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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 21

公開日:2018.11.07


今週のジャーナル


Nature Vol. 563, No.7729(2018年11月1日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6414(2018年11月2日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No. 18(2018年11月1日)日本語版 英語版






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特発性肺線維症患者に対して「ニンテダニブとシルデナフィルとの併用」は効果があるか?

●Nature


(1)神経科学 


脊髄損傷患者での標的化ニューロテクノロジーによる歩行の回復(Targeted neurotechnology restores walking in humans with spinal cord injury

 この研究では,リアルタイムのトリガー機能を持つ埋め込み型のパルス発生器を用いて,意図する動作にタイミングを合わせ,腰仙髄へ空間選択的な一連の刺激を送ることを可能にした。すなわち,歩行中に通常活性化される筋肉群を動員する脊髄領域への電気刺激の空間パターンを特定し,その後,意図する動作にタイミングを合わせて目的の領域へ刺激を送るのである。この時空間的刺激によって,1週間以内に床上歩行において麻痺していた筋肉の適応制御が再確立され,運動能力はリハビリテーションによって改善した。数か月後,被験者は麻痺していた筋肉の随意制御能を刺激なしでも取り戻し,時空間的刺激を受けている間は屋外での歩行や三輪自転車走行が可能になった,という画期的な成果が紹介されている。リンクしているビデオで治療効果が劇的なことを確認できる。結構,感動的。筆者個人的には学生時代に授業を受けた東北大学解剖学の半田先生の機能的電気刺激のお仕事を思い出した。


(2)生物学的手法 

神経系統に関わる胚盤胞補完法により可能になったマウス前脳器官形成(Neural blastocyst complementation enables mouse forebrain organogenesis
 胚盤胞補完法(blastocyst complementation)は動物の体内においてドナーの多能性幹細胞に完全に由来する機能的な臓器を作製する手法(日本からは,中内啓光先生らが膵臓や腎臓について同種や異種動物で報告している)であるが,これまで脳組織では報告がなかった。今回の論文ではジフテリア毒素を用いて前脳特異的ターゲッティング処理を行った胚盤胞へドナーES細胞を注入すると,ドナー由来の背側終脳前駆細胞が宿主胚中の空のニッチに生着できるようになり,新皮質と海馬が生じることを示している。そして学習と記憶形成に関して形態学的および神経学的に正常であることも報告している。この神経系統に関わる胚盤胞補完法は,前脳の機能を研究するための複雑なモデルマウス作製に使える迅速かつ効率的な手法である。


(3)免疫,腫瘍 

核内のcGASはDNA修復を抑制して腫瘍発生を促進する(Nuclear cGAS suppresses DNA repair and promotes tumorigenesis
 免疫と腫瘍の領域の論文だがいわゆる腫瘍免疫の話ではない。サイクリックGMP–AMPシンターゼ(cGAS)は,STING–IRF3–I型IFNシグナル伝達カスケードを開始させることで,自然免疫を活性化する細胞質内DNAセンサーである。DNA損傷があるとcGASは核移行し,核内でcGASは二本鎖切断部位へ誘導され,ポリADPリボースを介してPARP1と相互作用しDNA相同組換えが抑制される。cGASがないとDNA損傷が抑制され,腫瘍増殖が阻害されることが分かった。核内のcGASは相同組換えによる修復を抑制して腫瘍増殖を促進することから,cGASは,癌の予防や治療の標的となり得ることが示唆された。

●Science


(1)神経変性疾患 


パーキンソン病においてポリ(ADPリボース)はαシヌクレインによる異常神経変性を助長する〔Poly(ADP-ribose)drives pathologic α-synuclein neurodegeneration in Parkinson’s disease

 パーキンソン病ではαシヌクレインが異常沈着することが原因ではないかと言われているが,発症メカニズムについては不明であった。今回の論文では,異常αシヌクレインはnitoric oxide synthetase(NOS)を活性化してDNA損傷を引き起こし,PARP-1〔poly(adenosine 5’-diphosphate-ribose)polymerase-1〕を活性化して神経細胞を殺すことが明らかとなり,PARP阻害薬によって細胞死を防げることが示された。ある種の癌ではDNA修復の際にPARPに依存性のために阻害薬が抗癌作用を示すことが分かっている。PARP阻害薬は乳癌治療などですでに入手可能であり,今後の治療法の発展が期待される。本論文についてはPERSPECTIVESに"Cancer enzyme affects Parkinson’s disease"として,わかりやすく解説されている。

 パーキンソン病関連では,最近Science Translational Medicineに成人早期に虫垂を切除した人のパーキンソン病発症リスクが,切除していない人よりも低い,という内容の論文(Sci Transl Med. 2018; 10(465). pii: eaar5280)が出ている。これは盲腸で異常型αシヌクレインの生成が起きていることを示しており,今回の論文と合わせてパーキンソン病の病態生理としては興味深い。ご参考までに。


(2)感染症・予防接種 


インフルエンザヘマグルチニンに対する多ドメイン抗体を用いたインフルエンザ感染に対する広汎な防御(Universal protection against influenza infection by a multidomain antibody to influenza hemagglutinin

 インフルエンザの予防にワクチンは大切だが,問題点として,その効果が個々人によって異なっていること,ウイルスの変異によってワクチンに適切な抗原を得るのが難しいことなどがあげられる。今回の論文では,インフルエンザウイルスのhemagglutinin(HA)の複数のエピトープを標的としたマルチドメイン抗体を開発し,マウスの系でその有効性が確認された。


●NEJM


(1)循環器 


心原性ショックにおけるPCI戦略(One-year outcomes after PCI strategies in cardiogenic shock

 急性心筋梗塞で心原性ショックをきたした多枝冠動脈疾患を有する患者では,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)について,責任病変のみに施行するほうが,即時の多枝PCIよりも30 日の時点での全死因死亡,または腎代替療法にいたる重症腎不全の複合リスクが低いことが報告されている。今回その追跡1年の時点での臨床転帰を評価したが,死亡率で群間に有意差を認めなかった。


(2)癌免疫療法 


リンパ腫における抗 CD47 によるマクロファージチェックポイント阻害(CD47 blockade by Hu5F9-G4 and rituximab in non-Hodgkin’s legalymphoma

 CD47は"don’t eat me" signalとしてマクロファージが腫瘍を貪食するのを邪魔する分子である。 Hu5F9-G4(5F9)抗体は,CD47を阻害するマクロファージ免疫チェックポイント阻害薬であり,腫瘍細胞の貪食を誘導する。本試験は,再発または難治性の非ホジキンリンパ腫患者を対象とした第1b相試験で,中悪性度と低悪性度のリンパ腫患者において,マクロファージチェックポイント阻害薬5F9をリツキシマブ(anti-CD20)と併用することで,有望な活性が示された。重要な有害事象もみられなかった。こうしたマクロファージチェックポイント阻害治療は特に本例のような抗体治療との組み合わせが期待できそうであり,さらにT細胞の免疫チェックポイント阻害との組み合わせなど様々な将来の展望が期待される。

 偶然だがCD47の正常組織での役割として,今週のNatureのNEWS AND VIEWSにNeuron誌の論文(Neuron. 2018; 100: 120-34)が"A 'don’t eat me' immune signal protects neuronal connections"として紹介されている。正常の脳の発生ではシナプスの形成が大切だが,その際にシナプスはCD47を発現して脳のマクロファージであるミクログリア細胞から壊されるのを防いでいるという興味深いメカニズムがあるらしい。


(3)呼吸器内科,肺線維症 


特発性肺線維症の症状に対するシルデナフィル(Nintedanib plus sildenafil in patients with idiopathic pulmonary fibrosis

 既報の臨床試験のサブグループ解析により,シルデナフィルは,一酸化炭素肺拡散能(DLco)が著明に低下しているIPF患者の酸素化,DLcoで測定したガス交換,症状,QOLに利益をもたらす可能性があることが示唆されているため,今回の試験ではこの見解を検証した。IPF で,DLcoが予測値の35%以下である患者を,24週にわたり,ニンテダニブ+シルデナフィル群かニンテダニブ+プラセボ群に割り付けて比較した。主要評価項目は,12週の時点におけるセントジョージ呼吸器質問票(SGRQ)の総スコアの,ベースラインからの変化量としたが,両群で有意差は認められなかった。新たな有害事象も認めなかった。


(4)感染症,院内感染 


米国の病院における医療関連感染(Changes in prevalence of health care–associated infections in U.S. hospitals

 2011 年に米国で行われた時点有病率調査により,入院患者の4%が医療関連感染を起こしていることが示された。今回は2015年に再調査を行い比較したところ,医療関連感染の有病率は,2015年のほうが2011年よりも低かった。とくに頻度が高かったのは,肺炎,消化管感染(大半はClostridium difficileが原因),手術部位感染であった。医療関連感染の予防をさらに進展させるために,C. difficile 感染と肺炎に対する予防戦略を強化すべきである。


(5)腫瘍 


REVIEW ARTICLE

腫瘍学における無細胞腫瘍DNAの新しい役割(Application of cell-free DNA analysis to cancer treatment

 非侵襲的技術であり,癌の発見・予防・治療に有用であることから注目されている血液中の腫瘍DNAの検査,いわゆるリキッドバイオプシーについての総説。


(鈴木拓児)


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