(1)DNA相同組換え修復の機構に足場となる核内蛋白質(Nuclear F-actin and myosins drive relocalization of heterochromatic breaks, Nuclear ARP2/3 drives DNA break clustering for homology-directed repair)
DNA相同組換え修復の機構について2つの論文,「核内のFアクチンとミオシンがヘテロクロマチンの切断部位の再局在化を駆動する」と「核内のARP2/3は相同組換え修復のためにDNA二本鎖切断のクラスター化を駆動する」が掲載されている。どちらの論文でもDNA二本鎖切断の相同組換え修復という重要なプロセスの際に,核内のアクチンなどとアクチン核形成因子であるARP2/3複合体が修復を受けている場所へ誘導され再局在されることを示している。
(2)クロマチンリモデリング因子群を標的とするマイクロRNAを介した自然免疫記憶の誘導(Induction of innate immune memory via microRNA targeting of chromatin remodelling factors)
免疫関連の論文として,マウスでLPS刺激後にmiR222が上昇することによりクロマチンの調節に関わるBrg1が抑えられ,結果としてマクロファージの反応性が低下することを証明している。興味あることにヒトの敗血症でもmiR222が上昇し,Brg1が減少することが示されている。
(3)その他
●OTULINとLUBACによる細胞死と炎症の研究(OTULIN limits cell death and inflammation by deubiquitinating LUBAC)
最近多いクライオ電顕による研究では,
●ヒトシナプスGABAA受容体の構造と,臨床的にも興味深いベンゾジアゼピン結合部位の報告(Structure of a human synaptic GABAA receptor)
●三日熱マラリア原虫に不可欠な侵入複合体の構造解析(Cryo-EM structure of an essential Plasmodium vivax invasion complex)
(1)ゲノム編集機構のクライオ電顕による構造解析(Structure basis for RNA-guided DNA degradation by Cascade and Cas3)
蛋白質3次元構造解析からゲノム編集の正確な機能について研究されている。
(2)イヌ,ヤギ,ヒトの進化の研究が目につく。本号のScienceでは:
東南アジア人のゲノム解析(The prehistoric peopling of Southeast Asia)
ベトナム,タイ,ミャンマーを中心とした東南アジア人のゲノム解析(Ancient genomes document multiple waves of migration in Southeast Asian prehistory)
日本人も含めた東南アジア(マレーシア,タイ,ベトナム,ラオス,インドネシア,フィリピン)の人骨を集めてDNA解析した膨大な研究。日本は愛知県伊川津貝塚から縄文人の人骨が解析されている。日本人はこうしたアジアの民族の混血を繰り返して縄文人は形成されているらしい。
また動物では,ヒトの生活との関連の深い,
北米の犬のゲノム解析の研究(The evolutionary history of dogs in the Americas)
古代ヤギのゲノム解析(Ancient goat genomes reveal mosaic domestication in the Fertile Crescent)
が掲載されている。
(1)低分子干渉 RNA でアミロイドーシスを治療する(Treating an Amyloidosis with a Small Interfering RNA)
アンチセンス RNA でアミロイドーシスを治療する(Targeting an Amyloidosis with an Antisense RNA)
遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスに対するRNAを用いた各々の治療の第3相試験が(低分子干渉RNAとアンチセンスRNA),各種臨床指標上優れていると報告されている。
(2)妊娠中の血小板数(Platelet Counts during Pregnancy)
妊娠中の血小板について7,351人について解析した大規模な研究で,一般に血小板の減少が妊娠9週位から見られ始め,出産時には約1割の合併症のない妊婦で血小板数15万を下回っていた。しかし10万以下の場合には血小板減少の原因について検討すべきであるとしている。
(3)天然痘に対するテコビリマット(Tecovirimat for Smallpox)
天然痘に対する新しい抗ウイルス薬テコビリマットの動物モデルにおける有効性,ヒトへの安全性の研究。
(4)進行肝細胞癌患者に対するカボザンチニブ(Cabozantinib in Patients with Advanced and Progressing Hepatocellular Carcinoma)
治療歴のある進行肝細胞癌に対するVEGF receptors 1, 2, 3とMETとAXLに対するチロシンキナーゼ阻害剤であるカボザンチニブの有効性の研究。
(5)その他
CLINICAL IMPLICATIONS OF BASIC RESEARCHでは,
喘息におけるインターロイキン-9 濃度のエピジェネティックコントロール(Epigenetic Control of Interleukin-9 Levels in Asthma)
FRONTIERS IN MEDICINEでは,
キメラ抗原受容体 T 細胞(Chimeric Antigen Receptor T Cells:CART)についてのわかりやすい総説が読むことができる。
さすがにNature2号前のTET2の話題は取り上げられていない。
(鈴木拓児)
<補遺> ●Nature105歳以上の超長寿者の統計データ解析からは,人間の寿命には固有の限界はないとの見方(There’s no limit to longevity, says study that revives human lifespan debate) 先週のScience論文がさっそく議論されている。一部不正確な紹介だったが,105歳以上の3,836名の解析から,各年齢による死亡リスクにplateauがあるということは,人間の寿命に限界がないという意見と,本来細胞レベルの寿命がありながらそれはあり得ないという議論をNatureは紹介している。因みに現在の世界長寿記録は日本人,横浜市の都千代氏(1901年生,117歳)も記載されている。 (TN) |