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[Essays] A tale of two domains: "breathing movement" and "gas-exchange/lung science"
- A personal history and the significance of breathing in the respiratory medicine
No 9-1: Everything starts from a bombardment sense in the deep body: the Nishino Breathing Method (2)Basics
–Karin (breathing with body axis rotation); Locomotion under central pattern generator (CPG) for Soma awake
Toshihiro Nukiwa*
*Professor Emeritus, Tohoku University
呼吸臨床 2019年3巻4号 論文No.e00081
Jpn Open J Respir Med 2019 Vo3. No.4 Article No.e00081
DOI: 10.24557/kokyurinsho.3.e00081
掲載日:2019年4月2日
©️Toshihiro Nukiwa. 本論文の複製権,翻訳権,上映権,譲渡権,貸与権,公衆送信権(送信可能化権を含む)は弊社に帰属し,それらの利用ならびに許諾等の管理は弊社が行います。
はじめに
呼吸器科医である筆者は,ガス交換臓器としての肺,およびその機能を損ねる疾患理解とその治療を専門とする医師である。しかしガス交換器の肺を専門領域に選ぶ10年前から,偶然「呼吸」という座禅の世界も知っていた。さらに米国NIH心臓・肺・血液研究所に留学中,西野バレエ,西野皓三先生が「西野流呼吸法」を始めた記事を知った。順天堂大学に助教授として帰国し,平成元年初頭に稽古をはじめた「西野流呼吸法」の世界には,しかしながら医学での説明ができない現象にあふれていた。
自分では意味のわからなかった数カ月間のSomaへの働きかけが,身体の何かを覚醒し,2カ月後の「対気」という稽古で突然,全身への衝撃を受け,後方へ吹き飛んだ。
アカデミアの世界と実際に自分が感覚するSoma世界の間の凄まじいギャップ(隔絶)はどう埋めていけるのか?
稽古場の多くの人々は,ごく普通の社会人で,特殊な人達でない。また,同じような身体反応は日本の武道,合気道等にも存在する。現象としては間違いなく存在する。
一体,われわれの身体とは何なんだ? 医学は何を見落としているのだろうか? 以前にも記したように,それ以降,高度で複雑なjigsaw puzzleを解くように,考え続けている。
このjigsaw puzzleの一端が,初心者が不思議がる「足芯呼吸」とbody awareness/interoceptionである。そして理解の鍵となる旧脳,新脳の交叉部hubとなるinsula(島)の話を,前回,第8回で議論した。
第9回は西野先生の天才性が創始した,世界に類のない呼吸法「華輪」というオリジナルな稽古について議論する。
われわれはこうした「呼吸」運動を考えるときには,現在の自分の身体と,酸素取り込みの肺という哺乳動物ガス交換器のことしか,頭に浮かばない。しかしわれわれの身体構造そのものには,地球生命の進化の歴史が,あたかも「生命誌」のように刻み込まれている。
カンブリア紀,5億2400万年前の中国の地層で見つかった昆明魚(Myllokunmingia)は無顎口類で脊椎動物の祖型と考えられている。その後の顎口類の硬骨魚類には浮袋(鰾)としての肺は存在した。
両生類以降,陸上に生活圏を拡げ,肺を換気する必要が生じて後は,その換気ドライブは,四肢の歩行運動によるものであった。四足歩行は,そもそも脊髄の介在神経サーキット回路,CPG(central pattern generator)による交互運動である。実は延髄の呼吸中枢も吸気・呼気のリズムにはこのCPGが関与する。すなわち,「呼吸」運動の説明はCPGから理解する必要がある。
一方で,西野流呼吸法「華輪」の動きには,「ヒトにとって身体軸とは何か?」を考えさせる内容がある。本来呼吸と身体軸は関連ないと考えられるが,華輪の動作とはヒトにおける身体上下方向の軸のrotationである。一方,四足動物のlocomotionは動物の進行方向,すなわち水平方向身体軸を考える必要がある。二足歩行に進化して,垂直な身体軸には何の意味があるのだろうか?
今回はこうした点を議論することになる。
それではまず「華輪」の実際から説明を始めよう。