" /> 2剤内服治療が睡眠時無呼吸に対して有望である可能性 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 15

公開日:2018.09.26


今週のジャーナル


Nature Vol. 561, No.7723(2018年9月20日)日本語版 英語版

Science Vol. 361, Issue #6408(2018年9月21日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 12(2018年9月20日)日本語版 英語版






Archive

2剤内服治療が睡眠時無呼吸に対して有望である可能性

Nature


(1)腫瘍学/脳腫瘍とT細胞集積


脳腫瘍へのTリンパ球集積に関わるホーミング機構(A homing system targets therapeutic T cells to brain cancer
 一部の脳腫瘍では,抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示し,免疫チェックポイント阻害薬や腫瘍溶解ウイルスなどを用いた新たな治療法の開発が試みられている。脳血管関門は様々な薬剤の到達を妨げる一方,血中の白血球の進入門戸として機能している。筆者らは,多発性硬化症のような炎症性疾患では脳内に細胞浸潤が促進されるのに対して,脳腫瘍の場合はむしろ遊走が阻害されるという点に着目し,その理由として内皮細胞上のICAM1やVCAM1の発現の違いを見出した。脳腫瘍の環境では,内皮細胞上のICAM1やVCAM1の発現が低下している一方,ALCAMの発現はむしろ上昇していた。これを標的としてALCAMのリガンドであるCD6を改編したHS T細胞を作成し投与することで(Fig2a-d, Fig3eに分かりやすいシェーマあり),抑制されていた脳腫瘍内へのT細胞の浸潤が促進されることがわかった。
 最近Nature Medicineに報告された骨髄へのT細胞隔離の現象へのアプローチ(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30104766)も含め,脳腫瘍内へのT細胞浸潤を促進するという新たな戦略が免疫療法の感受性改善の手段として注目される。


(2)神経科学/音の選択と大脳皮質による学習


運動によって生じる音の抑制を学習する大脳皮質のフィルター機構(A cortical filter that learns to suppress the acoustic consequences of movement
 現在では一般的となったヘッドホンなどにあるノイズキャンセルのシステムは,周りの騒音に対して逆位相の音波を重ね合わせることで騒音を減らしている。このような予想不可能な雑音とは別に,生体には自分自身が動いたときに必然的に生じる予想可能な音がある(再求心性の音と呼ばれる)。この論文は,自分が動くことによって発生する,いわば予測可能な雑音としての再求心性音の抑制を学習する神経回路機構を明らかにしたというもの。ここでは運動皮質が聴覚皮質抑制性ニューロンの活性化を誘導することが背景となっており,動的な感覚のフィルターが繰り返しの経験によって形成され,運動によって生じる予測可能な音を選択的に抑制することができるようになることを示している。


(3)その他


ヒトの細胞分裂の動的な蛋白アトラス作成に必要な,実験およびコンピューターによる枠組み(Experimental and computational framework for a dynamic protein atlas of human cell division

 ヒトの細胞分裂に関わる動的蛋白質アトラスを作成するため,四次元画像データに基づいて,ヒト細胞の有糸分裂が進行する際に起こる形態変化のモデルを作成したという報告。このようなシステムは細胞分裂に限らず,様々な生命現象に関わる動的蛋白アトラスに応用できるということ。医学生が勉強する教材が全て動画になる時代もそう遠くないかもしれない。



ゲノム規模でオフターゲット変異を伴わないin vivo CRISPR編集(In vivo CRISPR editing with no detectable genome-wide off-target mutations

 CRISPR–Casゲノム編集は,治療応用に向けて大きな可能性を持っているが,安全性の問題として,目的としていないオフターゲット変異の可能性が懸念されていた。しかしながらこれまでin vivoでオフターゲットをきちんと特定できる方法はなく,オフターゲット変異が実際に生じているのかどうか,またどの程度の頻度で生じているのかも不明であった。この問題を克服するものとして,オフターゲットを高感度で,定量的に検出可能な方法が樹立された。


●Science


(1)呼吸器 In depth


2剤の併用治療が睡眠時無呼吸に対して有望な可能性(Drug pair shows promise for treating sleep apnea

 閉塞型睡眠時無呼吸症候群に対して,2種類の薬を眠前に内服することが有効であるという報告。ERSでボストンのBrigham and Women’s Hospitalが報告した内容を取り上げている。2種類の内服薬は,atomoxetine(ノルアドレナリン再取り込み阻害剤。日本での適応は注意欠陥多動性障害)とoxybutynin(この用途では舌下神経のアセチルコリン受容体刺激の阻害。過活動性膀胱の治療などに用いられている)。20症例と少ないトライアルではあるが,apnea-hypopnea indexのmedianが28.5から7.5まで低下。全ての患者で,少なくとも50%以上のAHIの改善が認められたということ。しかしながら,まだ少数例での検討であることや,中途覚醒の頻度は依然として高いなど問題が複数残されている。CPAPフリーの治療介入が可能かどうか,今後の動向が期待される。


(2)微生物学 Reviews


宿主に関連した腸内細菌コミュニティーにおける細菌阻害機構(Bacterial antagonism in host-associated microbial communities

 近年腸内細菌の網羅的遺伝子解析の進歩により,腸内細菌叢を構成するさまざまな細菌は,それぞれ何らかの手段を用いて,お互い阻害しあいながら共存しバランスを取っていることが知られるようになった。この総説は,細菌が放出する,他の細菌を阻害する効果を有するペプチドに焦点をあてて概説している。現在,腸内細菌のプロファイルはさまざまな疾患や治療への感受性に関わることが示されている。抗生物質や便移植などの手段とは別に,これら阻害作用を有するペプチドは治療標的となることが期待される。


(3)神経科学と微生物学


栄養を感知して伝達する腸管-脳神経回路(A gut-brain neural circuit for nutrient sensory transduction

 これまで脳と腸管のコミュニケーションは,コレシストキニンなどのホルモンのやり取りが主に行われていると考えられてきた。しかしながら,この腸と脳の連絡には時間がかかり,もっと短時間で連絡を取り合う機構が存在する可能性が示唆されていたが,詳細は不明であった。 

 今回,マウスを用いた実験により,腸管内分泌細胞は迷走神経とシナプスを形成し,グルタミン酸を神経伝達物質としてミリ秒単位で信号を伝達することが明らかになった。著者らはこの細胞をneuropod 細胞と名付けた。この神経回路は,腸管内腔と脳幹を一回のシナプスを介して連絡しており,これまで不明であった短時間での神経伝達を可能にする経路として初めて特定された。


(4)バイオテクノロジー


標的配列の制限が緩和された新たなCRISPR-Cas9 nuclease(Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded targeting space

 東大濡木研とMIT Feng Zhang labによる共同研究。CRISPR-Cas9による遺伝子編集において一般的に用いられているCas9(Streptococcus pyogenes由来の Cas9 酵素)は,NGG(NはA,T,C,G なんでも可という意味)という3塩基の配列を認識して切断するという性質を持っていた。今回開発された Cas9-NG は,三番目のGの認識が必要なく,NGのみの認識で切断が可能になったというもの。塩基の制限が一つ減ることで,標的の可能性が大きくなること,従来型と比較して特異性は代わらないことが示されており,汎用性の高い新世代のCas9として期待される。


●NEJM


(1)抗肥満薬


肥満患者においてロルカセリンは心血管系への安全性を示した(Cardiovascular safety of lorcaserin in overweight or obese patients
 エーザイが保有する抗肥満薬ロルカセリンの安全性に関する報告。ロルカセリンは,選択的に脳内のセロトニン2C受容体を刺激して摂食を抑制し,満腹感を促進する。米国では,2012年に米国食品医薬品局(FDA)より承認されている(2010年に肥満の患者の体重管理における有効性が報告されている https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20647200)。今回の臨床試験では,心血管危険因子を有する過体重および肥満患者 12,000 例を,ロルカセリン群とプラセボ群に無作為に割り付けている。ロルカセリン群の患者では,プラセボ群の患者と比較して,主要心血管イベントの発生率が高くなることなく持続的な体重減少を促進することがわかった。
 アリセプトに続くエーザイのヒット商品になりそう。

(2)血栓予防

長期入院症例におけるリバーロキサバンの血栓予防効果(Rivaroxaban for thromboprophylaxis after hospitalization for medical illness
 リバーロキサバン,エドキサバンに関しては,最近がん関連のVTEへの有効性が報告されている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29231094, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29746227)。今回の検討は,もともと静脈血栓塞栓症リスクの高い内科疾患患者を対象に,その患者が退院後リバーロキサバンを使用することで血栓予防効果が認められるか評価したもの。退院時に,リバーロキサバン を45 日間投与する群とプラセボ群に割り付けられた。リバーロキサバン投与群は,プラセボと比較して,症候性静脈血栓塞栓症,および静脈血栓塞栓症による死亡のリスクの有意な低下は認めず,重大な出血の発生率は低かった。


(3)その他
REVIEW ARTICLE
抗原抗体反応よって誘導される固形臓器同種移植片に対する拒絶反応(Antibody-mediated rejection of solid-organ allografts
 固形臓器移植のレシピエントに生じる抗原抗体反応が関与した拒絶反応に対する標準的な管理についての総説。

IMAGES IN CLINICAL MEDICINE
結核性腹膜炎(Tuberculous peritonitis
 東大病院の24歳の症例。腸間膜リンパ節の腫大と腹膜の多発結節を呈している。

(小山正平)

※500文字以内で書いてください