" /> 結核菌潜在感染(LTBI)の機序の一端が解明か?-Cy TOF法が開く新たな知見 慢性アレルギー性炎症としてのNasal Polypはbasal stem cellのIL-4/IL-13曝露記憶による病態だ-sc RNA Seqからの解釈 |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 12

公開日:2018.09.05


今週のジャーナル


Nature Vol. 560, No.7720(2018年8月30日)日本語版 英語版

Science Vol. 361, Issue #6405(2018年8月31日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 9(2018年8月30日)日本語版 英語版






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結核菌潜在感染(LTBI)の機序の一端が解明か?-Cy TOF法が開く新たな知見:慢性アレルギー性炎症としてのNasal Polypはbasal stem cellのIL-4/IL-13曝露記憶による病態だ-sc RNA Seqからの解釈

Nature


 驚くべきことに今週のNatureはまたしても呼吸器の号だ!


 深宇宙の星雲がなぜ多くの星々を生み出すのか? 東京天文台他国際グループが,その観察結果を報告している。なぜ世界先進各国は南米の高地(5,620m!)に高価で多機能な天文台を競って建設するのか? 急速な技術革新で2,30年前には想像すらできなかった宇宙の実像に迫れるからである。同時に,天文学のように,あるプロジェクトの期間のみ交代で高価な施設やハッブル望遠鏡を使用できるシステムは,生物系から見ればうらやましい。例えば,ある病態の臨床検体を集積していれば,研究予算が下り,高価な機器を数カ月交代で借用して,未知の病態を明らかにする。そんな時代がくることを切に希望する。


(1)呼吸器,感染症,免疫学


結核菌感染の転帰に関連する免疫因子のマルチコホート研究(A multi-cohort study of the immune factors associated with M. tuberculosis infection outcomes

 2年半の結核予防会勤務で,初めて結核を勉強し,結核研究と対策の要点がLTBI病態と治療期間短縮(耐性化を防げる)にあると理解した。しかしLTBI病態とは何か? 何から研究すればいいのかもわからない。


 今回Stanford大学のグループはCy TOF法いう強力な新技術でLTBI解明の第一歩を示した。高流行地域である南アフリカのcohortから,発病前のLTBIのティーン・エイジャーと未感染グループを比較し,biomarkerとしてCD16(FcγRIIIa)やNK細胞を見出した。さらにcohortを広げ,NK細胞数はLTBI病態で多く,結核を発症すると低値となり,治療後は正常に戻るという。病態診断にはPET-CTを使用している。


 この雲をつかむようなLTBI病態に切り込むための戦略は,Fig.1に示されている。それは近未来の臨床研究がいかに組み立てられるかを示しているので必見である。一方,むしろ腫瘍領域で注目されてきたNK細胞が,結核のLTBI病態で何をしているのか? そして何が破綻すると結核を発症(約5%)するのか?

 物語はこれからだ。


(2)呼吸器,耳鼻科,免疫学


ヒトの呼吸上皮前駆細胞におけるアレルギー性炎症の記憶(Allergic inflammatory memory in human respiratory epithelial progenitor cells

 呼吸器疾患には慢性病態が多い。筆者は間違いなくchr. bronchiolitisであり,obstructive傾向で, 3,000m級登山をするとSpO2が80%以下となる。慢性病態は一般に漠然とagingのせいだろうと考えられているが,過去の細胞レベルのトラウマが引き起こしている。


 今回MITのグループが臨床検体を縦横に用いながら,なぜnasal polypが形成されるのかを,single cell RNA Seq(scRNA Seq)で調べている。その結果,まずpolypではbasal cellからの細胞分化が異常になり,分泌型細胞などの多様性が消えること。次に,発現遺伝子解析よりtype II免疫系(T2I)IL-4/IL-13曝露による変化を捕まえた。加えて現在臨床で使用可能な抗IL-4Ra抗体を用いてその変化の改善の一部を確認している。IL-4/IL-13に曝露されることにより,basal stem cellが本来の上皮幹細胞としての多様な細胞分化をshiftすることでpolypが生成されるという慢性病態だと,著者らはnasal polyp病態を解釈している。彼らは最近注目のstem cell dysfuntionの1つとしてnasal polypの慢性病態を考えている。


 今回のNatureの呼吸器関連の2報は,いずれもCy TOF,scRNA seqという新規統合的技術を用いて解析している。その基礎に,barcodingという個々の患者識別や検体細胞識別の手法がある。これを使うと非常に多数の検体を同時処理することが可能で,実験データのばらつきを抑え信頼度が向上し,試薬類の節約をして,しかもデータは直接コンピューターに入り,さらにそれから生物統計がなされ,有意性要因を解析する。われわれが認識せねばならないのは,医学研究がmolecular biologyからstochastic biologyに移行しつつある事実である。



●Science


 今週は,呼吸器としてはNatureで満腹できるので軽く。

 Scienceのspecial issueが"Technologies transforming Biology"で,このところ実感するタイトルである。内容はCRISPR-Casの応用やcryoEMの原理である。臨床の英文誌にはこうした特集がないので,一読お薦めである。


(1)腫瘍基礎・臨床


がん遺伝子変異も分子標的治療薬もRas/Erk経路の動的シグナル伝達を障害しうる(Cancer mutations and targeted drugs can disrupt dynamic signal encoding by the Ras-Erk pathway

 分子標的薬を日常感覚で使用しているが,腫瘍細胞の中のシグナル伝達は一体どうなっているのか? その実験系が報告されている。Iressa作用背景が判明した時点でこうした基礎的システム開発を考えたのを思い出す。日頃同じような疑問のある方は,方法論とデータに関心があるだろう。



骨軟部腫瘍においては染色体の大規模な分断と再構成が起こり定型的な腫瘍原性融合遺伝子が形成される(Rearrangement bursts generate canonical gene fusions in bone and soft tissue tumors

 頻度は低いが,呼吸器臨床でもsarcomaやEwing腫瘍に遭遇する。今回は,その腫瘍性の原因として融合遺伝子,例えばEWSR1-FLI1やERSR1-ERGというような染色体間転座が,1カ所のみならず複数箇所で連携して発生するchromoplexyという現象を報告している。しかしこれがなぜ起こりやすいのか,どういう背景があるのかは不明である


(2)その他基礎論文


ホーミングCRISPRによるマウス全身の発生的バーコード付け(Developmental barcoding of whole mouse via homing CRISPR

 先にbarcodingは個々の検体識別に強力な方法で,実験結果をPCで処理しうると述べた。ここでは一歩進めて,胎児からの形態形成をtransposaseや,特殊なCrisper-Cas系システムのマウスと掛け合わせて識別barcodingをin vivoで進めながら,体内臓器形成に関与する細胞群のlineageを一度に見ようという試みが報告されている。1つの技術がとんでもない方向の解析にまで発展する。



単一2倍体ヒト細胞の3次元ゲノム構造(Three-dimensional genome structures of single diploid human cells

 筆者はEGFR変異になぜ人種差が生じるか関心がある。恐らく気道上皮細胞に分化後の核内の3D構造に関連すると思われる。今回,Harvard大学と北京大学の共同研究で,この核内染色体構造をsingle diploid human cellで報告している。Transposonを使った全染色体増幅法Dip-C(diploid cell chromatin conformation capture method)で2染色体間の接触をMETA(multiple end-tagging amplification)で解析するアルゴリズムを作成し,実際にヒト細胞核内染色体の構造,血液系細胞間の相違を主成分解析で識別している。核内という細胞研究で残された区域への新たな接近法として注目される。



●NEJM


呼吸器系として,3論文に着目


(1)結核・感染症


結核治療後の再発を予測する細菌因子(Bacterial factors that predict relapse after tuberculosis therapy

 結核治療完了後の再発が約5%,この背景の解析報告である。結論として,治療前の結核菌のMICが高かった症例に再発が多い。結核病巣は肺炎より薬剤到達が困難なことは,最近,TOF-MSを用いて多く報告されている。この結論はそうした知見からすると当然のところでもある。もちろんNatureの論文のようにPET-CTで病態を確認しつつ,治療期間を判断するのがベストだろうが,実際に蔓延する途上国ではかなわない。基本的に治療期間短縮への研究が必要である。


(2)Langerhans cell histiocytosis


ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans-cell histiocytosis

 病態から遺伝子解析,治療まで網羅された優れた総説である。十分に理解していなかったのは,BRAFV600E変異(melanomaの中心変異)が64%にもみられる,それこそMAPK系シグナルの病態である。Melanoma同様分子標的薬+MEK阻害薬の臨床試験も患者数が少ないので十分でないようだ。CD207(Langerin)(type C lectin receptor)の発現も記載されている。CD19同様,CART的免疫療法は可能か? いろいろ勉強になる。


(3)ECMO


重症急性呼吸促迫症候群に対する体外式膜型人工肺(Extracorporeal membrane oxygenation for severe acute respiratory distress syndrome

 ECMOは自治医大時代,PAP患者の両肺同時洗浄に使われていたが,大変な装置だ。このPro/Con議論では,むしろ使わない側の著者の文章,“Some researchers argue that much, if not most, of the published evidence that we bring to bear during clinical decision making is incorrect.”という感性が臨床医の立場でないか,と思った。


その他,Drazen先生が,ユダヤ教Rabbiで大腸がんで逝去されたご兄弟のことを記していらっしゃる。


(貫和敏博)




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