
豊吉沙耶香,舟口祝彦,石垣裕敏
朝日大学病院呼吸器内科(〒500-8523 岐阜県岐阜市橋本町3-23)
Tuberculous meningitis occurring during treatment of rheumatoid arthritis: a case report
Sayaka Toyoshi, Norihiko Funaguchi, Hirotoshi Ishigaki
Department of Respiratory Medicine, Asahi University Hospital, Gifu
Keywords:結核性髄膜炎,肺結核,粟粒結核,関節リウマチ/tuberculous meningitis, pulmonary tuberculosis, miliary tuberculosis, rheumatoid arthritis
呼吸臨床 2024年8巻3号 論文No. e00185
Jpn Open J Respir Med 2024 Vol. 8 No. 3 Article No.e00185
DOI: 10.24557/kokyurinsho.8.e00185
受付日:2024年1月9日
掲載日:2024年3月5日
©️Sayaka Toyoshi, et al. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
症例:54歳男性。
主訴:頭痛,発熱,言動異常。
既往歴:50歳 高血圧症。
生活歴:喫煙歴40本/日×30年間,飲酒歴なし,ペット飼育なし,職業 会社員,結核患者との接触歴なし。
現病歴:RAで近医に通院中,プレドニゾロン(prednisolone:PSL)10mg/日,メソトレキサート(methotrexate:MTX)4mg週1日を内服中であった。X年2月3日頭痛を自覚,近医を受診し、アセトアミノフェンを処方された。2月7日に会社の同僚に左目の内側偏位を指摘された。2月8日午前3時に言葉が出にくいことを自覚,10時に同僚が訪問した際に意味不明な言動があり,当院に救急搬送された。
入院時現症:身長171cm,体重82kg,意識レベルJCS 2,Glasgow Coma Scale(GCS)13点 E4V4M5,意味不明な言動あり,見当識障害・記憶障害あり,血圧142/80mmHg,脈拍92回/分,経皮酸素飽和度 98%(室内気),体温38.1℃,胸部聴診;心音・呼吸音正常,表在リンパ節触知せず,右外転神経麻痺あり,項部硬直なし。
入院時検査所見(表1):血液検査では白血球数7,080/μL(好中球85.8%,リンパ球3.7%),CRP 0.71mg/dLと炎症所見は軽微であった。Cre 1.24mg/dLと腎機能障害を認めた。抗CCP抗体は53.0U/mLと陽性であった。
髄液検査では外観は無色透明,初圧は24cmH2O,細胞数198/μL(好中球14%,リンパ球86%)・蛋白208mg/dLと増加,糖11mg/dLと低下,アデノシンデアミナーゼ(adenosine deaminase:ADA)15U/L,一般細菌培養陰性,墨汁染色陰性,結核菌Transcription-Reverse Transcription Concerted reaction(TRC)陽性,抗酸菌塗抹陽性・液体培地培養陽性(Mycobacterium tuberculosis),単純ヘルペスウイルスDNA陰性。
喀痰検査で3連痰抗酸菌塗抹陰性,結核菌TRC陽性,液体培地培養陽性(M. tuberculosis)であった(薬剤耐性なし)。インターフェロン-γ遊離試験(interferon-γ releasing assay:IGRA,Tスポット)陽性。
表1 入院時時検査所見
入院時胸部画像所見(図1):胸部X線では左上肺野に結節状影,両肺野に小粒状影を認めた。胸部CTでは両上葉の囊胞部に浸潤影および左上葉S1+2に結節状影,両肺野にランダムパターンのびまん性小粒状影および一部小葉中心性小粒状影を認めた。
図1 入院時胸部画像所見 胸部X線写真で左上肺野に結節状を認めた(a)。胸部CTでは両上葉の囊胞部に浸潤影および左上葉S1+2に結節状影(b, c),両肺野にランダムパターンのびまん性小粒状影および一部小葉中心性小粒状影を認めた(b, d〜f)。
入院時脳造影MRI検査(図2):小脳テント部の硬膜のガドリニウム造影剤増強効果を認めた。脳MRAでは異常所見なく,脳梗塞や水頭症は認めなかった。
図2 脳造影MRI検査
小脳テント部の硬膜のガドリニウム造影剤増強効果を認めた(a. 水平断像,b. 矢状断像)。
入院後経過:入院後2日目に結核性髄膜炎および肺結核・粟粒結核と診断し,イソニアジド(isoniazid:INH)300mg/日,リファンピシン(rifampicin:RFP)600mg/日,エタンブトール(ethambutol:EB)1,000mg/日,ピラジナミド(pyrazinamide:PZA)1.5g/日内服による多剤併用療法(HREZ)を開始した。またデキサメタゾン39.6mg/日静注から開始し,症状の改善と共に段階的に減量し,約4週間後にはデキサメタゾン8mg/日内服に切り替え,以後漸減・中止とした。抗結核薬開始後,徐々に解熱し見当識障害は改善したが,右外転神経麻は残存した。最終的に計12カ月の抗結核薬治療 (2HREZ/10HR)を完遂した。
わが国における2022年新規結核登録患者のうち,結核性髄膜炎は約1.0%(100例/10,235例),粟粒結核は約5.1%(527例/10,235例)といずれも比較的まれな病類である
1)。また結核性髄膜炎は致死率30%程度で,生存例の25%に神経学的後遺障害を来すと言われ依然として予後は不良である
2)。結核性髄膜炎発症の独立危険因子は,小児の初発感染,加齢や栄養失調に伴う免疫不全,HIVや悪性腫瘍に伴う免疫不全である
3) 4)。従来,乳幼児の初感染結核がほとんどであったものが,近年は成人での比率が増加している。成人結核性髄膜炎の発症危険因子はアルコール依存症,糖尿病,悪性腫瘍,および最近のコルチコステロイド使用と報告されている。本症例は,初感染結核であった可能性は否定できないものの,RAに対してPSLおよびMTX内服中の免疫不全状態であり,結核性髄膜炎診断時にTスポット陽性であったことから,結核菌の内因性再燃からの血行性播種を来したものと考えられた。
国立病院機構免疫異常ネットワークを土台とした全国規模リウマチ性疾患データベース(National Database of Rheumatic Diseases in Japan:NinJa)の研究で,2003~2004年度の生物学的製剤非投与RA患者の結核の標準化罹病率(standardized incidence ratio:SIR)は3.98であったが,わが国のRA患者の結核のSIRは順調に低下を続け,2015~2016年のSIRは0.77と一般人とほぼ同じ罹患率となっている
5)。この要因は生物学的製剤などの免疫抑制療法開始前のスクリーニングの普及・徹底,適切な潜在性結核感染症(latent tuberculosis infection:LTBI)治療の施行,さらには対象集団の結核既感染率の低減によると考えられている。胸部X線写真や胸部CT画像において陳旧性結核の所見を認める患者やIGRA陽性である患者に生物学的製剤投与やステロイド・免疫抑制薬併用投与をする場合は,LTBI治療が検討される
6)。本症例ではRAに対してPSL10mg/日およびMTXを内服中であったが,前医ではIGRAの検査やLTBI治療は未施行であった。
他の感染性髄膜炎に比べ,結核性髄膜炎において特に頻度が高い神経学的所見として,脳神経障害が挙げられる。Sharmaらの報告では158人の結核性髄膜炎の後ろ向きの評価において,脳底部の強い炎症により脳神経障害は38%に認められ,なかでも走行距離の長い外転神経麻痺が最も多かったとされる
7)。脳神経麻痺は頭蓋底または脳神経の起始部の脳幹付近への炎症性滲出物の蓄積,脳神経根への炎症の波及や血管炎による障害により生じると考えられている。同様に炎症が脊髄や神経根へ及ぶ頻度も他の感染性髄膜炎より高く,その病態も神経根症,髄外硬膜内・髄内結核腫,脊髄空洞症,脊髄炎,膿瘍,虚血など多様である
8)。本症例では抗結核薬による治療により,髄膜炎による発熱や意識障害は改善したが,外転神経麻痺は非可逆性であった。
結核性髄膜炎の診断において髄液細胞数・蛋白の増加や糖の低下は非特異的所見であり,結核性髄膜炎の早期診断が難しい理由として髄液の抗酸菌塗抹検査の感度が低いこと(1.9~40%),培養も感度が低く(15~68.6%),菌の発育に3~4週間以上の時間を要することが挙げられる
9)。結核性髄膜炎患者の約半数に活動性,または陳旧性の肺結核病変が認められ,患者の10%に粟粒結核が認められたとも報告されており
10) 11),胸部X線やCTでの肺病変の評価は重要である。本症例の胸部CTでは胸膜直下に及ぶ両肺野にランダムな分布をするびまん性小粒状影を認めており,血行散布性病変と考えられたが,一部に小葉中心性の気道散布性病変を認めた。また肺門縦隔リンパ節腫張は認めておらず,リンパ節結核を示唆する所見は認めなかった。両上葉の散在する浸潤影および左上葉結節影が散布源となった可能性があると考えられた。本症例では髄液ADAは15U/Lと高値で結核性髄膜炎が示唆された。近年のメタアナリシスでは髄液ADAは6~15.5 U/Lをcut offとして結核性髄膜炎の診断における感度は89%,特異度は91%であり,髄液ADAの中央値は結核性髄膜炎で14.24 U/L,結核性髄膜炎以外の髄膜炎で7.92 U/L,細菌性髄膜炎で7.47 U/Lであったと報告されている
12)。また髄液ADAは流行状況に応じてcut off値が検討され,流行地では9.5 U/L,非流行地では11.5 U/Lが有用と報告されている
13)。しかし髄液ADAは結核性髄膜炎以外でも高値となることがあり,補助診断手段に留まる。
結核性髄膜炎の治療においては,薬剤耐性がない場合はINH・RFP・PZA・EBを2カ月間,その後INH・RFPを10カ月間投与する治療が推奨される
14)。抗結核薬の髄液移行率は,INH 80~90%,RFP 10~20%,EB 20~30%,PZA 90~100%と報告されており,十分量の薬剤を投与する必要がある。髄液移行率は併用薬の決定や薬剤耐性結核性髄膜炎の治療選択の際に特に重要である
15)。結核性髄膜炎に対するステロイド薬の併用は7つのランダム化比較試験より,死亡率と後遺障害を約30%減少させることが立証されており,HIV感染非合併例では重症度にかかわらず併用すべきとされる
16)。
結核性髄膜炎は稀ではあるが,重篤な後遺症を残し死に至ることもありうる肺外結核の1つである。結核性髄膜炎の診断は容易でない場合もあり,肺病変と合わせて早期の診断,治療が重要である。
利益相反:開示すべき利益相反はない。
The patient was a 54-year-old male who was taking oral prednisolone (10 mg/day) and methotrexate for rheumatoid arthritis. He was transported by ambulance to our hospital for headache, fever, and abnormal speech and behavior. A mild disturbance in level of consciousness and right abducens nerve palsy were noted. A cerebrospinal fluid test was performed for suspected meningitis; the cerebrospinal fluid acid-fast bacilli smear was positive. Using a transcription-reverse transcription concerted reaction (TRC), positive nucleic acid identification of
Mycobacterium tuberculosis was obtained; consequently, tuberculous meningitis was diagnosed. Chest computed tomography revealed nodular shadow in the left upper lobe and scattered small granular shadows in the bilateral lung fields. Although the acid-fast bacilli smear of the sputum was negative, pulmonary tuberculosis/miliary tuberculosis was diagnosed based on a positive TRC result for
M. tuberculosis. After treatment with oral administration of isoniazid, rifampicin, ethambutol, and pyrazinamide, and intravenous dexamethasone, the fever subsided and the level of consciousness improved.