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今週の表紙は数字の「10」, “One year, ten stories”が特集である。内容はtop scientistsばかりかというとそうでもない。Jess Wadeという若い女性は物理学者であり,Wikipediaの編集作業もしているとして紹介されている。Wikipediaの最近の充実ぶりはすごい。日本語表紙ページの下にある「全言語版の統計」を見ると,現在304言語,5,000万弱の項目が取り上げられ,英語だけでも575万記事がある。私などWikipediaなしではtop journalなど読めない。その下支えを彼女はやっている。特に女性や有色人種scientistsの仕事に関して支援している。10 storiesにはこうした意外な人物も取り上げられている。もう1人意外な人物はRobert-Jan Smitsという論文のopen access構築に努める人の紹介である。Natureも2020年以降,公開日にfreely availableになると記してある。21世紀は,世界の広範な経済発展の可能性を受け,「知の共有」は世界的に大きく進むことになるだろう。
(1)腫瘍免疫学
全身で活性を示すアミドベンゾイミダゾール系STING受容体アゴニストの設計(Design of amidobenzimidazole STING receptor agonists with systemic activity) |
2018年は本庶,Allison両先生が抗Treg効果を持つICI開発でノーベル賞となり,癌治療は明らかに次のステップへ入った。筆者自身も臨床医となって45年,今年初めて前立腺癌の知人が1年間cancer freeとなり元気だ。彼の治療は樹状細胞ワクチンとICIである。どう理解すればいいのかと考えていたら,Nature Medicine 6月号(Nat Med. 2018; 24: 724-30. doi: 10.1038/s41591-018-0040-8.)にほぼ2年間cancer freeの乳癌女性の症例報告が出ていた。これはTIL(tumor infiltrated lymphocytes)+ ICIによる治療である。共通するものは「腫瘍細胞への攻撃強化」+「Tregの軛からの解放」である。後者は雨後の筍のような開発状況である。
ここに紹介する論文は,前者の新たな方向性である。免疫細胞の攻撃性の1つはinterferon系の産生である。それにはSTING(stimulator of interferon genes)が大きく関わり,元々は病原体由来DNAの感知機能であるが,cGAMP(cyclic GMP-AMP,図)という環状のnucleotideがSTINGのligandである。2013年に,その合成酵素cGAS(cyclic GMP-AMP synthase)が同定され,創薬の大きな話題となっている。
この論文ではGSKの研究部門から,cyclic nucleotides以外にSTING agonistとしてamidobenzimidazole(ABZI)基盤の化合物を開発したという報告である。その一つcompound 3(図)の血管投与では血中interferon-β,IL-6,TNF,CXCLI(KC)などが高値となり,皮下CT-26(colorectal cancer)の増殖抑制作用が示されている。
本GSKの報告は,“GSK Nature Sting”でGoogleすると,注目度の高いことがわかる。臨床への応用が近いことを祈念したい。
(2)神経変性
神経変性:死後脳下垂体由来の成長ホルモンに混入したアミロイドβ蛋白質病変の伝播(Transmission of amyloid- β protein pathology from cadaveric pituitary growth hormone) |
プリオン病としてCreutzfeldt-Jakob病(CJD)を発症した患者が,ヒト下垂体由来成長ホルモンを小児期に投与されていたことを示したグループが,同時にamyloidβ蛋白の混入も指摘していた。この論文では同じhGH中のAβ40 ,Aβ42 ,tau蛋白のレベルが高く,マウスではamyloid斑形成のシードとなる(図)と警鐘をならしている。
(3)臓器移植
生命維持に機能するブタ心臓異種移植の安定的な成功(Consistent success in life-supporting porcine cardiac xenotransplantation) |
移植医療のネックはdoner不足である。これを克服する異種(ブタ)心移植の論文である。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学(Munich)から遺伝子改変ブタ(α1,3-galactocyltransferase KO+ヒトCD46+ヒトthrombomodulin)の心臓をヒヒへ異種移植して,最長半年間安定して生命維持機能を示したと報告されている。
ScienceではBreakthrough of the Yearで9つの話題が取り上げられている。
またsingle cell解析が気道上皮から,胎児形成まで広範に報告されたのが2018年の特徴でもある。
(1)循環器/心不全
興奮収縮連関に関与する構造蛋白質junctophilin-2は細胞ストレスに反応して転写制御因子を放出する(E-C coupling structural protein junctophilin-2 encodes a stress-adaptive transcription regulator) |
心不全に関して興味ある報告がArticleになっている。心筋のcardiac dyadはT-tubuleとsarcoplasmic reticulumの間のCa2+移動に関する構造である。それを構成するscaffold蛋白としてjunctophilin-2(JP2)が存在し,excitation-contraction(E-C)カップリングとして重要である(図)。この構造中,心不全状態ではJP2が細胞質内蛋白分解酵素calpineにより切断される。そのN末断片(JP2NT)は当初は単なる断片としての認識であったが,その切断箇所を精査するとnuclear translocation signal(NTS)が含まれ,実際にこの断片は核に移行し,repressorとしてMEF2(myocyte enhancer factor 2)という心不全関連核因子に拮抗することが判明した。論文にはJP2NTの過剰発現が心不全耐性をもたらすとか,NTS配列を置換すると心不全が増悪するなど,関連する解析がなされている。
Perspectivesにも取り上げられ,同様の断片が核因子NFとして機能する例は,Notch,SREBP(sterol regulatory elements-binding protein),ATF6(activating transcription factor 6)など他にも3種が存在し,また,JP2NTがMEF2以外のサイトに結合する可能性を検討する必要性など述べられている。こうした新たな知見から,心不全治療ために新しい展開があるかもしれない。
(2)腫瘍学
NK細胞が介在する細胞障害活性は細胞増殖抑制剤による腫瘍制御に寄与する(NK cell–mediated cytotoxicity contributes to tumor control by a cytostatic drug combination) |
NK細胞の癌治療研究は多方面で注目されている。今回,2系統のkinase inhibitorを併用することで,癌組織侵入NK細胞の活性化による癌抑制の報告がSlone-Ketteringのグループから報告されている。2系統は1つはMEK(mitogen activated protein kinase kinase)の阻害であり,もう1つはCDK4/6(cyclin-dependent kinase)の阻害である。この2種類の併用阻害が癌細胞のsenescenceを惹起し, SASP(senescence-associated secretory phenotype)を分泌する。これが腫瘍組織中のNK細胞を活性化し,その結果癌細胞を攻撃する。
実験はマウスKP細胞(KrasG12D/+,p53-/-)を用いた実験で,senescenceの誘導,腫瘍縮小,予後の改善などが示されている。
これもPerspectivesに取り上げられているが(図),NK細胞が最終的にIFNγやGM-CSFを分泌することで,癌細胞を殺すのかその機構が分からないと述べている。同時に従来の化学療法剤の真の作用は,直接的に癌細胞を殺すのではなく,癌細胞のsenescenceによりNK細胞による殺細胞効果ではないか(であるから化学療法の効果はall or none的効果がない)と論じているのも興味深い。分子標的薬やICIが癌治療に登場した時代,化学療法の意味はどこにあるのか,再考する必要がある。
(1)骨粗鬆症
骨減少症の女性におけるゾレドロン酸と骨折(Zoledronate and fractures in women with osteopenia) |
骨粗鬆症による骨折は,高齢化社会の転倒による骨折,さらには寝たきりとなり活動性低下の大きな課題である。しかしEditorialによると,bisphosphonate製剤の投与は骨転移では使用されているが,骨粗鬆症に対しては過去の臨床試験では必ずしも有意な結果がえられていなかった。
今回,オーストラリアとニュージーランドからZolendronic acidを用いて,65歳以上の女性2000例を6年間プラセボ対照試験で追跡し,bisphophonate使用に有意の結果が報告されている。投与は18カ月間隔で4回の静注であるが,副作用もほとんどなく,結果は有意であった(図)。Editorialでは今後の臨床対応への期待が述べられている。
(2)腫瘍学
癌サバイバーシップ(Cancer survivorship) |
医療世界にいながら認識の不十分な領域の総説である。米国では癌からの生存者は1975年は360万人であった。それが2016年では1,550万人, 2040年には2,510万人に達する見こみという(図)。50歳以上の中・高齢者が増加する今後,また治療法変革でcancer freeとなる人々の増加が予想される今後,第2癌への備えの対応,初回治療の長期的課題(痛み,不妊など),精神心理的課題(うつ,不安など)さらには諸々のcare delivery課題などが別々に表示されている。あまり議論されない領域であるので,通読を薦めたい。
(貫和敏博)
追記:「ほぼ週刊トップジャーナル・ハック!」を始め,約6カ月が経過しました。皆様のアクセスが張り合いとなり,次の週の内容への関心が生まれます。来年もよろしくお願いします。