貫和敏博*
*東北大学名誉教授
[Essays] A tale of two domains: "breathing movement" and "gas-exchange/lung science"
- A personal history and the significance of breathing in the respiratory medicine
No 12-3: Paired-signaling physiology, a novel frontier of human physiology: Basic medical science and clinical apprication: (3) The body-trunk engine system (basal ganglia and central pattern generators of the spine) controls the locomotion movement of the epaxial and hypaxial muscles: The relation of the oriental bodywork to the trunk system is suggested by the 21st century brain science.
1) What kind of system is the "deep body," the body trunk motor system?
呼吸臨床 2021年5巻5号 論文No.e00125
Jpn Open J Respir Med 2021 Vo5. No.5 Article No.e00125
DOI: 10.24557/kokyurinsho.5.e00125
掲載日:2021年5月7日
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前回第12回(2)をUPした頃から,SARS-CoV-2 pandemicとなった。予定していた相互身体感覚の評価と計測への試行が,東北大学lockdownで叶わなくなった。
ところが,一方でこの2020年コロナ禍は,予期せぬ展開をこの連載にもたらした。
偶然,Stay Homeによる運動不足支援のNHK番組「体幹運動」[2](AmazonのKindleにあり)を視聴した。その体幹筋群構造(主として肩甲骨近辺や骨盤近辺)への体操(例えばVWT運動など)に,西野流呼吸法の基礎動作(第8,9章参照)との類似性に気付き,正に目から鱗が落ちる思いがして,夏以降「体幹のScience」をPubMedで探索を始めた。
その結果,体幹とは静的なものではなく,進化的には前進運動のための「体幹エンジンシステム(例えば蒸気機関車)」と呼ばれるべき実体であることが,新規脳科学研究技術(後述)により明らかになりつつあるのが理解できた。
これは進化的には非常に古いLocomotion(身体くねり前進)運動システムでありながら,脳科学的解明が遅れ,一般にはほとんど知られていない生理学である。今回第12回(3)はこの点を2020年のGrillnerの総説[1]を紹介して説明する。
一方,番組で見た体幹筋群へのアクセスと呼吸法基礎稽古の類似性が意味するものは,長らく西欧医学的にはその生理が理解できなかった東洋系操体そのものが,実は経験的にこの旧い体幹エンジンシステムへのアクセス修法として伝承されているのでないか,と気づかされた。この気付きは「コロンブスの卵」のようだ。
筆者自身30年以上,西野流呼吸法を実践し,自身の身体や,「対気」稽古で相手身体を感得する事実,相互身体コミュニケーションを感得する事実を,既存生理学として説明できなかった。その探索として執筆を始めたのが本連載である。その生理的探索の本命水脈が,実は進化的に古く,現在我々の身体の中でも機能している「体幹エンジンシステム」であるらしい。
奇しくも,この点は第12回(1)のはじめに記した,西欧医学にない「地球上生物として進化を踏まえた,形態形成の身体論の欠落」を具体的に説明するものである。
ということは,学問は着実に進歩しているが,この「体幹エンジンシステム」を東洋系操体に結びつける発想は,人生の偶然で呼吸法等の経験をしてきた筆者であるからこそ理解できるといえる。
以上の経緯で,第12回後半はさらに3部に分け,(3-1)旧脳システムとしての大脳基底核と機能,(3-2)大脳基底核の指令によって実働する脊髄Locomotion CPGの構成と機能,そして(3-3)「体幹エンジンシステム」からみた東洋系操体や西野流呼吸法の現象の理解と,今後の展開として議論を進めたい。ただし,大脳基底核やCPGの知見は一般には新規のものが多く,説明にスペースをとっている。
第12回全体は(1)Fasciaや間質系のmolecular biology,(2)運動のための筋,腱,皮膚からの感覚feedback(DRG系)と圧受容体Piezo2蛋白,(3-1)大脳基底核の脳科学,(3-2)脊髄Locomotion CPGの脳科学,(3-3)体幹筋支配MMC神経路へのアクセスとしての東洋系操体と呼吸法となる。いずれも現象の基礎医学的説明を中心とした構成となる。