" />
癌免疫を惹起できる腸内細菌叢群の同定,イントロンの驚きの新しい機能,そして脳脊髄液を用いたリキッドバイオプシーの3つの論文について解説する。
(1)免疫療法
CD8 T細胞および抗癌免疫を誘導する特定の共生細菌コンソーシアム(A defined commensal consortium elicits CD8 T cells and anti-cancer immunity) |
News & Viewsでも紹介されているが,本論文では健常人の糞便から,腸でインターフェロンγ産生CD8 T細胞を強く誘導できる11細菌株からなるコンソーシアムが単離することができたと報告している。この11細菌株は協調的に機能することで,炎症を引き起こさずに,CD103+樹状細胞や主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIa分子に依存的に当該細胞を誘導した。この11細菌株の混合物をマウスに経口投与すると,リステリア菌(Listeria monocytogenes)感染に対する宿主抵抗性および,同系腫瘍モデルでの免疫チェックポイント阻害薬の治療効果の両方が増強された。この11細菌株の大部分は,ヒトのマイクロバイオームに存在量が少ないまれな構成要素であることから,広く有効な生物学的製剤として非常に有望である。
(2)分子生物学
切り出された直鎖状イントロンが酵母の増殖を調節する(Excised linear introns regulate growth in yeast) |
分子生物学:イントロンは飢餓に対する細胞応答のメディエーターである(Introns are mediators of cell response to starvation) |
イントロンはの真核細胞に普遍的な特徴であり,メッセンジャーRNA(mRNA)から機能的な蛋白質を産生するためには,スプライシングの過程でイントロンが除去される必要がある。これら似た内容の二つの論文では,ゲノムでのイントロンの役割として,飢餓条件下で細胞の生存を促進することを報告している。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)遺伝子の既知のすべてのイントロンを系統的に欠失させたところ,イントロンを1つ欠失させた細胞はほとんどの場合,栄養が枯渇したときに増殖が減弱することが示された。イントロンが増殖に及ぼすこのような効果は,宿主遺伝子の発現とは無関係であり,宿主mRNAの翻訳を阻止した場合でも再現された。これらのイントロンは,対数増殖期には迅速に分解されるが,増殖飽和状態や他のストレスによってTORC1(増殖シグナル伝達を統合する重要な因子)の阻害が長期化したときには,直鎖状RNAとして蓄積する。トランスクリプトーム解析や遺伝的解析から,イントロンは栄養を感知するTORC1やPKAの経路の下流のリボソーム蛋白質遺伝子群の抑制を増強することで,飢餓に対する耐性を促進していると示された。進化におけるイントロンの役割を考えさせられる興味深い論文である。
(3)癌
脳脊髄液の液体生検によるグリオーマの腫瘍進化の追跡(Tracking tumour evolution in glioma through liquid biopsies of cerebrospinal fluid) |
原発性脳腫瘍患者の循環腫瘍DNA(ctDNA)の検出はまだ困難であるが,脳脊髄液(CSF)由来のctDNAの塩基配列解読が,リスクおよびコストの低い,グリオーマ遺伝型判定の代替手段となる可能性がある。著者らは,神経学的な兆候あるいは症状が見られたため腰椎穿刺を受けた85人のグリオーマ患者から得たCSF中に見られるグリオーマゲノムを評価した。本論文では,85人中42人(49.4%)のCSFから腫瘍由来DNAが検出され,疾患負荷や有害転帰との関連が見られたことを示す。CSF中のグリオーマゲノムの全体像は,幅広いスペクトラムの遺伝的変化を含んでいて,腫瘍生検のゲノムと酷似していた。染色体腕1pと19qの同時欠失(1p/19q同時欠失)や代謝遺伝子イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)やIDH2の変異などの腫瘍発生の初期に起こる変化は,対応するctDNA陽性CSFと腫瘍の対すべてで共通して見られたのに対し,増殖因子受容体シグナル伝達経路についてはかなりの進化が見られた。侵襲性の少ない検査でグリオーマゲノムの進化を監視でき,遺伝型に基づく治療の臨床開発および使用の前進につながる可能性が示唆された。
(1)結核
コエンザイムA代謝における拮抗反応が結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に酵素阻害に対する感受性を与える(Opposing reactions in coenzyme A metabolism sensitize Mycobacterium tuberculosis to enzyme inhibition) |
結核菌に有効なsmall moleculeが新たに同定された。結核菌の合成に必要な酵素であるPhosphopantetheinyl transferase(PptT)を阻害する作用があり,in vitroでもマウスの系でin vivoでもその有効性が示された。このPptTはコエンザイムA(CoA)からapo-acyl carrier protein(Apo-ACP)にPptを移すことでholo-ACPという重要な分子を産生する。実は拮抗する酵素であるPpt hydrolase(PptH)があり,holo-ACPをapo-ACPにすることが知られており,今回同定された分子による抗結核作用に寄与している。PERSPECTIVEにも紹介されており参照していただけるとよりわかりやすい。
(2)睡眠
睡眠と免疫応答を結びつけるショウジョウバエの新規遺伝子:nemuri(A sleep-inducing gene, nemuri, links sleep and immune function in Drosophila) |
ショウジョウバエの神経系で発現する8,000以上の遺伝子から睡眠に深く関わる遺伝子が同定された。筆頭著者は日本人で,この遺伝子をNEMURI(NUR)「ネムリ」と名付けている。興味深いことにこの遺伝子は抗菌ペプチドでもあり,発現は感染で脳に誘導され睡眠不足や他のストレスでも誘導される。NURの発現は睡眠を引き起こすが,ショウジョウバエの生存延長にも関わることが示されている。感染の際に睡眠が多いほど長生きできる,というのは不思議な感じがする。PERSPECTIVEにも紹介されており,ヒトの抗菌ペプチドにも同様の作用のあるものがあるのか?など,色々と想像を掻き立てられる面白い論文である。
従来は長期間の抗菌薬静脈内投与が標準とされていた難治性感染症の治療において,ある条件が整えば,抗菌薬の経口投与が静脈内投与に非劣勢の効果をしめす興味深い論文が2つ発表されている。
(1)感染症
心内膜炎に対する抗菌薬の一部経口投与と静脈内投与との比較(Partial oral versus intravenous antibiotic treatment of endocarditis) |
左心系感染性心内膜炎患者には一般的に,抗菌薬の静脈内投与が最長6週間行われるが,状態が安定した時点で静脈内投与から経口投与に切り替えた場合に,静脈内投与を継続した場合と同程度の有効性と安全性が得られるかどうかは不明である。そこで,連鎖球菌,Enterococcus faecalis,黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌のいずれかによる左心系心内膜炎を有し,抗菌薬の静脈内投与を受け,状態が安定している成人400例を,抗菌薬の静脈内投与が少なくとも10日間行われた後に2群に割りつけた。無作為化から抗菌薬投与完了後6カ月までの全死因死亡,予定外の心臓手術,塞栓イベント,一次病原菌による菌血症の再発の複合をみたところ,抗菌薬の経口投与への変更は,静脈内投与の継続に対して非劣性を示した。
(2)感染症
骨・関節感染症に対する抗菌薬の経口投与と静脈内投与との比較(Oral versus intravenous antibiotics for bone and joint infection) |
英国の26施設で,1,054例の骨感染症または関節感染症の治療を受けている成人患者を登録した研究。術後7日以内(手術せずに管理されている場合は抗菌薬投与開始後7日以内)に参加者を,最初の6週間の治療として抗菌薬を静脈内投与する群と経口投与する群に無作為に割り付け,両群とも,その後の経口抗菌薬の継続を可能とした。主要評価項目は,無作為化後1年以内の明らかな治療失敗としたところ,抗菌薬の経口投与群では静脈内投与群に対して非劣勢を示した。
(鈴木拓児)