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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 10

公開日:2018.08.22


今週のジャーナル


Nature Vol. 560, No.7718(2018年8月16日)日本語版 英語版

Science Vol. 361, Issue #6403(2018年8月17日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 7(2018年8月16日)日本語版 英語版






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気道上皮細胞ionocyteの華麗なるデビュー-Single cell RNA Seqの呼吸器応用/PD-L1 on exosome-ICI responseのbiomarkerになるか?

 TJHackを続けていると,1年に一度程度,呼吸器のnovel aspectの論文に行き会う。今週号のNatureの2報,Basal cellから分化するionocyteをSingle cell RNA Seqで同定したのがそうだ。こうした情報は,呼吸器の臨床にいろいろ関連することになる。呼吸器科医はその方法論や意義を考えるべきだろう。


Nature


(1)呼吸器/気道上皮細胞/Single cell RNA Seq


CFTRを発現する塩類細胞を含めた気道上皮階層性の見直し(A revised airway epithelial hierarchy includes CFTR-expressing ionocytes

気道上皮の単一細胞アトラスからCFTRが豊富な肺塩類細胞が明らかになった(A single-cell atlas of the airway epithelium reveals the CFTR-rich pulmonary ionocyte

 ここ数年,molecular biologyは統計解析を多用する統合的解析手法が急速に展開している。その1つがCy TOF法での金属添加抗体を使ってのMS解析であるし,もう1つはSingle cell RNA Seqである。最近もリンパ節内構造解析や,大脳の神経細胞の多層解析などが示され,さて呼吸器は? と思っていると,今回,Bostonの2つのグループから,気道上皮細胞中に塩・水分透過に重要と思われるionocyteが,この最新の方法で同定報告された。


 Ionocyteにはcystic fibrosis原因遺伝子CFTRが強発現し,またその分化はFoxi1により制御されているという。進化的には魚類の鰓上皮に同定されていたものだという。ArticleのタイトルはSingle cell RNA Seqの特性を示したもので,“revised hierarchy”というのはカッコいい。Fig.6にはそのhierarchyと代表的発現遺伝子,また関連疾患の概念図が示されている。この論文をみて思い出すのは,東北大学加齢研時代の家族性CFと考えられた辛い症例だ。解析を依頼したがCFTR遺伝子には異常はなかった。今回示されたionocyte分化に関連するFoxi1等の遺伝子が異常であったのかもしれない。


(2)Immuno-oncology


エキソソームのPD-L1は免疫抑制に関与し,抗PD-1応答と関連する(Exosomal PD-L1 contributes to immunosuppression and is associated with anti-PD-1 response

 ICI治療を目的に開発された抗体製剤が次々上市される中,有効例のbiomarker検索は,多方面に展開しているがまだ決定打はない。PD-L1の発現頻度,TMB(tumor mutational burden),腸内細菌叢の特性等,次々に話題が報告される。一方,腫瘍細胞から分泌されるexosomeも癌早期診断等,含まれる重要な情報が話題である。


 今回,この2つを組み合わせたような論文がPennsylvania大学から報告されている。悪性黒色腫からのexosomeにはCD63以外にPD-L1も含まれており,その量は宿主側細胞からのIFN-γ量や,腫瘍体積に比例する。興味ある点は,実際にICI治療下の悪性黒色腫患者のデータである。Responderでは治療開始前後で,exosomal PD-L1が増加する。


 Pretreatmentではむしろ低値だが,治療後6週でpeakとなるのは,実働下のCD8 T細胞への抵抗を示すものかも知れない。さらに多癌腫のデータや治療前biomarkerへの進展を期待したい。


●Science


(1)自然免疫/ cGAS – cGAMP – STING


DNAによるcGASの液相凝集は自然免疫シグナルを活性化する(DNA-induced liquid phase condensation of cGAS activates innate immune signaling

 今年に入って21世紀の新たな展開と感じられるのは,細胞内反応におけるphase separationあるいはliquid phase separationの報告である。先月も核内RNA pol II複合体のphase separationによる反応が報告された。今回はvirus等由来のdsDNAが自然免疫反応を惹起する経路で,細胞質内でphase separationが関与する。dsDNAが存在すると多数のcGAS(cyclic GMP-AMP synthase)がこれに結合し,液滴様構造を形成し,この中でcGAMP(cyclic GMP-AMP)が合成される。cGAMPはERに局在するSTING(stimulator of interferon genes)を活性化し,それによってI型IFNやcytokineが発現され,強力な自然免疫防御となる。Phase separationは,現在のところ核内とか,DNAが関与する反応のようである。細胞内の隔離環境として,今後どう研究展開されていくだろうか?


(2)Cell signaling


Wntリガンド特異的なシグナル伝達のための分子機構(A molecular mechanism for Wnt ligand-specific signaling

 進化を経る中,gene duplicationで多数のhomologがゲノム中に蓄積した。シグナル関与分子にも多数のhomolog ligandとreceptorが存在する。VEGFなどはまだA,B,C,D,placentaと3種の受容体だが,FGFは22種のligandが存在する。当然,ligandとreceptor間のaffinityは異なるだろうが,一体どうなってるの? は自然な疑問だ。


 Wntシグナルは19種のligandと,10種の受容体FZD(frizzled)が知られている。今回その1つWnt7が脳の血管系構築シグナルに関与する関連蛋白群がsignalosome selective for Wnt7として報告されている。Wnt7はまずRECK(reversion-inducing cysteine-rich protein with Kazal motifs)とGPR124(G-protein coupled receptor 124)の複合体と結合し,それにより細胞内のdisshevelled蛋白が重合し,これらにFZD4との会合や,LRP5,6(low- density lipoprotein receptor-related protein)も会合して,Wnt7特異なsignalosomeを形成し,結果β-cateninシグナルにつながる(こういう複雑な関連はPerspectiveのマンガをみると一目で解る)。こうした多数のhomologの個々の関連因子の詳細解析も,21世紀の新たな展開だろう。



●NEJM


(1)生活習慣病中の喫煙


禁煙,体重変化,2型糖尿病,死亡(Smoking Cessation, Weight Change, Type 2 Diabetes, and Mortality

2型糖尿病患者における危険因子,死亡率,心血管転帰(Risk Factors, Mortality, and Cardiovascular Outcomes in Patients with Type 2 Diabetes

 II型糖尿病患者の心血管系予後に関する禁煙の効果が,米国,北欧から多数研究として2報報告されている。呼吸器科医としてはすんなり受け止められない点もある。前者は禁煙後の体重増加は多少影響するが,禁煙による死亡減少の効果は保たれたという。ただ①喫煙の健康被害は40歳以降に表面化する。②心筋梗塞等は,喫煙による肺由来物質の急性期効果である点は,どう配慮されているのか? Editorial著者の文言:For clinicians, the main message from the article by Hu et al. is that the cardiovascular and overall mortality benefits of stopping smoking far outweigh the risks of acquiring type 2 diabetes. II型糖尿病の負荷は大きい。


(2)Biosensor


バイオセンサーの新たな発展を要約する(Digesting New Developments in Biosensors

 このTJHackの始まる少し前,5月末のScience誌に掲載されたbiosensor論文が紹介されている。飲み込み型機器による消化管出血のmonitor,hemeを細菌利用のsenseingで捕捉し,その結果は体外からmonitorできる点も強調されている。臨床医にもわかりやすい図が付いている。


(貫和敏博)


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