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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 16

公開日:2018.10.03


今週のジャーナル


Nature Vol. 561, No.7724(2018年9月27日)日本語版 英語版

Science Vol. 361, Issue #6409(2018年9月28日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 13(2018年9月27日)日本語版 英語版






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いよいよ結核予防ワクチンは実用化されるのか?

 本庶佑先生のNobel賞受賞,本当におめでとうございます。

 2004年,指導者であった西塚泰美教授の追悼をNatureに寄稿されたとき,栄光の時を待たず逝去された事を悲しんでいらしたが,京都大学医化学教室の錚錚たる人脈の中で遂にNobel賞受賞者が生まれた。しかも明確に癌治療の分岐点としての研究である。京都大学医化学に在籍したものとして,誇らしい,嬉しい受賞です。
 記者会見でNature,Scienceは信じないと発言されていたが,それはTop researcherの立場だ。Physician scientistとしては臨床を考える上で示唆に富むことが多い(ことに2000年以降)。


Nature


(1)幹細胞,ゲノミクス


体細胞変異から推定されたヒトの正常血液の細胞集団動態(Population dynamics of normal human blood inferred from somatic mutations
 一体全血球細胞の内にstem cellや分化するprogenitor cellはどれくらい存在するのか? 固形組織でないので可能である,全ゲノムレベルで分化諸血液細胞の単細胞解析がWelcome Trust/Sangerから報告されている。全塩基配列解析で13万弱の体細胞変異の系統樹を網羅している。59歳の男子の骨髄・末梢血検体であるが,その体細胞変異分子時間から,これら細胞が若年で拡大し,青年期以降ほぼプラトーなstem cellのpopulationが5~20万細胞存在することが示されている。我々の体内の細胞が生涯にどういう系統・経緯をたどるか? 考えてみれば当たり前の事実であるが,それが実証されたのはやはりすごい。

(2)腫瘍生物学

核膜の組み立て異常が有糸分裂時のエラーと染色体粉砕を結び付ける(Nuclear envelope assembly defects link mitotic errors to chromothripsis

 癌ゲノムとして全塩基配列解析がなされたTCGAプロジェクトで,不思議なゲノム小片が100 copy前後存在する事実が知られるようになった。Chromothripsis(染色体粉砕)と呼ばれ,小細胞肺癌でも報告されている。Bostonのグループが,その理由として,核小体部で核膜の完全性を喪失した結果であることを示している。それは核膜孔複合体などが欠失した状態で,ゲノムの完全性に必要な蛋白が核内に取り込めないからだという。染色体分離時に消失する核膜とその制御は細胞進化的にも旧く,また厳格な制御でない点から,腫瘍化細胞でこうした現象が頻発するようだ。

(3)その他,興味ある報告

2種類の抗HIV-1抗体による併用療法でウイルス抑制が維持される(Combination therapy with anti-HIV-1 antibodies maintains viral suppression

 また今回からBrief Communication Arising欄が新設された。今回はcarotid bodyで低酸素sensing機能を持つというOlfr78は間違いだという,本庶先生の「信じない」の例になるようなやり取りだ。Knock out個体のドリフトが原因というが,追試した方は時間のロスである。追試不能の論文は大きな問題になっている。


●Science


 今週のSpecial issueはGenes in Developmentである。Reviewに4報が並んでいる。染色体情報の時間空間的発現である形態形成として,基礎生物学的には最も興味ある内容だ。


(1)腫瘍生物学


マウスでは,炎症組織で形成される好中球細胞外トラップが休眠中の癌細胞を起こしてしまう(Neutrophil extracellular traps produced during inflammation awaken dormant cancer cells in mice

 転移性肺癌は多くの癌腫で見られる。転移着床後,非増殖状態のdormancyで長く存在し,突然増殖を開始すると考えられる。その原因は何か? ここでは喫煙や,鼻腔内にLPSを投与し,白血球が細菌を絡め取るとして注目されるNETs(neutrophil extracellular traps; 自身のDNAで構成,蛋白分解酵素MMP9など含む)が腫瘍細胞lamininを切断し,そのため細胞内シグナルが増殖に向かうという。逆に改変lamininのblocking Abでこうした現象が抑えられる。転移腫瘍細胞の活性化に好中球の炎症反応が関与するという新たな仮説である。


(2)単細胞染色体・遺伝子発現同時解析


数千個の単一細胞におけるクロマチン接近可能性と遺伝子発現の複合プロファイリング(Joint profiling of chromatin accessibility and gene expression in thousands of single cells

 このTJHackでは,度々注目してきたが,ここ数年検体ごとの標識技術barcodingを基に,single cellにおける発現解析が多数なされている。この報告では,遺伝子発現のみならず,染色体への近接性塩基配列解析(ATAC seq:Assay for transposase-Accessible Chromatin using sequence)などで統合的に一括してデータを入手する(Fig. 1参照),sci-CAR(single cell combinatorial indexing chromatin accessibility and mRNA)法が紹介されている。実際にはdexamethasone使用後の時系列的遺伝子発現変化,またマウス腎細胞における解析が示されている。ここ数年の技術革新に,創意工夫でさらに強力な方法論の展開に,いったいどこまでついて行けるかな? と思う。


●NEJM


 今週号はメール配信版では,肺癌,結核等の呼吸器関連が多いが,実際の目次には見当たらない。今回はその中から,結核予防ワクチンを取り上げる。


(1)呼吸器,感染症

結核予防へのM72/AS01EワクチンのPhase2b比較臨床試験(Phase 2b controlled trial of M72/AS01E vaccine to prevent tuberculosis
 この報告のワクチンはGSK製で,M72(高抗原性結核菌蛋白のMTB32AとMTB39A由来)とGSK開発のAS01Eというマラリアワクチンにも使用のadjuvantを用いている。アフリカ(ケニア,南ア,ザンビア)コホートのLTBI約3500名に対し,placeboと比較試験された。結果は約2年半の時点で,ワクチン効果は54%(95%CI: 2.9 to 78.2,p=0.04)であり,大きな副作用は認めなかった。
 日本で実施されているBCGワクチンは,幼児の結核性髄膜炎の予防の可能性は指摘されているものの,成人におけるmeta-analysisでは効果が否定されている(Mangtani P, et al. Clin Infect Dis. 2014; 58: 470-80.)。この報告では,結核感染,LTBI診断の信頼性は充分に考慮されていて,こうした臨床試験のありようの参考になり,また3500名では経費もかなりのものだろう。時間がかかった結核予防ワクチンの開発がようやく成功したのだろうか?

(2)その他

医学生のためのメンタルヘルスサービス ― 行動を起こすとき(Mental health services for medical students — Time to act
 大学退職後7年になるが,医学教育カリキュラム増加による日本の医学生への重圧で,本庶先生の時代のように学生が基礎研究室に顔を出す余裕もないと聞いている。同様の問題は米国にもあり,かなりの医学生が燃え尽き症候群,うつ病,時には自殺企図も問題になるという。こうした事態に真剣に対応するプログラムが,米国では始められている。かわいそうな日本の医学生はこうした支援をいつ受けられるのか?

(TN)


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