" /> 小細胞肺癌発癌へのPARCB,神経内分泌系発癌の共通path 稀少疾患にまたもや自己免疫関与?ヒポクレチン神経自己抗原説 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 17

公開日:2018.10.10


今週のジャーナル


Nature Vol. 562, No.7725(2018年10月4日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6410(2018年10月5日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 14(2018年10月4日)日本語版 英語版






Archive

小細胞肺癌発癌へのPARCB,神経内分泌系発癌の共通path 稀少疾患にまたもや自己免疫関与?ヒポクレチン神経自己抗原説

●Nature


(1)神経免疫学


ナルコレプシー患者のT細胞はヒポクレチンニューロンの自己抗原を標的とする(T cells in patients with narcolepsy target self-antigens of hypocretin neurons

 ナルコレプシーは,ヒポクレチンを産生するニューロンの欠失によって引き起こされる慢性的な睡眠障害であるが,自己免疫性の病因をもつ可能性の証拠を強める論文である。こうした稀少疾患や原因不明の不思議な病気の原因に自己免疫が関わっていることが明らかになり,病態の理解が進むと,近い将来に治療法の開発が期待できるであろう。呼吸器疾患では肺胞蛋白症がその良い例である。今回の研究では,調べた19人の患者全てにおいてヒポクレチン特異的CD4+ T細胞を検出し,13人の患者のうち8人においてヒポクレチンニューロンの別の自己抗原であるTRIB2(tribbles homologue 2)に特異的なT細胞を見いだした。自己反応性CD4+ T細胞はポリクローナルであり,複数のエピトープを標的とし,主にHLA-DRによって拘束され,インフルエンザワクチン接種時の発症増加するといわれているが,インフルエンザ抗原とは交差反応しなかった。


(2)肝臓癌,発癌

ネクロトーシス微小環境は肝臓癌の細胞系譜拘束を方向付ける(Necroptosis microenvironment directs lineage commitment in liver cancer
 原発性肝臓癌は肝細胞癌(HCC)と肝内胆管癌(ICC)からなり,これらは形態や転移能,治療応答性に大きな違いがあるが,その調節機構についてはわかっていなかった。今回の報告では,肝臓の腫瘍発生がモザイク状なマウスモデルにおいて,ネクロトーシスと関連した肝臓のサイトカイン微小環境は,発癌性の形質転換した肝細胞からのICCアウトグロースを引き起こすが,同一の発癌性ドライバーを持つ肝細胞でも,周囲をアポトーシスを起こした肝細胞で囲まれている場合にはHCCが生じる。共通した肝臓損傷のリスク因子であっても,Tbx3とPrdm5といった微小環境依存的な因子が,HCCまたはICCのどちらを発症するか決めうるということがわかり,ヒトでも保存されていることが報告された。

(3)細胞生物学

β1インテグリンによるメカノセンシングは肝臓の成長と生存のためのアンジオクラインシグナルを誘導する(Mechanosensing by β1 integrin induces angiocrine signals for liver growth and survival
 内皮細胞に由来するアンジオクラインシグナルは,細胞間コミュニケーションの重要な構成要素であり,器官の成長,再生,疾患において重要な役割を担っている。今回の研究では,発生中の肝臓をモデル器官として用いてアンジオクラインシグナルを調べ,肝臓の成長速度は肝臓への血液灌流と空間的かつ時間的に相関することが示された。さらに肝臓血管系での血流を操作することで,血管の灌流(生体力学的な力)がβ1インテグリンと血管内皮細胞増殖因子受容体3(VEGFR3)を活性化し,肝細胞増殖因子の正常な産生,肝細胞の生存,肝臓の成長に必須であった。すなわち血液灌流やメカノトランスダクションを器官の成長や維持に変換する,血管内皮細胞のシグナル伝達経路の存在が明らかになった。

(4)幹細胞

膜内骨形成を仲介する骨膜幹細胞の発見(Discovery of a periosteal stem cell mediating intramembranous bone formation
 骨は内側の骨内膜区画と外側の骨膜区画からなり,おのおのが骨の生理学的性質に異なる関与をしている。骨内膜の骨芽細胞を生じる骨格幹細胞は詳しく研究されているが,骨膜幹細胞(periosteal stem cell:PSC)がどのような性質を持つ細胞なのかは分かっていなかった。本研究によって,マウスの長骨や頭蓋冠に存在していて,クローン多能性や自己再生能を示し,分化階層構造の頂点に位置するPSCが特定された。この知見は,骨は多数の幹細胞プールを含んでいて,それぞれが異なる生理的機能を担っているという証拠であり,さらにマウスPSCに相当する細胞はヒト骨膜に存在しているので,PSCは骨格障害に対する薬物療法や細胞療法の有望な標的になる可能性がある。


●Science


(1)遺伝子編集治療


デュシェンヌ型筋ジストロフィーの犬モデルにて遺伝子編集によりジストロフィン発現量が増加(Gene editing restores dystrophin expression in a canine model of Duchenne muscular dystrophy

 デユシャンヌ型筋ジストロフィーはX染色体短腕のジストロフィン遺伝子変異によって生じる伴性劣性遺伝の疾患で,男性のみに発病し,進行性筋ジストロフィーの大部分を占める。CRISPR-Cas9の遺伝子編集(gene editing)技術で遺伝子変異を修復することによって治療できることがマウスのモデルでは示されてきた。今回の論文では,より大型動物モデルであるイヌの筋ジストロフィーにおいて,アデノ随伴ウイルスベクター(AAV9)を用いた遺伝子編集による治療が有効である可能性が示された。


(2)肺癌


リプログラミングにより健常ヒト上皮組織が,決して珍しくはない致死的な神経内分泌悪性腫瘍へ変化する(Reprogramming normal human epithelial tissues to a common, lethal neuroendocrine cancer lineage

 肺癌であれば小細胞癌として知られる神経内分泌系癌は色々な臓器にみられるが,果たして同じようなメカニズムによって発症するのかは不明であった。本論文では5つのドライバー遺伝子としてdominant negative p53(TP53DN)(P),myrAKT1(A),RB1–short hairpin RNA(shRNA)(R),c-Myc(C),BCL2(B)といった「PARCB」の分子の組合せを用いた研究で,異なる臓器である肺と前立腺で共通のメカニズムで各々発癌(小細胞肺癌と前立腺小細胞癌)を生じることを示している。


●NEJM


(1)肥満


幼少期のBMI増加率と肥満リスク(BMI acceleration in early childhood and obesity risk

 小児の出生時から思春期までのBMIの動態に関する研究で,持続性の肥満を発症しやすい年齢と,肥満の発症年齢を評価した.体重のもっとも急激な増加は2~6歳のあいだに生じ,その年齢での肥満は思春期の肥満を予測する。


(2)乾癬


乾癬に対する経口TYK2阻害薬の試験(Trial of an oral TYK2 inhibitor in psoriasis

 プラセボと選択的チロシンキナーゼ2阻害薬の5通りの投与量を比較した第2相無作為化試験で,高用量の4群は,プラセボよりも乾癬病変を消失させる割合が大きかった.実薬投与を受けている1例に,悪性黒色腫が発生した。


(3)FRONTIERS IN MEDICINE


臨床における次世代シーケンシング ― 未開の最前線(Clinical next-generation sequencing ― A wild frontier

 次世代シーケンシングによる検査の方法や長所や限界について解説されているレビュー。今後ますます臨床の領域での活躍が予想されるので御一読を。


(鈴木拓児)


※500文字以内で書いてください