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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 11

公開日:2018.08.29


今週のジャーナル


Nature Vol. 560, No.7719(2018年8月23日)日本語版 英語版

Science Vol. 361, Issue #6404(2018年8月24日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 8(2018年8月23日)日本語版 英語版






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話題の腸内細菌叢のプロファイルは思いのほか早い段階ですでに決定されている?

Nature


(1)微生物学


新生仔期に腸管上皮のTLR5により定着菌の選択が行われ,その後も腸内微生物叢のプロファイルに影響しつづける(Neonatal selection by Toll-like receptor 5 influences long-term gut microbiota composition
 細菌の鞭毛を構成するタンパク質の1種であるフラジェリンを認識する自然免疫センサーToll-like receptor 5(例えばレジオネラの認識にも関与する)が,新生仔期の腸内微生物叢樹立において重要な役割を果たすことを示した論文。

 最近では,腸内微生物叢プロファイルは,炎症性腸疾患だけでなく,関節リウマチなどの自己免疫疾患やがん免疫療法に用いられる免疫チェックポイント阻害薬の疾患感受性・治療感受性などにも関与していることが報告されている。この論文では,マウス新生仔期における腸管上皮のTLR5とその認識によって産生される抗菌ペプチドREG3γが,腸内微生物叢の選択に重要であることを示している。さらに,一度新生仔期に樹立された腸内微生物叢のプロファイルは,生涯を通して微生物叢の組成に影響することを示している。

 ヒトにおいても乳児期の段階で樹立される腸内微生物叢のプロファイルが,成人期における免疫疾患や治療感受性に影響している可能性を示唆する新しい知見である。


(2)腫瘍医学


PI3K阻害薬の投与によって生じるインスリンフィードバックを防ぐことでより高い治療効果が得られる(Suppression of insulin feedback enhances the efficacy of PI3K inhibitors
 Cancer Discoveryのchief editorであるLewis Cantleyのラボからの論文。インスリンで活性化されるホスファチジルイノシトール 3-キナーゼ(PI3K)のp110αサブユニットをコードするPIK3CAの活性化型遺伝子変異,PI3Kによって生じる脂質のイノシトールリン脂質を分解する酵素をコードするPTENの機能欠損型遺伝子変異は,いずれも肺癌を含めた多くのがんで認められる。つまりインスリンシグナルと腫瘍増殖との関係が予測される。

 現在複数のがんに対してPI3K p110α阻害薬の臨床試験が行われているが,PI3K p110αを阻害することでインスリンシグナルが遮断されると,筋肉・脂肪でのグルコースの取り込みが阻害され,一過性に高血糖が誘導されることが知られている。通常,膵臓から代償性にインスリン放出が起こり(インスリンフィードバック),この影響はすぐに収束するが,背景にインスリン抵抗性がある患者では,高インスリンや高血糖が長く持続してしまうことが問題となっている。ここで危惧されるが血糖の問題だけではなく,高インスリン状態による腫瘍への影響である。この論文では,マウスモデルの解析によって,PI3K p110αを阻害した状況でも,インスリンフィードバックが誘導されてしまうことで腫瘍増殖に関わるPI3K-mTORシグナルが再活性化してしまうことを示している。一方でインスリンフィードバックを予防することにより,PI3K p110α阻害の効果を促進することを示している。

 PI3K p110α阻害薬使用の際にはインスリン過剰とそれによる腫瘍増殖促進を念頭に置くことが重要である。このような知見は,単にPI3Kp110α阻害薬使用時に関わらず,糖尿病患者で悪性腫瘍合併率が高まる一つの要因とも考えられる。


●Science


(1)公衆衛生学


ヒトエンテロウイルスに対するセロタイプ特異的な免疫反応が,エンテロウイルスによって生じる代表的な疾患の発生パターンを明らかにする(Serotype-specific immunity explains the incidence of diseases caused by human enteroviruses

 Perspectiveに“Enterovirus outbreak dynamics”としても取り上げられている。著者はImperial College Londonの所属で,データは日本の感染研の疫学調査に基づくもの。日本で2000〜2014年までの15年間に蓄積した,エンテロウイルスによって生じる代表的な4疾患:無菌性髄膜炎・手足口病・ヘルパンギーナ・急性出血性結膜炎のデータついて,その原因となったエンテロウイルスのセロタイプ,発症時期,出生児数をパラメーターとして数理統計解析を行うことによって,次回のアウトブレイクのタイミングが予測可能になったという報告。エンテロウイルスは100種類以上のセロタイプが報告されており,さまざまな臨床症状を示すことから,アウトブレイクの予測は困難と考えられていたが,セロタイプまで加えた測定と発症の記録をモニターしている日本ならではデータベースを解析することで,もっとも一般的な20種類のセロタイプのうち18種類に関しては,アウトブレイクの予測が可能であることが明らかにした。


 日本のデータをイギリスに報告されるというのは複雑な気持ちであるが,現在開発中のワクチンの適切な使用時期の判断や予め伝染を予防する対策などアウトブレイクを未然に阻止できる可能性として非常に期待される。



(2)遺伝性疾患


RIPK1の完全欠損は,重篤な免疫不全と関節炎・腸炎の臨床像を示す(Biallelic RIPK1 mutations in humans cause severe immunodeficiency, arthritis, and intestinal inflammation

 こちらもPerspectiveに“Connecting immune deficiency and inflammation”として取

り上げられている(シグナル経路の分かりやすい図も掲載されている)。RIPK1 (receptor-interacting serine/threonine kinase 1)は,TLR3・4およびTNF受容体の下流にあり,転写因子NFκB依存的な炎症応答において非常に重要な分子である。RIPK1のノックアウトマウスは出生後まもなく致死的となるのに対して,今回報告されている4名の患者はすでに死亡している2名とも10年間以上生存可能であった。NFκB依存的なサイトカイン産生が消失することで,患者は重篤な免疫不全を呈する。TLR3・4応答欠損によりウイルスなどに易感染性となり,ネクロプトーシスと呼ばれる細胞死が亢進し,インフラマゾ-ムの活性化によるIL-1β産生のため関節炎・腸炎が誘導される。


 マウスモデルからは解明できなかった,重篤な免疫不全と細胞死に基づく過剰な炎症が併存というまれな病態がヒトにおいて初めて報告された。


 先日,原発性免疫不全研究の分野で最も活躍されている先生の一人,東京医科歯科大学小児科の森尾先生のご講演をお聞きする機会があった。軽度の免疫不全であれば,時々肺炎や中耳炎になる程度で見逃されていることがよくあるそうである。今回報告された病態を含め,原因不明の呼吸器疾患を理解する一助となるかもしれない。



●NEJM


(1)救急医学煙


院外で生じた心停止に対してエピネフリンは有効か?(A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest

 イギリスで行われた無作為化二重盲検試験。院外で心停止が確認された患者 8,014 例に対して,標準治療に加えてエピネフリン(4,015 例)または生理食塩水(3,999 例)をそれぞれ投与した群間で,30 日生存率・神経学的転帰に関して評価したもの。エピネフリン使用群では,30 日生存率を有意に改善したものの,重度の神経障害を有している生存者が多く,良好な神経学的転帰を有する割合という観点では2群間で有意差は認めなかった。倫理的な問題として判断は難しいところである。


(2)悪性黒色腫・免疫療法


脳転移陽性の悪性黒色腫に対するニボルマブ・イピリブマブ併用の有用性(Combined Nivolumab and Ipilimumab in Melanoma Metastatic to the Brain

 未治療の脳転移陽性の悪性黒色腫患者に,ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性と安全性を評価した他施設共同Phase2試験。対象は,計測可能な放射線照射を受けていない脳転移(腫瘍径 0.5~3 cm)が 1 個以上あり,神経症状のない患者。進行または忍容できない毒性がみられるまでは治療が継続された。94 例の追跡期間中央値は 14.0 カ月,頭蓋内病変としてCR が26%,PRが30%でclinical benefitの割合は 57%(95%信頼区間 47~68)。頭蓋外でのclinical benefitの割合は 56%(95% 信頼区間 46~67)。グレード 3もしくは4の治療関連有害事象は全患者の55%で認めた。未治療脳転移陽性の悪性黒色腫患者においてニボルマブとイピリムマブの併用は,頭蓋外の病変に対してこれまでの臨床試験で示されたベネフィットと同等の有効性が確認された。


(SK)



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