貫和敏博*
*東北大学名誉教授
[Essays] A tale of two domains: "breathing movement" and "gas-exchange/lung science"
- A personal history and the significance of breathing in the respiratory medicine
No 10-2: Everything starts from a bombardment sense in the deep body: the Nishino Breathing Method (3)
Taiki –Paired active expiration breathing, Connected-fascia sense, and Mirroring interoception
Toshihiro Nukiwa*
*Professor Emeritus, Tohoku University
呼吸臨床 2019年3巻5号 論文No.e00088
Jpn Open J Respir Med 2019 Vo3. No.5 Article No.e00088
DOI: 10.24557/kokyurinsho.3.e00088
掲載日:2019年6月14日
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東北大学に赴任した年の秋に,医学部キャンパス内で西野流呼吸法の稽古を始めたことは先に記した。医師の卵である病棟実習の医学生に,興味喚起を期待して,呼吸法に参加して体験したらと勧めた(「こんなことを経験できるのは,世界中の医学部で,東北大学だけだよ」と話したことを覚えている)。20年弱の間に約4分の1の医学生(500名前後)が参加してくれた(後に講演会などで会うと,「呼吸法で飛ばされました」と声をかけてくれる)。
残念ながら持続的に参加してくれる学生はほとんどいなかったが,若い身体であるせいか,ただ1回の参加でも結構身体が反応した。「気功なんてまやかしだと思っていたが,自分の身体が反応して本当に驚いた」などと,多くの学生が私に話してくれた。
私は,こうして「身体が反応する学生の背景に何があるのか」と興味を持ったので,彼らにそれまでの中学・高校時代からのスポーツやサークル活動の内容を質問した。そして共通する背景に気づいた。
まず,スポーツでは当然,日本武道(剣道,空手など)である。身体軸と攻撃として直進性を訓練するので,これら武道の経験のある人達は,ほぼ最初の稽古でも反応する。他のスポーツでは,身体軸や軸回転,直進性,locomotionを伴う野球,水泳,バスケットボールなども比較的容易に反応する人が多い。注意すべきは,練習としてサーブ&レシーブ等前に突っ込む訓練をする競技では,シグナルを受けると身体が反応して,前方に突っ込んでくる人達もいる(動画5:対気の反応:前方に突進する,東北大学での稽古より)。
しかし,競技内容に全身の持続的力が必要なレスリング,現代柔道,ラグビーなどの学生は,こちらのシグナルを「力=筋力」と感じて,力で反応してしまう。身体が覚醒しないというわけではないが,他の例を見ても半年~1年の基礎稽古時間が必要かもしれない。
意外であったのは弓道やライフル射撃などの学生である。弓道の経験者からは,こちらから送るシグナルを身体が感じ,反応する時,「これは矢が的に当たったとき,的から身体に戻ってくる感覚と同じだ」と聞いた。ライフル射撃も軸はしっかりしているので,身体は反応するが,重心が身体の下のほうに十分下がっているのを手の甲を通して感じた。こうした経験は,それぞれのスポーツの修練が,身体の何に働いているのかを暗示していて,なるほどと思うことが多かった。
もう1つのグループは武道ではなく,音楽・舞踏系である。音楽は後に述べるが,舞踏の稽古は当然身体軸を中心に修練するので,バレエにしても日舞にしても共通している。しかしハワイアン・フラダンスでは身体軸を揺らす練習からか,最初はなかなか身体軸のやりとりが難しい面を感じた。