呼吸臨床
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【投稿】気管支拡張症revisited-今,欧米を中心に研究の大きなうねり


第2部:診断,治療

徳田 均*


*JCHO東京山手メディカルセンター呼吸器内科(〒169-0073 東京都新宿区百人町3-22-1)


Bronchiectasis revisited(2)

Hitoshi Tokuda*

*Department of Respiratory Medicine, Tokyo Yamate Medical Center,  Japan Community Health Care Organization (JCHO), Tokyo 


Keywords:気管支拡張症,HRCT,炎症,治療/bronchiectasis,HRCT,inflammation,treatment


呼吸臨床 2017年1巻3号 論文No.e00027
Jpn Open J Respir Med 2017 Vol. 1 No. 3 Article No.e00027

DOI: 10.24557/kokyurinsho.1.e00027


受付日:2017年10月30日

掲載日:2017年12月26日


©️Hitoshi Tokuda. 本論文の複製権,翻訳権,上映権,譲渡権,貸与権,公衆送信権(送信可能化権を含む)は弊社に帰属し,それらの利用ならびに許諾等の管理は弊社が行います。


要旨

 気管支拡張症の診断にはHRCTが用いられる。その特徴的所見については十分な知見の蓄積がある。ここではそれを確認したい。肺機能は本症の予後に関わるので定期的な検査が必要である。治療は,本症が定着する菌に誘発される過剰な炎症であるとの認識に基づき,菌を抑える治療と,宿主免疫の過剰な応答を抑える治療の両面から工夫されている。マクロライド少量長期投与は一定の有効性を示すが,不応の場合の対応が問題となっている。欧米では抗菌薬静注療法,抗菌薬吸入療法,吸入ステロイド療法などが試みられている。


はじめに

 第1部でも紹介したが,気管支拡張症(bronchiectasis:BE),特にその50%以上を占める特発性気管支拡張症は,今最も重大な呼吸器疾患の1つとして,取り組みが全世界的に急拡大しつつある。

 罹患数の増加,大きな経済的負荷(特に急性増悪の治療),その疾患としての難治さ(治療方法がまったく未確立),などがその背景にある。今,欧州,米国,そしてオーストラリアで大規模な患者registryが始まり,前向き調査が開始されている。また2017年9月には,初の国際治療ガイドラインとしてEuropian Respiratory Societyのガイドライン(以下,ERSGL)が発表された[1]。本稿では,これらの新しい動きを踏まえつつ,診断,治療について現在の考え方を紹介したい。


診断

 小児期の重症肺炎などの既往があり,慢性の咳,膿性痰があり,胸部単純写真で中葉・舌区・左下葉などに,虚脱した肺葉とその内部に拡張した気管支を見る局所性のBEは,いわゆる感染後のBEであり,診断は比較的容易である(図1)。そのような既往が確認されない両側広範例が最近は多く,その50%前後が原因を特定し得ない特発性であることは,第1部で紹介したとおりである。


図1 感染後の気管支拡張症

a. 単純X線写真:78歳,女性。小児期に重い肺炎の既往がある。左下肺野()および右下肺野縦隔側()に,浸潤影とその中の放射状透亮像を認める。典型的な感染後の気管支拡張症。

b. HRCT:左下葉に高度の気管支拡張,その周囲肺の虚脱,肺容積の著明な縮小を認める。右肺にはほとんど異常をみない。



以前より頑固な咳,痰を訴える,あるいは気管支炎を繰り返す,上気道炎(upper respiratory infection:URI)罹患の度に咳,痰が長引く,また血痰を訴える患者について,BEは必ず疑うべき病態である。 まず行うべき検査は胸部単純写真とHRCT検査である。胸部単純写真では異常がないように見えても,CTで初めて気管支の異常が判明することも少なくない。現在BEの診断は主にHRCTによって行われることはまったく異論のないところである。BEのHRCT所見については多くの研究があり,それらは放射線科医Naidichらが集約して示している[2]。


1.HRCT所見

1)気管支の拡張(bronchial dilatation)

 気管支の内径と伴行する肺動脈の径との比(bronchoarterial ratio;B/A比)は通常0.7前後である。この数値が1以上である場合,BEと診断する,との基準が広く承認されている。ただし,肺動脈の径が異常に細い場合は慎重に判断する。その肺葉が繰り返す炎症などで荒廃している場合そのようなことが起こりがちである。しかしこれはまさにBEにおいてよく起こることでもある(図2)。

図2 気管支の内径が伴行する肺動脈より大きい(B/A比>1)

 左下葉B9において,気管支の内径は伴行する肺動脈の径より大きい()。気管支壁の肥厚も顕著である。左下葉容積の縮小()は過去に繰り返し炎症があったことを示唆している。



 健常人においてもB/A比が1以上であることは起こり得る。85人の健常人のHRCTを調べたMatsuokaらの報告では,65歳以上の被験者において,1本以上の気管支のB/A比1を超える例は41%にみられたが,40歳以下では皆無であったという[3]。下葉の1,2本のみのB/A比1以上は慎重に扱うべきであろう。


2)気管支の細まりの欠如(lack of tapering)

 気管支は通常末梢に行くほど細くなっていく(tapering)。この細まりが分岐後2cm以上にわたって欠如する(すなわち同じ径が続く,もしくはむしろ拡張する)所見は,B/A比1以上と並んでBEの重要な所見である。ただしこの判断を下すためには,HRCTはthin sectionかつ連続で撮影,表示されねばならない(図3)。

図3 細まりの欠如(lack of tapering)

 両上葉B3が描出されている()。2cm以上にわたって同じ内径であり,通常の,末梢に行くにつれての細まりがみられない(lack of tapering)。



3)胸膜直下で気管支が描出される(visibility of peripheral airways)

 通常胸膜から2cm以内ではHRCTをもってしても気管支は描出されない。壁があまりに薄いからである。胸膜から1cm以内の肺で気管支が認められることは,BEの重要な所見の1つである(図4a)。


 気管支が縦隔側胸膜に接する所見も,BEにしばしばみられる(図4b)[4]。これは日常臨床において時に重要な所見であり,特に下行大動脈に接する左下葉B10が下行大動脈に接する所見は,慢性の咳嗽を訴える患者の場合,これが唯一の所見であることもあるので注意したい(図4c)。


図4

a. 胸膜から1cm以内で気管支が観察される:びまん性気管支拡張症の1例。胸膜から1cm以内の肺に拡張し,壁の肥厚した気管支が観察される()。

b, c. 気管支が縦隔胸膜に接する:図3bでは右中葉B5が心膜に,図3cでは左下葉B10が下行大動脈に,それぞれ接している。これは,繰り返す炎症で本来これらの気管支と胸膜との間にあった肺が虚脱したためと考えられる。気管支拡張症を疑う重要な所見の1つ。



4)気管支壁の肥厚(bronchial wall thickening)

 気管支壁の肥厚は,気管支壁の炎症というこの病態から当然予想されることであるが,これを客観的に評価することは必ずしも容易ではない。ある部位での気管支の壁の厚さ(thickness)とその内径との比は,CTの表示条件によっても異なり,また読影者によっても判断が異なり得る。明らかな肥厚が見られる場合,そしてほかのBEの所見と併存する場合にのみ取る所見である(図2)。なお,顕著な拡張があるにもかかわらず,壁の肥厚を認めない例はしばしばみられる。


5)末梢気道病変(small airway abnormality)

 BEには高率に末梢気道病変を合併する。多くは細気管支炎である。CT所見は①小葉中心性の粒状影,分岐状影(図5),②tree-in-bud所見,③肺野のモザイク状濃淡(mosaic attenuation)(細気管支が炎症末期に線維化し閉塞が高度になると,細気管支病変自体は示現されず,末梢の肺の含気,血流が小葉毎に異なる結果のみがCT所見となる)などである[2]。


図5 末梢気道病変

 両側中,下葉に広がる気管支拡張症。中枢側気管支の拡張()に加えて,特に下葉背側に広範に分岐状影,粒状影がみられる()。Tree-in-bud所見もみられる()。



6)cystic bronchiectasis

 特異な形態としてcystic bronchiectasisがある。主軸気管支あるいはその分枝,反回枝が嚢胞状に拡張するもので,壁はしばしば薄い。おそらくはより強い炎症性破壊を意味し,緑膿菌の出現頻度,肺機能の低下がより高度であるとの報告もある(図6)。


図6 Cystic bronchiectasis

 気管支の走行に沿って多発薄壁嚢胞がみられる()。Cystic bronchiectasisの典型例。主軸気管支,その分枝だけでなく,それらの反回枝も嚢胞状に拡張していると考えられる。



 HRCTだけでは過剰診断に陥る恐れがあるとして,HRCT所見に加えて,慢性の咳,膿性痰を伴う例のみを治療対象としてのBEとすべきだとの意見もあるが[1],平素は咳,痰を伴わなくとも,URI後に咳,痰が生じそれが長引くという病像の患者も多く,また乾性咳嗽のみの患者も少なくない。私見であるが,持続性の膿性痰は決してBEの必須要件ではない。


2.肺機能検査

 BEでは50%以上に末梢気道病変が合併し,それが進行すると肺機能障害が顕在化,高度となり,不良な予後につながり得るので,肺機能検査(初診時,およびフォロー中は定期的に)は必須である[5]。一般に閉塞性肺機能障害,すなわち1秒率の低下,フローボリューム曲線での V 50/ V25比の上昇などがみられる。繰り返す感染で肺が広範囲に荒廃すれば拘束性障害も出現する。また一見単純写真では広範な荒廃がないように見えても,びまん性の末梢気道閉塞が進行すれば拘束性障害を呈し得る。


3.細菌学的検査

 喀痰の細菌学的検査は急性増悪期の対応のためにも,また長期予後を占ううえでも必須である。必ずしも膿性痰が得られるわけではないので,その場合は高張食塩水による誘発が必要である。Haemophilus influenzae,Streptococcus pneumoniae, Pseudomonas aeruginosa,Moraxella catarrhalisなどが検出される。Pseudomonasの出現は高度進展例にみられ,また予後不良につながるとされる[1][5]。


4.鑑別診断

 HRCTで気管支拡張症の存在が明らかになった場合,明らかな感染後のBEを除いて,何らかの基礎疾患の有無は慎重に除外すべきである。


 主要な鑑別診断は,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症,非結核性抗酸菌症,びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB),さまざまな先天性免疫不全,原発性線毛運動不全症,嚢胞性線維症(cystic fibrosis),全身性炎症性疾患(関節リウマチ,潰瘍性大腸炎など)の気道病変などである。先天性疾患はほかの徴候,特に小児期からの感染の反復,腹部症状などからすでに診断されていることも多いが,本症を発症して初めて診断される例もある。これらを念頭におき,可能な範囲でチェックする姿勢が望ましい。具体的には血液検査で一般項目に加えて,IgG,IgA,IgM,IgE,アスペルギルス特異的IgE,喀痰の細菌学的検査(抗酸菌を含む),リウマチ因子,抗CCP抗体などはルチンに検索すべきであろう[1][5]。


 DPBは日本および韓国など東アジアにのみみられる特異な慢性気道炎症として注目されたが,近年新規発生は激減している。呼吸細気管支領域を主座とする慢性炎症で,進行すると気管支拡張症をも合併するので,鑑別が必要となる。副鼻腔炎の合併は特発性BEにおいても高率にみられるので鑑別点とはならない。寒冷凝集素価,HLAB54などの検索が有用である。またDPBではマクロライド治療への反応が極めて良好であることも鑑別点となろう[6]。


治療

 気管支拡張症の治療は,①急性悪化(acute exacerbation:AE)の頻度を減らす,②咳,痰などの症状を軽減し患者のQOLを改善する,③疾患(特に閉塞性肺障害)の進行を食い止めるの3つを目標とする[1][7][9]。

 そもそも気管支拡張症の病態は,ありふれた細菌である緑膿菌やインフルエンザ菌(これらは,最近の遺伝子解析技術を動員したmicrobiome解析により,大部分の健常者の下気道に常在していることが明らかとなっている)に対して宿主が過剰な免疫応答を起こすことにある[10]。過剰な炎症が続くとその結果気管支の構造改変が起こり,そこに貯留する粘液も相まって細菌に格好のnicheを提供,定着細菌量が増加 ,さらに炎症が激化していく,という流れと捉えられている。

 したがって安定期の治療戦略は,細菌の量を減らす,もしくは宿主の過剰な免疫応答を抑える,の両方から試みられている。

 治療のガイドラインとして参照されるのは最近までBritish Thoracic Societyのガイドライン(2010)[5]のみであったが,冒頭に紹介したように2017年9月,初の国際ガイドラインとしてERSGLが発表され,徹底したEBMの手法で最新の知見が整理され提示されている[1]。

1.細菌の量を減らす-抗菌薬

1)短期間の静注抗菌薬投与
 菌量を減らすことは,その場限りのことではなく,炎症の鎮静につながることも証明されている[11]。小規模なRCTにて,AEを頻回に繰り返す例に対して,抗緑膿菌作用をもつ抗菌薬を2週間静注投与(在宅で)し,これを8週毎に反復,1年間行った。これによりAEの頻度は減少し,患者QOLも改善したと報告されている[12]。筆者も数例ではあるが1週間の入院DIV投与で1年以上にわたる症状鎮静効果を得た症例を経験しており,1つの治療選択肢となり得ると考える。

2)抗菌薬の吸入
 緑膿菌が定着し,AEを反復する例に対して,抗菌薬をネブライザーで与える吸入投与は欧米でさまざまに試みられてきた。抗菌活性はあるが下気道には到達し難いアミノグリコシド系抗菌薬が中心で,Tobramycin(TOB),gentamicin,colistinなどが検討されている。確かに細菌量は減少し,AEの頻度も減少するが,それが必ずしも肺機能,QOLの改善につながらない。一方吸入刺激による気管支攣縮が発生し,耐性菌も増加する。したがって本治療法はBE患者一般には勧められず,頻回に(年3回以上)AEを繰り返す患者に限って,さまざまな条件を慎重に考慮したうえで適用されるべきとされる[1][9][13]。本邦ではTOBがcyctic fibrosisのBEに対してのみ認可されている。

2.過剰な炎症を抑止する

1)マクロライド長期投与
 わが国でかつて難治をきわめたびまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)に対して工藤らにより展開されたマクロライド少量長期療法は,この難病の予後を劇的に改善した。その作用機序は抗菌作用とは考え難く,気道炎症の成立機序とそれらに対するマクロライドの薬理効果がさまざまな角度から研究された結果,好中球など各種炎症細胞の遊走,活性化抑制,活性酸素産生抑制,緑膿菌のバイオフィルム抑制作用,過剰な気道分泌の抑制など種々の抗炎症作用が明らかとなった[6]。この成功は同じ好中球性炎症であるBEにも応用され,2012年頃から有効性を認める報告(RCT)が相次いでいる。Azithromycin(AZM)2研究,Erythromycin(EM)1研究である[14][15][16]。しかしその効果はDPBほどめざましいものではなく,急性増悪の頻度を減少させる,喀痰量の減少など自覚症状を改善するなどは確認されたが,肺機能の改善の有無は報告が一定しない。一方有害事象として消化器症状,心電図上のQT延長(特にAZM),耐性菌の出現などが挙げられている。これらを踏まえて,最近の総説では,投与対象例を絞るべきであり(急性増悪を繰り返す例,そしてNTM症のリスクがない例),また期間も12~24カ月とすべきで,無差別な投与は奨められないとしている[9]。またERSGLでも,やはり対象をAEを繰り返す例に限定したうえで,緑膿菌定着あり例についてはほかの治療(抗菌薬吸入)が使えない,もしくは無効の場合のオプションとして,緑膿菌定着なし例については第1選択として推奨する,としている[1]。

2)吸入ステロイド
 炎症を抑止する目的での吸入ステロイド療法はいくつかの報告がある[17][18]。そのいずれにおいても,喀痰量,喀痰中のサイトカインを減少させ,咳を減らし,QOLを改善するが,肺機能の改善はわずかであった,懸念される肺炎などのAEの増加はみられなかったとしている。しかしいずれも標本サイズが小さく,さらなる検討が必要である。ガイドラインではいずれもルチンの使用は奨められないとしている[1][5]。ただ,臨床の場で,これによってのみ咳・痰が制御されることもあり,私見であるが症例を選んで試みられてよいと考える。

3)その他
 スタチンの抗炎症作用が注目を浴び,さまざまな分野への応用が始まっているが,気管支拡張症においても研究が1つある。咳の減少,QOLの改善が得られたとの報告である[19]。しかし頭痛,下痢などの有害事象も無視できない頻度で発生している。ERSGLは現時点では推奨できないとしている[1]。

 喀痰の排出促進治療は,喀痰の多い患者について,貯留する粘液を減少させることにより菌量を減らし進展を遅らせることも考えられるが,専ら患者のQOL向上を目指して工夫されている。欧米ではさまざまな薬物治療(主に吸入)が試みられているが,一定の有効性は確認されている。しかし患者への負担が大きいので,ほかの治療法では喀痰の排出が困難な例に限定して推奨されている[1]。

4)新しい方向性-肺のmicrobiome解析の知見を取り入れて
 次世代ゲノムシークェンサーの導入により,下気道に棲息する細菌の網羅的解析が可能となり,従来無菌と信じられてきた下気道において,非常に多くの菌種(多くは嫌気性菌)の存在と活動が知られるようになった。いまだ治療に結びつく段階ではないが,気道の慢性炎症がこの気道のmicrobiomeの乱れ(dysbiosis)に由来する可能性が説かれており[20],これを抗菌薬により適切に修正する治療も模索されている。EM療法が奏功するのはこの機序によるとの説も提出されている。

3.急性増悪期の治療

 BEの急性増悪期に強力な抗菌療法をできるだけ早く開始すべきであることについて異論はないが[8],抗菌薬として具体的に何を使用すべきかについては,現在のところ一定の見解は得られていない。また投与期間も定まっていないが1~2週間とするとの説が多い。

 外来の初期段階治療では,起因菌として緑膿菌の頻度が高い,肺炎球菌もペニシリンへの耐性傾向がみられるなどに着目すれば,レスピラトリーキノロンの使用は効果が期待できる。キノロンはわが国では濫用による耐性化を懸念してその使用に慎重であるべきとされるが,欧米では数多くのRCTを通じて,短期間(5日間以内)の使用で急速かつ良好な臨床効果が得られ,また耐性出現の可能性を減少できるとされており[21][22],またGrimwoodはその総説で,緑膿菌の定着が予め知られている症例では,まずempiricalにfluoloquinoloneを使用するという方針をエキスパートオピニオンとして述べている[9]。

 重症化し,入院となった場合については,起因菌とその薬剤感受性を考慮してセフェム系,カルバペネム系,キノロン系などの静注薬が選択される。

4.治療の目標-末梢気道閉塞の進展を抑える

 BEの死亡は,必ずしも感染によるのではない。死因を解析したKingの報告によれば,末梢気道閉塞が死因の主を占めるとされる[8]。

 この病理学的実態については,わが国の病理学者により詳細な検討が行われている。蛇澤は6例の特発性びまん性気管支拡張症の剖検例の病理学的検索の結果,拡張した気管支のみならず,中枢から末梢に至るまですべての気道に炎症所見がみられる,その中でも末梢気道,すなわち小気管支から細気管支に特に強い炎症がみられ,既存の構造を完全に消失せしめるほどの著しい炎症性破壊である,と報告している[2]。

 これらを踏まえると,炎症の持続による閉塞性肺機能障害が死亡の最大の因子であることが理解され,BE患者の診療にあたる医師の目標は,さしあたり咳,痰などの症状を減らしQOLを向上させる,またAEの頻度を減らすことを含めて,炎症全体を如何に制禦し,末梢気道の炎症性閉塞の進行を阻止するかにあるということが了解されよう。

利益相反:なし。

図表


文献

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  3. Matsuoka S, et al. Bronchoarterial ratio and bronchial wall thickness on High-resolution CT in asymptomatic subjects. AJR. 2003; 180: 513–18. DOI: 10.2214/ajr.180.2.1800513
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