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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 32

公開日:2019.2.1


今週のジャーナル


Nature Vol. 565, No.7740(2019年1月24日)日本語版 英語版

Science Vol. 363, Issue #6425(2019年1月25日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.4(2019年1月24日)日本語版 英語版






Archive

Fake newsとFacebook/ジアゼパムとGABA受容体

意図した訳ではないだろうが,いくつかの雑誌の特集や記事の内容が同期することがある。

今回は変則だが,そこから話を始めよう。


★★★Science


2016年アメリカ合衆国大統領選挙の間のツイッター上のフェイクニュース(Fake news on Twitter during the 2016 U.S. presidential election

 今週号のScienceに,2016年米国大統領選近辺におけるTwitterでのfake news拡散の解析がArticleになっている。

 医学には関係ないともいえるが,問題の根底にあるのは,1990年代の終わり頃から生活に入り込み,こうした電子ジャーナル「呼吸臨床」を存在させている「Internet」である。

 fake newsのややこしい点は,本来の意味のfake newsと,トランプ大統領のAmerica Firstという御都合主義上のfake news(実際のまともなメディアの蔑視)の2つの存在だ。この論文は本来の意味のfake newsのsourceと拡散を解析した論文である。結論をいえば著者らが取り上げた300強のfake news sourceによるTwitterでの拡散には,1%の人が80%ほどのfake news sourceにつながり,0.1%の人がその内容をshareする80%に関わったというものである。fake newsはextreme rightの間で強く拡散したが,大多数の人はまともなmain stream mediaの情報に依ったという。

 この論文の著者らは昨年も「Insights」として「The science of fake news」を書いている。Internet上で何が起こり,何が問題なのかという整理は,こちらの方が素人である私には理解しやすい。

 そしてより一般的な「Internet」の問題はTIME誌の本年1月28日号が取りあげている。メインは2月初旬に上梓される「Zucked」の著者Roger McNameeが,Facebookに関して書いている。「I helped create these mess. Here’s how to fix it」と表紙に示してあり,下向きの「いいね」マークの漫画が扱われている。本文は長い。

 「Internet」上で個人の嗜好・嫌悪などの情報は,GAFAと呼ばれるGoogle,Amazon,Facebookでは,検索内容,購入履歴・内容,SNSのアクセス内容等に伴う個人的傾向情報が集まる。問題はこのデータをビジネスに使いたい顧客が無数に存在すること,さらには2016年に表面化したように悪用する組織も存在する〔ロシア(報告はこちら),Brexit等〕点である。McNameeのいいたい事はこうした闇の中で,個人の情報を法制度上で保証する挑戦がどうあるべきかという点である。

 「Internet」世界では,論語のように「民は由しむべし,知らしむべからず」とはもはやいかない。McNameeは「Democracy depends on shared facts and values」とのべ,何が問題であるのかを広範に議論している。

 このTIMEにはAppleのTim Cookも寄稿していて,「Internet」上の問題はsolvableであると述べている。彼は4原則; (1)個人情報は最小限とできる権利,(2)いかなる情報が何の目的で集められたのかを知る権利,(3)その集められた個人情報にアクセスし,必要なら削除できる権利,(4)集められたデータのセキュリティ等を挙げている。また個人データの取り扱いが闇の世界でなく,その転送先もトラックできる明瞭性transparencyが必要といっている。

 「Internet」の巨大な可能性からして,こうした現実は十分予想されることであり,また必ず解決されていくのであろう。おそらく情報は国や企業が支配するのではなく,人民の基本的権利としての解決である。

 Fake newsは医学には関係ないといってはいられない。英国のEconomistの記事「欧州の反ワクチン運動-ポピュリズム政党が拡散促す」というメール記事の配信があった。イタリアのポピュリズム政党がfake論文を根拠に「子供がワクチンを受ける判断は親の権利だ」と主張する。これに同調する親の考え方と,正しい知識(「はしか」ワクチンは人口の95%が接種を受けないと抑止効果がない)を説得する医師の話が取り上げられている。

 移動で使う電車やバスの中では,ほとんどの乗客がスマホを使う。まるで空気のような「Internet」時代の問題は,誰もが避けては通れない。



●Nature


(1)構造生物学,神経学 


構造薬理学によって明らかになったGABAA受容体のシグナル伝達機構(GABAA receptor signalling mechanisms revealed by structural pharmacology

脂質二重層中のヒトα1β3γ2 GABAA受容体のクライオ電子顕微鏡構造(Cryo-EM structure of the human α1β3γ2 GABAA receptor in a lipid bilayer

 抑制性シグナルであるGABAA(γ-aminobutyric acid)受容体のCryo-EMによる立体構造が2報を掲載されている。基本的にアセチルコリン受容体同様の5量体(αx2,βx2,γ)であるが,αが6種,βが3種,γが3種,他にも5種の類似subunitからなる。多くのsubunitの組み合わせは,発現する神経細胞の種類でも異なる複雑性がある。

 今回は最も多いα1-β3-γ2型のもので,しかも細胞膜を模倣したnanodiscとともに立体構造が示されている。GABAはこの構造でα1β3の間隙に2カ所の結合サイトを持ち,一方最近臨床的に多用や習慣化が問題となるbenzodiazepineはα1γ2の間隙に結合サイトを持つ(News & Views )。また結合により立体構造は変化する。恐らく進化的にも古い多様な形態の受容体である。臨床的意義,創薬等の研究は,この立体構造でようやくスタートラインに立つことになる。


(2)ゲノミクス,神経学 


LHX2やLDB1が仲介するトランス相互作用は嗅覚受容体の選択を調節する(LHX2- and LDB1-mediated trans interactions regulate olfactory receptor choice

 嗅覚受容体は,地球上生命にとって基盤的な外部情報入力装置である。

 大きな謎は,遺伝子数がヒトでも1000個(そのうち機能があると思われるものが400個)が全染色体上に広く分布して,揮発性化合物(その数は1兆種類)に対応している点である。受容体はolfactory receptor neuron(ORN)に発現し,膜7回貫通型のG protein-coupled receptorである。これが1個のORNには1種のodorを感知する受容体として対応し,そのORNがいかにして適切に染色体間の多数の関連遺伝子から選ばれて発現するのかが謎となる。この論文では,受容体関連遺伝子染色体の多数の集合体構造(Greek island)が,核因子(LHX2)とそのco-factor(Ldb1)が関与して形成され,mRNAに転写されるという奇想天外の機序が報告されている(News & Views )。実際にLdb1をノックアウトすると,こうした集合体が形成されない。

 当然,こうした特異な遺伝子発現形式は,他の蛋白発現にもあるのか?が今後の大きな関心点となる。


(3)生化学,免疫学 


ミトコンドリアの複合体IIIは制御性T細胞の抑制機能に不可欠である(Mitochondrial complex III is essential for suppressive function of regulatory T cells

 話題のTreg細胞の免疫抑制機能には,mitochondriaの complex IIIが関与するという論文が,米国Northwestern大学から報告されている。Tリンパ球の代謝は,現在免疫学の大きなトピックである。Tregでは,ミトコンドリア代謝が亢進していることが知られていた。

 著者らはミトコンドリアcomplex III(coenzyme Q: cytochrome C-oxidoreductase)のノックアウト・マウスが,表現型として幼少時に激しい炎症で死亡することを見いだした。細かく解析するとTregの重要因子であるFoxp3発現や,T細胞数は変化しないが,DNAのmethylation亢進や2-HG(hydroxyglutarate)やsuccinateが増加していた。これによりDNA demethylaseのTET(ten eleven translocation)familyが抑制されるようである。

 この報告ではDNA demethylase活性抑制がなぜTreg機能を低下させるのかは説明されていない。

 本TJHackの始まった頃(TJHack#2),話題のCART療法の有効例の背景に,そのCART細胞のTET2遺伝子欠損があると報告されていた(Nature 2018; 558: 307-12)。ミトコンドリア代謝を通して,T細胞機能がどう影響されるのか?TET2は何をやっているのか?大きな関心が生まれる。TETは腫瘍免疫のkeywordになりそうだ。


●Science


大脳皮質における抑制性シナプス結合の多様性は特異性な分子機構によって制御される(Distinct molecular programs regulate synapse specificity in cortical inhibitory circuits

 NatureでGABA受容体を取り上げたので,Scienceも抑制系のinterneuronの論文を取り上げる。脳の数百億の神経細胞連携網の中で,抑制性interneuronによるシナプス形成は,神経細胞本体(Soma)のみならず,dendriteやaxon(axon initial segment: AIS)などの場所に別々に形成される。それを規定している遺伝子群は何か?著者らは部位特異に蛍光発色させたinterneuronをFACSで分け,RNAseqを行い代表的遺伝子を同定した()。逆にAAVベクターにdouble-floxed invert orientation(DIO)法を用いてシナプス形成箇所特異性を確認している。こういう一歩一歩の解明による組み立てが,複雑な神経系の謎を解いてゆく。


●NEJM



パーキンソン病に対するレボドパの無作為化遅延開始試験(Randomized delayed-starttrial of levodopa in Parkinson’s disease

 パーキンソン病患者へのL-DOPA投与を,80週間連続投与群(早期投与;222例),40週間後投与開始群(223例)の2群を,統合パーキンソン病評価尺度で比較した臨床試験が報告されている。結果として早期投与に対し差を認めなかった(1年程度の差で,しかも補充療法であるL-DOPAでは,差が出るとは考えにくいが?)。


Review article:


重症疾患におけるオピオイド耐性(Opioid tolerance in critical illness

救急医学におけるオピオイド耐性がまとめられている。

オピオイドの副作用,耐性の機序,また炎症細胞との相互作用,その対処法などがまとめられている。


(TN)



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