" />
新年明けましておめでとうございます。
先週はTJHackと同じく,NatureとScienceは年末年始でお休みでした。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
免疫の論文を2つ紹介します。
(1)腫瘍免疫学
腫瘍におけるADAR1の欠損は免疫チェックポイント阻害に対する抵抗性を抑える(Loss of ADAR1 in tumours overcomes resistance to immune checkpoint blockade) |
本研究者らは以前の研究で抗PD-1抗体による癌免疫治療効果を修飾する分子についてin vivo CRISPRスクリーニングで検索を行ってきていた(Nature. 2017; 547; 413–8)。アデノシンデアミナーゼ遺伝子であるADAR1(adenosine deaminase, RNA specific)は,内因性二重鎖RNA(dsRNA)の認識を制限する働きがあり,このスクリーニングで同定された遺伝子の一つである。腫瘍細胞でのRNA編集酵素ADAR1の機能をなくすと,免疫療法に対する腫瘍の感受性を大幅に高め,チェックポイント阻害に対する抵抗性を抑えることが示された。ADAR1欠損下では,インターフェロンが誘導するRNA分子種におけるAからIへの編集が減少して,PKR〔Protein Kinase R, 正式名称はEIF2AK2(eukaryotic translation initiation factor 2 alpha kinase 2)〕とMDA5〔melanoma differentiation-associated gene 5, 正式名称はIFIH1(interferon induced with helicase C domain 1)〕による二本鎖RNAリガンドの感知につながり,その結果,PKRとMDA5はそれぞれ増殖抑制と腫瘍炎症を引き起こす。ADAR1を欠損させると,腫瘍細胞による抗原提示の不活性化によって引き起こされるPD-1チェックポイント阻害に対する抵抗性が抑えられる。Figure 4hに各々の分子の関係のまとめの図がでているので,御参考までに。したがって,効果的な抗腫瘍免疫は,自然免疫リガンドの感知を制限するADAR1のような抑制的チェックポイントにより抑えられている。インターフェロンに対する感受性を持たせた腫瘍で十分な炎症を誘導すれば,CD8+ T細胞による癌細胞の認識という治療上の必要条件を迂回でき,免疫療法抵抗性を抑える一般的な戦略になり得る。
(2)免疫学
代謝不均一性がTH17細胞の幹細胞性と可塑性という相反する運命の根底にある(Metabolic heterogeneity underlies reciprocal fates of TH17 cell stemness and plasticity) |
本論文では自己免疫疾患のマウスモデルにおいて,TH17細胞が機能的および代謝的に不均一であること,つまり,TH17細胞には,同化性代謝が低いが幹細胞性に関連する特徴を持つサブセットと,相反するサブセット(代謝活性が高く,TH1様細胞への分化転換を支える)が含まれることを報告している。これら2つのTH17細胞サブセットは,それぞれが転写因子のTCF-1とT-betを選択的に発現していることや,CD27発現レベルの差異によって規定される。また,キナーゼ複合体mTORC1を介したシグナル伝達がTH17細胞の運命決定の中心的な調節因子であり,代謝と転写のプログラムを調整していることも明らかになった。mTORC1シグナル伝達や同化性代謝が障害されたTH17細胞は,自己免疫性の神経炎症を誘導できない,つまりTH1様細胞へと発達できないが,代わりにTCF-1の発現が上昇しており,幹細胞性に関連する特徴を獲得していた。Extended Data Fig.10がわかりやすく全体的な概念についてしめしている。
Natureの紹介論文に似たコンセプトで,こちらも可塑性のあるTH17細胞について報告されている。
(1)免疫学
細菌叢特異的なT細胞の可塑性が傷害に対する組織の迅速な適応を促進する(Commensal-specific T cell plasticity promotes rapid tissue adaptation to injury) |
本研究では皮膚常在細菌叢に対して特異的なT細胞についての新しい知見である。皮膚には表皮ぶとう球菌(Staphylococcus epidermidis)が豊富だが,これに対するIL-17Aを産生するようなCD4細胞(TH17)とCD8細胞(TC17)が組織常在型の記憶T細胞として皮膚に存在し,興味深いことには従来のTH17細胞やTH2細胞に特異的な転写因子(RORγtとGATA3)をどちらも発現している特殊な細胞であることを報告している(図)。これらの細胞は通常の2型サイトカイン(IL-5やIL-13)のmRNAは産生しているが,蛋白質には翻訳されておらず,IL-1・IL-18・IL-25・IL-33といった組織損傷や炎症が惹起された際には,すぐさま2型サイトカインを産生することが明らかとなった。こうしたIL-7Aを介した感染防御と組織損傷の際のIL-13などによる迅速な組織修復といった可塑性をもつ生理機構がわかり非常に興味深い。
こちらは1週間前の号にサルコイドーシスに対する新しい治療が報告されています。今週号は予防医学系の臨床研究が3つ続いています。
(1)サルコイドーシス
皮膚サルコイドーシスのトファシチニブによる治療経験と分子解析(Tofacitinib treatment and molecular analysis of cutaneous sarcoidosis) |
サルコイドーシスにおいてJanus kinase(JAK)–signal transducer and activator of transcription(STAT)シグナルが重要な働きをしていることが報告されてきている。筆者らは48歳女性の難治性の皮膚サルコイドーシス患者にJAK阻害薬であるトファシチニブで治療したところ著効したことを報告している(図)。JAK阻害薬の中断で再発し,再度の治療で効果がみられることも示され,RNA-seqの解析からはJAK-STATシグナルに関連した遺伝子や他の疾患関連遺伝子の発現が治療で抑制されていることが報告されている。さらに21人の皮膚サルコイドーシス患者の皮膚組織でJAK-STATシグナルが亢進していることもしめされた。サルコイドーシスに対する分子標的治療という点で興味深い。
(2)予防医学
高トリグリセリド血症に対するイコサペント酸エチルによる心血管リスクの低減(Cardiovascular risk reduction with icosapent ethyl for hypertriglyceridemia) |
スタチンを使用していてもトリグリセリド高値の患者において,心血管死亡などの虚血性イベントのリスクは,イコサペント酸エチル投与群で低いことが示された。
海洋生物由来の n–3 脂肪酸と心血管疾患および癌の予防(Marine n–3 fatty acids and prevention of cardiovascular disease and cancer) |
n–3 脂肪酸のサプリメント摂取により,プラセボと比較して,主要心血管イベントや癌の発生率は低くならなかった。
ビタミンDサプリメントと癌および心血管疾患の予防(Vitamin D supplements and prevention of cancer and cardiovascular disease) |
ビタミンDのサプリメント摂取により,プラセボと比較して,浸潤癌や心血管イベントの発生率は低くならなかった。
(3)癌免疫
成人の再発または難治性のびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫に対するチサゲンレクロイセル(Tisagenlecleucel in adult relapsed or refractory diffuse large B-cell lymphoma) |
成人の再発または難治性のびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫に対するキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法であるチサゲンレクロイセル(tisagenlecleucel)「CAR-T細胞療法」の国際試験で,チサゲンレクロイセルの使用により,高い持続的奏効率が得られた。グレード3または4の有害事象で頻度が高かったのは,サイトカイン放出症候群(22%),神経学的イベント(12%),28 日を超えて持続する血球減少症(32%),感染症(20%),発熱性好中球減少症(14%)などであった.3例が,注入後30日以内に病勢進行により死亡したが,チサゲンレクロイセル,サイトカイン放出症候群,脳浮腫に起因する死亡はなかった。
(4)肺線維症
CLINICAL IMPLICATIONS OF BASIC RESEARCH
特発性肺線維症モデルの作製(Modeling idiopathic pulmonary fibrosis) |
大分大学呼吸器内科の濡木先生の留学中の御仕事であるJCIの論文(J Clin Invest. 2018; 128: 4008-24.)が紹介されている。ヒトの肺線維症でみられるSP-C遺伝子(SFPTC)の変異であるI73Tをマウスでも発現するようにノックインしたマウス,そしてタモキシフェンでこの変異遺伝子が発現される疾患モデルマウスを作製している。その詳細な解析から,変異SP-Cの発現が肺線維症を引き起こすことを証明した論文で興味深い。
(5)新治療
FRONTIERS IN MEDICINE
薬剤開発におけるオリゴヌクレオチド(Oligonucleotides in drug development) |
この総説ではRNAを調節するオリゴヌクレオチド系の薬剤について,いくつかの例をあげて説明しており,オンラインではオリゴヌクレオチド治療薬の概要を示す動画と,著者へのインタビュー音声の視聴が可能である。
(鈴木拓児)