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(1)癌免疫療法
グリオブラストーマに関する第Ib相臨床試験で見られた,ネオアンチゲンワクチンによる腫瘍内T細胞応答の発生(Neoantigen vaccine generates intratumoral T cell responses in phase Ib glioblastoma trial) |
新たにグリオブラストーマと診断された患者への個別化ワクチン接種による能動免疫付与に関する臨床試験(Actively personalized vaccination trial for newly diagnosed glioblastoma) |
適切な治療法のないGlioblastomaに対して,米国とドイツより果敢な腫瘍由来蛋白によるワクチンを用いて患者のCD4,CD8 T細胞のレスポンスを見た臨床試験が2報,報告されている。Nature誌に報告されるだけに,基礎検討が十分なされた臨床試験である。米国の報告では,10例について摘出腫瘍検体より変異ペプチドをHLA適合性も検討して選出したペプチドを放射線照射後投与している。結果は,脳浮腫等へのステロイド薬使用例では,CD4,CD8の反応は悪い。一方,ドイツの報告では16例に対し,摘出腫瘍検体より変異蛋白と変異はないが高発現の蛋白を,共にHLA適合下にペプチド製造し投与している。結果は変異蛋白ワクチンの方がCD4,CD8の反応は良いようである。
News&Viewsに取り上げられている(図)が,次への課題は当然ICI(immune checkpoint inhibitor)との併用であり,その際はステロイド薬は避けるという点である。肺癌も現状ではICIの効果は15〜20%に見られるだけだが,こうしたNeoantigenワクチン対応も必要になるだろう。若手医師には,5年後には患者サイドはcancer freeを要求する時代が来るので,その対応を準備すべきだと話している。
(2)代謝
低温ストレスは筋原性の前駆細胞を経由して糖代謝性ベージュ脂肪の分化を誘導する(Thermal stress induces glycolytic beige fat formation via a myogenic state) |
脂肪細胞にwhite fat cell,brown fat cellと,beige fat cellがあり,寒冷刺激に対して後2者は脂肪を燃焼して体温上昇をきたすという研究(図)が,今世紀になり色々明らかになってきた。その刺激は寒冷感覚からβ-adrenergic系受容体経路によるものである。しかしその受容体3種をKO(knockout)したマウスでは,MyoD陽性の筋原細胞が,寒冷刺激で核因子GABPαにより糖代謝系遺伝子がONとなり,体温上昇をきたすという新たな経路がarticleとしてUCSFのKajimuraらのグループから報告されている。この経路がヒトでも誘導可能であるなら,寒冷刺激をmimicすることにより糖尿病や肥満の治療が可能となるかもしれない。
<その他>
(3)計算生化学
IL-2とIL-15の強力で選択的な模倣体をde novoに設計する(De novo design of potent and selective mimics of IL-2 and IL-15) |
抗体医療の原理は蛋白構造としての抗体結合のpinpoint性が薬剤効果に直結している。構造的に安定したcoil構造合成蛋白により,受容体との結合が高親和性で,かつ細胞内シグナル伝達を惹起可能なら,抗体医療と同様の創薬領域が開かれることになる。米国ワシントン大学の蛋白化学グループから,IL-2受容体の中でもIL-2Rβγcのみに高親和性で,かつpSTAT5陽性としてシグナル伝達をみる人工ペプチドがArticleとして報告されている(図)。
当然外来蛋白であるから,宿主免疫系のターゲットになると思われるが,免疫原性はサイズが小さい点と,構造が安定しているので,ほとんど見られないという。IL-2活性mimicで,抗腫瘍活性も示されている。低分子化合物のみならず,安定したcoil構造の新規ペプチドが,抗体医療の次の蛋白製剤となる時代が来るのかもしれない。
(4)神経免疫学
脳の制御性T細胞はアストログリオーシスを抑制し,神経学的回復を促進する(Brain regulatory T cells suppress astrogliosis and potentiate neurological recovery) |
正常脳にはほとんど存在しないTreg細胞が,脳梗塞後しばらくして脳内に増加し,astrogliosisを抑制するという報告が,慶応大学免疫学吉村研から報告されている。このTreg細胞は,IL-2,IL-33,TCR以外に5HT受容体を持つという特性を持ち,Areg(アンフィレギュリン)によってastrogliosisを抑制するという興味ある性質がある。吉村教授ご自身のブログ(http://new2.immunoreg.jp/)を読むと,最近人気の清水茜の「はたらく細胞」含め,面白く解説してあるので一読お薦めである。
(1)神経疾患関連
分泌されたアミロイドβ前駆体タンパク質はGABAB受容体1aサブユニットのリガンドとして機能しシナプス伝達を調節する(Secreted amyloid-β precursor protein functions as a GABABR1a ligand to modulate synaptic transmission) |
認知症を引き起こすアルツハイマー病で,脳に蓄積する蛋白であるAPP(Amyloid precursor protein)の本来の生理学的意義は充分知られていなかった。今回ベルギーのグループが,APPはシナプス近傍細胞膜に存在し,その細胞外ドメインがproteaseで切断されると,その一部がpresynapticのGABABR1aのsushi-1-domainに結合し,これを介して神経活性(synaptic transmitter release)が抑制される事を示唆している(図)。APPの細胞外ドメインにはその他にもNMDA-Rや,α7-nAchRなどと結合し,synaptic plasticityを改善し,海馬における記憶改善の可能性も示唆している。ヒトにおいてこの現象が確認されれば,蓄積のみが問題と思われていたAPPが,その一部を治療にも応用できるかもしれない。
(2)概日リズム
哺乳類の24時間周期の行動は星状細胞の細胞自律的な概日時計によって引き起こされる(Cell-autonomous clock of astrocytes drives circadian behavior in mammals) |
概日リズムは地球上生物の根源的な機構の1つで,細胞レベルでも重要である。動物では視床下部のSCN(suprachiasmatic nucleus)が個体としての概日リズムをになっている。SCNは20000個のneuronよりなり,当然glia細胞も関与している。概日リズムに関与する遺伝子としてはper1,per2,per3(period genes)やcry1,cry2(cryptochrome genes)が知られている。
Cry1,cry2をノックアウトするとarrhythmicになるが,それらneuronやastrocyteにAAVベクターでcry1を発現すると概日リズムは戻る。驚くべきはastrocyteにcry1を発現させた場合でも,グルタミン酸(astrocyteの代表的transmitter)を近傍neuronに放出し,ニューロンの概日リズムも戻るという。最近astrocyte等のグリア細胞の機能の重要性が次々と明らかになっているが,概日リズム機構でも確認されたことになる。
(1)CKDとExome解析
腎疾患に対するエクソーム解析の診断上の有用性(Diagnostic utility of exome sequencing in kidney disease) |
腫瘍ではOncopanelなどの遺伝子変異による診断と治療法選択が話題になっている。また希少疾患ではexome解析が疾患関連遺伝子同定に用いられる。このexome(遺伝子のうちのexon部分,すなわちアミノ酸配列コード部分)解析で各種腎臓病がどの程度判別できるかを,3315例による米国での結果が報告されている(図)。結果は307例(9.3%)で変異が認められ,cystic renal diseaseで127/531例(23.9%),nephropathyで48/281例(17.1%)であった。34例ではnephropathy以外に他疾患との関連が明らかになった。
この結果は当然末梢血DNAを調べたもので非侵襲性である。それでも10%が引っかかる。びまん性肺疾患領域に関して,末梢血ではえられる情報が限られているが,cryo-biopsy検体によりscRNAseqを行う必要があるのではないかと考えている。米国ではもう研究が始まっているのではないか?
<その他>
(2)総説
急性感染後の心筋梗塞のリスク(Risk of MI after acute infection) |
急性感染症と心筋梗塞,ことに敗血症を伴う肺炎では,感染症がない場合に比べ6倍,通常の肺炎でも約3倍という興味あるデータに基づいて,ワクチン接種などの意義が説明されている。
(貫和敏博)