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【投稿/症例報告】歯性感染症に起因するParvimonas micraOlsenella uliによる膿胸の1例


松田卓也*1,宮崎晋一*2,佐藤恵雄*3,久野泰雅*2,米田一樹*2,井上正英*2,山下 良*2,石田順造*3


*1市立四日市病院 内科,*2同 呼吸器内科,*3同 呼吸器外科(〒510-0822 三重県四日市市芝田2-2-37)

Odontogenic empyema due to Parvimonas micra and Olsenella uli coinfection

Takuya Matsuda*1, Shinichi Miyazaki*2, Keiyu Sato*3, Yasumasa Kuno*2, Masahide Inoue*2, Ryo Yamashita*2, Junzo Ishida*3

*1Department of Internal Medicine, *2Department of Respiratory Medicine,*3Department of Pulmonary Surgery, Yokkaichi Municipal Hospital, Mie


Keywords:膿胸,Parvimonas micra,Olsenella uli,歯周炎/empyema, Parvimonas micra, Olsenella uli, periodontitis


呼吸臨床 2024年8巻8号 論文No. e00195
Jpn Open J Respir Med 2024 Vol. 8 No. 8 Article No.e00195

DOI: 10.24557/kokyurinsho.8.e00195


受付日:2024年6月14日
掲載日:2024年8月27日


©️Takuya Matsuda, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 症例は58歳,女性。来院2週間前より労作時呼吸困難,左胸膜痛が出現した。発熱,低酸素血症,胸部画像上,左胸水を認め,左膿胸が疑われた。左胸腔ドレナージを行ったが,膿瘍が左胸壁へ進展したため手術療法を行った。胸水培養からParvimonas micraOlsenella uliが検出され,歯性感染症の合併が疑われた。複数の歯に歯周囲炎,骨髄炎を認め,抜歯処置を行った。

はじめに

 Parvimonas micraOlsenella uliは,口腔内および消化管に常在する偏性嫌気性グラム陽性球菌である。両者は歯周炎の原因となるため,誤嚥性肺炎,肺化膿症,膿胸を来すことがあるが,その報告は少ない。今回,我々はP. micraO. uliによる膿胸を経験したので,文献的考察を含めて報告する。

症例

 症例:58歳,女性。

 主訴:呼吸困難,左胸膜痛。

 既往歴:特記事項なし。

 生活歴:喫煙 10本/日×38年,飲酒 缶酎ハイ 350mL/日。

 家族歴:特記事項なし。

 現病歴:来院2週間前より労作時呼吸困難,左胸膜痛が出現し,来院当日近医受診。その際,低酸素血症,胸部X線上,左胸水を認め,同日当院救急外来へ救急搬送された。来院時,炎症反応高値,胸部CT上,液面形成を伴う左胸水を認め,左膿胸が疑われ,入院となった。

 来院時現症:身長 150cm,体重 60kg,意識清明,体温38.0℃,脈拍137/分,血圧137/75mmHg,呼吸数30/分,酸素飽和度 95%(酸素 10L/min)。呼吸音は左下肺野で減弱していた。右上顎に疼痛を認め,口腔内に歯周炎を認めた。その他,異常所見は認めなかった。

 検査所見表1):血算は好中球優位の白血球増加を呈し,生化学では低アルブミン血症,肝障害,および炎症反応高値を認めた。血液ガス所見はⅠ型呼吸不全で,喀痰培養は口腔内常在菌が検出され,血液培養は陰性であった。

表1 来院時検査所見


 来院時胸部単純X線像図1):液面形成を伴う,左胸水貯留を認めた。

図1 入院時の胸部X線像
左中下肺野に,液面形成を伴う胸水貯留を認めた。


 来院時胸部CT像図2a):左胸水貯留を認め,液面形成を伴っていた。右肺中下葉には区域性浸潤影が多発していた。

図2 入院時の胸部CT像
a. 液面形成を伴う,左胸水貯留を認めた。
b. 左側胸部に気腫を伴った,軟部影が新たに出現した。
c. 右肺上葉に新たな浸潤影が出現した。


 臨床経過:入院時,左胸腔チューブドレナージを施行し,胸水の検査所見(悪臭,膿性,LDH 9799U/L,蛋白 0.4g/dL,Glucose 10mg/dL,pH 6.941,細胞数 13,591/μL,好中球 90%)は膿胸に矛盾しなかった。抗生物質はアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT 3g×4/Day)を選択し,高流量酸素療法(流量 50L/min,FiO2 50%)を導入した。その後,呼吸不全は軽快し,入院第3病日には経鼻酸素 3L/minに至ったが,解熱傾向に乏しかった。胸部CTで,右肺の肺炎像,左膿胸は軽快傾向であったが,膿瘍がドレーンチューブ周囲から左胸壁内へ進展していた(図2b)。左胸壁の郭清を要するため,同日手術療法を施行した。左臓側胸膜に瘻孔はなく,左胸腔内の汚染は軽度であったが,左胸壁は皮下から筋層にかけて,胸腔から流出した膿瘍を認めた。それらを掻把,洗浄し,胸腔,筋層,皮下にドレーンをそれぞれ留置し,手術終了した。手術時間2時間,出血量250mLであった。

 その後,循環動態の安定を確認し,入院第6病日抜管したが,発熱が遷延した。入院第8病日胸部CTにて右肺上葉に新たな浸潤影を認め(図2c),胸水培養の結果(P. micraO. uli)から歯性感染症を背景に肺炎を繰り返している可能性が考慮された。口腔内の評価では,複数の歯に歯周囲炎,骨髄炎を認め,歯根囊胞を伴っていた。最終的に,右上第一,第二大臼歯,左上第三大臼歯,右下第二小臼歯,第二大臼歯,左下第二小臼歯,第三大臼歯を抜歯し,右上第一,第二大臼歯,第三大臼歯では囊胞摘出術を追加した。以後,肺炎の増悪はなく,呼吸不全は軽快し,入院第15病日酸素療法は中止となった。同日胸腔ドレーンを抜去したが,皮下膿瘍が残存したため創部洗浄を要した。連日の洗浄処置により皮下膿瘍は縮小し,入院第25病日胸壁ドレーンは抜去した。創面に対して局所陰圧閉鎖療法を導入し,入院第35病日外来管理となった。抗菌薬は計5週間投与で終了し,外来受診時,膿胸の再燃は認めなかった。

考察

 今回,我々は,P. micraO. uliによる膿胸の1例を経験した。胸腔ドレナージは良好であったが,膿瘍が胸壁へ進展したため胸壁掻把だけでなく,創部洗浄,局所陰圧閉鎖療法などを要した。また,matrix-assisted laser desorption/ionization-time of flight mass spectrometry(MALDI-TOF MS)により同定された起炎菌から,歯性感染症が疑われ,抜歯などの追加処置を行った。

 従来,菌種の同定は,グラム染色,コロニーの性状などの形態的特徴,および生化学的性状を踏まえて行っていた。その手法は煩雑で,高い専門性を要するため同定は容易ではなかった。最近,MALDI-TOF MSを用いた菌種同定の普及により,正確かつ迅速な菌種同定が可能となり,P. micraO. uliによる感染症症例報告が増加している。以前,P. micraPeptostreptococcus microsとして知られていたが,1990年代後半に導入された16S rRNA遺伝子配列に基づく遺伝子学的分類により,1999年にMicromonas属に分類され,2006年にはParvimonas属に再分類された[1]。また,Olsenella uliも同様に,2001年にLactobacillus uliから再分類された菌種である[2]。

 P. micra感染症31例の報告では[3],男性が18例で,平均年齢は65歳であった。基礎疾患は,歯科疾患(16例,歯周炎,齲歯など),全身疾患(6例,多発性骨髄腫,糖尿病,ステロイド投与など)で,主な感染部位は,脊椎(14例),心臓弁(5例),関節(5例),胸膜(3例)であった。また,P. micraによる膿胸は,これまで12例が報告されている(表2)[3]~[12]。男性が10例で,平均年齢は61歳であった。基礎疾患は,歯科疾患(9例,歯周炎,齲歯など),全身疾患(4例,糖尿病,アルコール性肝障害など)で,発症から医療機関へ受診するまでの期間は平均25日であった。膿胸内に液面形成を3例で認めており,P. micraによって産生された硫化水素を反映した所見と考えられた[13]。P. micraの薬剤感受性は,Clinical & Laboratory Standards Institute(CLSI)およびEuropean Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)において各抗菌薬のブレイクポイントが設定されていない。大多数の症例で,一般的な抗菌薬に対して良好な抗菌活性を示すとされており[14],抗生物質はβ-ラクタム系を中心に選択されていた。1例を除いて全例で,胸腔穿刺などのドレナージ処置を行っており,感染コントロール不良のため5例で手術療法を要している。死亡例はなく,全例が治癒しているが,本例のように,膿胸の再発,胸水培養の結果を契機に重度の歯周病が判明し,齲歯の抜歯により感染コントロールに至った例があった[4]。なお,O. uliによる呼吸器感染症の報告は,70歳男性の膿胸,肺化膿症の1例に留まり,CTガイド下ドレナージ,抗生物質投与(オルニダゾール/セフタジジム)により軽快している[15]。

表2 Parvimonas micraによる膿胸の1例


 本症例は,膿胸の起炎菌が判明した結果,歯性感染症との関連が疑われ,根治的な歯科処置につなげることができた。また,P. micraの病原性として,高いプロテアーゼ活性,グルタチオンの利用により形成された硫化水素の毒性などが報告されており[13],大量の菌量と相まって,ドレーンを介して,胸壁の膿瘍形成に至ったことが示唆された。

 利益相反:開示すべき利益相反はない。

Abstract

 A 58-year-old woman presented with a 2-week history of exertional dyspnea and left pleuritic pain. Clinical findings revealed febrile respiratory failure and left pleural effusion on chest imaging, and therefore, left empyema was suspected. In spite of pleural tube drainage, the abscess progressed to the left chest wall. Consequently, operation was performed. Moreover, the growth of Parvimonas micra and Olsenella uli was observed in the pleural fluid; thus, concomitant dental infections were suspected. Considering periodontitis and osteomyelitis in multiple teeth, teeth extraction was performed.

図表


文献

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  2. Dewhirst FE, et al. Characterization of novel human oral isolates and cloned 16S rDNA sequences that fall in the family Coriobacteriaceae: description of olsenella gen. nov., reclassification of Lactobacillus uli as Olsenella uli comb. nov. and description of Olsenella profusa sp. nov. Int J Syst Evol Microbiol. 2001; 51:1797-804. doi: 10.1099/00207713-51-5-1797.
  3. Cobo F, et al. Pleural effusion due to Parvimonas micra. A case report and a literature review of 30 cases. Rev Esp Quimioter. 2017; 30:285-92.
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