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呼吸臨床

【連載】呼吸との出会いと呼吸器との出会い:個人的履歴と呼吸器臨床における「呼吸」の意義


第6回 これはTranslational medicineだ!:ZenとMindfulness,何が共通しているのか?

貫和敏博*


*東北大学名誉教授


[Essays] A tale of two domains: "breathing movement" and "gas-exchange/lung science" - A personal history and the significance of breathing in the respiratory medicine 

No 6: The essence of traditional Japanese practice is translated into contemporary medicine:What are common characteristics in Zen practice and Mindfulness? - Soma posture, breathing, and interoception


Toshihiro Nukiwa*


*Professor Emeritus, Tohoku University


呼吸臨床 2018年2巻9号 論文No.e00067
Jpn Open J Respir Med 2018 Vo2. No. 9 Article No.e00067

DOI: 10.24557/kokyurinsho.2.e00067


掲載日:2018年9月13日


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(第5回はこちら





はじめに

 筆者は連載の第1回に自身の原点体験を紹介した。偶然で始めた坐禅というSomaの抗重力姿勢と,呼吸というSomaの通奏振動制御は,非常に深く私の人生に作用したという話である。50年前の3年間,浪人生としてのほぼ素人の坐禅,東大駒場におけるサークル活動としての坐禅,そして東大ストライキの1年を居士として過ごした三島市の専門道場,龍澤僧堂での坐禅である。私はこの3年間で,「坐」と「呼吸」をbaseにする身体修行である仏教は,現代医学で説明される必要があると,強く印象付けられた。


 しかし50年前の医学である。取りかかる手懸かりはほとんどない。自身の履歴として,当初はneurochemistryを学んだが,師との出会いを機に,実際には呼吸器病学を専門として過ごした。しかしその間も,この原点体験の通奏低音は身体の奥で響き続けている。40歳からは西野流呼吸法という,不可思議なSomaの相互交感世界を通して,さらに考え続けてきた。


 ところで,私と同じような若い時期に禅仏教に触れ,見性(revelation)を契機に,坐禅というpracticeを医学に取り込む努力をした米国人がいる。Jon Kabat-Zinn教授である。彼はマサチューセッツ大学(UMass)に勤務しながら,1979年,仏教色を取り込まずに,身体・瞑想修行により不安,身体不調から回復する,Mindfulness-based Stress Reduction(MBSR)の活動を開始した。


 仏教のessenceを臨床医学に応用する。これって今でいうTranslational medicineではないか! 筆者が求めたNeurochemistryでも,Neurophysiologyでもない,まったくの臨床である。しかし,それから40年,Mindfulnessのもたらす臨床効果は,ゆっくりとNeuroscienceの本陣に切り込みつつある。


 第6回では,医者でアガデミックな環境にいながら,こうしたSomaへの修行practiceを考える貴重な存在である日米の研究者を取り上げ,仏教の基礎修行である坐禅や呼吸法を通して,Somaへの鍛錬を多方面から考える。それにはさらに,例えば坐という姿勢訓練の意味や,現在西欧でいわれ始めたbody awarenessも実は組み込まれている。


 瞑想meditationというと,あたかも脳からの作動のように受け取られるが,そうではない。逆である。Somaのsettingがもたらした脳の状態のshiftがmeditationであると,実際に座ると感じられる。


文献

  1. 貫和敏博. 呼吸との出会いと呼吸器との出会い:個人的履歴と呼吸器臨床における「呼吸」の意義. 第3回「呼吸」運動でCross (交差) するSomaと「呼吸器」. https://kokyurinsho.com/focus/e00037/ .
  2. 貫和敏博. 呼吸との出会いと呼吸器との出会い:個人的履歴と呼吸器臨床における「呼吸」の意義. 第5回 西欧のBodywork探究が切り開いたFascia医学とAnatomy Train. https://kokyurinsho.com/focus/e00066/ .
  3. 高田明和. 一日10分の坐禅入門-医者がすすめる禅の心 (角川oneテーマ21, B-105). 東京: 角川書店, 2008.
  4. Pickert K. The mindful revolution: finding peace in a stressed-out, digitally dependent culture may just be a matter of thinking differently. Time. 2014; Feb 03.
  5. Kabat-Zinn J. Full catastrophe living (revised ed): using the wisdom of your body and mind to face stress, pain, and illness. NY: Bantam Books Trade Paperbacks, 2013.
  6. ジョン・カバットジン. 春木 豊, 訳. マインドフルネスストレス低減法. 京都: 北大路書房, 2007.
  7. Mindfulness with Jon Kabat-Zinn. https://youtu.be/3nwwKbM_vJc .
  8. 辻 雙明. 呼吸のくふう―日常生活の中の禅. 東京: 春秋社, 1992.
  9. 平野宗浄. 一休と禅. 気を巡る序章 (原典: 禅と東洋医学. 禅文化研究所, 1992). 東京: 春秋社, 1998; 341-59. 
  10. Suzuki S. Zen mind, beginner's mind: informal talks on Zen meditation and practice, 40th Anniversary ed. In: Dixon T, editor. Boston; Shambhala, 2011.
  11. 鈴木俊隆. 松永太郎, 訳. 禅マインド ビギナーズ・マインド (サンガ新書055). 仙台: サンガ出版, 2012.
  12. Joko Beck Dharma Talk (1): "Ordinary Mind" (FEB/1990). https://youtu.be/ojR0IMhXef0 .
  13. シャーロット・浄光・ベック. 田中淳一, 訳. エブリデイ禅 (今この瞬間を生きる,愛と営み). 京都: サンガ出版, 2012.
  14. Beck CJ. Everyday Zen: love and work (plus). HarperOne, 2007.
  15. Palmer W. The intuitive body: discovering the wisdom of conscious embodiment and Aikido, 3rd ed. Berkley: Blue Snake Books, 2008.
  16. Friedman L. Meetings with remarkable women: Buddhist teachers in America,  revised and updated ed. Boston: Shambhala, 2000.