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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 31

公開日:2019.1.23


今週のジャーナル


Nature Vol. 565, No.7739(2019年1月17日)日本語版 英語版

Science Vol. 363, Issue #6424(2019年1月18日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.3(2019年1月17日)日本語版 英語版






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サイトメガロウイルス再活性化予防の戦略ー既感染株に対する特異的抗体の投与ー

●Nature

(1)遺伝学 


癌ドライバーの変異によってもたらされる加齢関連の食道上皮のリモデリング(Age-related remodeling of oesophageal epithelia by mutated cancer drivers)

 京都大学の小川チームからの論文。前回のNatureから2年半。ものすごいproductivityである。今回の研究はさまざまな年齢・環境背景をもつ患者から回収した食道上皮の遺伝子変異を解析し,どのような変異が食道癌発症につながるのかを評価したもので,昨年Scienceに報告された論文と類似の結果を示しており,NEWS AND VIEWSでも取り上げられ,わかりやすく説明されている()。

 今回の研究では682の食道の微小検体を遺伝子解析している。食道上皮の遺伝子変異は,組織学的には正常に見える状態でも認められ,その出現は幼少期からすでにはじまっているということ。これら正常食道上皮で,もっとも頻繁に認められる変異がNOTCH1遺伝子の変異(著者はdriver genesとよんでいる)で,加齢とともにその頻度は増えることを示している。また変異の増え方は,アルコール摂取や喫煙によって加速することも示している。一方で,食道の扁平上皮癌の大半ではp53の変異が認められ,これは正常食道上皮の変異のレパートリーにはほとんど含まれなかった。

 本研究を含めた食道上皮に関連する2つの研究から,食道上皮に集積する遺伝子変異の数は加齢や発癌リスクとなる環境因子によって明らかに増加するものの,必ずしも癌化を引き起こすとは限らないことがわかった。

 食道癌に限らず,耳鼻科領域の癌,大腸癌,非小細胞肺癌などにおいてもこのような前癌状態の素地となるような遺伝子変異やエピゲノム変異としてfield cancerizationの概念が存在する()。発癌までのプロセスという観点においては,Non-coding領域の遺伝子やエピゲノムの役割,炎症の影響など発癌のトリガーとなる因子の解析が今後重要になると考えられる。一方,臨床的な観点からは,あらかじめ発癌しやすそうな素地をもった遺伝子変異が集積してきた場合にはfollowを厳密に行うなど癌の早期発見につながる可能性が考えられる(図1図2


(2)免疫学 


組織常在型のメモリーCD8 T細胞は皮膚において黒色腫–免疫平衡相を促進する(Tissue-resident memory CD8+ T cells promote melanoma–immune equilibrium in skin)

発癌と宿主の免疫とのやり取りを考えた際に,遺伝子変異を蓄積しながら免疫監視を逃れようとする癌細胞とそれを認識排除しようとする免疫細胞との戦いが腫瘍微小環境では生じていると考えられ,発癌までの過程をCancer Immunoeditingと呼ぶ(Review)。Cancer Immunoeditingは3つのステップによって定義され,当初免疫細胞の免疫排除が優勢であるステップ(排除相)と癌細胞が免疫細胞から逃れて増殖してしまうステップ(逃避相)と,その間で両者の関係が均衡しているステップ(平衡相)があり,平衡相は何年にもわたって持続していることが推測される。例えば一部の癌種ではPD-L1の発現などを介した腫瘍細胞の免疫回避もこの期間の間で樹立している可能性が考えられ,そのようなパスを経た腫瘍については抗PD-1抗体が有効であるとも考えられる。

 本研究では,その平衡相において,組織常在型のメモリーCD8 Tが癌細胞の増殖をくい止めるのに重要な役割を果たしていることを明らかにしたもの。皮膚癌のマウスモデルを用いた解析により,表皮内でCD69陽性CD103陽性の組織常在型T(TRM)細胞がmelanoma細胞の増殖を阻害していることを生体内イメージングなどの技術を用いて示すとともに,TRMが血液中からリクルートされてくるT細胞とは独立して腫瘍細胞の破壊をもたらしていることを明らかにしている。

 もともと組織でスタンバイしているT細胞とリンパ組織から供給されてくるT細胞のそれぞれの機能的な役割や増殖パターン・制御する因子など,ライブイメージングの技術や 1細胞RNAシークエンスの技術の融合によって,今後詳細がより明らかになっていくと考えられる。


●Science

(1)分子生物学・遺伝学 


CRISPRシステムを用いたプロモーターもしくはエンハンサーの活性化は,ハプロ不全を原因とする肥満を改善する(CRISPR-mediated activation of a promoter or enhancer rescues obesity caused by haploinsufficiency)

 ヘテロ接合体遺伝子変異は,理論上機能に関わる蛋白産生の50%低下をもたらすことによって生体に何らかのフェノタイプをもたらすことがある。著者らは,このハプロ不全に対する治療介入の手段として,CRISPR-Cas9の技術を用い,内在性のプロモーターやエンハンサーを改編し,変異のないアレルからの発現コピー数を増加させることで,総産生量を代償させ,ハプロ不全を改善する手法を報告している(概説図)。

 本研究で著者らは,nuclease活性の欠損したCas9(dCas9)に,転写活性化因子としてVP64を融合したdCas9-VP64を作成した。ハプロ不全がマウスおよびヒトで肥満のフェノタイプを示すことが知られているSim1およびMc4rという2種類の遺伝子異常のマウスモデルを用いて,これら遺伝子のプロモーター・エンハンサー領域にdCas9-VP64を標的し,野生型のアレル由来の蛋白産生を亢進させたところ,肥満のフェノタイプの消失を認めたというもの。また今回の研究で,彼らは組み換えadeno-associated virus(rAAV)をデリバリーの手段として用いている。rAAVは毒性が少なく,ヒト細胞に効率的に取り込まれることから,今回の遺伝子発現誘導をもたらすCRISPR-mediated activation(CRISPRa),もしくは通常の発現阻害CRISPR-mediated inhibitionのいずれにおいても,生体応用が期待される。


(2)ウイルス学 


ウイルス株特異的な抗体が移植後のサイトメガロウイルス再活性化を阻害する(Strain-specific antibody therapy prevents cytomegalovirus reactivation after transplantation)

 サイトメガロウイルスCMVは,健常者の60〜90%が血清学的に抗体反応をもつ既感染の状態であることが知られている。T細胞・NK細胞・B細胞/抗体のいずれもCMV感染に対して防御的な役割を果たすことが知られており,骨髄移植や免疫抑制薬の長期投与などの免疫抑制状態によって再活性化することが臨床上で問題となる()。

 著者らは,マウスの骨髄移植モデルを用いた研究により,CMVの再活性化がT細胞およびNK細胞の除去だけでは生じないことを示し,B細胞(形質細胞)および抗体の役割が重要であることを示している。また,GVHDの結果として,total body irradiationのような前処置に対して抵抗性があるような形質細胞もドナー由来のT細胞に破壊されることが,CMV再活性化・ウイルスの播種に重要であることを示している。このモデルにおいては,その予防手段として,CMVの広域な抗体の投与ではうまく予防できない一方で,レシピエントに感染既往のあるCMVと同じstrainに対する特異的抗体が強力な再活性化抑制をもたらすことを明らかにした。それは細胞にCMVが感染するステップではなく,細胞間でのCMVの播種を抑制できることに起因するようである。ただperspectiveにも述べられているが,実臨床においてはGVHDがない状況でもCMVの再活性化は生じるため(ステロイドの長期使用など),すぐに臨床応用可能なコンセプトかは不明であるものの,単純に抗CMV抗体high titerという以上に,既感染CMVと同じ株に対する特異的な抗体による治療がCMV再活性化予防に有効である可能性が示唆される。


●NEJM

(1)三日熱マラリアの根治治療(2報) 


三日熱マラリアの再発予防を目的としたタフェノキン(Single-dose tafenoquine to prevent relapse of Plasmodium vivax malaria)

三日熱マラリアの再発予防を目的としたタフェノキンとプリマキンの比較(Tafenoquine versus primaquine to prevent relapse of Plasmodium vivax malaria)

 三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)の治療では無性原虫の消失が目標であるが,再発を予防するためには肝臓から休眠体が消失すること(休眠体の消失=根治治療)が必要である。タフェノキンの根治治療効果が2つの臨床試験によって報告されている。結果としてはプリマキンの方が効果は強いという内容。

 1報目は,エチオピア,ペルー,ブラジル,カンボジア,タイ,フィリピンで行われた国際共同試験。全例にクロロキンの3日間投与後,患者を3群に分け,1)1日目または2日目にタフェノキン300mgを単回投与する群(260例),2)プラセボを投与する群(133例),3)プリマキン15mgを1日1回14日間投与する群(129例)に割り付け。主要評価項目は,6カ月の時点における無再発患者の割合。タフェノキン群,プリマキン群でプラセボと比較して優位に無再発増加。

 2報目は,上記と類似のプロトコールで,タフェノキンとプリマキンの治療効果・安全性の比較を行ったもの。ヘモグロビン値の低下については,両治療群に有意差は認められなかった。タフェノキンは三日熱マラリアの根治治療における有効性を示したが,プリマキンに対する非劣性は示さなかった。


(2)その他:基礎研究の臨床応用 


固形腫瘍に対するCAR-T細胞治療(Steering CAR T cells into solid tumors)

 昨年Nature(Samaha H, et al. A homing system targets therapeutic T cells to brain cancer. Nature 2018; 561: 331-7.)に報告された論文の紹介。Glioblastomaで発現しているCD166を標的とする改編型CD6を有するCAR-Tによって治療効果を示した論文()。


(小山正平)


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