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【投稿/原著】特発性肺線維症(IPF)診療における患者と医師の相互理解:わが国におけるIPF患者と担当医師の意識調査(第2報)


冨岡洋海*1,紙田光豊*2,東 久弥*2


*1神戸市立医療センター西市民病院呼吸器内科

*2日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(〒141-6017 東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark Tower)


Patient-physician communication on treatments for idiopathic pulmonary fibrosis:a survey of patient and physician views in Japan (Part2)


Hiromi Tomioka*1,  Mitsutoyo Kamita*2, Hisaya Azuma*2


*1Department of Respiratory Medicine, Kobe City Medical Center West Hospital, Hyogo

*2Nippon Boehringer Ingelheim Co., Ltd., Tokyo


Keywords:特発性肺線維症(IPF),抗線維化療法,意識調査,医師患者コミュニケーション/idiopathic pulmonary fibrosis (IPF), antifibrotic treatment, survey, patient-physician communication


呼吸臨床 2020年4巻3号 論文No.e00098
Jpn Open J Respir Med 2020 Vol. 4 No. 3 Article No.e00098

DOI: 10.24557/kokyurinsho.4.e00098


受付日:2020年1月9日
掲載日:2020年3月16日


©️Hiromi Tomioka, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。





要旨

 特発性肺線維症(IPF)患者およびその担当医師を対象に,IPF診断および抗線維化療法に対する意識調査を実施した。患者と医師に対するアンケート結果を比較したところ,患者は医師の認識以上に,治療薬や治療費助成制度の情報を診療の早い段階から望んでおり,また早期の薬物治療とそれによるQOLの維持を重視していることが明らかとなった。これらの結果はIPF診療における両者の相互理解を向上させるためのデータとして有用である。

はじめに

 進行性かつ予後不良の難病である特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は,進行を遅くすることが治療の目標とされ[1],そのための第1選択薬として現在2種類の抗線維化薬(ピルフェニドン,ニンテダニブ)が治療ガイドラインで条件付き推奨されている[2][3]。しかし,実臨床においては,多くのIPF患者が同薬を用いた治療を受けていない実態が報告されている。2016年に欧州で行われた調査では,IPFの確定診断を受けた患者の約40%は同治療を受けていないと報告されており[4],またわれわれが2019年に本邦で行ったアンケート調査では未治療例が60%にも上ることが明らかとなった[5]。

 このギャップが生じる背景を明らかにするため,Maherらはカナダおよび欧州数カ国において患者および呼吸器専門医へのアンケート調査を実施し[6],医師が抗線維化治療を躊躇する背景や,医師患者間の診断,治療における認識の違いを報告した。われわれは,わが国においても諸外国との医療・保険制度,文化等の違いを考慮した実態調査が必要であると考え,わが国におけるIPF患者と担当医師に対する同様のアンケート調査を実施した。医師を対象とした調査では,本邦の医師は早期の治療介入よりも疾患の経過観察を選択する傾向があり,抗線維化療法の早期導入にはさまざまなバリアがあることが明らかとなった[5]。本報では,同調査のうち,IPF患者とその担当医師に対して行ったアンケート調査の結果を報告する。同種の質問内容に対する患者と医師の回答を比較することで,患者と医師のIPF診療における認識の一致,不一致について検討し,両者の相互理解を向上させるための有益な情報となることを期待するものである。

研究対象・方法

1.対象医師

 本報では,IPF患者とその担当医師双方のアンケート結果を比較することを目的とした。したがって,医師対象アンケートに回答し,かつ1名以上の担当IPF患者からアンケート回答を得ることができた医師を選抜し,結果の集計を行った。選抜対象の医師は,独立した市場調査会社,株式会社プラメドが運営する医師向け会員サイトに登録している医師(プラメド社モニター)とした。その中から,同社が実施した疾患別薬物療法実態調査のデータに基づき,100床以上の医療機関に勤務し,IPF患者を担当している医師を選出し,医師および担当IPF患者を対象としたアンケートを依頼した。参加医師には,紹介患者数に応じた謝礼金が支払われた。

2.対象患者

 上記の選抜対象医師が調査期間中に担当IPF患者を診察した際,患者にアンケートの趣旨を説明した上で回答を依頼した。この調査が製薬会社によって支援され,匿名の上で公表されることを理解し,承諾した患者に対しアンケートを送付した。参加患者には,謝礼金が支払われた。

3.アンケート方法

 アンケートは,独立した市場調査会社,株式会社インテージヘルスケアが2019年5月13日から6月21日に実施した。医師対象アンケートはオンラインアンケートのURLを本文中に記したEメールを送信して行い,患者対象アンケートは郵送留置き方式で行った。医師・患者対象アンケートともに,Maherら[6]の行ったアンケート内容を参考とし,独自のアンケートを日本語で作成した。アンケート全文はURL(https://kokyurinsho.com/datas/media/10000/md_1638.pdf)からダウンロードできる。

4.統計解析

 医師対象アンケートと患者対象アンケートの結果の比較はχ二乗検定を用い,p<0.05を統計的有意とした。

結果

1.参加医師の選抜,背景

 医師対象アンケートに回答し,かつ1名以上の担当IPF患者から患者対象アンケートの回答を得た医師は66名であった。これらの医師はプラメド社モニター(47,748名)から次のように選出された。
 ①プラメド社モニターから100床以上の医療機関に勤務する呼吸器内科医1,160名を選出。
 ②プラメド社モニターを対象に行っている疾患別薬物療法実態調査から「IPF患者あり」と回答し,100床以上の医療機関に勤務する一般内科医157名を選出。
 ③ ①②に患者へのアンケート配布を依頼し,うち,これを承諾すると回答した医師,86名を選出。
 ④ ③のうち医師対象アンケートに回答した医師78名を選出。
 ⑤ ④の医師らが各担当患者合計210名にアンケートを依頼し,患者1名以上から回答を得た医師66名を選出。
 この医師66名の勤務先の内訳は大学病院が32%,国公立病院が33%,一般病院が35%であった。医師一人あたりの平均IPF患者数は21.5名,IPF患者に対する抗線維化薬の治療介入率は44%であった(アンケート不参加患者を含む)。抗線維化薬による治療実施の割合は重症度が上がるにつれて高くなる傾向が認められた(表1)。

表1  参加医師,参加患者の背景


2.対象患者の選抜,背景

 医師対象アンケートに回答済みの医師78名の各担当患者210名にアンケートを依頼し,158名の患者から回答が得られた(回収率75%)。これらの患者はすべて紹介を受けた医師と互いに紐付いている。77%が男性で,60歳以上が約95%を占め,特に70歳代の患者が49%を占めた。最初の医療機関の受診からIPFの診断を受けるまでの期間の中央値(四分位範囲)は3.5(1.0~9.8)カ月であった。最初の医療機関の受診から1カ月以内に診断を受けた患者が33%いる一方で,12カ月以上かかった患者も17%いた。通院回数は1カ月に1回が最も多く,65%を占めた。74%が抗線維化治療を受けていた(表1)。

3.診断における患者と医師の認識の比較

 患者対象アンケートでは,「あなたはIPF(特発性肺線維症)の診断時に,先生からはどのような説明を受けましたか」の問いに対し,「治療目標として病気の進行を抑制することが大事であること」「不可逆性の病気であること(一旦悪化してしまうと元の状態に戻らないこと)」「病気の進行を抑制する薬剤があること」の回答が多かった(図1)。医師対象アンケートでは,「普段,先生がIPF(特発性肺線維症)の診断時に,患者さんに説明することがある内容をすべてお知らせください」という問いに対し,90%以上の医師が「初期は無症状であっても進行する病気であること」「不可逆性の病気であること」と回答した(図1)。しかし,これらの説明を受けたと認識していた患者はそれぞれ41%,64%であり,医師との間に差が認められた(ともにp<0.0001)。また,急性増悪に関する説明についても,患者48%,医師85%と有意差(p<0.0001)が認められた。
図1 IPF診断時の医師の説明と患者が受けたとする説明の比較
 対象患者に対し「あなたはIPF(特発性肺線維症)の診断時に,先生からはどのような説明を受けましたか」と尋ね,図に示した9項目から当てはまる項目すべてを回答させた。同様に対象医師に対し「普段,先生がIPF(特発性肺線維症)の診断時に,患者さんに説明することがある内容をすべてお知らせください」と尋ね,9項目から当てはまる項目すべてを回答させた。各項目で「ある」と回答した割合をグラフに示した。χ二乗検定による医師―患者群の比較結果(p値)をグラフ外側に示した。p<0.05を統計的有意とし,*で示した。


 患者対象アンケートで,「IPF(特発性肺線維症)の診断時に,先生から受ける説明事項として,以下の各説明事項はあなたにとってどの程度重要な説明だとお考えになりますか」に対し,「とても重要である」と回答した項目の上位は「病気の進行を抑制する薬剤があること」(56%),「予後が悪い病気であること」(51%),「不可逆性の病気であること」(50%)であった。また「治療に掛かる費用は,医療費の助成制度を利用して経済的な負担を軽減できること」も49%が「とても重要である」と回答した(図2)。一方医師対象アンケートで,「IPF(特発性肺線維症)の診断時における患者さんへの説明において各項目は,どの程度重要だとお考えになりますか」に対し,比較的多くの医師が「急性増悪により呼吸機能が急激に悪化し,予後に大きな影響を与える可能性があること」(52%),「予後が悪い病気であること」(41%),「不可逆性の病気であること」(41%)を「非常に重要である」と回答した(図2)。患者と医師のアンケート結果で重要性の認識に大きな違いがあった項目は,「病気の進行を抑制する薬剤があること」(患者56%,医師24%,p=0.00002),次いで「診断後,症状が無くても早期に治療を開始することが大事であること」(患者41%,医師17%,p=0.0007),「治療目標として病気の進行を抑制することが大事であること」(患者48%,医師26%,p=0.003)であった。また医療費の助成制度についての説明も両者で重要性の認識が異なっていた(患者49%,医師27%,p=0.003)(図2)。
図2 IPF診断時の説明において患者および医師が重要と考える項目の比較
 図に示した9項目に対し,対象患者に「診断時に,先生から受ける説明事項として,以下の各説明事項はあなたにとってどの程度重要な説明だとお考えになりますか」と尋ね「とても重要である」~「全く重要でない」の7段階で回答させた。同様に対象医師には「IPF(特発性肺線維症)の診断時における患者さんへの説明において各項目は,どの程度重要だとお考えになりますか」と尋ね「非常に重要である」~「全く重要でない」の7段階の回答を得た。うち「とても(非常に)重要である」と回答した割合をグラフに示した。χ二乗検定による医師―患者群の比較結果(p値)をグラフ外側に示した。p<0.05を統計的有意とし,*で示した。



 「IPF(特発性肺線維症)の診断時に受けた説明はあなたにとってわかりやすい説明でしたか」の問いに対し,85%の患者が「わかりやすかった」または「ややわかりやすかった」と認識している一方,8%の患者は「わかりにくかった」または「あまりわかりやすいものではなかった」と回答した。また,「IPF(特発性肺線維症)の診断を受けた時のご自身のお気持ちをお選びください」との問いに対し,最も多く回答されたのは「不安」(63%),次いで「驚き」(39%)であった(図3)。患者の65%が診断後に自身で病気について調べたと答え,そのうち56%がパソコン・タブレット,22%がスマートフォンを用いていた。これらは医療従事者(31%),医学関連書籍(26%),友人知人家族(22%)に匹敵するかそれ以上の情報源となっていた。
図3 IPFの診断を受けた時の患者の気持ち
 対象患者に対し「IPF(特発性肺線維症)の診断を受けた時のご自身のお気持ちをお知らせください」と尋ね,図に示した15項目から当てはまる項目すべてを回答させた。回答した患者の割合をグラフに示した。


4.治療(抗線維化療法)における医師と患者の認識の比較

 患者対象アンケートによると65%が診断時までにIPFの治療について説明を受けたと答えており,また,医師対象アンケートでも58%が診断時までに抗線維化薬についての説明を行うと回答した。診断を受けてから抗線維化治療を開始するまでの期間の中央値(四分位範囲)は3.0(1.0~10.0)カ月であり,同期間に患者が説明を受けた平均回数は2回であった。IPFの薬物治療について説明を受けた薬剤はニンテダニブ60%,ピルフェニドン40%,ステロイド(プレドニゾロン等)40%であった。

 患者対象アンケートで「抗線維化薬による治療を始める際,先生からどのような内容の説明を受けましたか」という問いに対し多かった回答は「治療目標として病気の進行を抑制することが大事であること」「抗線維化薬は長期にわたり病期進行を抑制する」「医療費の助成制度があること」であった(図4)。医師対象アンケートでは,「先生がIPF(特発性肺線維症)の患者さんに抗線維化薬の説明をする際に,説明することがある内容をすべてお知らせください」との問いに対し,「治療目標として病気の進行を抑制することが大事であること」「各抗線維化薬で起きる可能性のある副作用について」の回答がともに82%で上位であった(図4)。医師と患者で捉え方の違いに大きな差がみられた項目は「抗線維化薬は急性増悪を抑制する効果があること」(患者46%,医師74%,p=0.0004),「治療にかかる費用」(患者49%,医師75%,p=0.0006),「各抗線維化薬で起きる可能性のある副作用について」(患者56%,医師82%,p=0.0007),「抗線維化薬を服用することで生存を延長する可能性があること」(患者45%,医師63%,p=0.02)であり,いずれも患者が受けた印象が薄い結果となった(図4)。
図4 抗線維化治療に関する医師の説明と患者が受けたとする説明の比較
 対象患者に対し「抗線維化薬による治療を始める際,先生からはどのような内容の説明を受けられましたか」と尋ね,図に示した14項目から当てはまる項目すべてを回答させた。同様に対象医師に対し「先生がIPF(特発性肺線維症)の患者さんに抗線維化薬の説明をする際に,説明することがある内容をすべてお知らせください」と尋ね,14項目から当てはまる項目すべてを回答させた。各項目で「ある」と回答した割合をグラフに示した。χ二乗検定による医師―患者群の比較結果(p値)をグラフ外側に示した。p<0.05を統計的有意とし,*で示した。


 患者が抗線維化薬の情報として非常に重要と考えている項目として最も多く回答したのは「治療目標として,病気の進行を抑制することが大事であること」「医療費の助成制度があること」でともに43%であった(図5)。医師は抗線維化薬を説明する際に非常に重要な項目として「医療費の助成制度があること」(35%),「治療にかかる費用」(32%),「各抗線維化薬で起きる可能性のある副作用について」(28%)を上位で選んでいた(図5)。医療費に関わる項目では患者・医師間で重要性の認識が比較的一致していたが,「早期に抗線維化薬による治療を始めることが望ましいこと」(患者40%,医師15%,p=0.0006),「通院治療であるため,仕事や家事への影響が少なく今までと同じ生活ができること」(患者35%,医師11%,p=0.0003)で隔たりがみられた(図5)。
図5 抗線維化治療の説明において患者および医師が重要と考える項目の比較
 図に示した14項目に対し,対象患者に「あなたは抗線維化薬の情報として,以下のそれぞれの情報についてどの程度重要とお考えになりますか」と尋ね「とても重要である」~「全く重要でない」の7段階で回答させた。同様に対象医師には「患者さんへの抗線維化薬の説明内容として,以下の説明内容はどの程度重要だとお考えになりますか」と尋ね「非常に重要である」~「全く重要でない」の7段階の回答を得た。うち「とても(非常に)重要である」と回答した割合をグラフに示した。χ二乗検定による医師―患者群の比較結果(p値)をグラフ外側に示した。p<0.05を統計的有意とし,*で示した。


 抗線維化薬による治療の説明を受けた患者(n=109)の89%は,医師からの説明は「ややわかりやすかった」(28%),「わかりやすかった」(34%)または「とてもわかりやすかった」(28%)と回答していた。

考察

 本研究は,IPF患者と担当医師へのアンケート調査から,わが国のIPF診療における両者の認識の違いについて検討した初めての報告である。カナダおよび欧州6カ国のIPF患者と医師を対象に行われた同様の先行研究[6]では,両者の紐付けが行われなかったため,一般的な患者群と医師群の比較に限定されていた。一方,本研究では,両者は完全に紐付けられているため,ここで得られた結果は患者と担当医師の認識の違いを検討する上でより意義のあるものと考えられる。また,先行論文[6]では,患者群を抗線維化治療を受けたIPF患者に限定しているが,本研究ではIPFと診断されたすべての患者を対象としており,より広い患者層に適応した結果となっている。

 まず,IPFの診断時に提供される情報に関する医師と患者の認識の違いについて考察する。患者対象アンケートの結果によれば,患者は疾患の特性の他,治療薬があること,治療費の助成制度を診断時における重要な説明内容と捉えていた。一方,医師側のアンケートでは,疾患の特性(急性増悪の可能性,不可逆性,進行性,予後不良)および検査の必要性を特に重視していたが,治療薬や治療費については診断時の説明内容としては若干重要度の認識が低い結果であった(図2)。また,IPFの診断時に医師から受けた説明に対し,ほとんどの患者がわかりやすいと捉える一方,「初期は無症状であっても進行する」「急性増悪により呼吸機能が急激に悪化し,予後に大きな影響を与える可能性があること」のように,多くの医師が説明したにもかかわらず患者の印象に残っていない内容も存在し,必ずしも医師の意図した通りに説明内容が伝わっていない現状が明らかになった(図1)。上述の先行研究においても,IPF患者が医師からの情報提供を十分ではないと感じているのに加え,実際に医師の説明が患者に十分伝わっていないとの結果が示されており,医師は難しい内容を説明する際に,患者の立場にたって相互理解を確認しながら進めていくことが必要であるとされている[6]。

 次に,抗線維化療法に関する説明について考察する。「医療費の助成制度」や「治療にかかる費用」は医師,患者ともに重要な説明項目と捉えていたが,「早期に抗線維化薬による治療を始めることが望ましいこと」「通院治療であるため,仕事や家事への影響が少なく今までと同じ生活ができること」に関しては,医師に比べ患者においてより重視する傾向がみられた(図5)。この点についても,先行研究で,一部の患者では早期治療がなされなかったことについての不満があることが報告されており[6],生活の質(QOL)を維持しながらの早期治療を望む患者の声があることを認識すべきである。

 本研究では,診断時の患者の気持ち,診断後の行動についても知見を得た。IPFの診断を受けた際の気持ちとして「不安」との回答が最も多く,その次に「驚き」と続いた(図3)。多くの患者は診断後に自身で疾患,治療に関する情報収集を行っており,その過半数はインターネットから情報を入手していた。この状況は,やはり先行研究でも報告されており[6],また,インターネットで得られるIPFに関する情報の多くは不完全,不正確で,また,最新のものではないため,注意が必要であるとされている[7]。IPFの診断を受け,不安を抱える患者に対する正確な情報提供を行っていく必要があり,これには医師のみならず,患者支援団体との協力も必要である[8]。

 以上の結果は,医療者に対し,担当患者との相互理解を向上させるための改善点を示唆する。まず,進行性の疾患であることや急性増悪などの説明は,患者に十分伝わっていない可能性があることを認識し,繰り返しの説明でインフォームドコンセントを得るべきである。また,より多くの患者が早い段階での薬物療法と,それによるQOLの維持を望んでいることを認識し,IPFにおける早期治療介入のメリット[9]を踏まえ,患者の要望に応えていく姿勢が望まれる。また,IPF治療に対する医療費助成制度の説明をより早い段階で提供することを患者は望んでおり,ソーシャルワーカーとも協力し,治療介入の支援を進めるべきである。多くの患者はIPFの診断を受けた際に「不安」「驚き」を感じており,特に診断時の説明を患者が冷静に聞くことができるような配慮が必要である。さらに,多くの患者がインターネット検索をIPFについての情報として利用していることから,医療機関,患者支援団体,製薬会社等が,患者に向けた,より信頼性の高い情報の提供に一層努めていくことも患者の利益になると考えられる。

 本研究の限界として,サンプル数が比較的少なく,限られた施設の医師およびその担当患者を対象としていることが挙げられる。また,対象医師は,IPF患者からアンケート回答を受けた医師に限定されており,また対象患者もアンケートに回答した患者に限定されていることから,わが国のIPF診療の全体を表していない可能性が考えられる。特に,アンケート回答患者が抗線維化治療を受けている割合(74%)が本研究対象医師の全担当IPF患者(44%)より高かったことから,本研究の対象患者群はわが国の一般的なIPF患者群と異なっている可能性も考えられる。一方で,対象医師の勤務先,一人あたりIPF患者数,担当IPF患者に対する抗線維化治療率は,患者アンケート調査への寄与を除外した調査[5]と大きく異なっておらず,この点において対象医師の選択バイアスは小さいと考えられる。

 以上,わが国のIPF患者および担当医師を対象に行われたアンケート調査を報告した。IPF診療における患者と担当医師の認識にはいくつかの相違があることが明らかとなった。これらの結果は,IPF診療における両者の相互理解を向上させるための情報として有用であると考えられる。

 謝辞:アンケート調査にご協力いただきました医師,患者の方々に厚く御礼申し上げます。本論文のメディカルライティング補助は,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の資金提供のもとシュプリンガー・ヘルスケア,inScience Communications(鈴木裕,Ph.D.)が行った。

 利益相反の有無
 冨岡洋海:(株)日本ベーリンガーインゲルハイム社より講演料

Abstract

 Despite the availability of antifibrotic therapy, many patients with confirmed idiopathic pulmonary fibrosis (IPF) in Japan do not receive this form of treatment. We conducted questionnaire surveys of both IPF patients and physicians to investigate their views on IPF diagnosis and treatment in Japan. In total, 66 physicians and 158 IPF patients completed the survey. Patients were recruited to this study via referrals from the physicians who completed the questionnaire, such that all participating patients were associated with one of the physicians who completed the questionnaire and vice versa. The results revealed some disconnect between the views of patients and physicians regarding IPF diagnosis and treatment. Patients wanted more information about medication and medical expense benefits at the early stage of patient-physician communication. In addition, more patients than physicians thought antifibrotic treatment should be initiated early in the course of IPF to improve quality of life. Although physicians also considered these issues important, they tended to focus more on symptoms and side effects during communication with patients. These data about patients’ and physicians’ expectations can help to improve patient-physician communication about IPF diagnosis and treatment in Japan.

図表


文献

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