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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 19

公開日:2018.10.24


今週のジャーナル


Nature Vol. 562, No.7727(2018年10月18日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6412(2018年10月19日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 16(2018年10月18日)日本語版 英語版






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アスピリンの常識が崩壊/免疫抑制へ小胞体ストレス!多様な経路

●Nature


(1)遺伝学 


マウスの20種類の器官に由来する単一細胞トランスクリプトームによる遺伝子発現アトラス(Single-cell transcriptomics of 20 mouse organs creates a Tabula Muris
 これまでマウスの免疫細胞に関しては,各臓器に由来する免疫細胞の種類ごとの遺伝子発現のアレイデータがImmGen(https://www.immgen.org/)という組織によって公開されていた。本報告では,マウスの20種類の器官と組織に由来する10万個以上の細胞について,単一細胞トランスクリプトームを行い,そのデータを公開している(https://tabula-muris.ds.czbiohub.org/)。これまで特徴が不明であった細胞集団の遺伝子発現の評価や,同じ細胞でも解剖学的に異なる部位における比較が可能。免疫学に限らず,細胞生物学のあらゆる研究領域にとって有用な情報源となることが期待される。

(2)免疫学 

IRE1α–XBP1シグナルはミトコンドリアの活性を調節することによって卵巣癌におけるT細胞機能を制御する(IRE1α–XBP1 controls T cell function in ovarian cancer by regulating mitochondrial activity
 京都大学の森和俊先生は小胞体ストレスの発見で,2014年にラスカー賞を受賞され,次のノーベル賞候補として期待されている。本研究は,ある種の癌細胞は小胞体ストレスの認識に関わるシグナルをT細胞に誘導し,T細胞のエネルギー代謝を抑制することで免疫回避を起こしていることを示している。数年前に同グループからきれいな絵付きのレビューがpublishされているので参照されたい(http://clincancerres.aacrjournals.org/content/22/9/2121)。
 腫瘍による免疫回避機構の1つとして,T細胞の代謝やエフェクター機能を抑制する機序が注目されている。本報告では,卵巣癌が,T細胞において小胞体ストレスを誘導し,UPR(unfolded protein response)のIRE1α–XBP1シグナル経路を活性化すること,T細胞におけるIRE1α–XBP1シグナル経路の活性化がT細胞の腫瘍内への浸潤低下およびIFNG mRNAの発現低下と関連することを示している。そのメカニズムとして,卵巣癌の腫瘍環境では,T細胞のグルコースの取り込みが阻害=>N結合型蛋白質の糖鎖修飾が障害=>IRE1α–XBP1活性化誘導=>グルタミン輸送体の発現低下=>T細胞のミトコンドリア呼吸に必要なグルタミンの流入が制限=>ミトコンドリア活性およびIFNγ産生の抑制,という一連の流れを示した。さらに,N結合型の蛋白質糖鎖修飾の回復,IRE1α–XBP1活性化の阻止,もしくはグルタミン輸送体の強制発現によって,卵巣癌の腹水に曝露したヒトT細胞のミトコンドリア呼吸を改善した。
 小胞体ストレスの制御やIRE1α–XBP1シグナル伝達は,免疫療法という観点から,新たな治療標的となる可能性が期待される。


(3)腫瘍学(2報)

①基底細胞癌は,細胞のアイデンティティーの変換によりヘッジホッグ経路阻害を生き延びる(A cell identity switch allows residual BCC to survive Hedgehog pathway inhibition
②細胞周期の遅いLGR5陽性の腫瘍集団が治療後の基底細胞癌の再発に関わる(A slow-cycling LGR5 tumour population mediates basal cell carcinoma relapse after therapy
 皮膚癌の一種である基底細胞癌に対して,Vismodegibが2012年にFDAに承認された。Vismodegibはヘッジホッグシグナル経路を構成するSmoothened(SMO)を阻害するアンタゴニストとして機能する。今回Vismodegibに対する基底細胞癌の再燃に関してBack-to-backで2つ報告がされている。
 いずれもマウスの基底細胞癌モデルに対して,Vismodegib投与によってヘッジホッグシグナル経路の遮断を行った場合,基底細胞癌の一部が残存し,その細胞集団ではWntシグナル経路の活性化が生じているということを突き止めた。新たな治療戦略として,Wntシグナル伝達の阻害とビスモデギブ治療と組み合わせると,基底細胞癌をほぼ根絶することができることを示している。これらの結果は,Wnt阻害薬とSmoothened阻害薬の相乗効果が,基底細胞癌の腫瘍再発を防ぐために有用である可能性を示唆している。


●Science


(1)遺伝学 


ケシのゲノムとモルフィナンの産生(The opium poppy genome and morphinan production

 ケシが痛み止めとして使用されていたという記録は新石器時代にまでさかのぼるようであるが,現代においてはその依存性が大きな社会問題となっている。

 本研究では,ケシのゲノムを解読し,11染色体に蛋白をコードする50,000以上の遺伝子候補の存在を示している。この解析の結果,ケシがどのようにモルフィナンの生合成を行っているのか,そのメカニズムの一端が明らかとなった。遺伝子重複の解析により,シトクロムP450や酸化還元酵素をコードする遺伝子が(S)-to(R)-reticuline(STORR)遺伝子(アルカロイドの1種であるレチクリンをS体からR体へと変換する酵素)と融合することが,モルフィナンの生合成に必須であることを示している。医療用麻薬として,今後生合成などの技術を開発するうえでも重要な研究基盤となる。


(2)免疫学 


樹状細胞に発現するDNGR-1は好中球集積を阻止し,組織破壊を抑制する(DNGR-1 in dendritic cells limits tissue damage by dampening neutrophil recruitment

 通常の1型樹状細胞はdendritic cell natural killer lectin group receptor-1(DNGR-1)を発現し,細胞死の中でも「ネクローシス」した細胞で発現するF-actinに結合する。そのシグナルは,樹状細胞においてCD8T細胞に対する抗原提示を促進するような作用をもたらすことが知られている。本報告では,樹状細胞のDNGR-1は,宿主細胞の過剰な細胞死を抑制する作用も有することを初めて示している。DNGR-1の欠損マウスを用いた実験で,細胞に壊死を誘導するような刺激を加えた際に,DNGR-1の欠損では野生型と比較して好中球の過剰な集積が認められた。1型樹状細胞がDNGR-1を介して壊死細胞を認識すると,抑制性のSHP-1を介したシグナルが樹状細胞のCXCL2産生を抑制し,好中球の集積が減少する機序が解明された。抗原提示のスペシャリストである樹状細胞の好中球遊走における新たな役割が明らかになった。


(3)その他 


再生医学

ヒトiPS細胞からの卵原細胞のin vitro誘導(Generation of human oogonia from induced pluripotent stem cells in vitro

 京都大学のグループからiPSを用いた新たな細胞作成の技術の報告。Perspectiveにも取り上げられている(http://science.sciencemag.org/content/362/6412/291)。ヒトの多能性幹細胞をマウスのEmbryo由来の卵巣細胞と共培養する方法。In vitroでのヒトの配偶子形成を実現させるための重要な一歩である。


●NEJM


(1)予防医学 


アスピリン投与による予防効果(健常高齢者に関するstudy 3報)
①健常高齢者における無障害生存期間に対するアスピリンの効果(Effect of aspirin on disability-free survival in the healthy elderly
②健常高齢者における心血管イベントと出血に対するアスピリンの効果(Effect of aspirin on cardiovascular events and bleeding in the healthy elderly
③健常高齢者における全死因死亡率に対するアスピリンの効果(Effect of Aspirin on All-Cause Mortality in the Healthy Elderly
 ASPREE試験の結果が同時に3報に分けて報告されている。
 2010~2014年に,オーストラリアと米国で,年齢が70歳以上(米国では黒人とヒスパニックは65歳以上)で,心血管疾患・認知症・身体障害のない人を登録。参加者を,アスピリン100mg投与群とプラセボ群に無作為に割り付けた。年齢中央値74歳の19,114人が登録,うち9,525人がアスピリン群,9,589人がプラセボ群に割り付けられた。
 ①毎日の低用量アスピリン療法を5年間行うことで,健康な高齢者の無障害生存期間が延長するかどうかについて検討(主要評価項目:死亡,認知症,持続性の身体障害の複合)。5年の期間では,有意な無障害生存期間の延長なし,重大な出血の発生率は上昇した。
 ② ①の副次評価項目:心血管疾患(致死的冠動脈疾患,非致死的心筋梗塞,致死的・非致死的脳卒中,心不全による入院と定義)の1次予防としての役割について検討。①と同じく重大な出血の発生率を上昇させた一方で,心血管疾患リスクの有意な低下は認めず。
 ③アスピリン群とプラセボ群とで死亡率を比較するため,ハザード比を算出し,特定の死因について探索的なレトロ解析を行った。投与群では,プラセボ群と比較してむしろ高い全死因死亡率が観察され,それは主に癌による死に起因していた。これまでの先行研究とは異なる傾向にあるため,慎重な解釈が必要とコメントされている。
 以上より,本臨床試験では健常高齢者においては,5年間のアスピリン投与は有害事象を有意に増加させるのに対して,無障害生存期間や心血管疾患の1次予防としての有効性は認めないことが示された。

(2)予防医学 

アスピリン投与による予防効果(糖尿病患者に関するstudy)
糖尿病患者における一次予防に対するアスピリンの効果(Effects of aspirin for primary prevention in persons with diabetes mellitus
 ASCEND試験という上記3報とは異なるグループからの報告。
 糖尿病を有するが明らかな心血管疾患を有しない成人15,480例を,アスピリン100mg/日投与群とマッチさせたプラセボ投与群に無作為に割り付け。主要評価項目は,初回の重篤な血管イベント(心筋梗塞,脳梗塞または一過性脳虚血発作,あらゆる血管系の原因による死亡のいずれかで,確認された頭蓋内出血は除く),副次評価項目は消化管癌の発生。アスピリンの使用により重篤な血管イベントは有意に予防されたが,重大な出血イベントも有意に多かった。消化管癌の発生や,すべての癌の発生に有意差は認めず(これらについては長期追跡を行う予定)。

(SK)