呼吸臨床

【対談】日本語論文の意義と重要性(2)

工藤翔二

(編集特別顧問 /結核予防会理事長)


杉山幸比古

(編集委員長/練馬光が丘病院呼吸器COPDセンター長)


収録:2017年6月23日・結核予防会会議室


TABLE TALK: The significance and importance of Japanese articles (2)
Shoji Kudoh, Yukihiko Sugiyama


呼吸臨床 2017年1巻2号 論文No.e00028
Jpn Open J Respir Med 2017 Vol. 1 No. 2 Article No.e00028

DOI: 10.24557/kokyurinsho.1.e00028


掲載日:2017年11月9日


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日本語論文を書くために必要なこと

前月号からの続き)


杉山:実際に日本語論文の書き方という本も出ていますが,経験豊かな工藤先生にまず執筆に際して気をつけるといいますか,どんな風に書いていったらいいか,また若者をどうやって指導したらいいのかなどについてもお話いただけないでしょうか?

杉山幸比古先生


工藤:今はもう現役ではないので,それは杉山先生に言っていただいたほうがいいんじゃないでしょうか?


杉山:論文の書き方の本なども出ていますし,それをまずは参考にしていただければいいと思いますが,初めて論文を書くときって大変だと思うのですね。1つ書くと次に書くときはずいぶん楽になる,3つ目はもっと楽になると。いつも若い人には言っていますが,初めて論文を書く時は関連のテーマの論文をまず,たくさん読みなさいと。それによって書き方もわかるし,論文の良し悪しも自ずとわかってくると思うんですよね。


 症例報告に関しても,非常にまれな例を報告するというのも,それなりの意義はあるとは思うのですが,やはり論文としてはこれまでの例を2例目,3例目として出すにしても,そこになにか新しい情報や考え方を是非盛り込んでもらいたい。著者としてその症例を世に送り出すにあたっての,目的意識をもって書いてもらいたいなと思います。


 また,引用についても査読をしていていろいろ感じることがあります。引用は好きに引用すればいいと思っている方もいるかもしれませんが,その病気について初めて報告した人や歴史というものがしっかりあるわけで,そのような研究・論文を公正にまんべんなく把握し,その中からよい論文を自分で選び,きちんと引用する必要がありますよね。目についたものをパッと引用するものではない。当たり前のことなのかもしれませんけれど。


 またときどき,日本語論文でありながら引用論文として全部英語論文だけを引用している人がいて,これは私はちょっと変だと思っています。これは自らの論文を否定していることになるんじゃないかなと思うわけです。もちろん,英語の論文を適宜引用することは必要だと思いますが,日本語論文をまったく引用していない日本語論文は私はちょっとあり得ないなと感じますね。


 次に論文を書くにあたり,是非優れた上級医の先生たちから密な指導を受けることが大事です。自分で立派な論文をスラスラっと書いてしまう人もいるかもしれませんが,多くの人はそうではないと思います。いい指導の先生を見つけ,よく指導をしていただくことが大事なのかなと思います。初めて書く人の中には,いきなり論文は最初から最後まで通して書くと思われるかもしれませんが,それはなかなか難しいことです。これは英語の論文にも当てはまりますが,introductionとかmethodなど,単元ごとに分けて書いていき,最後に繋げる作業をすれば書きやすいと思います。そんなことを参考にされて,まずは書いてみていただければと思います。


工藤:論文は,日本語だろうと英語だろうと,書いて残すということに意味があるんだと思うんですよね。しかも奥が深い。私などは英語論文をちゃんと書けるだろうか。昔,バロン先生が「こういう言い回しはNew England Journalなど,一流誌では絶対しません。三流誌なら認められます」と。要するに英語についても奥が深いといいますかね。大変なことだなと思うんです。日本語も同じですよね。奥が深いなと。例えば,論文ではないんですが,私が書いたものについて,ある新聞社の論説委員をやっていた方に直してもらったら,さーっと赤字を入れられて,大変ですよ! 今でも出版関係をやっていた人に直されちゃう。きちっとした文章を書くというのは訓練ですから,何度も書いて直されて,それを繰り返す必要があるというのが1つ。


 それから先ほど引用文献のことをおっしゃってましたが,とても大事なことだと思うんですね。症例のときもそうですし,原著論文でも,レビューを書くときもそうです。レビューというのは単に事実を並べればいいというわけではなくて,書く人のフィロソフィーを盛り込まなければならいという問題がありますよね。それからレビューというのは論文を綴っていくものですから,たくさんの原著論文を綴っていく,誰が最初にオリジナル論文を出したのか,そこを知っている必要があるわけですよね。


 アメリカやヨーロッパの人が書いたレビューを見ると,しばしば,その引用がいい加減なんですよね。これでは歴史が繋がらない。途中でポッと出てきた論文を引用してしまっている。一番最初に誰が言って,このことについてはどこにオリジナリティがあるのか,そこをしっかりやらないと,歴史をたどっていけばいくほど,過去のものになっていくわけですから,それが歪められてしまう。それはよくないでしょう。論文引用にも奥の深さがありますよ。

工藤翔二先生