呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 3

公開日:2018.06.27


今週のジャーナル


Nature Vol. 558, No.7710(2018年6月21日)日本語版 英語版

Science Vol. 360, Issue #6395(2018年6月22日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 378, No. 25(2018年6月21日)日本語版 英語版





がん治療の標的? 休眠状態のがん細胞に注目!

Nature

Newsより 

(1) がん治療の標的として,休眠状態のがん細胞に注目が集まっている(Cancer researchers target the dormant cells that seed tumours

 これまでがん治療・がん治療薬の開発は,まさに今増殖している癌細胞をいかに少なくするかということを主な目的として行われてきた。様々な領域のがんで治療成績の向上がもたらされ,長期予後が現実的に得られるようになった昨今,長い経過で再発してくるようながん,例えば乳がんや前立腺がんなどでは,その再発に休眠状態のがん細胞が関与していることがこれまで複数報告されている。この様な休眠状態のがん細胞をいかに見つけ,治療するかについて研究者が注目しているというニュース。

引用文献 Nat Methods. 2018 Apr 3;15(4):249-252. doi: 10.1038/nmeth.4640.


Article/Letterより

(2) 睡眠時と覚醒時では神経細胞でどのような蛋白発現の違いがあるのか?(Quantitative phosphoproteomic analysis of the molecular substrates of sleep need

 睡眠・覚醒のサイクルは,覚醒中に蓄積する眠気(専門的に言うと睡眠要求)によって維持されていると考えられる。この報告は,眠気の誘導に関わるような一連のタンパク群を,マウスモデルにおいてリン酸化プロテオミクスという手法を用いて同定したもの。これらのタンパク群は,眠気の誘導だけでなく,神経シナプスの恒常性(記憶の形成と固定)にも関わるということから,「寝る前に勉強したことは記憶に残りやすい」などの事象を科学的に裏付ける根拠になるかもしれない。


(3) 一細胞シークエンスを用いたT細胞における新規の共抑制性遺伝子機構の同定(Induction and transcriptional regulation of the co-inhibitory gene module in T cells

 日本人留学研究者(筆者の研修医時代の後輩)が筆頭者である,広範な解析を背景とする論文。

 免疫療法のターゲットとしてさかんに報告されているチェックポイントだが,こちらは新たなチェックポイント(共抑制性分子)の同定とその分子機構を見出したという論文。マスサイトメーターというこれまでのフローサイトメトリーの技術を応用し質量分析の技術を組み合わせた網羅的な免疫細胞解析技術に加え,一細胞毎にシークエンスをして遺伝子発現を評価する技術を併用することで,新たな共抑制性分子として,活性型のプロテインC受容体(PROCR)およびポドプラニン(PDPN)を同定し,その調整機構を報告。新たな免疫療法の標的になる可能性がある。


●Science

(1) リン酸化プロテオミクスを用いた中枢神経作動薬の効果・副作用のin vivo評価システム(In vivo brain GPCR signaling elucidated by phosphoproteomics

 先ほどNatureでも登場したリン酸化プロテオミクスの技術を用いて,中枢神経作動薬の副作用予測をマウスの脳を用いてin vivoでスクリーニングすることに成功したという論文。今回κオピオイド受容体のシグナルをモニターするモデルを用いたところ,副作用の出現に関わる経路としてmTORシグナル関連因子の亢進が見出されたことから,mTOR阻害を行ったところ治療効果を減弱せずに副作用を抑制できたというもの。今後の神経作動薬の臨床効果・副作用の予測および副作用対策に力を発揮するモデルとなるかもしれない。


(2) アルコール依存症の鍵をにぎる中枢神経の分子機構(A molecular mechanism for choosing alcohol over an alternative reward

 GABAトランスポーターであるGAT-3という中枢神経因子がアルコール依存症に関係することを示した論文。アルコール依存のラットモデルの解析から,GAT-3の発現が扁桃体で減少していることを見出し,実際のアルコール依存症患者においても同様の事象を発見。アルコール依存症に対して新たな治療標的となる可能性がある。


●NEJM

ORIGINAL ARTICLESより

(1) チオ硫酸ナトリウムによるシスプラチン誘発性聴覚障害の予防(Sodium Thiosulfate for Protection from Cisplatin-Induced Hearing Loss

 小児の肝芽腫に対する化学療法の際に,シスプラチン単独群とシスプラチン投与の6時間後にチオ硫酸ナトリウムを投与した群で,聴力障害の出現について比較した試験。グレード 1 以上の聴覚障害は,チオ硫酸ナトリウムを併用した群では 55 例中 18 例(33%)で発生したのに対し,シスプラチン単独群では 46 例中 29 例(63%)で発生し,チオ硫酸ナトリウム投与により聴覚障害の発生率が 48%低下することが示された(相対リスク 0.52,95%信頼区間 [CI] 0.33~0.81,P=0.002)。


(2) ワルデンストレームマクログロブリン血症に対するリツキシマブとイブルチニブ(ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤)の併用の有効性(Phase 3 Trial of Ibrutinib plus Rituximab in Waldenström's Macroglobulinemia

 B細胞リンパ腫のカテゴリーに属するワルデンストレームマクログロブリン血症に対して,30カ月の時点で,リツキシマブ単独群に比べて,イブルチニブ併用群で無増悪生存率の有意な改善効果が認められたという報告(28% vs 82%)。

 ワルデンストレームマクログロブリン血症に対するリツキサンとの併用療法については,ボルテゾミブ(プロテアソーム阻害剤)もこれまで有効性が報告されているということ。B細胞性腫瘍はCAR T療法を含め今後もますます発展していきそう。


Clinical Implications of Basic Researchより

(3) 肺疾患発症を阻止する機構?(Stemming Lung Diseases?

 2018年3月にNature,Scienceにほぼ同時に報告された肺胞上皮の再生システムに関する2報の論文を紹介。2型肺胞上皮において,WNTシグナルの増減がself-renewalの方向へ進むか,1型上皮への分化に進むかを制御していること,また2型肺胞上皮の近傍に存在する線維芽細胞がWNTシグナルのリガンドを提供する役割を担っていることなどが図解されている。

引用文献 

Nabhan AN, et al. Single-cell Wnt signaling niches maintain stemness of alveolar type 2 cells. Science. 2018; 359: 1118-23.

Zacharias WJ, et al. Regeneration of the lung alveolus by an evolutionarily conserved epithelial progenitor. Nature. 2018; 555: 251-5.


(小山正平)


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