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今週のOutlookはお茶Teaがテーマである。日本ではなく中国がスポンサーのようである。Epigallocatechin gallateの薬理作用などの話が出ている。
(1)加齢病態とretrotransposon
L1は老化細胞においてIFNを作動させて加齢関連炎症を促進する(L1 drives IFN in senescent cells and promotes age-associated inflammation) |
加齢病態と炎症に関して,米国Brown大学のグループより,全く新しい可能性がArticleとして報告されている。それはLINE1(long interspersed nuclear elements 1:L1)という,ゲノム中のtransposable elementsと加齢の話題である。
ヒトゲノム中の約半分は繰り返し配列である。全体の42%はretrotransposonであり.そのうちL1は全体の17%を占める。そのほとんどはinactiveであるが,一部は遺伝子が発現する。1つのL1は6000bpであり,5’UTRのあとにORF1とORF2があり,ORF2にはendonucleaseとreverse transcriptaseが含まれている。進化における遺伝子重複等に意義があるといわれるが,一般にはjunkといわれるゲノム部分である。
このL1のtranscriptが,agingに伴って,repressorであるRB1や逆転写された結果のDNAを分解するTREX1の発現が低下することで,細胞内DNAとしてcGAS-STING系が感知し,IFN I系遺伝子が発現する(これらの炎症性物質群をsenescence-associated secretory phenotype: SASPという)(News&Views, 図)。すなわち老化に伴う炎症病態の一端となるという,今までになかった新規概念である。
この論文のユニークな点は,逆転写酵素阻害薬のlamivudine(3TC,3-thaiocytidine;B型肝炎治療薬)を加齢 26週以降のマウスに使用すると,これら加齢炎症性SASP産生が抑制されるという。
ヒトではlamivudineは忍容性が高く,広く使用されているが,こうした視点からの報告は皆無である。将来,関節炎やatherosclerosisの創薬対象として,reverse transcriptase阻害薬やcGAS-STING系阻害薬が開発されるかもしれない。
(2)消化管生理学
腸管の上皮細胞間T細胞は代謝を調整して心血管疾患を促進する(Gut intraepithelial T cells calibrate metabolism and accelerate cardiovascular disease) |
腸管を形成する単細胞厚の上皮細胞layerには,腸の上皮細胞以外に,enteroendocrine細胞と総称をされる消化管ホルモン分泌細胞や,免疫系細胞であるintraepithelial lymphocytes(IEL)が存在する(News&Views,図)。IELは,腸管の面積からしても,全身中のT細胞数としては大きなものであり,腸管免疫の主体と考えられている。今回,ボストンMGHグループは,このIELがenteroendocrine細胞であるL細胞を介して,個体のエネルギー代謝を調節している事実を報告している。
IELはintegrinβ7を発現し,これにより腸に集まる。このintegrinβ7をノックアウトしたマウスは,IELがほとんどない。著者らはこのKOマウスのエネルギー消費が亢進し,褐色脂肪細胞(BAT)数が多く,血中インシュリンが高値を取り,GTTはWTに比べ低く,TGやコレステロール値も低くなることに気付いた。これはenteroendocrine細胞の1つであるL細胞が,GLP-1(glucagon-related peptide 1)を分泌亢進し,ここれが膵臓β細胞に作用してインシュリン分泌を亢進する機序が判明した。IELはGLP-1受容体も発現し,GLP-1量のバッファーを担っている可能性もある。
この腸管上皮細胞における免疫系細胞と腸管ホルモンの関連は,今までもちろん予想もされなかった。今後これらの細胞と個体の肥満・代謝系調節の新たな面がさらに明らかになると期待される。
(1)免疫系細胞産生Achとウイルス感染
コリンアセチルトランスフェラーゼ発現T細胞は慢性ウイルス感染の制御に必要とされる(Choline acetyltransferase–expressing T cells are required to control chronic viral infection) |
カナダ,トロントのTak Mak(T細胞受容体cloningで有名)のグループから,リンパ球がアセチルコリン(Ach)を産生し,それによりvasodilatationを来して,CD 8T細胞が組織に移行することが促進され,ウィルス感染(ここではLCMV:lymphocytic choriomenigitis virusを使用)細胞駆除の効率を上げるという論文が報告されている。
アセチルコリンというと,普通は神経伝達物質のイメージであるが,リンパ球からも産生されていたとは!
マウスモデルにLCMVを感染すると,CD4T細胞よりIL-21が産生され,そのシグナルでリンパ細胞にcholine acetyltransferase(Chat)を発現させ,LCMV駆除に作用する(Perspectives,図)。これらはIL-21R(-/-)のT細胞や,Chat(-/-)のマウスを用いて証明された。
T細胞がアセチルコリンを産生することが報告されたのは2011年のことである。これもTak Makが共著者であるが,この時は迷走神経との関連でまとめられている。今回はvirus infectionへの防御として,神経生理を離れて,vasodilatationの面からまとめられている。IL-21の欠損がLCMV感染を克服できないことも知られていた。今回の論文はこれらの先行実験を統合して説明するものであり,今後ヒトのウイルス感染におけるアセチルコリンの関与に新たな関心が生まれる。
(2)腫瘍生物学
腫瘍がリンパ節に転移するにはyes-associated protein(YAP)依存性の代謝適応を必要とする(Tumor metastasis to lymph nodes requires YAP-dependent metabolic adaptation) |
韓国のグループから,腫瘍のリンパ節転移に関連する遺伝子YAP(yes-associated protein)が報告されている。リンパ節転移は腫瘍の全身播種の第一歩であり,もちろんTNM分類は患者予後因子として重要である。
著者らは,発現遺伝子解析から,micro,macroのLN転移では,fatty acid oxidation(FAO)が関与している事を推定した。この変化に関連するものとして胆汁酸やYAPの関与を同定した。
YAPはtranscriptional co-activatorであり,核内で作用する。著者らは胆汁酸系代謝産物(ことにTCA;taurocholic acid)がYAPを活性化し,その核内移行を促進し,実際に臨床検体では,melanoma患者のinvasive frontでYAPが核内に強染することを示している。またそうしたmelanoma患者は予後が悪いことも示されている。
腫瘍がリンパ節転移を惹起する機序には,腫瘍細胞内の代謝変化が存在するという新たな展開で,今後の臨床的応用に興味がもたれる。
(1)感染症:新規テトラサイクリン系抗菌薬
市中細菌性肺炎に対するオマダサイクリン(Omadacycline for community-acquired bacterial pneumonia) |
急性細菌性皮膚・軟部組織感染症に対するオマダサイクリン(Omadacycline for acute bacterial skin and skin-structure infections) |
テトラサイクリン系抗菌薬Omadacyclineの第Ⅲ相臨床試験が2報掲載されている。
市中細菌性肺炎に対してMoxifloxacinを対照として,Omadacycline(n=386,3日間100mg 2回静注,その後300mg/日 経口),Moxifloxacin(n=388,3日間400mg/日静注,その後400mg/日 経口)で,主要評価項目は早期臨床効果(72~120h)で4症状中2症状の改善である。結果はnon-inferiorityが証明され,消化器系有害事象が多かった。
もう一方は,急性細菌性皮膚・軟部組織感染症に対してOmadacyclineをLinezolidを対照として300症例以上で,同様の当初静注3日,経口につなぎ総投与期間は7~14日,主要評価項目は早期治療効果(48~72h:病変が20%以上縮小し生存)である。結果は同じnon-inferiorityが証明され,やはり消化器系有害事象が多かった。
Wikipediaによると, FDAは2018年に3種のテトラサイクリン系抗菌薬(Odamacycline,Sarecycline,Eravacycline)を承認している。その経緯の記載はないが本号のEditorialでは,承認の必要性はあったのかと,やや辛辣なトーンで解説されているのが印象的である。
(2)Review Article
医学の新領域:オルガノイド ― ヒト疾患の前臨床モデル(Organoids — Preclinical models of human disease) |
最近話題のOrganoidsが総説で解説されている。
多機能幹細胞からの分化誘導で3次元的に組織類似器官再構築がなされる。このモデル器官の研究上のメリットは何か? 図1には細胞株,マウス個体遺伝子改変モデルとorganoidsが比較され,理解しやすい。表1には,各種臓器のorganoids一覧が示され,肺も取り上げられている。図2にはこれらorganoidsが最近の新規研究技術といかに結びつき,どうした分野に応用しうるかが示されている。
TJHackでは取り上げられなかったが,Nature誌にヒト血管系organoids形成が多機能幹細胞からVEGF-AやFGFで分化誘導され,3次元化され,さらに免疫不全NSGマウスに移植され,マウス内で血管系が接続後,STZ処理で高血糖状態にして,糖尿病患者血管系のモデルとして紹介されている。
遺伝子改変マウスモデルは,臨床的病態理解に多大な役割を果たした。高度in vitro系としてのorganoidsは,21世紀医学の病態モデルとして,大きく展開する予感を与えられる総説である。
(貫和敏博)