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呼吸臨床
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【投稿/症例報告】中葉気管支から分岐した右B3転位気管支の1例:気管支鏡所見を含めて


柳沼裕嗣


赤穂中央病院呼吸器科(〒678-0241 兵庫県赤穂市惣門町52-6)


Bronchoscopy examination for a patient with displaced right B3 bronchus arising from the middle lobe bronchus:

 A case report


Hiroshi Yaginuma


Department of Respiratory Medicine, Ako Central Hospital, Hyogo


Keywords:転位気管支,気管支,分岐異常,気管支鏡/displaced bronchus, bronchus, abnormal bifurcation, bronchoscope


呼吸臨床 2023年7巻9号 論文No.e00179
Jpn Open J Respir Med 2023 Vol. 7 No. 9 Article No.e00179

DOI: 10.24557/kokyurinsho.7.e00179


受付日:2023年5月15日
掲載日:2023年9月11日


©️Hiroshi Yaginuma.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 症例は60歳台,男性。膠原病肺の疑いのため当科に紹介となった。CTで右B3が中葉気管支から分岐していることが指摘され,またA3が右上葉気管支より遠位で分岐,上中葉間で分葉が欠損していた。気管支鏡検査では中葉気管支の中枢側から右B3が分岐していることが確認された。中葉から右B3が分岐するタイプの転位気管支は肺動脈分岐および分葉異常を有しており,その診断には複数の検査情報を組み合わせる必要があると考える。

はじめに

 気管支分岐異常はFoster-Caterにより主に①転位気管支,②過剰気管支に分類されている[1]。さらにEvansにより転位気管支は気管もしくは同側の気管支から通常と異なる部位で分岐する肺葉および区域気管支レベルでの気管支と定義されている[2]。転位気管支の頻度は0.35〜0.76%と報告され,大部分が右上葉気管支由来とされている[3][4][5]。今回中葉気管支から右B3が分岐する転位気管支の一例を経験したので若干の文献的考察と共に報告する。


症例

 症例:60歳台,男性。
 
 主訴:呼吸困難。
 
 既往歴:交通外傷による多発骨折。

 喫煙歴:1日20本 20~46歳。

 飲酒歴:1日缶ビール700mL。

 職業歴:水道工事業,建築業。

 家族歴:母親が関節リウマチ。

 現病歴:X年8月に呼吸困難の進行を主訴に当院内科に受診した。CTにて両肺背側を中心に軽度の網状影(図1)を指摘された。当院内科に紹介受診し,リウマトイド因子の上昇があり,膠原病肺が疑われた。気管支鏡検査目的で当科に紹介受診,検査目的に入院となった。

図1 当科初診時の胸部CT
 両側下葉背側を中心に淡いすりガラス陰影を認めた。


 入院時現症:身長164cm,体重73kg,体温36.6℃,血圧152/95mmHg,脈拍69/分,呼吸回数18/分,経皮的酸素飽和度97%,両背側で軽度の捻髪音を聴取

 入院時検査所見:血液検査ではKL-6が506 U/mL,リウマトイド因子が16 IU/mL,抗核抗体が40倍といずれも軽度の上昇を認めた他は血算,生化学,免疫血清学的検査では異常を認めなかった。呼吸機能では%VC 75.6%,%FVC 73.2%,%DLCO 61.9%,%DLCO/VA 75.6%と軽度の拘束性障害と拡散能低下を認めた。

 入院時画像所見:CTにて両下葉背側および中葉に軽度のすりガラス陰影を認めた(図1)。気管支の分岐形態を確認すると右上葉気管支はB1およびB2で構成され,B3を欠いていた(図2a)。右上葉気管支で欠損していたB3は中葉気管支の中枢側から分岐していた(図2b〜f)。3次元CT像にてこれらの気管支分岐異常がより明瞭に確認され(図2g,h),右B3の転位気管支が存在すると考えられた。右A3は右上葉気管支の末梢側の肺動脈本幹から分岐しており,上中葉間では分葉を欠いていた(図3)。また,上葉肺静脈は肺尖・中心静脈型であった。

図2 CTでの右上葉転位性気管支の確認
 右上葉気管支はB1およびB2のみで構成され,B3は欠損していた(a)。右B3は中葉気管支より分岐していた(RMB)(b〜f)。胸部の3次元CT画像にてこれらの解剖学的特徴がより明確に示された(g,h)。


図3 CTでの肺動静脈の分岐および分葉
 A3はB1+2よりも末梢肺動脈本幹(▶︎)から分岐してしていた(a,b)。肺静脈は肺尖・中心静脈型であった(c,d)。右上中葉間は完全不分葉であった(c)。

 気管支鏡所見:気管支鏡検査では右上葉気管支は通常の3分岐型に近い分岐であったが(図4a),中葉気管支を観察するとB4およびB5分岐部の中枢側から過剰な気管支が分岐していた(図4b)。気管支鏡検査前に行った3次元CT像の所見と併せて検討し,右上葉気管支はB1a,B1b,B2の3分岐,中葉の過剰な気管支が右B3であると判断した。下葉気管支の分岐は正常であった(図4c)。右B5から気管支肺胞洗浄を行い,検査を終了した。
検査後経過:検査後は関節リウマチに合併した膠原病肺の診断で当院内科にて経過観察中である。

図4 気管支検査所見
 右上葉気管支はB1a,B1bおよびB2の3分岐であった(a)。B3は右中葉気管支の中枢側より分岐していた(b)。下葉気管支の分岐は正常であった(c)。


考察

 本症例の様に右B3が中葉気管支から分岐する転位気管支は太田らの気管支造影での検討では転位気管支71例中8例,当院における胸部CTでの検討では転位気管支46例中11例であった[3][5]。加えて我々が検索した範囲では本症例のように右中葉気管支からB3が分岐する形態の転位気管支の臨床経験の報告は手術症例が1例あるのみで[6],気管支鏡検査の所見に基づいた報告は認めなかった。

 気管支分岐異常自体は通常無症状とされ,感染症や悪性新生物などの疾患との関連性は低いとされており[7],呼吸器内科領域における転位気管支の意義は不明である。その一方で,呼吸器外科領域では武藤らの転位気管支を伴う肺切除例における分葉異常や肺静脈の走行異常の報告[8],Yoshimuraら[9]の分離肺換気中のトラブルなどの報告等がある。当科での報告では本症の様に右中葉から右B3が分岐する形態の転位気管支の症例では全例で上中葉間の分葉異常を認め(S1+2/S3-5への分葉7例,上中葉間の分葉欠損3例),加えてA3の分岐位置が上葉気管支より遠位の肺動脈本幹から分岐していた。また,本症例では認めなかったが,上葉肺静脈が気管支中間幹の背側を通過するいわゆるtop pulmonary veinが高率に存在していた[5]。転位気管支を伴う呼吸器外科手術中の気管支の誤損傷の報告も散見されることや[10],分葉異常を伴うことが多いため肺切除およびリンパ節郭清の範囲の決定が難しいとの報告もある[11]。呼吸器外科領域では転位気管支の存在をより慎重に確認するべきと思われる。

 OshiroらはCTでの転位気管支の診断の難しさを指摘し,分葉異常が転位気管支を認識するきっかけになり得るとも報告している[12]。本症例でも上中葉間の分葉が欠損していた。分葉異常症例における転位気管支の頻度は不明ではあるが,分葉異常を認める症例においては転位気管支の存在も念頭に置くべきと考える。また,本症例では検査時のCTで転位気管支の存在を疑い,気管支鏡検査前に3次元CT像を作成することにより検査前に転位気管支の存在を確認することが可能であった。気管気管支など気管および主気管支付近での分岐異常や過剰分岐と伴う型の転位気管支は気管支鏡検査で認識されている[8][13]。本症例の気管支鏡検査では上葉気管支が通常の3分岐型と類似した分岐形態であり,右B3の欠損を認識することは難しいと思われた。右B3の転位気管支に対する気管支鏡検査所見に関する報告がないものの,気管気管支など比較して気管支鏡による確認は困難と思われる。本症例では3次元CT像の情報が転位気管支の存在を認識に有用であった。転位気管支の存在が疑われる症例では検査手法の情報を組み合わせることによってその存在をより確実に確認することができると思われる。

結語

 中葉気管支から右B3が分岐する転位気管支の1例を報告した。本形態の転位気管支は特徴的な肺動脈分岐や分葉の異常を伴い,外科手術症例で遭遇した場合は注意が必要と思われる。また,気管支鏡による確認が難しいことも考えられ,複数の検査手法の情報を組み合わせることでより確実にその存在を確認するべきと考える。

 本論文の要旨は第42回日本呼吸器内視鏡学会学術集会(2019年東京)で発表した。

 本論文の内容に関して開示すべき利益相反はない。

Abstract

 A man in his 60s was referred to our department because he was suspected to have collagen disease-associated interstitial pneumonia. Computed tomography showed the displaced right B3 bronchus bifurcating from the right middle lobe bronchus, the right A3 bifurcated from a more distal position of main pulmonary artery compared to B1+2, and there was no fissure between the right upper and middle lobes. Bronchoscopy confirmed that the B3 bifurcated from the proximal side of the middle lobe bronchus. Cases of displacement of the right B3 bronchus bifurcating from the right middle lobe bronchus have abnormalities of pulmonary artery branching and lung lobulation. It would be needed to combine findings from multiple examinations for the diagnosis of a displaced bronchus.

図表


文献

  1. Foster-Carter AF. Broncho-pulmonary abnormalities. Br J Tuberc Dis Chest. 1946; 40: 111-24.
  2. Evans JA. Aberrant bronchi and cardiovascular anomalies. Am J Med Genet. 1990; 35: 46-54.
  3. 太田伸一郎, ほか. 気管気管支分岐異常71例の検討. 気管枝学. 1986; 8: 122-30.
  4. Ghaye B, et al. Congenital bronchial abnormalities revisited. Radiographics. 2001; 21: 105-19.
  5. Yaginuma H. Investigation of displaced bronchi using multidetector computed tomography: associated abnormalities of lung lobulations, pulmonary arteries and veins Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2020; 68: 342-9.
  6. Nakanishi K, et al. Thoracoscopic lobectomy using indocyanine green fluorescence to detect the interlobar fissure in a patient with displaced B3 and absence of fissure: a case report. Thorac Cancer. 2019; 10: 1654-6.
  7. 渡橋 剛, ほか. 特発性器質化肺炎の発症を契機に発見された右上葉支の中葉支内転位の1例. 気管枝学. 2013; 35: 291-5.
  8. 武藤哲史, ほか. 右B1+3転位気管支を伴う右上葉肺癌に対して胸腔鏡下右上葉切除術を行った1例. 気管枝学. 2019; 41: 293-7.
  9. Yoshimura T, et al. Difficulty in placement of a left-sided double-lumen tube due to aberrant tracheobronchial anatomy. J Clin Anesth. 2013; 25: 413-6.
  10. 月岡卓馬, ほか. 左B1+2分岐異常領域に発生し肺癌の1切除例. 日呼外会誌. 2011; 25: 460-4.
  11. 大澤潤一郎, ほか. 気管支分岐異常(左B1+2+6)を伴う肺癌の切除例. 日呼外会誌. 2018; 32: 847-51.
  12. Oshiro Y, et al. CT findings of a displaced left upper division bronchus in adults: its importance for performing safe left pulmonary surgery. Eur J Radiol. 2013; 82: 1347-52.
  13. 鑓水 佳,ほか. 気管気管支に肺血管の走行異常を伴った右上葉肺癌の手術経験. 気管枝学. 2018; 40: 316-20.