(1)CAR-T療法の有効性の背景因子(Disruption of TET2 promotes the therapeutic efficacy of CD19-targeted T cells)
話題のCAR-T療法とは,患者T細胞にex vivoでchimeric antigen receptor(scFv)を遺伝子導入し,患者に戻し,腫瘍細胞攻撃性を強化する。具体的にはB細胞性リンパ腫に細胞表面分子CD19認識CAR-Tを導入しする。FDAも承認し,治療費は5000万円で効果ある場合のみ,費用を支払うことで話題となった。
昨年から今年にかけ何度もNEJMに掲載されているが,血液疾患であるので興味をもたなかった。今回はPenn大グループからで,CAR-T療法有効患者の背景を解析し,serendipityのようだ。実際には血液疾患で高変異頻度のTET2(ten eleven translocation oncogene family member 2: DNA脱メチル化酵素反応の一部)が関与するが,患者側でなく使用したCAR-T細胞側TET2に異常が見つかった。抗CD19抗体scFvをレンチウイルスで導入するが,その導入ゲノム箇所がリンパ球のTET2遺伝子領域になっていて,遺伝子破壊を惹起している事実が見いだされた。実際にCAR-T細胞のTET2をknockdownすると,同様の腫瘍抑制効果が見られるという。
何が面白いか? 肺がんのEGFR阻害剤の経緯を思い出す。あの時も効果ある患者背景を解析してEGFRドライバー変異が見つかり,その後の治療が大展開した。本論文も有効患者の背景解析から,CAR-T療法に展開をもたらす可能性が示された点だ。基礎医学理論から新規治療法が提案されるが,一部しか有効でないとき,その有効患者の背景を精査することが,serendipityに至る。21世紀に入り,この方向の展開が多くなっているのでないか?
(2)アテローム発生抑制効果を示す抗体(Oxidized phospholipids are proinflammatory and proatherogenic in hypercholesterolaemic mice)
酸化型リン脂質を抗体で抑制すると,アテローム発生を抑制するという。これは新たな抗体医療の可能性を示す論文である。
今回は(1)で多く説明したのでNatureはこの2報のみとする。
(1)Memory T細胞数のquorum sensingによる調節(Induction of CD4 T cell memory by local cellular collectivity)
Memory T細胞の数はどう維持されているのかという気になる事実へのユニークな研究である。T細胞数は増殖などの機序でなく,局所の細胞数の増減に従って,細菌のquorum sensingのようにIL-2やIL-6を感知しながら調節されているという結論である。Memory T細胞はもちろん再感染時に迅速に反応するが,その数維持に関しては初めての論文か?
(2)難治膵癌の転移巣の状況(Unresolved endoplasmic reticulum stress engenders immune-resistant, latent pancreatic cancer metastases)
転移しながらquiescenceで免疫環境にresistantなのは,そうした状況ではがん細胞自体にER stressがあり,がん細胞の表面抗原を提示できないからという解析である。ER stressはsenescenceの状況としても知られているが,がん細胞の表面抗原にも関与するという。
(3)Engram(記憶痕跡)細胞のシナプス形成による特異記憶の維持(Synapse-specific representation of the identity of overlapping memory engrams)
富山大学,自治医大,東大からの報告。特定の記憶は神経回路のどこかに特異に保持されている。今回optogeneticsの手法で扁桃体におけるengram細胞のシナプスの特異形成が,個々の特異な記憶形成に関与するという,興味ある研究である。なお,同様のEngram細胞の記憶の論文はNatureにも報告されている。高齢になると短期記憶がどんどん低下する。こうした機構が明らかになれば,対応薬等も出てくるかも知れない。
(1)Atezolizmab(抗PD-L1抗体:テセントリク)が進行期NSCLCの1st line治療に(Atezolizumab for First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC)
ASCO2018に参加し,シカゴで直接講演を聴いた。貪欲な3種の治療combinationである。ポイントはEGFR変異,ALK変異共に陰性例が対象。結果は,抗VEGF抗体+抗がん剤群に対しさらに抗PD-L1抗体をも併用した群が,median OSでも14.7カ月に比し,19.7カ月に伸びたという。しかし高価な治療にしてはOSがこの程度かという印象もある。
私見ではやはり直接的にがん細胞に細胞死をもたらす薬剤(EGFR-TKIなど)が加わらないと,もの足りないと感じた。K-Ras変異への製剤が期待される。
(2)禁煙のための実用的比較試験(A Pragmatic Trial of E-Cigarettes, Incentives, and Drugs for Smoking Cessation)
呼吸器科医としては注目。結果は報奨金や払い戻し可能保証金を条件にする群が,有意な優越性を示した。これはタバコ依存が脳のinsula領域の関与する事実が報告されており,その神経メカニズムを止めるには,相応の脳内の実際的reward機構を必要とするのだろうと理解される。
(3)終末期医療における代理意思決定(Substitute Decision Making in End-of-Life Care)
Resuscitationに関する考え方を理解するのに良い記事である。しかし,自分のように介護施設にいると,終末期のみならず代理意思決定は日常となる。高齢者医療への家族の意思決定に関してもどこかでこうした議論が必要でないか?
(貫和敏博)