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(1)英国ゲノムBank
高深度表現型解析とゲノムデータを含んだ英国バイオバンク情報源(The UK Biobank resource with deep phenotyping and genomic data) 英国バイオバンクの脳画像表現型のゲノム規模関連研究(Genome-wide association studies of brain imaging phenotypes in UK Biobank) |
2006年に登録の始まった,UK BioBankの50万人規模の解析の一部が報告されている。ヒトゲノム計画の一応の終了が2003年であるが,その数年後にこれだけのプロジェクトが英国では立ち上がっていた。概要としてExtended Table 1を見ると,そのカバーする規模が理解できる。認知症などのWeb-based questionnairesは後で加えられ,さらに死亡登録,癌登録,入院記録などが電子データとして連動する。よくできている。移民国でありながら,英国白人は88.26%を占める。
今回はその一部の報告であるが,身長に関するGWAS解析とか,HLAとmultiple sclerosisとの関連等で,既報のデータを確認している。Extendedには,登録者が申請した性と,実際の染色体データの差を示す図があり,現在話題のLGBTを思い起こす。
さらに今週号にはもう一報,このデータの1部で脳のMRI画像の特性とGWAS解析が合わせ報告されている。Manhattan plotを見ると,Ref Seqとの高い関連に驚く。こうした予想もしない組み合わせデータをNature用に準備するのも,英国的である。
日本ではこれを追って,東北大学のMedical Mega Bankがデータを集積している。つい10年前には,臨床ではSNPと疾患を話題にしていた。これからは巨大統合データの時代となる。
(2)血管発生,発生生物学
赤血球骨髄系前駆細胞は血管に内皮細胞を供給する(Erythro-myeloid progenitors contribute endothelial cells to blood vessels) |
胎児の栄養装置という漠然とした理解しかない卵黄嚢に,実は造血幹細胞(HSC)とは別系統の中胚葉・卵黄嚢由来細胞系統〔赤血球骨髄系前駆細胞(EMP),Csfr1+〕が存在する事実が関心を集めている。 2015年,組織常在性マクロファージとして卵黄嚢由来細胞が報告されている(Gomez Perdiguero, E, et al. Nature. 2015; 518: 547–51) 。今回は,HSC由来の血管上皮細胞以外に,blood vesselの構成細胞にも卵黄嚢由来EMPのendothelial cellが斑状に,しかも脳や肝臓では,30%とか60%も存在する(肺の血管系にも)と報告されている。これらは成人期にも残っている。こうした分子生物学技術による新発見は,解剖学的な理解を革新するものである。論文にはconditional knockoutの表現型の一部も示されている。これら事実は今後,大動脈瘤や血管壁への石灰沈着等,臨床例との関連性の解析で理解が進むことが期待されている。一方,血管のagingとは関連するのだろうか?
(1)脳研究
Special Issue:脳の形成Brain Development ・Neuronal specification in space and time ・Glia as architects of central nervous system formation and function ・Microglia and early brain development: An intimate journey ・Homology, neocortex, and the evolution of developmental mechanisms |
巻頭にmind-boggling(気の遠くなる,肝が潰れるような)と形容詞がついている,脳形成の4つの総説が並んでいる。特徴は,最近話題のgliaを中心とした脳の構成,あるいはマクロファージ機能を持つmicrogliaなどに,それぞれ1つの総説が当てられている点である。認知症の創薬は,開発に乗り出す企業,諦める企業と話題になるが,恐らくmicrogliaが鍵を握っている。以前にも紹介(TJHack No.8)したように,複雑な脳の細胞群がbarcording技術により,single cellでも解析が進んでいる。まさに脳研究はmind-bogglingな時代に入っている。
(2)腫瘍学
PD-1チェックポイント阻害免疫療法のための汎腫瘍ゲノムバイオマーカー(Pan-tumor genomic biomarkers for PD-1 checkpoint blockade–based immunotherapy) |
免疫抑制機構の阻害(ICI)という創薬コンセプトが,今年のノーベル医学・生理学賞として本庶佑教授とDr. Alissonが受賞することになった。世の中が急に癌免疫に注目している。問題は有効性へのBiomarkerの不備である。この論文は,先(TJHack No.8)にも紹介した癌細胞側の要因TMB(Chalmers ZR, et al. Genome Med. 2017; 9: 34)と,宿主免疫側の要因GEP(T cell-inflamed gene expression profile,具体的にはIFNγ関連6遺伝子,およびその拡大18遺伝子中の発現データ,Ayers M, et al. J Clin Invest. 2017; 127: 2930-40)の組み合わせによる患者選択が,より有効なBiomarkerであるというMerckを中心とした研究者の報告である。
TMBとGEPは相互には関連はないが,組み合わせるとICIへのresponderが40~50%となる。PFSをみても良い成積である。すでにデータのあるTCGAプロジェクトの検体で検討したものがFig.4に示されている。肺扁平上皮癌,肺腺癌ともに期待できそうだ。しかしアジアに多いEGFR変異陽性肺腺癌でのデータは示されていない。課題は腫瘍組織生検サンプルが必要である点である(もともとKEYNOTE臨床試験シリーズの検体を使用)。
これが雑誌ScienceのArticleか? という気もするが,今年のノーベル賞への話題提供である。
(3)Crisper-Cas
天然のCRISPR-Cas12a阻害因子のシステマティックな発見(Systematic discovery of natural CRISPR-Cas12a inhibitors) 広範にわたるI型およびV型CRISPR-Cas阻害因子の発見(Discovery of widespread type I and type V CRISPR-Cas inhibitors) |
細菌とファージの攻防戦において,当然CRISPER-Cas系を阻害する機構の存在は予想できる。今回,2報が報告されている。
(1)結核,感染症
DNA 配列決定による一次抗結核薬に対する感受性の予測(Prediction of susceptibility to first-line tuberculosis drugs by DNA equencing) |
世界の結核制圧の大きな課題は,耐性菌の克服である。近年耐性菌が増加する中,薬剤投与前にその有効性を予測するのは意義がある。しかし結核菌培養は2~4週もかかる。これを,結核菌のWhole genome sequence結果で耐性菌特徴的配列の有無と,有効性の結果を前向きに10,290例〔表1参照,23国より検体。この中に耐性菌データの現実(INH/RFP耐性化率約25%)も示してある〕で,検討した成績である。
結果は90%以上でpredictableであると結論している。膨大な研究費はBill & Melinda Gates財団より出され,Welcome Trustを中心とした研究者によりなされた。これに先行するretrospectiveな成績は引用がある(Walker TM, et al. Lancet Infect Dis. 2015; 15: 1193-202)。
結核予防会で2年半過ごした筆者としては,日本の結核制圧成功の要である①X線診断・高受診率検診と,②患者隔離・無償入院治療,③休業補償対策などがなされない限り,こうした耐性菌診断のみでは世界の結核制圧は不可能と思われる。現実の日本への結核の脅威は,2年後の東京オリンピックにおける観客の来日,年間4000万人の観光客,あるいは外国人就労者等であり,適切な検疫・健康管理体制を考える必要がある。
(2)AI医学
分類,オントロジー,精確な医療(Classification, ontology, and precision medicine) |
AIの医学適応には適切な診断検索,治療薬検索等,日常診療の手助けとして大きな関心が集まっている。しかしそれを構築するためにいかなるdatabaseが必要か? 診断名だけでもICD対応などいかに構築するか? 少し考えても,それこそmind-bogglingである。Oregon大学のグループの本総説は,そうしたAIに関して頭の中の整理にもってこいの内容である。Ontologyとは何を指しているのか? 総説を全部読まなくても,各章のタイトル,図表に目を通すだけで,大きなperspectiveが得られる。お薦めである。
(貫和敏博)