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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 27

公開日:2018.12.19


今週のジャーナル


Nature Vol. 564, No.7735(2018年12月13日)日本語版 英語版

Science Vol. 362, Issue #6420(2018年12月14日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 379, No.24(2018年12月13日)日本語版 英語版






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III期非小細胞肺癌に対するCRT後のデュルバルマブ,全生存期間でも有効性証明

●Nature


(1)微生物学,ウイルス学 


DNA結合タンパク質であるNP220は,宿主細胞の染色体に組み込まれていないレトロウイルスDNAのサイレンシングを仲介する(NP220 mediates silencing of unintegrated retroviral DNA

 レトロウイルスは,自らのゲノムを宿主細胞のゲノムに組み込むことで増殖を続ける。大阪大学審良先生や京都大学藤田先生を中心としたこれまでの研究により,ウイルスゲノムの侵入を感知する自然免疫系受容体としてToll-like受容体やRIG-like受容体などの一連の制御機構が明らかにされてきたが,すでに細胞内に侵入したウイルスのうち宿主細胞にまだ組み込まれていないウイルスゲノムがどのようにサイレンシングされるのか,その機構の詳細は明らかになっていなかった。

 一部のレトウイルスでは,ウイルスゲノム配列にあるlong terminal repeats(LTR)(宿主細胞ゲノムに組み込まれる際に重要な役割をもつ)にcytidine-richな領域が存在する。そのcytidine-richな配列へNP220が結合し,NP220とそのコンプレックスがウイルスゲノムのサイレンシングのkey playerになることを本研究では報告している(研究内容がわかりやすく図解されている)。研究者たちは,宿主細胞への遺伝子組み込みに必須となるインテグラーゼを欠損させたレトロウイルスとCRISPR–Cas9を用いたスクリーニングシステムによりこれらコンプレックスの存在を明らかにした。

 この発見はHIVをはじめとするレトロウイルス感染症に対する治療戦略となる可能性を示唆するだけでなく,遺伝子導入効率の問題を解消する意味でも重要な発見である。


(2)免疫学,神経免疫学 


自己増幅的なカテコールアミンのフィードバックループを阻害することでサイトカイン放出症候群を軽減する(Disruption of a self-amplifying catecholamine loop reduces cytokine release syndrome

 サイトカイン放出症候群・サイトカインストームは,CAR-T療法をはじめとする癌免疫療法においてその対応が課題となっている。IL-6はその病態形成に重要な働きをしていることが明らかとなり,抗IL-6受容体抗体(Tocilizumab)は,CAR-T療法で発症するサイトカインストームに対する治療として昨年米国FDAに承認された〔FDA Approves Genentech’s Actemra (Tocilizumab) for the Treatment of CAR T Cell-Induced Cytokine Release Syndrome〕。これまでIL-6に限らず,IL-1β,IL-17,TNFαなどのサイトカインは,autocrineによるpositive feedback loopを形成することが知られており,様々な疾患の増悪に関与することが示されてきた。本研究では,自然免疫刺激後のサイトカインloopの増幅に交感神経刺激が関与することを示している(研究内容が分かりやすく図解)されている)。

 研究者らは,もともと抗腫瘍効果を期待して特殊なクロストリジウム菌を投与する研究を行っていたが,その際にサイトカインストームの制御が障壁となっていた。IL-6R抗体はこの場合のサイトカインストームに対して効果が限定的で,スクリーニングの結果(Peptides. 2005; 26: 1086-94),心房性Na利尿ペプチド(ANP)が唯一その炎症抑制に効果を示した。その際に,ANPが血中カテコールアミン濃度を低下させることによって治療により誘導されるサイトカインストームを減弱できることを気づいたというもの。細胞レベルでは,T細胞およびマクロファージの活性化刺激を行った際,カテコールアミン合成を抑制することで,サイトカイン産生が減少することを示している。

 今回の発見は,サイトカインストームを生じる様々な病態に対して,交感神経の過剰応答が治療標的となる可能性を示している。


(3)腫瘍学,腫瘍免疫学 


細胞系統追跡によって大腸癌における浸潤T細胞の動的な関係が示される(Lineage tracking reveals dynamic relationships of T cells in colorectal cancer

 単一細胞シークエンスの技術は飛躍的に進歩しているが,特に日本でもっと頑張ってほしい領域である(ボストンのMITでも大量のゲノム関連情報の解析に使用するスパコンは日本製だったりするから皮肉なものである)。

 本研究では,単一T細胞からRNAシークエンスとT細胞受容体シークエンスデータをペアで回収しているところが先進的な部分。12人の大腸癌患者の腫瘍浸潤T細胞を単一細胞シークエンスし,機能に関わる遺伝子発現とTCRから判断されるクローン性に基づいて20種類のクラスターに分けた。CD8T細胞については,エフェクターT細胞と疲弊に関わるマーカー陽性のT細胞はいずれも高いクロナリティーを示す一方,TCRシークエンスデータと合わせると,これらのクラスターは腫瘍内のエフェクターメモリー細胞とはそれぞれ独立して関係付けられることが分かった。CD4T細胞については,IFNg陽性のTH1様細胞にクラスターが,EOMES・RUNX3に関係付けられるGZMK陽性エフェクター記憶T細胞と,BHLHE40に関係付けられたCXCL13+BHLHE40+TH1様細胞の2つのクラスターに分離された。マイクロサテライト不安定性腫瘍を持つ患者では,CXCL13+BHLHE40+TH1様細胞のみが選択的に集積していて,このpopulationがチェックポイント阻害薬の作用機序とも関連する可能性が示唆された。

今後はこのような手法が,実際に免疫療法をうける前後で評価されることで,これらクラスターの重要性の真価が示されるだろう。


●Science

 神経精神疾患の背景にある遺伝子変異の多くはゲノムの非コード領域に存在し,遺伝子バリアントと疾患発症との関係を明確にすることが難しいと言われている。今回articleの8報のうち7報はPsychENCODE Consortiumという2015年に米国を中心に発足された多分野共同研究(癌ゲノムでいうところのTCGAのような共有可能なデータベースの作成を目的とした組織)からの報告。統合失調症,双極性障害および自閉症スペクトラム障害の基礎にある分子機序を明らかにすることを目的としている。中から2報をpick upする。


(1)神経科学/脳発達と精神神経疾患 


ヒトの脳発達と神経精神疾患リスクに関する統合的機能的ゲノム解析(Integrative functional genomic analysis of human brain development and neuropsychiatric risks

 癌研究以外で,単一細胞シークエンスがさかんに活用されている領域のひとつがneuroscienceである。本研究では,胎生期から成人期に至るまでの脳の複数の部位から単一細胞レベルで,トランスクリプトーム,DNAメチル化,ヒストンの修飾の情報を集積し,脳の発達,軸索の成熟,神経活動などに関連する因子の時間的・空間的な変化を解析している(研究デザインが図示されている)。研究者らは,神経精神疾患のリスクと関連する遺伝子発現における違いが,早期の脳発達時および思春期に最も顕著にみられることを示した。また,神経精神疾患のリスク遺伝子は特定の細胞種と脳発達の時点に集中してみられることも明らかにした。

 疾患発症の機序について解析する際に,どの時点でどの部位を評価することが重要かを示す,非常に有用なツールと考えられる。


(2)神経科学/データリソース 


ヒトの脳機能解明に有用となる包括的な機能性ゲノムデータリソースと統合的モデル(Comprehensive functional genomic resource and integrative model for the human brain

 こちらの報告では,1866人の成人から得られた脳組織および単一細胞シークエンスのデータを集積したもの(研究デザインが図示されている)。この大規模データにより,DNAのnon-coding領域を含む特定の遺伝子のバリアントと神経精神疾患のリスクを関係づけることができるようになった。構築したネットワークをディープラーニングにより解析することで,神経精神疾患のリスク予測を行ったところ,従来の研究に基づく解析結果よりもはるかに高い診断結果を得ることができたということ。


●NEJM


(1)循環器病学 

 僧帽弁逆流症に対する経皮的僧帽弁修復術に関する報告が2報。


二次性の僧帽弁逆流症に対する経皮的僧帽弁修復術(Percutaneous repair or medical treatment for secondary mitral regurgitation

 MitraClipを用いた経皮的僧帽弁修復術の有効性に関してフランスで行われた臨床試験(日本では2018年4月に保険適用となっている)。重症の二次性僧帽弁閉鎖不全症患者に対して,薬物療法と経皮的僧帽弁修復術の両方を受ける群と薬物療法のみを受ける群で比較。

 1年時点での死亡率・予定外の入院率について有意差は得られず。


心不全患者に対する経カテーテル僧帽弁修復術(Transcatheter mitral-valve repair in patients with heart failure

 同じくMitraClipを用いた経皮的僧帽弁修復術の有効性に関して,米国・カナダの78施設で施行された臨床試験。米国ガイドラインに記載されている薬物療法を最大投与量で用いても症状が継続している患者に対して,経皮的僧帽弁修復術の安全性・有効性を評価したもの。薬剤治療のみを継続した群と比較して,経皮的僧帽弁修復術を併用した群では,修復術による合併症は許容される範囲内で,1年までの追跡期間中の心不全による入院率と全死因死亡率を有意に改善した.


 サンプルサイズや患者選択,手技的な差などが両試験で異なる結果が生じた理由かもしれない。


(2)腫瘍学/ICI 


III期非小細胞肺癌に対する化学放射線療法後のデュルバルマブによる全生存期間(Overall Survival with durvalumab after chemoradiotherapy in stage III NSCLC

 先週の小細胞肺癌に対するアテゾリズマブに続き,同じく抗PD-L1抗体のデュルバルマブによるIII期非小細胞肺癌に対する有効性に関する論文。PACIFIC試験の既報の解析では,同時化学放射線療法後のデュルバルマブによりIII期非小細胞肺癌患者の無増悪生存期間が有意に延長することが示された(N Engl J Med. 2017; 377: 1919-29)。今回,2つ目の主要評価項目である全生存期間でも有効性を示したことを報告している。

 デュルバルマブ群473例とプラセボ群236例を比較。2018年3月22日の時点で,追跡期間の中央値は25.2カ月。24カ月の全生存率は,デュルバルマブ群で66.3%,プラセボ群で55.6%であった(両側P=0.005)。両群を比較してデュルバルマブ群で全生存期間が有意に延長した(HR 0.68)。無増悪生存期間に関するupdateは最初の報告と同様で,無増悪生存期間の中央値は,デュルバルマブ群17.2カ月に対して,プラセボ群5.6カ月(HR 0.51)。死亡または遠隔転移までの期間の中央値は,デュルバルマブ群28.3カ月,プラセボ群16.2カ月(HR 0.53)であった。

 今後は無効となった症例の解析などもICIのバイオマーカーを理解するうえで重要と考えられる。


(小山正平)


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