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今回目についたのは,まずはミトコンドリア関連が3つ
(1)免疫学:新たなミトコンドリアDNAの合成がNLRP3インフラマソームの活性化を可能にする(New mitochondrial DNA synthesis enables NLRP3 inflammasome activation)
NLRP3インフラマソームの反応が進行するには「プライミング」と「活性化」の二段階が必要である。これまでにミトコンドリアが関与することや活性酸素が大切であることは報告されてきたが,その詳細は不明であった。今回,プライミングの結果,ヌクレオチドキナーゼであるCMPK2の誘導を刺激し,ミトコンドリアDNAのde novo合成につながることが示された。細胞がNLRP3活性化因子に曝露されると,新たに合成されたミトコンドリアDNAの遊離と酸化が引き起こされ,その後,このDNAがNLRP3に結合してインフラマソームの集合や活性化を誘導することがわかった。
(2)免疫学:ヒトにおいてミトコンドリアニ本鎖RNAは抗ウイルスシグナル伝達を開始させる(Mitochondrial double-stranded RNA triggers antiviral signalling in humans)
DNAやRNAは免疫反応を惹起することが知られているが,正常細胞では上手くコントロールされている。ミトコンドリア二本鎖RNAについて,インターフェロン応答が起きないように,通常ではPNPアーゼの働きによってRNAが細胞質に流出するのを防いでいる,という恒常性メカニズムについて報告されている。
(3)分子生物学:クライオ電子顕微鏡によって明らかになった,哺乳類ミトコンドリアでの翻訳開始に固有の特徴(Unique features of mammalian mitochondrial translation initiation revealed by cryo-EM)
クライオ電顕の論文は毎週のようにありますが,ミトコンドリアリボゾームによる翻訳開始機構について解析されている。
その他のクライオ電顕の解析としては
(4)細胞生物学:脂質膜上で集合するダイナミンポリマーのクライオ電子顕微鏡構造(Cryo-EM of the dynamin polymer assembled on lipid membrane)
ほかには
(5)アルツハイマー病:加齢とアルツハイマー病における髄膜リンパ管の機能的側面(Functional aspects of meningeal lymphatics in ageing and Alzheimer’s disease)
髄膜のリンパ管の機能とアルツハイマー病,として中枢神経系からの老廃物の除去の重要な役割を持つ髄膜リンパ管の再発見・再評価の報告です。
医学とはあまり絡みませんが興味深いのは
(6)生態学:全球の表土のマイクロバイオームの構造と機能(Structure and function of the global topsoil microbiome)
地球上の189地点7560サンプルの土壌のマイクロバイオーム解析では微生物の遺伝的多様性とその特徴について解析されています。今後こういった膨大な情報も蓄積されていって疾患とも関連した知見が得られていくのでしょうね。
(1)ヒトPatched1によるソニックヘッジホッグ認識の構造基盤(Structural basis for the recognition of Sonic Hedgehog by human Patched1)
クライオ電顕でヘッジホッグシグナルの解析。同様の研究成果が先週のNatureにも掲載されております。(Nature 560, 128–132 (2018), 構造生物学:ヒトPatched,およびヒトPatchedが自然状態のパルミトイル化ソニックヘッジホッグと形成した複合体の構造 Structures of human Patched and its complex with native palmitoylated sonic hedgehog)
(2)ヒト腎臓からの単細胞トランスクリプトームによって腎臓腫瘍の細胞由来を明らかにする(Single-cell transcriptomes from human kidneys reveal the cellular identity of renal tumors)
シングルセルRNAシークエンス(scRNA-seq)による解析で小児腎がんであるWilms tumorと成人腎がんの起源細胞をあきらかにしている。
scRNA-seqの強みは単一細胞の遺伝子発現を網羅的に大量に個々の細胞ごとに集積解析できることで,これまでに同定されていた細胞集団が本当に単一なのか亜集団がないのか等を調べられることや,単一の細胞での遺伝子発現の特徴からその細胞を同定すること,さらに頻度が少ないために今までの技術では希釈されていたかノイズとして同定されていなかった新たな細胞を発見できることなど,と近年の応用は盛んですね。肺での応用も進んでいますね。(https://www.nature.com/articles/s41586-018-0393-7。まだEpubなので次回にでも紹介になると思いますが)
呼吸器疾患以外のものばかりですが,ORIGINAL ARTICLESでは
(1)低リスク未産婦における分娩誘発と待機的管理との比較(Labor Induction versus Expectant Management in Low-Risk Nulliparous Women)
低リスク未産婦の分娩誘発の研究で,妊娠39週に分娩誘発をすることによって,周産期の問題には関係しないが,帝王切開の頻度を有意に低下させた。
(2)思春期のサッカー競技者を対象とした心臓スクリーニングの結果(Outcomes of Cardiac Screening in Adolescent Soccer Players)
イギリスの思春期サッカー競技者11868人の10年間にわたる心臓スクリーニングの研究,これで心臓突然死に関連する疾患が0.38%に同定された。スクリーニング期間後に観察された心臓突然死8例のうち7例は心筋症,6例はスクリーニングで異常をみとめていなかった。
(3)妊娠期および授乳期のビタミン D 投与と乳児の成長(Vitamin D Supplementation in Pregnancy and Lactation and Infant Growth)
ビタミン D 欠乏症の頻度が高い地域で,妊娠期および授乳期の母体へのビタミン D 投与が胎児および乳児の成長を改善するかどうか,についての研究だが,結論は改善しなかった。
(4)非重症患者の血糖コントロールのためのクローズドループインスリン投与(Closed-Loop Insulin Delivery for Glycemic Control in Noncritical Care)
人工膵臓により,1 型糖尿病患者で血糖コントロールの改善が可能であるというエビデンスが増えているが,2型糖尿病患者での応用を検討した研究。重症ケアを受けていない 2 型糖尿病入院患者において,自動クローズドループインスリン投与システム(人工膵臓)の使用により,従来の皮下インスリン療法と比較して,低血糖のリスクを高めることなく,有意に良好な血糖コントロールが得られた。
(5)その他
ヒューヒュー鳴る咳(Whistling Cough)
IMAGES IN CLINICAL MEDICINEでは気道異物の興味深い症例が載っています。
(鈴木拓児)