(1)アジアの科学研究の5つのハブ:香港,マレーシア,シンガポール,韓国,台湾(Five centres of Asian research show the benefit of local science)
日本の対外発信,ことに医学分野においての減弱が指摘される中,注目される記事。トップ・ジャーナルにもこれらの国々は掲載されてきている。筆者は結核予防会在籍中,シンガポール大学を訪問する機会があり,その新たな展開を肌で感じた。取り上げた5拠点の内ではシンガポールが旧英領で,アングロサクソンと中国,マレー系の融合が機能しているのを感じた。日本は研究費審査に研究内容のみならず,戦略として,研究チームの国際的多様性を優先評価して,進展させる時期ではないか?
(2)膵臓がんにおける組織消耗を理解する(Altered exocrine function can drive adipose wasting in early pancreatic cancer)
ユニークな発想からの研究である。癌における身体消耗は,腫瘍の炎症性要因(TNF-α等)によると理解されていた。膵臓がん患者は初期から痩せが目立つ。この研究はその原因に消化分解酵素の分泌不足を仮定し,これを補充したところ,マウス実験では消耗は改善した。注目すべきは,それにより癌そのものの予後は改善しなかった点である。癌病態や,治療を考える上で,示唆に富む論文である.
(3)Cryo-EMによる蛋白質複合体の構造が3報(Structure of the µ-opioid receptor–Gi protein complex. Cryo-EM structure of human rhodopsin bound to an inhibitory G protein. Structure of the adenosine-bound human adenosine A1 receptor–Gi complex)
昨年ノーベル賞受賞対象になったCryo-EMを用いた報告が次々留まらない。NatureではG蛋白質との各種複合体が3論文取り上げられている。3種の膜7回貫通受容体とG蛋白による類似した立体構造である。Scienceには酵母のspliceosomeが取り上げられている。恐らく10年以内にこうした知見は創薬,あるいは抗体医療の展開に確実に反映されるであろう。専門研究者のDBアクセスサイトもあるだろうが,一般人として,例えばWikipediaの遺伝子説明項目の中に,その蛋白質としてCryo-EMの3次元構造が加えられると,さらに認識も変化すると期待される。
その他,稀少非腫瘍性疾患にPIK3CA(p110α)阻害薬が有効との報告。
(1)NotchリガンドのDll1による,乳腺幹細胞とマクロファージのクロストーク。理解しがたい乳がんの初期遠隔転移にこうした機序が関与するか?(Notch ligand Dll1 mediates cross-talk between mammary stem cells and the macrophageal niche)
肺の肺胞上皮は前回示されたようにWNTシグナルで自己再生や分化をする。ここで示されるのは乳腺上皮細胞の幹細胞が周辺マクロファージからのNotchシグナルで分化するという,他系統細胞間のクロストークである点が注目される。Perspectiveには最近のNat Communeの論文(Macrophages orchestrate breast cancer early dissemination and metastasis. Nat Commun. 2018; 9: 21)を引用し,原発巣がみつかった段階で,乳がん細胞の初期の播種が存在する謎と関連するかと述べている。
(2)Dopaminergic神経のin vivo機能測定(Ultrafast neuronal imaging of dopamine dynamics with designed genetically encoded sensors)
神経科学は猛烈な速度で方法論が進歩している。各種神経伝達物質が関与する神経網そのものは,多種GFP発現で解剖学的な詳細はわかっている。本論文はDopamine受容体の遺伝子改変で,そのdopamine伝達時の変化をin vivoで蛍光解析が可能なことを報告している。研究の次段階への展開である。他の神経伝達に関しても同様改変が可能になれば,その相互性もin vivoで把握できるだろう。fMRIも併せて,neural network等の理解が進むだろう。
その他,イタリアから超高齢者の推計限界年齢として105歳という数字が報告されている(The plateau of human mortality: Demography of longevity pioneers)。
(1)Dupilumabの喘息病態への明瞭な効果が2報(Efficacy and Safety of Dupilumab in Glucocorticoid-Dependent Severe Asthma. Dupilumab Efficacy and Safety in Moderate-to-Severe Uncontrolled Asthma)
Dupilumab(IL-4受容体α subunit(IL-4Rα)に結合する抗体,デゥピクセント,サノフィ・ジェンザイム社,2017年FDA承認)の喘息への効果が2論文,掲載されている。日本でも本年4月に難治アトピー性皮膚炎で承認されたが,難治喘息への効果も素晴らしい。抗体医療は複雑なビジネスである。抗IL-4抗体では十分な効果がなく,受容体側の抗IL-4Rαが成功した。これはalternatively activated macrophageの経路として注目されてきたものだ(参照:Annual Rev Immunol. 2013; 31: 317-43)。抗IL-4Rα抗体で効果が出たのは,IL-4RαがIL-4とIL-13の両方のレセプターのco-receptorであるために,この抗体製剤が二つのサイトカインのシグナル(どちらもTh2やalternative macrophageに最重要)を同時にブロックできる点が推測される。獲得免疫だけでは十分でない寄生虫等病原体への自己防御の一環である。筆者は同等の効果ある化合物による結核治療期間短縮に期待している。Drazen先生もEditorialを執筆している。
(2)臨床試験の参加施設のaccreditation(認証)(Accreditation of Clinical Research Sites — Moving Forward)(メール版の先行配信)
肺がんの臨床試験に10年以上関与した筆者は,21世紀以降の激変する治療modalityの進歩の中で,基礎医学から臨床へのtranslationのみでなく,臨床試験結果を基礎医学的に詳細検討する(いわば逆translation)も重要と考えるようになった。こうした中で日本では臨床研究法が実施となり,研究体制整備が今後進む。米国では昨年,臨床試験参加施設の認証の必要性が提起され,本記事はその進捗状況の報告である。その要点は表で示された3点,Independence,Transparency,Effectivenessである。こうした動きは,数年以内に日本でも対応することになるだろうが,日常診療に多忙な日本の施設では,工夫が必要になるだろう。
(貫和敏博)