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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 20

公開日:2018.10.31


今週のジャーナル


Nature Vol. 562, No.7728(2018年10月25日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6413(2018年10月26日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 17(2018年10月25日)日本語版 英語版






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Cystic fibrosis(delF508変異症例)への3剤併用臨床試験で塩素イオン,FEV1.0改善効果を証明

●Nature


(1)グリア細胞蛋白蓄積と老化 


老化したグリア細胞の除去はタウ依存的病変と認知機能低下を防ぐ(Clearance of senescent glial cells prevents tau-dependent pathology and cognitive decline
 TJHackとして臨床関連の論文を理解する中で,自分の専門以外の領域は取っ付きにくい。この論文は脳におけるtau蛋白蓄積を扱ったもので,認知症との関連で関心がある。読解のポイントは使用された遺伝子改変マウスの理解から始まる。
 Baker DJのグループではこれが3番目のNature論文であるが,一貫してp16INK4AというCDK(cyclin dependent kinase)の阻害物質を取り上げている。これは癌抑制物質であるが,それは裏を返せば老化の指標でもある。彼らは老化物質の視点からその除去効果を前2報で報告している。

 この論文では,MAPTP301SPS19というtau蛋白変異マウスで神経系に変異tauが蓄積するモデルマウスを使用している。もう一つのマウスは,ATTAC(apoptosis through targeted activation of caspase 8)という遺伝子改変マウスで,個体中の特異細胞をcaspase 8で細胞死で除去することができる。これらを掛け合わせSP19; ATTACマウスとして実験に使用する。

 結果は脳のglia細胞であるastrocyteやmicrogliaに変異tauが蓄積し,それをp16INK4Aの増加としてATTACシステムを作動させると,これら細胞が除去される。そうすると海馬や大脳皮質で蓄積蛋白やそれに伴う炎症性物質が低下し,認知は改善する。さらに同様効果を期待して,本来は抗癌剤として開発されたABT263(navitoclax; Bcl-2やBcl-XL等の阻害剤)を使用すると,ほぼ同等効果が得られることを示している。認知症臨床対応への夢が現実化するだろうか?

 さて現在ではGoogleやWikipediaを検索すると,今回の筆者のように未知の領域でも,ここで示されたマウスモデル(このような遺伝子改変マウスは実際には2000年前後から多用されるようになり,「試験管実験から個体としての理解」を推進し,分子生物学を臨床実験として解釈しうるようになっている)や薬剤の情報が容易に入手可能である。この一手間を面倒くさがらないかどうかがTJHackの要点か? 最初は少し大変だろうが,やってみると1時間以内に情報収集ができるでしょう。

(2)腫瘍学,抗体製剤化ターゲット 

白血病細胞でのLILRB4シグナル伝達がT細胞の抑制と腫瘍の浸潤を仲介する(LILRB4 signalling in leukaemia cells mediates T cell suppression and tumour infiltration
 なぜ白血病には抗PD-1抗体や抗CTLA-4抗体が効かないのか?
 論文著者らはその原因を,これら病態では他の免疫制御機構が機能していると想定し,癌ゲノムTCGA databaseから,多数のco-stimulating受容体とco-inhibitory受容体の発現とAML患者予後との関連を解析し,患者の予後を悪くするLILRB4(leukocyte immunogloblin-like receptor B4)を候補として見いだした。

 これはAMLの内でもmonocyte系のM4,M5に高発現している。血液腫瘍細胞株THP-1やMV4-IIのLILRB4をノックアウトすることで,これが白血病病態に関与することを確認し,意外なことにApoE(apolipoprotein E:肝臓で産生されるが,マクロファージでも産生。その免疫抑制能も報告あり)等がLILRB4経路を活性化することを見いだしている。LILRB4が活性化すると白血病細胞が組織浸潤する。

 LILRB4はmonocytic AML以外にも,NSCLCやtumor associated macrophageにも発現しているので,これを標的とした治療も考慮しうるという。今後,抗PD-1抗体無効の癌腫には,これ以外にも新たな標的が見いだされる可能性がある。


(3)その他 

TEDDY研究から明らかになった小児期早期における腸マイクロバイオームの時間的発達(Temporal development of the gut microbiome in early childhood from the TEDDY study
 腸管内細菌叢形成を生後3Mから46Mまで900例で16SrRNAを用いて解析,追跡したTEDDY(The Environmental Determinants of Diabetes in the Young)研究の報告である。母乳とビフィズス菌の関連は追試されているが,残念ながらT1Dなど糖尿病との関連はわずかに有意とのみ報告されている。


●Science


(1)腫瘍学,TCGAプロジェクト 


ヒト悪性腫瘍における網羅的なオープンクロマチン領域の解析(The chromatin accessibility landscape of primary human cancers

 最近5年以上に渡り,2005年から始まったTCGAプロジェクトのデータが次々論文化されている。この論文もTCGA databaseを用いての報告である。

 23癌腫,410検体よりtransposase-accessible DNA elementsを解析している。ATAC-seq(the assay for transposase-accessible chromatin using sequence)を用いて,腫瘍化した細胞における想定遠隔enhancerや,特異なdriving TF(transcription factor),さらには癌における遠隔遺伝子制御等の報告で,正常組織との差が興味持たれる。

 Fig.4には,肺扁平上皮癌(LUSC)と肺腺癌(LUAD)における特徴的TFである,TP63(LUSCでより顕著に変化)とNKX2-1(TTF-1に同じ,LUADでより顕著に変化)それぞれの認識する配列のaccessibilityが逆である図が示されている。

 従来のTCGA報告は蛋白コード領域の変異を中心とした解析であったが,より複雑なnon-coding領域の変化がさらに癌の診断,治療に還元されるのが期待される。


(2)圧受容体 


イオンチャネルPIEZOは血圧と圧受容器反射の神経細胞による感知を調節している(PIEZOs mediate neuronal sensing of blood pressure and the baroreceptor reflex

 2010年にsiRNAを用いて,圧受容体と同定されたPiezo1,Piezo2遺伝子は,2014年には皮膚のMerkel細胞でPiezo2が触感覚の責任遺伝子であることが証明され,2017年には肺の換気における迷走神経系の圧受容体としてPiezo2の役割が報告されている。

 本論文では2017年と同じグループが,血圧に関してもPiezo1とPiezo2のKOマウスやoptogenetics法を用いて,両遺伝子共に長らくその実態が不明であったbaroreceptor mechanosensorであると同定している。Fig.4には頸部静脈洞の図共々,実験成績が示されていて,呼吸器科医も一見すべきである。

 これら圧受容体に関しては,実験系設定が困難であったことから,受容体遺伝子同定が遅れているが,Piezo1,Piezo2遺伝子が関連する機能が次々同定されていく。


●NEJM


(1)Cystic fibrosis(CF)治療薬 


・Phe508delアレルを1個または2個有する囊胞性線維症患者におけるVX-659,テザカフトール,アイバカフトールの併用(VX-659–tezacaftor–ivacaftor in patients with cystic fibrosis and one or two Phe508del alleles
・Phe508delアレルを1個または2個有する囊胞性線維症患者におけるVX-445,テザカフトール,アイバカフトールの併用(VX-445–tezacaftor–ivacaftor in patients with cystic fibrosis and one or two Phe508del alleles
 日本人(アジアでも)にはなじみのない病気である。筆者が米国NIHに留学した1984年当時,車を運転中にCF foundationの放送をよく耳にした。"When you grow up, when you grow up…”の曲が流れた。何という残酷な曲を使うのだという思いと,一方で苦しむ患者を支援する財団組織の存在という米国社会を知らされた。CFの予後は悪く,grow upできない事は知っていた。
 以来35年,薬剤を開発したVertex社の話まで入れると,その経緯は一大小説になるだろう。ついに遺伝子治療ではなく,頻度60%以上の特異遺伝子変異(delF508)に対して3剤併用療法を達成したのである。

 なぜ3剤か? それはCFTR遺伝子変異のアミノ酸位置で,合成されたCFTR蛋白が,①実際に細胞膜に局在するまでの過程の促進薬剤(correctorsと総称する),②細胞膜でのイオン透過効率の改善薬剤(potentiatorsと総称)など薬剤が分けられるからである(delF508変異は蛋白が合成されても細胞膜への局在が不十分で②の薬剤のみでは効果がなかった)。前者に有効なのが今回のVX-659,VX-445,Tezacaftorなど,後者に有効なのがIvacaftorであり,臨床試験はこれらの組み合わせとなる(Correctors等治療薬の理解にはこちらの図)。

 今回報告の2つの臨床試験はparallelに同様デザインで2017~2018年に実施された。その結果は,ともにCFTR蛋白の細胞膜での有意な発現改善,FEV1.0の有意な臨床的改善を示し,一報では変異CFTR遺伝子発現細胞では,in vitroで薬剤により塩素イオン透過の改善も示されている。

 CFは全世界で8万人が罹患し,肺病態が中心であるが,副鼻腔,膵臓,大腸,生殖器等全身が影響を受ける(UCSF小児病院からは参考となるスライドPDFがある:リンクはこちら)。その半数以上の患者にみられるdelF508変異は約5万年前にホモサピエンスに出現した変異で,北欧を中心に白人での遺伝子頻度は1/25から1/50と高頻度である。しかしアフリカ,アジアではまれであり,人種差が明瞭である。

 CFTR遺伝子は1989年にクローニングされた。そのサイエンス論文の共著者であるCollins FSは1986年,留学中参加したJCIの学会で,筆者の提示近くにChromosomal jump法のポスターを提示していた。彼に「何の遺伝子をクローニングするのか」と尋ねると,即座にCF遺伝子と返事があり,印象に残った。それが3年後実際にクローニング報告されたのには心底驚いた。彼は2003年,Venter Cとともにヒトゲノムプロジェクトを完了し,NHGRI所長を経て,現在全NIHの所長である。

 VX-は製薬メーカーVertexの開発コードである。Vertex は1989年,“Rational drug design”を戦略として創業された会社である。CF財団より莫大な支援を受け,CF治療薬を開発している。C型肝炎薬剤Telaprevir(テラビック)とともにCF治療薬Ivacaftorも開発したが,1患者年間307,000ドル(約3400万円)の薬剤費で,患者団体や株式市場が色々物議を醸した。

 最後にCFTR蛋白が多く発現している特異細胞が,気道上皮細胞のsingle cell発現解析で最近新たに同定されたionocyteである(No.10  気道上皮細胞ionocyteの華麗なるデビュー-Single cell RNA Seqの呼吸器応用/PD-L1 on exosome-ICI responseのbiomarkerになるか? 2018.8.22)。

 今回は少々長くなったが日本にいては理解しにくいCF研究展開とその治療薬開発に関して全体像をブログ風にまとめた。

(2)呼吸器,結核ワクチン 

結核予防のためのM72/AS01Eワクチンの第2b相比較試験(Phase 2b controlled trial of M72/AS01E vaccine to prevent tuberculosis
 この結核菌ワクチンの臨床試験は,先に紹介したので省略する(No.16 いよいよ結核予防ワクチンは実用化されるのか? 2018.10.3)。Editorialにはワクチン開発の困難な歴史や,登録患者における免疫状態の追跡調査の必要性などが記されている。

(TN)


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