【投稿/原著】EBUS-TBNAテープ固定法の検討
石橋昌幸*,佐塚まなみ*,野木森智江美*,山田浩和*,山本 寛*
*東京都健康長寿医療センター呼吸器内科(〒173-0015 東京都板橋区栄町35-2)
Utility of the EBUS-TBNA
tape fixation method
Masayuki Ishibashi*, Manami Sazuka*, Chiemi Nogimori*,Hirokazu Yamada*,Hiroshi Yamamoto*
*Department of Respiratory Medicine, Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital, Tokyo
Keywords:超音波気管支鏡ガイド下針生検,気管支鏡検査体制,EBUS-TBNAテープ固定法/EBUS-TBNA, The staffing of bronchoscopy, EBUS-TBNA tape fixation method
呼吸臨床 2021年5巻10号 論文No.e00138
Jpn Open J Respir Med 2021 Vol. 5 No. 10 Article No.e00138
DOI: 10.24557/kokyurinsho.5.e00138
受付日:2021年6月1日
掲載日:2021年10月1日
©️Masayuki Ishibashi, et al. 本論文はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠し,CC-BY-SA(原作者のクレジット[氏名,作品タイトルなど]を表示し,改変した場合には元の作品と同じCCライセンス[このライセンス]で公開することを主な条件に,営利目的での二次利用も許可されるCCライセンス)のライセンシングとなります。詳しくはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのサイト(https://creativecommons.jp/)をご覧ください。
背景:当科では,一時的な医師の欠員により,医師3名で気管支鏡検査を実施する期間が生じた。endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration(EBUS-TBNA)をより効率的に施行するために,穿刺時に気管支鏡を優肌絆
®で固定するEBUS-TBNAテープ固定法を考案した。
目的と方法:EBUS-TBNAテープ固定法の意義について考察するため,本手法の導入前後で,当院の気管支鏡検査の実態に現れた変化を観察する研究を実施した。当院でEBUS-TBNAを施行した肺癌疑い患者のうち,2019年1月から2019年12月までに施行した19名〔導入前群(医師4名)〕と2020年1月から2020年11月までにテープ固定法を用いて施行した14名〔導入後群(医師3名)〕とにおける患者背景や気管支鏡検査の実施状況および検査結果を,後方視的に比較検討した。
結果:両群において,穿刺リンパ節数,穿刺リンパ節径,穿刺回数,肺癌診断率に差はみられなかった。気管支鏡検査時間中央値は,導入前群41分,導入後群49分と,導入後群でやや延長していたが,同群ではEBUS-TBNAにtransbronchial biopsy(TBB)を併用できた患者割合が,有意に増加していた(p=0.04)。
結語:EBUS-TBNAテープ固定法を導入することで,少ない人員でEBUS-TBNAを効率よく行える可能性があると考えられた。
2010年の気管支鏡全国調査によれば,診断的気管支鏡検査に関与する人員は,医師3.6名,看護師1.6名,技師0.7名が平均とされている[1]。
当科では,2019年まで医師4名,看護師1名,放射線技師1名,細胞検査士2名の体制で気管支鏡検査を実施していたが,一時的な医師の欠員により,医師3名で気管支鏡検査を実施する期間が生じた。医師欠員期間中の効率的な気管支鏡検査実施のため,endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration(EBUS-TBNA)施行時に,気管支鏡をテープで固定するEBUS-TBNAテープ固定法(以下,テープ固定法)を考案し,穿刺時の効率化を図る試みを実施した。
テープ固定法の意義を考察するべく,導入前後での気管支鏡検査の実態の変化を解析する観察研究を実施した。
1. EBUS-TBNAテープ固定法(図1)
気管支鏡検査に先立ち,テープ(優肌絆®,株式会社ニトムズ,東京)を15cm程度の長さに揃えて,数本用意する。介助者による気管支鏡の固定下に,標的病変を穿刺する。標的病変が穿刺されていることをエコーで確認後,介助者が患者マウスピースと気管支鏡とをテープで固定する。固定する際,テープの一端を,患者の下口唇と接するマウスピースに接着させ,テープの残りの部分を気管支鏡の長軸方向に貼付する。さらに,マウスピースを半周して,気管支鏡と接着しているテープ全体を指で軽く押し,接着度を高める。テープ固定後,介助者は,TBNA検体塗抹のためのスライドガラスの準備や鎮静薬の追加静注などの別の業務へ移行する。術者は,穿刺針を標的病変内で20往復程度移動させ,検体を採取する(図1a)。テープは,患者マウスピースの裏面から接着させることで,固定力を高めた(図1b)。
1回の穿刺終了後,術者が固定に使用したテープを剥がし,TBNAを繰り返し施行する際は,その都度,新しいテープを貼付する。
図1 EBUS-TBNAテープ固定法
a. EBUS-TBNAテープ固定法の手順。
b. 固定テープの固定力強化のためマウスピースの裏面から貼付する。
2. 対照患者と検査方法
当院で肺癌を疑ってEBUS-TBNAを施行した患者のうち,2019年1月から2019年12月にかけてテープ固定法を用いずに施行した19名〔導入前群(医師4名)〕と,2020年1月から2020年11月にかけて同法を用いて施行した14名〔導入後群(医師3名)〕における患者背景,気管支鏡検査結果,病理診断や診療転帰などを後方視的に比較した。
気管支鏡検査は,卒後10〜12年目の医師(導入前群3名,導入後群2名)と気管支鏡指導医を有する検査責任者1名で行い,術者は卒後10〜12年目の医師から無作為に割り当てられた。医師以外の人員は,導入前後群共に看護師1名,放射線技師1名,細胞検査士2名であった。
Rapid on site evaluation(ROSE)は,日本臨床細胞学会認定の細胞検査士2名が,塗抹法で検体処理の上,Ultrafast Papanicolaou染色を用いて評価し,導入前後群全例に実施した[2][3]。
気管支鏡検査中の鎮静は,両群共に初期量としてペンタゾシン15mgを一律に静脈内投与した後,1mg/mLに濃度調整したミダゾラムを,患者の覚醒状況を確認しながら,0.5mgから1mgの静脈内投与を追加した。気管挿管は行わなかった。また検査中は,2%キシロカインを気管支鏡のチャネルを介して適宜散布した。EBUS-TBNAではBF UC260FW(Olympus Ltd,東京)を使用し,穿刺針はViziShot2 21G(Olympus Ltd,東京)を用いた。Transbronchial biopsy(TBB)を行う際は,1TQ290またはP290(Olympus Ltd,東京)に変更し,ガイドシース〔K403またはK201(Olympus Ltd,東京)〕を併用した。
3. 統計解析
2群間の比較は,Fisher正確検定,Student’s t 検定,Mann-Whitney U検定を用いて解析し,Rを換装した統計ソフトであるEZRを使用した。有意水準は5%とした[4]。
研究は,院内の研究倫理審査委員会に諮り,承認を得て実施した(承認番号R20-004)。
2019年1月から2020年11月にかけて,肺癌を疑ってEBUS-TBNAを施行した患者は33名であった。
患者背景では,年齢中央値が,導入前群78歳,導入後群80歳で,男女比は両群共に男性が多い傾向にあった。Performance statusは,導入前後共に良好な患者が,大多数であった(表1)。
表1 患者背景
気管支鏡検査の実施状況は,導入前後群でそれぞれ穿刺リンパ節の径が19/15mm,穿刺回数が5/5回,穿刺ステーション数が2/2 station,診断精度が0.94/1.0と,両群で差はみられなかった。ミダゾラム総使用量中央値も,それぞれ3/3mgと差はみられなかった。気管支鏡挿入から抜去までの検査時間中央値は,それぞれ41/49分と導入後群でやや延長していたが,有意差はみられなかった。EBUS-TBNA後に肺野結節のTBBを併用した患者割合は,導入前群5/19例(26%),導入後群9/14例(64%)と,導入後群で有意に多かった(p=0.04)。気管支鏡検査中の合併症は,SpO2 90%未満の低下と硝酸イソソルビドの貼付剤を要する血圧上昇が,導入後群にやや多い傾向がみられた。また導入後群の1名は,検査後の気胸のため入院期間の延長が必要になった(表2)。
表2 気管支鏡検査詳細
英国胸部学会の気管支鏡検査ガイドラインにおいて,気管支鏡検査に必要な人員は術者に加えて少なくとも2名の助手が参加すべきで,うち1名は専門看護師であるべきと述べられている[5]。本邦における気管支鏡全国調査では,2006年時の調査で,医師が常時2名以上参加する施設が94%,必ず1名以上の看護師が参加する施設が98%,全スタッフの平均参加人数は6名と報告されており,2010年時の調査で,医師3.6名,看護師1.6名,技師0.7名が平均と報告されていた[1][6]。
EBUS-TBNAでは,穿刺する際に超音波プローブが穿刺抵抗により内腔より離れ明瞭な超音波画像が得られなくなることがあるため,穿刺中に介助者が気管支鏡を保持しておく必要がある[7]。またEBUS-TBNA後に続いてTBBを行う場合,介助者はRadial EBUSの準備や気管支鏡の光源接続をしなくてはならない。当科では,医師の欠員により気管支鏡検査を担当する人員が4名から3名に減り,各医師の負担が増加した。EBUS-TBNAにおいて,介助者は検査中に気管支鏡を保持しながら,生検後に検体処理をしなければならなくなった。そこで,介助者の役割を補完する目的に,テープ固定法を考案した。
今回の検討で,テープ固定法導入後に,肺癌診断率の低下や検査時間の有意な延長はみられなかった。さらに,EBUS-TBNA後に続けてTBBを行えた患者は,導入前群26%,導入後群64%と導入後群で有意に増加していた。この導入により,介助者は鎮静薬の追加投与や検体処理,さらには次に使用する気管支鏡の準備を行うことができ,気管支鏡検査をより効率的に実施できる可能性があると考えた。
このような複数の検体採取手技を実施する場合,医師1名が欠員してもEBUS-TBNAテープ固定法を用いることで,介助者の負担が減り,検査の先行きを予測する心的余裕を確保しつつ,検査全体を統括するための情報共有を可能としたことが,EBUS-TBNAの効率化に貢献していると考えられた。
検査中の合併症は両群で差がみられなかったが,導入後群で発生頻度が高い傾向にあった。血圧上昇について,導入前群の1名はコンベックス型超音波気管支鏡が声帯を通過した後に,導入後群の3名はTBBを行う気管支鏡が声帯を通過した後に生じていた。麻酔科分野において,気管挿管時には血圧の変動を生じやすいことが報告されている[8]。導入後群では,気管支鏡の声帯通過回数が増えたため血圧上昇を生じた可能性があると考えられた。
本研究のlimitationは,単施設における少数例の後方視的研究であること,両群間で患者条件が異なっていたことが挙げられる。
当院では,EBUS-TBNAテープ固定法を導入することで,医師3名の実施体制でも,気管支鏡検査時間を延長させず,導入前と比較して遜色なく肺癌を診断できていた。
COI開示:本論文に関連する開示すべき利益相反関係にある企業等はない。
Background: Due to a temporary vacancy in our department, we had to perform bronchoscopy with three physicians. In order to perform endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration (EBUS-TBNA) more efficiently with fewer physicians, we developed the EBUS-TBNA tape fixation method, in which the bronchoscope is fixed with tape at the time of puncture.
Patient and method: To discuss the significance of this method, we conducted a study to observe the changes in the actual conditions for bronchoscopy in our hospital before and after the introduction of the EBUS-TBNA tape fixation method. Among patients who underwent EBUS-TBNA for suspected lung cancer at our hospital, 19 patients received EBUS-TBNA from January 2019 to December 2019 (pre-group, four doctors) and 14 patients received EBUS-TBNA tape fixation method from January 2020 to November 2020 (post-group, three doctors). Both groups were retrospectively surveyed for background of the patients, bronchoscopy findings, and subsequent clinical outcomes.
Results: There was no difference in the number of lymph node stations, diameter of punctured lymph nodes, number of punctures, or lung cancer diagnosis rate between the two groups. Although the median bronchoscopy time was 41 minutes in the Pre-group and 49 minutes in the Post-group, with no significant increase in examination time, there was a significant increase in the proportion of patients of the Post-group who underwent EBUS-TBNA with transbronchial biopsy (TBB) during the same examination (p=0.04).
Conclusion: By introducing the EBUS-TBNA tape fixation method, it was considered possible to diagnose lung cancer in the same way as Pre-group.
- Asano F, et al. Bronchoscopic practice in Japan: a survey by the Japan Society for Respiratory Endoscopy in 2010. Respirology. 2013; 18: 284-90.
- Yang GC, et al. Ultrafast Papanicolaou stain. An alternative preparation for fine needle aspiration cytology. Acta Cytol. 1995; 39: 55-60.
- 石橋昌幸,ほか. 改変Ultrafast Papanicolaou染色を用いたRapid on site evaluationの紹介. 呼臨.2020; 4: e00100.
- Kanda Y. Investigation of the freely available easy-to-use software ‘EZR’ for medical statistics. Bone Marrow Transplant. 2013; 48: 452-8.
- Du Rand IA, et al. British Thoracic Society guideline for diagnostic flexible bronchoscopy in adults: accredited by NICE. Thorax. 2013; 68: i1-i44.
- Niwa H, et al. Bronchoscopy in Japan: A Survey by the Japan Society for Respiratory Endoscopy in 2006 (Secondary Publication). J Jpn Soc Respir Endoscopy. 2009; 31: 127-40.
- 中島崇裕. Chapter9 EBUS-TBNA. 浅野文祐, 編. 気管支鏡ベストテクニック改訂2版. 東京: 中外医学社, 2017: 123-42.
- 大下修造, ほか. 気管内挿管時の血圧上昇に対する二硝酸イソソルビドの前投与の効果.日臨麻酔会誌. 1993; 13: 50-5.