反応の下降と共に,耐糖能は次第に改善し,メトホルミン,テネリグリプチン臭化水素酸塩,インスリン グラルギンの皮下注でコントロールされ,自宅療養可能な状態となり,入院43日目に退院した。退院後の胸部単純X線像では胸水の再貯留なく,右中下肺野の透過性は漸次改善し,経過良好である。
本症例において胸水培養で検出されたStreptococcus intermediusは,Streptococcus constellans,Streptococcus anginosusと共にStreptococcus milleri group(SMG)に分類される。SMGは口腔,上気道,腸管などに常在する微好気性のグラム陽性連鎖球菌で,肺炎,肺化膿症および膿胸など多彩な臨床像を呈し,糖尿病はリスク因子の1つである[1]。藤木ら[2]は,SMG呼吸器感染症15例中14例(93.9%)が治癒し,治療として,抗菌薬はカルバペネム系薬剤を中心とした併用化学療法が有用としている。
膿胸の病期は滲出期,線維素膿性期,器質化期の3段階に分類される[3]。膿胸が滲出期の段階から線維素膿性期の段階になるとフィブリンが胸膜に沈着することにより,多房性になると考えられている。線維素膿性期の段階までの段階の膿胸に対する早期治療としては,適切な抗菌薬の投与と共に経皮的ドレナージであり,局所麻酔下で施行可能であり,患者への負担は比較的少ない。合併症としては気胸・血胸等が考えられるが,超音波ガイド下やCTガイド下で施行することにより,多房性膿胸であっても,正確な位置や深さが把握でき,カテーテル挿入は安全に施行できる[4]〜[7]。筆者らは,3カ所にわたる多房性膿胸に対し,超音波・CTガイド下のドレナージを行い,治療に成功した症例を報告した[7]。
線維素膿性期の段階では,ドレナージの効果が不良であれば,線維素溶解療法を検討しなければならない。本症例においては,ウロキナーゼを注入することにより,遷延する膿性排液が清浄化,減量し,治療に成功したと考えられる。ウロキナーゼはプラスミノーゲンをプラスミンに活性化するプラスミノーゲン活性化因子であり,プラスミンは線維素分解作用を有する。Bourosら[8]は,二重盲検法でウロキナーゼの有用性を報告しており,ドレナージ後にウロキナーゼ100,000単位を生理食塩水100mLに混じ,3日間投与した群と生理食塩水100mLのみを投与した群を比較し,治療成功率は前者86.5%,後者25%で有意差があったとしている。筆者らは2002年にストレプトキナーゼ・ストレプトドルナーゼによる胸腔洗浄を15例に行い,出血など重篤な副作用なく,14例(94%)で治療に成功し,不成功の1例は剥皮術で治癒したことを報告[9]したが,その後,薬品は製造中止となった。以後,筆者らは本邦で使用可能なウロキナーゼで対応することとし,その内5症例を報告している[10]〜[14]。全例ドレナージのみでは治療困難例であったため,ウロキナーゼによる洗浄の適応とし,ウロキナーゼ60,000単位を生理食塩水100mLに混じて注入し,3回洗浄を4例,4回洗浄を1例で行い,5例とも排液は清浄化し,減少し,抜管でき,出血などの副作用はなかった。ドレーンの挿入が1本以上必要な症例はなく,治療に成功している。ただし,エアーリークの明らかな有瘻性膿胸では,洗浄による吸い込みのリスクがあり,ウロキナーゼの使用は不可と考えられる。本症例は,3カ所に分かれた多房性膿胸であったため,ドレーンをそれぞれに挿入した。無瘻性であることを確認して,膿性排液が継続して認められた1の部位においてトロッカーカテーテルからウロキナーゼによる洗浄で対応した。さらに,3の部位は肺膿瘍の穿孔による空気漏れがあり,抗菌薬の治療とともに約1週間程度の持続吸引のみで,空気漏れは停止した。膿胸の管理のための米国胸部外科学会のコンセンサスガイドライン(2017年)において気管支胸膜瘻の治療は単一施設における外科療法や内視鏡的塞栓術などについて後ろ向き研究が報告されているが,治療方法について前向き研究は,文献検索した中ではなかったと述べられている[15]。なお,小児における胸膜疾患の管理のためのBTSガイドラインでは,気管支胸膜瘻について,さまざまなアプローチが提唱されているが,ほとんどの気管支胸膜瘻は末梢性であり,大部分は継続的な胸腔ドレナージと抗生物質で解決するとしている[16]。本症例は持続吸引のみで気管支胸膜瘻が閉鎖したが,成人における保存的治療の症例の積み重ねが望まれる。
利益相反:開示すべき利益相反はない。
A 68-year-old woman who was urgently taken to her previous hospital because of right back pain and dyspnea, but was transferred to our hospital owing to the absence of a specialist. Chest computed tomography revealed a lung abscess in the right middle lobe and a multiloculated (approximately 3 sites) pyothorax. Blood biochemistry tests indicated the presence of a severe inflammatory reaction and untreated Type 2 diabetes mellitus. Upon admission, a trocar catheter was inserted due to the multiloculated pyothorax; aspiration kits were inserted on postadmission Days 3 and 4. Intrapleural lavage with urokinase was performed from the trocar catheter for 5 days. Another aspiration kit was inserted on postadmission Day 19 due to the pneumothorax caused by the perforation of the lung abscess. The air leakage was stopped on postadmission Day 26. Antimicrobial therapy, drainage, and urokinase instillation alleviated her symptoms, and she was discharged on postadmission Day 43.