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【投稿/症例報告】健康診断受診を契機に診断されたアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の1例


岡田浩平,鈴木彩奈,都築早美,榊原桂太郎,竹中 圭


博慈会記念総合病院呼吸器科(〒123-0864 東京都足立区鹿浜5-11-1)


A case of allergic bronchopulmonary aspergillosis diagnosed  following a medical checkup


Kohei Okada,Ayana Suzuki,Hayami Tsuzuki,Keitaro Sakakibara,Kiyoshi Takenaka


Department of Pulmonary Medicine, Hakujikai Memorial Hospital, Tokyo


Keywords:アレルギー性気管支肺アスペルギルス症,気管支拡張,粘液栓,全身ステロイド療法/allergic bronchopulmonary aspergillosis,bronchiectasis,mucoid impaction,systemic glucocorticoid therapy


呼吸臨床 2023年7巻3号 論文No. e00167
Jpn Open J Respir Med 2023 Vol. 7 No. 3 Article No.e00167

DOI: 10.24557/kokyurinsho.7.e00167


受付日:2023年1月31日
掲載日:2023年3月27日


©️Kohei Okada, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 症例は43歳男性。健康診断で胸部異常影と閉塞性換気障害を指摘されたため当科を受診した。毎年健康診断を受けており,前年まで異常を指摘されたことはなかった。41歳で気管支喘息と診断され,吸入ステロイド/長時間作用性β2刺激薬(inhaled corticosteroid/long-acting β2-agonist:ICS/LABA)により良好にコントロールされていた。末梢血好酸球数増加,血清総IgE値高値,アスペルギルスに対するRAST陽性,胸部CTで中枢性気管支拡張,中枢気管支内粘液栓ならびに傍脊椎筋より高吸収を呈する粘液栓(high attenuation mucus:HAM)を認めたことからアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)と診断した。短期全身ステロイド療法で粘液栓と閉塞性換気障害は改善したが,気管支拡張の一部に残存を認めた。

はじめに

 アレルギー性気管支肺真菌症(allergic bronchopulmonary mycosis:ABPM)は,主に成人喘息患者あるいは嚢胞性線維症患者の気道に発芽・腐生した糸状菌が気道内でⅠ型アレルギーとⅢ型アレルギー反応を誘発して発症する慢性気道疾患でありAspergillus fumigatusが原因真菌となることが多く,その場合ABPAと呼ばれる[1]。気管支喘息症状や炎症に伴う全身症状を認めるが,比較的症状の乏しい症例も報告されている[2]。

 ガイドラインなどに記載されている治療は,月単位の全身ステロイド療法である[1][3]。今回,無症状であったが健康診断で胸部X写真の異常影とスパイロメトリーで閉塞性換気障害を指摘されたことを契機にABPAと診断され,短期間の全身ステロイド療法で粘液栓と閉塞性換気障害が改善した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。

症例

 症例:43歳男性。

 主訴:なし。

 既往歴:小児期 アトピー性皮膚炎,41歳 慢性副鼻腔炎,気管支喘息,食物アレルギー(胡麻・キウイ)。

 生活歴:喫煙歴なし,飲酒歴なし,ペット飼育なし,職業;会社員。

 現病歴:毎年健康診断を受けX線写真,呼吸機能検査の異常は指摘されていなかったが,X年4月21日の健康診断で胸部異常影ならびに閉塞性換気障害を指摘され当科を受診した(図1)。気管支喘息に対しサルメテロールキシナホ酸塩・フルチカゾンプロピオン酸エステル250ドライパウダーインヘラー1回1吸入1日2回使用により喘息症状はなく,喘息コントロールテスト(ACT)は25点であった。

図1 初診時X線写真(X年4月21日)
両側下肺野の棍棒状陰影。

 初診時現症:SpO2 98%(室内気),身長178cm,体重64kg,BMI20kg/m2,体温36.8℃,胸部聴診;心音正常,呼吸音正常。

 初診時検査所見:末梢血好酸球数増多(2,178/μL),血清総IgE値(2,276 U/L),アスペルギルスに対する特異的IgE陽性(表1),胸部CTで中枢性気管支拡張ならびに中枢気管支内粘液栓,縦隔条件で傍脊椎筋より高吸収を呈するhigh attenuation mucus(HAM)を認めた(図2)。2019年に本邦のABPM研究班が提唱したABMP臨床診断基準[1]の10項目中7項目を満たしたためABPAと診断した。またABPA complicating asthma ISHAM working group診断基準[3]も満たしていた。呼吸機能検査では閉塞性換気障害(FEV1% 66.58%)ならびに呼気NO高値(72ppb)を認めた。

表1 初診時検査所見(X年4月21日)


  
図2 初診時胸部CT(X年4月21日)
肺野条件:両側下葉の気管支内粘液栓。
縦隔条件:傍脊椎筋より高吸収を呈するhigh attenuation mucus(HAM)。

 臨床経過:喘息症状を認めないこと,気管支鏡による気管支内粘液栓除去のみで治療された症例も報告されていること[2]から,全身ステロイド療法は行わず,5月6日に糸状菌の検出と治療的に粘液栓を除去することを目的とし気管支鏡検査を行った。吸引と鉗子を用いて可及的に粘液栓の除去を行ったが,胸部X線所見の改善は得られず,また粘液栓の培養で糸状菌は検出されなかった。6月2日よりアンブロキソール塩酸塩45mg 3×,L-カルボシステイン1500 mg 3×内服を開始した。

 X年6月21日かかりつけの耳鼻科クリニックで,局所麻酔下鼻中隔湾曲症の手術を受けたが,術中に多量の痰喀出とSpO2低下を認めたため手術は中止となり当科紹介入院となった。

 入院後,鼻出血が持続していたため局所の圧迫止血,止血薬,抗菌薬投与で治療したが,気管支喘息による症状は認めなかったため,全身ステロイド療法は行わなかった。再入院時の胸部X線(図3a)では粘液栓による陰影は悪化していたが,2日後の胸部X線写真では明らかな陰影の改善を認めた(図3b)。耳鼻科クリニックでの治療について確認したところ,術前にPSL40 mg/日内服を7日間投与されていた。

図3 再入院時(X年6月21日)の胸部X線写真
a. 粘液栓による陰影は以前より悪化していた。
b. 2日後の胸部X線写真:明らかな粘液栓による陰影の改善を認めた。

 入院10日後の胸部X線写真でさらに粘液栓が消退していたため,全身ステロイドの追加投与は行わずICS/LABAのみで治療を継続し退院となった。初診から1年後には血清総IgE値は1382 U/Lとなり治療開始前に比し40 %低下し,治療の目標とされる25〜50%低下[3]を維持していた。胸部X線写真(図4a)ならびに胸部CTで粘液栓は消失していたが,粘液栓の認められていた気管支の一部に軽度の気管支拡張像が残存した(図4b)。肺機能検査では閉塞性換気障害は改善していた(FEV1% 77.91%)。

図4 全身性ステロイド療法施行後1年の胸部画像所見
a. 胸部X線写真:気管支粘液栓は認められない。
b. 胸部CT:粘液栓は消失したが,粘液栓の認められた気管支に軽度の気管支拡張が残存した。

考察

 ABPAは様々な臨床的あるいは画像的な兆候を呈する疾患であり,通常コントロール不良な気管支喘息,再発性の肺浸潤影,気管支拡張などを伴う[3]。一方,本症例のように無症状で,胸部異常影から診断される例も認められている[4]。インドの呼吸器クリニックにおいて,受診した気管支喘息患者全例にアスペルギルスに対する即時型皮膚反応を行い,陽性者についてABPAの診断基準を満たさないか調べた結果,755人の気管支喘息患者のうち155例(20.6%)がABPAと診断され,ABPAと診断された患者のうち29例(18.7%)では気管支喘息は良好にコントロールされていたと報告されている[5]。本邦でのABPA全国調査でも「喘息予防・管理ガイドライン2012」のstep1,2の症例がおよそ半数を占めたとされており[1],本症例のように気管支喘息症状を認めない,あるいは軽度の症状のみの症例であってもABPAである可能性について留意する必要がある。

 ABPAに対する全身ステロイド療法は現在の治療の中心であり,ガイドライン[1]では高用量ステロイド(PSL0.75mg/kg/日)あるいは中用量ステロイド(PSL0.5mg/kg/日)から開始し漸減するプロトコールが記載されており,中用量で開始しても半年近くに及ぶ投与期間となる。

 2013年にAgarwalらはABPAの臨床病期分類を提案し[3],コントロール良好な気管支喘息で初めてABPAと診断された場合Stage 0(無症候期)と定義されており,本症例はこれに該当した。またStage 0の患者に全身ステロイド療法を行うべきか明らかでないとされているが,粘液栓を伴う場合は経口ステロイド薬を使用すべきとも記載されている[3]。本症例は計画的に全身ステロイド療法を行ったわけではなかったが,たまたま他院で投与されたPSL 0.625mg/kg/日 7日間投与により,1年後も血清総IgE値は治療目標レベルを維持し,胸部CTで粘液栓の消失,閉塞性換気障害の改善が得られたが,一部の気管支に気管支拡張が残存していた。気管支拡張はABPAの最も望まれない合併症とされており[3],粘液栓が原因であったと考えられることから,気管支喘息が良好にコントロールされていても,粘液栓を伴うABPA患者は全身ステロイド療法の適応を検討すべきであると考えられた。

 ABPAに対する短期間の全身ステロイド療法に関して,Seatonらは5人のABPA患者を対象にした15年間の観察研究で,ICS定期吸入と症状増悪時の短期間(7〜10日間)経口ステロイド(PSL30mg/日)を自己投与する治療により,症状悪化による経口ステロイド使用が平均年1回未満であったこと,呼吸機能ならびに画像所見に関しても良好な経過が得られたことから,糸状菌が永続的な定着を起こす前の有効な治療法であると報告している[6]。本症例のような気管支喘息のコントロールは良好であるが,培養にて糸状菌の検出されない粘液栓を伴うABPAでは,短期間の全身ステロイド療法でも良好な経過が得られる可能性が示唆された。

 本論文の主旨は第252回日本呼吸器学会関東地方会(2021年9月25日 秋葉原コンベンションホール)で発表した。
 
 利益相反:本主題に関して利益相反ない。

Abstract

 A 43-year-old man was admitted with chest radiograph abnormalities and obstructive ventilatory defect that were identified in his annual medical checkup. He had been diagnosed with bronchial asthma at age 41 and was well-controlled with ICS/LABA. He also had peripheral blood eosinophilia, elevated total serum IgE, specific IgE for Aspergillus fumigatus, central bronchiectasis, mucus plugs in central bronchi, and high attenuation mucus in the bronchi on CT. These findings fulfilled the diagnostic criteria for allergic bronchopulmonary aspergillosis proposed by the Japan ABPM Research Program. Short term systemic glucocorticoid therapy decreased total serum IgE and led to disappearance of mucus plugs in bronchi and improvement of obstructive ventilatory defect, but partial bronchiectasis remained.

図表


文献

  1. 浅野浩一郎,ほか(編).アレルギー性気管支肺真菌症の診療の手引き.厚生労働省科学研 難治性疾患等克服研究事業.東京:医学書院,2019.
  2. 本城 心,ほか.喘息症状がなく粘液栓の除去にて5年間増悪のないスエヒロタケによるアレルギー性気管支肺真菌症の1例.気管支学. 2022; 44: 188-91.
  3. Agarwal R,et al.and For the ABPA complicating asthma ISHAM working group. Allergic bronchopulmonary aspergillosis:review of literature and proposal of new diagnostic and classification criteria. Clin Exp Allergy. 2013; 43: 850-73.
  4. 一区域に限局し喘息症状を認めない気管支肺アスペルギルス症の一例.日呼吸会誌. 2007; 45: 808-902.
  5. Agarwal R,et al. Clinical significance of hyperattenuating mucoid impaction in allergic bronchopulmonary aspergillosis. An analysis of 155 patients. Chest. 2007; 132: 1183-90. 
  6. Seaton A,et al.Management of allergic bronchopulmonary aspergillosis without maintenance oral corticosteroids:a fifteen-year follow-up. QJM. 1994; 87: 529-37.