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【投稿/症例報告】器質化肺炎の治療中に診断された視神経脊髄炎(NMO)の1例


鎌倉栄作*1,伊藤達哉*2,佐藤謙二郎*2,矢澤克昭*3,須原宏造*4,髙﨑寛司*5,大場岳彦*2,磯貝 進*6,田尾 修*7


*1新潟大学医学部医学科総合診療学講座(〒951-8510 新潟県新潟市中央区旭町通1-757)
*2青梅市立総合病院呼吸器内科
*3上尾中央総合病院呼吸器内科
*4国立病院機構災害医療センター呼吸器内科
*5新渡戸記念中野総合病院呼吸器内科
*6青梅三慶病院呼吸器内科
*7青梅市立総合病院脳神経内科

A case of neuromyelitis optica diagnosed during treatment of organizing pneumonia

Eisaku Kamakura*1, Tatsuya Ito*2, Kenjirou Sato*2, Katsuaki Yazawa*3, Kozo Suhara*4, Hiroshi Takasaki*5 , Takehiko Oba*2, Susumu Isogai*6, Osamu Tao*7

*1Department of General Medicine, Niigata University School of Medicine, Niigata
*2Department of Respiratory Medicine, Ome Municipal General Hospital, Tokyo
*3Department of Respiratory Medicine, Ageo Central General Hospital, Saitama
*4Department of Respiratory Medicine, NHO Disaster Medical Center, Tokyo
*5Department of Respiratory Medicine, Nitobe Memorial Nakano General Hospital, Tokyo
*6Department of Respiratory Medicine, Omesannkei Hospital, Tokyo
*7Department of Neurology, Ome Municipal General Hospital, Tokyo

Keywords:器質化肺炎,視神経脊髄炎,不定愁訴/organizing pneumonia, neuromyelitis optica, unidentified complaints


呼吸臨床 2023年7巻7号 論文No.e00175
Jpn Open J Respir Med 2023 Vol. 7 No. 7 Article No.e00175

DOI: 10.24557/kokyurinsho.7.e00175


受付日:2023年2月2日
掲載日:2023年7月7日

©️Eisaku Kamakura, et al.  本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。



要旨

 61歳の女性。抗菌薬抵抗性の肺炎の精査目的に入院後,短期間で病状が悪化した。気管支鏡検査を行う余裕もなく,臨床的に器質化肺炎を想定した治療を開始した。急性期を乗り越え,外来で副腎皮質ステロイド薬を漸減した。ところが経過中に様々な症状が出現した。副腎皮質ステロイド薬の副作用だけでは説明がつかず,各種検査を実施したところ視神経脊髄炎の診断に至った。

はじめに

 本症例では器質化肺炎の経過中に,視神経脊髄炎の診断に至った。器質化肺炎は様々な疾患に合併するため,背景として視神経脊髄炎が存在していた可能性もある。また器質化肺炎の治療に用いた副腎皮質ステロイド薬のために視神経脊髄炎の症状が抑えられ,診断の妨げとなったことも否定できない。最近の知見も交えて報告する。

症例

 症例:61歳,女性。

 主訴:咳嗽・喀痰・発熱。

 現病歴:来院2カ月前に咳嗽が出現した。来院2週間前になると発熱を伴うようになり,喀痰が増えた。来院1週間前に近医を受診した際に,細菌性肺炎を想定したシタフロキサシンの処方があった。内服を継続するも改善なく,当院の新患外来を受診した。急性肺炎の精査加療の目的で,入院の方針となった。

 併存症:坐骨神経痛。

 既往歴:大腸腺腫。

 アレルギー歴:花粉症。

 喫煙歴:40本×40年(現喫煙者)。

 初診時身体所見:身長155cm,体重55.0kg,体温38.4℃,室内気SpO2 92%,血圧107/64mmHg,心拍数103bpm,両側前胸部で水泡音を聴取するも痰の喀出は乏しい。

 胸部単純X線写真図1):両肺に浸潤影が散在していた。

図1 初診時胸部X線写真
両肺に浸潤影が散在していた。


 胸部単純CT図2):両側肺野にコンソリデーションが散在しており,その周囲には一部モザイク様のすりガラス影を伴っていた。

図2 胸部単純CT
両側肺野にコンソリデーションが散在しており,その周囲には一部モザイク様のすりガラス影を伴っていた。


 初診時検査成績表1):高度の炎症を示す数値のほかに,目立った所見はなかった。

表1 初診時検査成績


 臨床経過図3,4):迅速検査や細菌学的検査では,病原体を同定できなかった。入院時よりABPC/SBTとAZMの治療を開始したがCRP 20mg/dLと効果がなく,抗菌薬不応の肺炎として器質化肺炎(organizing pneumonia:OP)を鑑別に挙げつつ,気管支鏡検査を計画した。しかしながら呼吸状態が急速に悪化したため(酸素6L/min投与下でSpO2 94%),第7病日に副腎皮質ステロイド薬の大量療法(mPSL 1,000mg/day,3日間)を実施した。治療への反応は良好だったが,終了後に炎症反応が再び上昇に転じた。OPを想定して,第14病日からプレドニゾロン(PSL)30mg/dayによる後療法を開始した。胸部画像で肺野の浸潤影が改善したため,外来でPSLを漸減しいったんは終了したものの,再発が疑われ,改めてPSLを30mg/dayで開始した。肺炎の病勢は制御できていたものの,嘔気と吃逆,食欲不振のため第103病日に臨時で受診をした。嘔気・嘔吐の原因検査の過程で,内服薬を一切中断していたことが判明した。肺炎が再発した徴候はなかったが,低ナトリウム血症(Na 126 mEq/L)もあり入院加療の方針とした。低ナトリウム血症の原因としては,副腎皮質ステロイド薬の中断による副腎不全や肺炎に伴うSIADHを考えた。SIADHは診断基準を満たしており,飲水制限および緩徐補正で是正を図った。その他に下肢痛があったが,まずは併存疾患である坐骨神経痛の鍼治療を中断していたことを理由に考えた。PSLを再開するとともに,下肢痛に対して鎮痛薬を併用した。経過は良好だったが,発症時期がはっきりしない構音障害が顕著となった。脳のMRI検査を実施したところ,FLAIR像で2つの所見が明らかとなった。1つ目は大脳白質に多発する高信号で(図5),こちらは微細な脳梗塞を示唆した。もう1つは延髄背側の対称性の高信号で(図6),なんらかの脳炎や脳症の存在が疑われた。いずれも緊急性に乏しいため,経過観察の方針とした。退院後,外来で既知の下肢痛や構音障害を含む多彩な症状の訴えがあった(図7)。その他に当院初診時からの経過になかった症状として,複視があった。改めて脳および脊髄のMRI検査を行った。拡散強調画像(DWI)では脳室周囲に高信号域があり(図8),さらにT2強調画像では脊髄に高信号域が散在しており(図9),長軸方向に連続する縦長横断脊髄炎(longitudinally extended transverse myelitis:LETM)を疑う所見であった。同時期に提出した抗アクアポリン4(AQP4)抗体が1カ月後に陽性と判明し,視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)と診断した[1]。視力の急速な悪化などもあり,副腎皮質ステロイド薬の大量療法を行った。免疫抑制薬(アザチオプリン)を併用するも肝機能障害の理由で中止となり,その後に血漿交換療法を実施するも治療効果に乏しかった。症状は悪化の一途を辿った。初診より1年4カ月が経過した時点で失明および四肢の運動麻痺のため全介助のADLとなり,リハビリテーション病院へ転院となった。

図3 臨床経過
抗菌薬による初期治療に抵抗性であり,副腎皮質ステロイド薬を使用した。


図4 臨床経過
副腎皮質ステロイド薬の漸減中に悪化したため,増量した。


図5 脳MRI(FLAIR像)
大脳白質に,多発する高信号を認める。


図6 脳MRI(FLAIR像)
延髄背側に,対称性の高信号を認める。


図7 臨床経過
第103病日に体調不良で入院した頃からの症状で,多岐に渡る。


図8 脳MRI(DWI像)
脳室周囲に高信号域を認める。


図9 脊髄MRI(T2像)(左:頸髄,右:胸腰髄)
長軸方向に連続する縦長横断脊髄炎(longitudinally extended transverse myelitis: LETM)を認める。

考察

 NMOは,多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)から分離された疾患である[2]。次々と類縁疾患の機序が解明されるとともに,視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)という概念も提唱された。その名の通り視野障害が特徴的ではあるが,疾患の本質はアクアポリン4(AQP4)を標的とする抗原による自己免疫学的機序である。アクアポリンは水の透過性を制御するチャネルタンパクであり,全身に分布している。そのサブタイプのうちの1つであるAQP4は肺においても存在が確認されており[3],器質化肺炎を含む肺病変を合併した報告が散見される(国内24例,国外3例)。NMOでは視力の回復が困難となる症例もあることから,正確な診断と早期の介入が望まれる。NMOの治療には副腎皮質ステロイド薬が広く用いられ,インターフェロンは逆効果である[1]。早期診断・早期介入を目的として,2015年に公開された診断基準[4]では抗AQP4抗体の陰性例も含まれるようになった。一方でOP発症の契機は多岐に渡る。感染・薬剤・放射線・免疫学的機序などのほか,原因が不明であることもある[5]。本症例では先行感染等によるOPの経過でNMOが発症した可能性と,NMOの経過中にOPが発症した可能性が考えられる。ウイルス等による軽微な先行感染は否定できないものの,抗菌薬治療への反応に乏しく,一般的な市中肺炎らしくはなかった。クリプトコッカスやレジオネラ等の感染,抗菌薬に対する高度な耐性を有する細菌の感染,日和見感染などを想起するような病歴はなかった。胸部単純CTにおけるモザイク様のすりガラス影については,濃度の違う領域において血管径に明らかな差異はなく,肺塞栓症などの血管病変らしくはなかった。細気管支炎等も否定できないが,喫煙歴を背景としたair trappingを想起した。その他にニューモシスチス肺炎も鑑別に挙げたが,病歴や,β-D-グルカンが陰性であることをもって除外した。以上より,OPを考えた。経過中にOPが再発した際,高用量ステロイドや免疫抑制薬を必要とするような高度炎症の存在が考えられる。OP再発の患者における肺病理所見では,多数のフィブリン沈着領域があるとされる[6]。またOP再発の患者では肺領域の3つ以上にコンソリデーションが存在したという報告[7]があり,これは本症例で合致していた。NMOにOPが合併した症例の報告は散見されるが,OPがNMOSDの肺症状の1つであるという考えもある。Furubeらはその特徴として,男性に優位・NMOSDが先行・CKが上昇・抗SS-A抗体が陰性などを挙げている[8]。スクリーニング項目には抗核抗体および抗SS-A抗体が含まれるが,膠原病全般ないし肺病変が類似するSjögren症候群を否定する目的である。本症例では膠原病を示唆する特異的な身体所見もなく,上記項目のうち抗SS-A抗体陰性が合致するのみであった。体調不良で入院した際のSIADHは,肺炎の病勢が落ち着いていたことからNMOが原因であった可能性がある[9]。そして嘔気・嘔吐や吃逆などの症状は,NMOにおける最後野症候群(area postrema syndrome)に合致する[10]。嘔気の中枢である延髄背側部にはAQP4が多く発現しているだけでなく,血液脳関門が欠如している。そのため,抗体の影響を受けやすいのではないかと予想されている。なおMRIのT2強調画像における高信号はSIADHでも見られるが,本症例ではNMOによる同部位の炎症が惹起したSIADHが共存している可能性もある[11]。本症例ではOPの治療目的に使用された副腎皮質ステロイド薬がNMOの症状を抑えていたために,診断を妨げた可能性を考えた。OPとNMOの合併についてはさらなる症例の蓄積が望まれるが,NMOが先行した際には,治療で使用される副腎皮質ステロイド薬により,肺病変の陰影が修飾され得ることも考慮する。外来で遭遇する不定愁訴は,その判断に苦慮することが多い。今回の経験では病歴を細かく追うことが,診断の一助となった。

 本論文は第644回日本内科学会関東地方会(2018年9月8日)で発表したものである。

 利益相反:開示すべき利益相反はない。

Abstract

 A 61-year-old woman was referred to our out-patient clinic for evaluation and treatment of pneumonia, which was unresponsive to antimicrobial agents. The patient was admitted for a thorough antimicrobial-resistant pneumonia examination. Subsequently, the patient’s condition rapidly declined, leading to the postponement of bronchoscopy. Treatment was initiated based on the clinical assumption of a diagnosis of organizing pneumonia. The patient survived the acute phase. Steroids were gradually tapered off on an out-patient basis. However, various symptoms appeared during the disease course, which could not be completely attributed to steroid side-effects. Therefore, multiple diagnostic tests were performed, leading to a diagnosis of neuromyelitis optica. Organizing pneumonia is a complication of various diseases. Hence, neuromyelitis optica may have been a preexisting condition. The corticosteroids used to treat the organizing pneumonia may have masked the symptoms of neuromyelitis optica, interfering with definitive diagnosis.

図表


文献

  1. 糸山泰人, ほか. 標準的神経治療:視神経脊髄炎(NMO). 神経治療学. 2013; 30: 777-94.
  2. Sven J, et al. The history of neuromyelitis optica. J Neuroinflammation. 2013; 15; 10: 8. doi: 10.1186/1742-2094-10-8.
  3. Richard ME, et al. Response of the lungs to aspiration. Am J Med. 2000; 108: 15S-19S. doi: 10.1016/s0002-9343(99)00290-9.
  4. Wingerchuk DM, et al. International consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disorders. Neurology. 2015; 85: 177. doi: 10.1212/WNL.0000000000001729. 
  5. Ganesh R, et al. Cryptogenic organising pneumonia: current understanding of an enigmatic lung disease. Eur Respir Rev. 2021; 30: 210094. doi: 10.1183/16000617.0094-2021.
  6. Richard LK, et al. Intralveolar fibrin predicts clinical relapse in patients with cryptogenic organizing pneumonia. ATS 2013, May 19, 2013.
  7. Zenya S, et al. Predictive factors for relapse of cryptogenic organizing pneumonia. BMC Pulm Med. 2019; 19: 10. doi: 10.1186/s12890-018-0764-8. 
  8. Atsuki F, et al. Clinical features of organizing pneumonia in anti-aquaporin-4 antibody-positive neuromyelitis optica spectrum disorders. Respir Investig. 2022; 60: 684-93. doi: 10.1016/j.resinv.2022.06.008.
  9. Jin S, et al. Hyponatremia in neuromyelitis optica spectrum disorders: Literature review. Acta Neurol Scand. 2018; 138: 4-11. doi: 10.1111/ane.12938.
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  11. Shin JO, et al. Syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion associated with seronegative neuromyelitis optica spectrum disorder. Kidney Res Clin Pract. 2017; 36: 100-4. doi: 10.23876/j.krcp.2017.36.1.100.