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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 25

公開日:2018.12.5


今週のジャーナル


Nature Vol. 563, No.7733(2018年11月29日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6418(2018年11月30日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No.22(2018年11月29日)日本語版 英語版






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驚きの連続:遺伝子編集した人間の誕生/RNAから逆転写された変異DNAが組み込まれて増殖する恐ろしいアルツハイマー病/単糖のマンノース投与による癌治療

●Nature


(1)News  


ゲノム編集した双子が誕生したという中国の科学者からの主張に,国内外から激しい批判が(Genome-edited baby claim provokes international outcry
 NatureでもScienceでも今週とりあげられているのは,中国の科学者・賀建奎(He Jiankui)らがゲノム編集した双子を誕生させた,という人類初となる「遺伝子操作赤ちゃん」のニュースである。ゲノム編集の理由を,父親がHIV感染しているために胎児のCCR5遺伝子を発現しないようにして感染を防いだ,という主張だが,母親が感染していないことや,たとえ感染していても帝王切開で子供の感染を防げることから今回の行為には倫理的な面で世界中からの批判が殺到している。

(2)アルツハイマー病 

アルツハイマー病のニューロンと正常なニューロンにおけるAPP遺伝子の体細胞組換え(Somatic APP gene recombination in Alzheimer’s disease and normal neurons
 ヒトのニューロンにおいて,アミロイド前駆体蛋白質をコードするアルツハイマー病関連遺伝子であるAPPの組換えがモザイク状に起こり,数千種類の「ゲノム由来(genomic)cDNA(gencDNA)」バリアントが生じることが報告された。gencDNAはイントロンを欠いており,発現した脳特異的RNAスプライシングバリアントの完全長cDNAコピーから,エキソン内での連結,挿入,欠失,一塩基変動などを含む,多数のより短いものまでさまざまだった。APP遺伝子が一度転写された後,逆転写酵素でcDNAに転換され,それがゲノムに再挿入され,こうした異常DNAが増えていくという可能性を示唆していて,そんなことがあるのかという驚きの連続である()。

(3)古人類学 

ネアンデルタール人と後期旧石器時代の現生人類の頭蓋外傷受傷率は同等だった(Similar cranial trauma prevalence among Neanderthals and Upper Palaeolithic modern humans
 ネアンデルタール人は生存のために危険な生活をしていいて,現存するその頭蓋骨から頭蓋外傷の受傷率は高いとする仮説があるが,その再評価を行った研究である。その結果,ネアンデルタール人と後期旧石器時代前期の解剖学的現生人類とでは,頭蓋外傷の全体的な出現頻度が類似しており,共に男性で外傷の出現頻度が高いことが明らかになった。しかし外傷の受傷はネアンデルタール人で若かったらしい。
 個人的には,こんなことまで調べられことに驚いたが,もしかしたら特に危険な生活をしていたわけではないかもしれない,ということまで推測出来るところが面白い。

(4)癌 

マンノースは腫瘍増殖を妨げて化学療法の有効性を増強する(Mannose impairs tumour growth and enhances chemotherapy
 癌細胞の多くでは糖代謝が亢進しており,それを利用したFDG-PET検査は臨床でも使用されている。本論文では,マンノースはグルコースと同じ輸送体により取り込まれるが,細胞内ではマンノース6-リン酸として蓄積し,これが解糖系やトリカルボン酸回路,ペントースリン酸経路,グリカン合成でのグルコース代謝の進行を妨げることを報告している。その結果,従来の化学療法と組み合わせてマンノースを投与すると,Bcl-2ファミリーの抗アポトーシス蛋白質のレベルに影響が及び,細胞死に対する反応性が高まる。また,マンノースに対する感受性は,ホスホマンノースイソメラーゼ(PMI)のレベルに依存していることが分かった。 
PMIレベルの低い細胞はマンノースに対して感受性だが,PMIレベルの高い細胞はマンノース抵抗性である。
 シンプルな単糖のマンノース投与が治療に役立つかもしれない,という目から鱗のような論文である。

●Science

Natureでもとりあげられていたヒトでのゲノム編集についてのニュースが載っている。

(1)免疫学 


病原体によるTAK1の阻害はカスペース8依存的なガスダーミンDの切断を引き起こし細胞死を誘導する(Pathogen blockade of TAK1 triggers caspase-8–dependent cleavage of gasdermin D and cell death

 インフラマソームの活性化によりサイトカイン産生のほかにpyroptotic cell deathという細胞死がthe caspase-mediated cleavage of gasdermin D(GSDMD)によって引き起こされる。これまではマクロファージにおけるGSDMDの調節はカスパーゼ1とカスパーゼ11が知られているのみであった。本論文ではYersinia感染で誘導されるYopJという分子がTAK1–IκBシグナル経路を阻害し,カスパーゼ8によりGSDMDが切断され,pyroptosisを引き起こし,IL-1βやIL-18を産生することが報告されている。


●NEJM

(1)癌 


進行トリプルネガティブ乳癌に対するアテゾリズマブと nab-パクリタキセル(Atezolizumab and nab-paclitaxel in advanced triple-negative breast cancer

 乳癌のなかでも予後不良な転移性トリプルネガティブ乳癌患者(未治療)をアテゾリズマブと nab-パクリタキセルを併用する群とプラセボとnab-パクリタキセルを併用する群に(1:1 の割合で)無作為に割り付けた第三相試験。アテゾリズマブとnab-パクリタキセルの併用により,無増悪生存期間が,特にPD-L1 陽性サブグループで有意に延長した()。


(2)精神科 


注意欠陥多動性障害と入学月(Attention deficit–hyperactivity disorder and month of school enrollment

 ADHD の診断と幼稚園入園時の年齢,いわゆる早生まれかどうかの影響をみた研究。

 もともと,同一学年でも,より年齢の低い小児は,より高い小児に比べて行動の違いから注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断を受けやすい可能性があり,行動の違いは年齢の低さではなく ADHD が原因とみなされている可能性がある。大規模な保険データベースの 2007~15 年のデータを用いて,幼稚園入園には9月1日までに5歳になっていることを要件とする州とそうでない州において(アメリカでは9月から新学年がはじまるので),8月生まれの児と9月生まれの児とで ADHD の診断割合を比較した。幼稚園入園の基準日を9月1日とする州では,ADHDの診断割合と治療割合は,8月生まれの児のほうが9月生まれの児よりも高かった。これらの差は他の月のあいだの比較では認められず,入園の基準日を9月としない州でも認められなかった。また,9月1日を基準日とする州では8月生まれの児と9月生まれの児とのあいだで喘息,糖尿病,肥満の発生率に有意差は認められなかった。早生まれの子供はADHDと診断されやすい。

 日本でもデータベースから3月生まれと4月生まれで比較することは可能なので気になるところ。


(3)遺伝診断 


未診断疾患を有する患者に遺伝子診断が及ぼす影響(Effect of genetic diagnosis on patients with previously undiagnosed disease

 未診断疾患ネットワーク(undiagnosed diseases network)は,米国国立衛生研究所(NIH)が出資している米国7カ所に拠点をおくネットワークであり,20カ月間に601例の患者を診断対象として受け入れた。完全な評価を受けた382例のうち,132例(診断割合35%)が診断された。このうち15例(11%)は臨床的再検討によりなされ,98例(74%)はエクソームまたはゲノム解析によりなされた。シークエンス以外にも,メタボロミクスや,モデル生物の利用などが組み込まれており,本論文でもショウジョウバエで遺伝子変異と表現型を確認したものも紹介されている。診断がなされた患者のうち,21%で治療の変更が推奨され,37%で診断検査が変更され,36%で変異特異的遺伝カウンセリングが行われた。31の新規症候群を同定した。

日本ではAMEDの「難治性疾患実用化研究事業」に「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」というのがあり(https://www.amed.go.jp/program/list/01/05/001.html),今回のアメリカのUDNに相当するものと思われる。


(鈴木拓児)


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