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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 23

公開日:2018.11.21


今週のジャーナル


Nature Vol. 563, No.7731(2018年11月15日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6416(2018年11月16日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No.20(2018年11月15日)日本語版 英語版






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低分子化合物による肺炎症の抑制-OGG1の作用と阻害剤の可能性/どこまで続く一細胞シークエンス(scRNAseq)による研究展開-妊娠中の母体と胎児の境界から見つかった新たな細胞群

●Nature


(1)発生学 


一細胞シークエンスによって明らかになった妊娠初期の母体と胎児の境界部分の細胞群(Single-cell reconstruction of the early maternal–fetal interface in humans

 まだまだ謎の多い母体が胎児に対して免疫寛容になるメカニズム。この研究では,これまでにも繰り返し登場している一細胞RNAシークエンスの技術と貴重な臨床検体の回収から,胎児と母体の境界面を構成する新たな細胞成分を明らかにしたという画期的な報告。今週の表紙にも選ばれ,その要旨はNEWS AND VIEWSでも分かりやすく紹介されている。

 ヒトの妊娠初期には,子宮内膜が脱落膜へと形質転換し,その中に胎盤が埋め込まれる。そこで胎盤の栄養芽細胞(placental trophoblast cells)は母体の細胞と混ざり合って,情報連絡を行うことが知られている。著者らは,妊娠6週から14週で中絶を希望した症例から,胎児側として胎盤・母体側として子宮脱落膜細胞および末梢血を回収して,約7万の単一細胞についてRNAシークエンスを行った。脱落膜の異なる層で新たなストローマ細胞のサブセットを明らかにするとともに,脱落膜のナチュラルキラー細胞には3つのサブセットがあることを見出した。このような単一細胞アトラスは,発生学の理解を大きく変えるだけでなく,未知の免疫寛容のメカニズムを見出すきっかけになるかもしれない。

(2)微生物学 

抗体とTLR7アゴニストの併用はサルにおいてサル–ヒト免疫不全ウイルスのリバウンドを遅らせる(Antibody and TLR7 agonist delay viral rebound in SHIV-infected monkeys
 インフルエンザウイルスやRSウイルスなどとともに,HIVウイルスはゲノムを1本鎖RNAの形で保有し,宿主の自然免疫受容体であるTLR7やRIG-Iなどによって認識されることが知られている。HIV治療においてはウイルスの増殖を標的とする抗ウイルス薬ARTの進歩に伴い良好なコントロールを得られるようになったが,CD4T細胞に増殖しない状態で潜伏するウイルス(latent reservoir)を完全に駆逐することは出来ず,治療中断によるウイルスの再増殖が問題となっている。この研究では,ART治療中において,この潜伏性のウイルスリザーバーを標的とする治療として,TLR7アゴニスト〔ベサトリモド(GS-9620)〕とHIVのエンベロープ蛋白の広範な中和抗体(bNAb)を併用する方法の有効性を示した。

 アカゲザル44匹を用いた実験で,サル–ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)感染後にARTを開始したのち,この併用療法を行うと,ART中断後のウイルスの再増殖が有意に抑制され,併用療法をうけた約50%ではウイルスが完全に消失した。HIV感染の根治の可能性が期待されるとともに,HIV以外にも長期に抗ウイルス治療を必要とする慢性ウイルス感染症に対して,同様の治療戦略が有効である可能性が期待される。

(3)その他

マウスの全身透明化技術が様々な研究応用へ期待される(‘Invisible’ mice reveal anatomical secrets
 東京大学の上田先生を中心に開発されてきた組織の透明化技術(Susaki EA, et al. Cell 2014, Tainaka K, et al. Cell 2014, Susaki EA, et al. Nat Protoc 2015)。特に脳など,透明化試薬が浸透しやすい臓器においてはそのネットワーク・構造を理解するための非常に強力なツールとなっている。様々な研究室がこの領域に参入し,透明化試薬はさらに進化するとともに,細胞・蛋白質を検出するため,通常の抗体ではなくNanobody(ラクダ科の動物がもつ。抗体のうち抗原を認識する最小の断片)を用いることで,発色試薬をより浸透させやすくなった。(Cai R. et al. bioRxiv 2018. doi: 10.1101/374785


●Science


(1)食事と健康のサイエンス最前線(Reviews) 


・食事由来の脂肪が見直されている(Dietary fat: From foe to friend?

・絶食の時間(A time to fast

・食事と健康をつなぐ腸内細菌叢の役割(The gut microbiota at the intersection of diet and human health

・より優れたアスリートを育てるレシピ(Swifter, higher, stronger: What’s on the menu?

 食と健康という非常に身近なテーマについて最近のサイエンスの進歩を4つの観点からレビューしている。「悪玉とは限らない脂肪の有用な側面」,「健康的な食事摂取の回数・摂取量」,「腸内細菌叢の役割」,「優秀なアスリートを育てる食事」などが最新の論文データとともに総説として記載されている。特に4つ目は興味深い。慢性不全・呼吸リハビリを考える呼吸器内科医にとっても重要なヒントになるかもしれない。


(2) 抗炎症とOGG1 


OGG1(8-oxoguanine DNA glycosylase 1)の低分子阻害剤は炎症促進性の遺伝群の発現と炎症を抑制する(Small-molecule inhibitor of OGG1 suppresses proinflammatory gene expression and inflammation

 炎症が生じた部位に遊走する自然免疫細胞の代表がマクロファージや好中球であり,そのような細胞は活性化によりエフェクターの一つとして活性酸素種・活性窒素種(RONS: reactive oxygen and nitrogen species)を放出することで,外来の微生物の侵入などを防いでいる。その一方で,過剰なRONSの産生はDNAに酸化ストレスによる傷害を与える。

この研究では,この様な酸化ダメージは,NFkBのプロモーター結合領域に近接したグアニン(G)が豊富な領域に生じやすく,一度グアニンの酸化ダメージが生じると,そこにはDNA修復酵素であるOGG1が結合しやすくなり,OGG1がさらに炎症促進性の転写因子をリクルートしてくる。このようなメカニズムによって炎症が増幅することが分かった(Perspectiveに図解あり)。さらに著者らは,このOGG1のDNAダメージ部位への結合を阻害する低分子化合物を作成し,それを投与することで,LPSやTNFaによる肺の急性炎症を安全に抑制することをマウスモデルによって証明した。アウトカムとして最終段階で放出されるサイトカインを抑制するのではなく,その上流で炎症にアクセルをかける因子を低分子で阻害するという新たな治療法として注目される。


●NEJM


(1)感染症:HIVとIRIS  


結核関連の免疫再構築症候群に対するステロイド治療の有効性と安全性(Prednisone for the prevention of paradoxical tuberculosis-associated IRIS

 HIV感染症では,先述の抗ウイルス治療(anti-retroviral therapy: ART)を開始することで,血中のCD4T細胞数が上昇し免疫機能が回復する。この際,臨床症状が一過性に増悪する例が観察され,免疫再構築症候群(Immune Reconstitution Inflammatory Syndrome: IRIS)と呼ばれる。IRISは,すでに体内に感染している病原に対し,回復(再構築)された免疫機能が再度反応することで,炎症が増悪することによるものと考えられ,特に治療開始前にCD4数が低値の症例で起こりやすく,結核,非定型抗酸菌症,ニューモシスチス肺炎,サイトメガロウイルス感染症,クリプトコッカス症などのその病態が報告されている。

 この臨床試験は,結核関連のIRISのリスクが高い患者に対するプレドニゾン(prednisone)の予防投与について,その有効性・安全性を評価したもの。ART開始前の30日以内に結核治療を開始し,CD4数が100/μL以下の患者が対象。プレドニゾン投与群(40mg/日を14日間,その後20mg/日を14日間)またはプラセボ投与群で,ART開始後12週以内の結核関連IRISの発症を評価する試験。4週間行うプレドニゾン予防投与は,プラセボと比較して結核関連IRISの発症率を低下させ,合併症としての重症感染症や癌のリスクは上昇させなかった。


(2)今週の画像


EGFR変異陽性肺癌のびまん性の肺転移(Miliary metastases in non–small-cell lung cancer


(小山正平)


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