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本庶先生のNobel賞受賞式場でのにこやかな笑顔は,本当にご苦労が報われたと,嬉しくなりました。
今週の表紙にはZebra fishが使われている。
研究内容は置いておいて,なぜメダカが研究対象となるのか? 私は知らなかったが,Zebra fishの幼生は透明体であり,個体で細胞追跡ができることを,結核関連のtop paperで知った。
話は飛ぶが,一体Natureを冊子体で購入する必要はあるのか? 筆者はFujisan出版の取り次ぎで,65歳以上の廉価購入をしている。先週,若い医師とこの議論をした。たしかに電子ジャーナル時代になぜ冊子体か?
実は今週号を見ていて,Technology featureに,Transparent tissueの話題が取り上げられている。そこには胎児をtissue-clearして,末梢神経系を蛍光で体内に浮かびあがらせた写真が目に入る(図)。これを見ると否応なく元の論文にアクセスすることになる。東大の上田泰己先生のグループが研究開発して,世界的に関心が集まっている領域だ。最近では腫瘍組織も透明化するという(Nat Biotechnol. 2017; 35: 757-64)。こうした写真は,冊子体Natureをパラパラとめくって,初めて出会う衝撃である。電子ジャーナルと冊子体は甲乙つけがたい点がある。
(1)免疫学,炎症
分散したトランスゴルジ網上のホスファチジルイノシトール 4-リン酸はNLRP3インフラマソームの活性化を仲介する(PtdIns4P on dispersed trans-Golgi network mediates NLRP3 inflammasome activation) |
Dallasのテキサス大学の2人の中国人研究者からNLRP3とinflammasomeに関して興味ある報告がarticleに出ている。Inflammasomeというpro炎症性の反応やNLRP3の名前は臨床領域にも十分知られるようになった。しかし具体的に何が関与して,汎炎症状況になるのだろうか?
ここでもphosphatidyl innocytol-4-phosphate(PtdIns4P)が仲介役となる。また想像もしなかったが,Golgi装置の構造のERより遠い側のtrans-Golgi network(TGN)がNLRP3により分散する(dispersed TGN:dTGN)。ここにPtdIns4Pによるイオン結合を介して,NLRP3とdTGNが会合凝集し,これを足場としてASC(PYCARDともいう:Apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD)が重合し,下流へのシグナル伝達カスケードが活性化することが示された。MitochondriaでなくGolgi(TGN)が関与するのも新規である。
臨床的にはdTNG上でNLRP3とPtdIns4Pの相互作用を妨げると,下流シグナル伝達が阻害されると言う。ここには創薬的な可能性があるかもしれない。
(2)免疫抑制・腫瘍学
FBXO38はPD-1のユビキチン化を仲介しT細胞の抗腫瘍免疫を調節する(FBXO38 mediates PD-1 ubiquitination and regulates anti-tumour immunity of T cells) |
上海のグループから,PD-1の細胞内分解とそのubiquitinationを司るFbxo 38 E3 ligaseの論文が出ている。抗PD-1抗体が本庶先生のNobel賞に帰結したように,その臨床効果を考える上で必要な知見であると考えるが,論文はstraight forwardsな内容である。
著者らは北京のCasgene Biotech社に依頼したFbxo38flox/floxとCD4Creを掛け合わせ,Fbxo38CKO(CKO:conditional knock out)を作成した。これによりT細胞でE3 ligaseをKOすると,細胞内にPD-1が増えるので腫瘍(B16F10 melanomaモデル)は増殖する。抗PD-1抗体を使用すると腫瘍増殖は抑制される。Fbxo38はIL-2シグナル下に発現が増大するので,IL-2存在下ではPD-1は低下し,腫瘍増殖も抑制される。
20年以上前から試みられているIL-2大量療法にはこうした背景があったのかもしれない。
(1)人類学
古代アメリカ人の大陸内における拡散と多様化(Early human dispersals within the Americas) |
ホモ・サピエンスはアフリカ起源で,何度かに渡りアフリカから中東を経由しユーラシア大陸,オセアニア大陸へ広がった。この時期は同時に氷河期で,ベーリング海峡を徒歩で北米大陸に渡り,1万年以上前に,すでに南アメリカ最南端に到達していた。物理的なボトルネックとしてのベーリング海峡を渡って広がったホモ・サピエンスは,南北アメリカでどう分散したのか?
Articleにその詳細研究が報告されている。使用したサンプルは南北アメリカ大陸に広がる26検体とその関連する遺跡の年代同定が示されている(Fig.1)。それによるとベーリング海峡への到達は約2万3000年前で,氷期のため容易にアメリカ大陸南下は叶わなかった。人々のアメリカ大陸移動は2波に分かれているという。最初の波はRapid SNA(Southern Native Americans)で約14000年前の時期。もう一つの波は8700年前にメキシコから南アメリカに広がり,一部北にも広がった系統が存在するようだ(図)。
なぜアメリカの古代人の移動に興味があるのか? 実は肺腺癌EGFR変異の頻度がMestizo/indigenous ethnicでは,35%前後,Peruのある地域では50%を超えている(J Thorac Oncol. 2015; 10: 838-43)。北米のインディアンのEGFR変異の報告はPubMed等に見当たらないので,これら南米の人々は東アジアのEGFR変異高頻度と同様の,ethnicなAncient North Eurasianに由来するものだろう。不思議な事実は,なぜ肺癌における体細胞変異でありながら,こんなにも広範なethnisityに結びつくのかという点である。ゲノムのどこにその答えがあるのだろうか?
(2)Oncogene,E3 ligase
・LZTR1はRASユビキチン化とシグナル伝達を制御する(LZTR1 is a regulator of RAS ubiquitination and signaling) ・LZTR1の突然変異による異常なRASユビキチン化はヒト病態を引き起こす(Mutations in LZTR1 drive human disease by dysregulating RAS ubiquitination) |
E3 ligaseであるLZTR1(leucine zipper-like transcription regulator 1)の2論文が,ヨーロッパ(ベルギー,オーストリア)から報告されている。K-RASなどRAS蛋白の細胞内分解において,LZTR1はアダプター蛋白のCUL3(Cullin 3)とともに,Rasのubiquitination,さらにproteasomeにおける分解に関与する。その遺伝子の役割同定は,CML細胞株(KMB-7)にgene trap mutagenesis実験を行い,Bcr-Abl阻害剤処理で耐性の株からtrapされた遺伝子を解析して,NF-1,WT-1等の中に,LZTR1が同定された。
LZTR1変異は臨床的にSchwannomatosisやNoonan症候群,Glioblasomaなどが知られ(図),Rasのシグナル過剰に関与すると考えられている。今後各種Rasの関与する病態がさらに明らかになると期待される。
(1)RA lung/MUC5B rs35705950
MUC5Bプロモーター変異体と間質性肺疾患を合併する関節リウマチ(MUC5B promoter variant and rheumatoid arthritis with interstitial lung disease) |
Next logical stepという言葉がある。
NIH留学時代Washington DCにあるAir Space MusiumでNASAのポスターで知った。いったいRA lungとIPFの素因は関連するのか? というのは誰もが考えるnext logical stepである。コロラド大学のSchwartz Dらのグループが彼らが同定したMUC5B promoter領域に関して報告している。
このグループは2011年にNEJMに初めてMUC5B promoter領域にIPFと関与するSNP,rs35705950を報告した(10年以上のSNP以前からの長い研究の結果である)。彼らはさらに2013年には,Framingham Heart Studyのcohortを用いて,胸部CT像におけるILA(interstitial lung abnormality)とMUC5B rs 35705950が有意であり,その頻度は一般populationの約7%と報告した。米国臨床における優れたcohortを使った卓越した臨床解析でただただ脱帽した。
そして当然next logical stepとして出てくるのがRA lungである。
結果は彼らの予想が正しかった。RA-ILD 620例,RAのみ614例,unaffected control 5,448 例の間では,明確な差(OR:5.5,95%CI:4.2-7.3,p=4.7x10-35)で有意。RA-ILDとRAのみの間でも有意(OR:3.1,CI:1.8-5.4,p=7.4x10-5)であるが,RA aloneの患者ではまったく関連性がなかった。
この研究はmulti-ethnicとしてなされ,アジア圏では日本(筑波大学,国立相模原病院)から約800例,中国からは約1,000例が登録されている。しかしrs 35705950のminor allele frequencyは北欧と比べ明瞭に低く,CI幅が大きい点に疑問を持つ(さらに確認をします)。本文中にはethnicな問題は触れていない。先行する韓国の解析では,rs 35705950はまったく関連がなく,加えて日本の症例では有意であったhTertの rs 2736100も有意ではないという報告がある(Chest. 2015; 147: 460-4)。アジア系ではMUC5Bとは別の因子が絡むようである。それは何であろうか? これには現在進行中のJIPS studyとそれから派生するゲノム解析の結果が待たれる。
(2)腫瘍学/ICI
進展型小細胞肺癌の一次治療としてのアテゾリズマブと化学療法との併用(First-line atezolizumab plus chemotherapy in extensive-stage small-cell lung cancer) |
Extensiveな進行期の小細胞肺癌(SCLC)に対する1st line atezolizumab+chemo vs chemo(chemo:carbo AUC 5+etopo 100 mg/m2)の成績が報告されている。これは本年のASCOに報告されていたものである。PFSでは4カ月以降差が開き,median OSではatezolizumab + chemoが約2カ月の有意差となった(図)。
SCLC症例で1st lineからICIを使う場合,この2カ月の差はどう理解すればいいのか? PFSが4カ月までまったく一致している事実は,やはり初期には治療にかかわらず不安定な症例が存在することを意味するのか? Nivolumabでは治療歴を有するSCLC患者へのFDA承認が2018年8月になされている。奏功率は12%前後である。同様に喫煙者肺癌であるSCCに対して,もう少し有効であると予想されるが,臨床試験の現実の差は何によるものだろうか? Neuroendocrine細胞起源であるのは,気道上皮細胞と何が相違するのだろうか?あるいはそもそもICIとの併用はchemotherapy以外のものを考える必要があるのだろうか?
(貫和敏博)